いくらかの時が過ぎ、海お姉ちゃんは高校を卒業した。
それからお姉ちゃんは、なんと家事をすると言い出したのである。
専門学校に通いつつ、家事をこなしてみせると意気込んでいた。
ちなみに、専門学校とは『それっぽい系』らしい(意味わからん)。
幸い、ともねえという最高の見本がいるので、ともねえを見習って頑張る毎日である。
俺は俺で、跡継ぎの修行として親父の手伝いをすることになった。
親父ほど遅く帰るわけじゃないけどね。
海お姉ちゃんの学習能力はかなりのものだった。
最初は失敗ばかりだったけど、次第に慣れて様々な家事をこなしていく。
あの不器用なお姉ちゃんとは思えないぐらいだ。
しかし、いくら頑張っても全く上達しないものがあった…

「モエ!しっかりしろー!傷は浅いぞー!」
「へ、部屋に布団をひいてくるわ!」
「医者を呼んできます!」
「うむ、頼んだぞ!」
「あぅ…もうやだぁ…」
そう、料理である。いや、少しはマシになった。
バッドエンド直行から意識が飛ぶ程度まで緩和されたのだ。
もちろん、体が貧弱な雛乃姉さんや姉貴が食べたら一発アウトだろうが。
ともねえに横で教えてもらいながら作っているのに、これは一体どういうことか。
出来上がったら当然ともねえが試食することになり、そしてダウンする。
さすがにともねえも我慢の限界が来てしまったようだ。
「うぅ〜…しぼむ〜。」


「…何故うみは料理がうまくならんのかのう。」
雛乃姉さんは素朴な疑問を俺にぶつけてきた。
最初の頃は俺が教えていたのだが、試食はしない。
まだその頃は作っている過程を見ただけで明らかにヤバイとわかっていたからだ。
どうしてあの作り方で見た目がいいのか、まったくもって謎である。
「とにかく、ともえが倒れてしまった今、くうやが料理を教えるしかあるまいて。」
「えぇっ!?それはちょっと…」
俺が拒否しようとしたその瞬間、雛乃姉さんの目がギラリと光った。
「くうやよ…よもや我の命令を聞けぬと申すのか…?」
これを言われるとツライ。俺はヒエラルキーの最下層に居る身。
かたや雛乃姉さんは頂点に君臨するお方。
たとえそれが命を賭けることであっても、命令は聞かねばならない。
「う…それは…それはそれ、これはこれということで…」
「ええい、ならんならん!
 親父殿には我から言っておくから、お前はうみに料理を教えてやるがよい!」
…どうやら覚悟を決めなくてはならないようだ。
「あの…雛乃姉さん…」
「うむ、骨は拾ってやる。安心せい。」
俺…死ぬのかな…


「というわけで俺が教えることになりました。」
「うん!くーやが教えてくれるなら、お姉ちゃんできそうだよ〜。」
「じゃ、とりあえず基本中の基本。玉子焼きを作ってみて。」
「は〜い。」
お姉ちゃんの料理が始まった。
…想像以上にヘタクソなようだ。
油は使いすぎ、卵のカラは入りまくり、塩ももう少しで大量に入れるところだった。
これで見た目は普通というのが凄い。
「ぜぇ、ぜぇ…お、お姉ちゃん本当においしく作ろうとやってる?」
「うん、そうだよ〜。」
…ウソだ、絶対ウソだ。
おそらくともねえのことだろう、体をはって止めるということがなかったのかもしれない。
「ま、とにかく出来上がったことだし、ひとつ…」
パクリ
「…ぐはぁ!」
舌が焼ける!歯がきしむ!鼻が曲がる!目がしみる!頭が…頭がぁぁ〜〜!!
「あぁ〜…く、くーや〜!」
「あが…あががが…お…姉ちゃん…何を…入れ…た…の…」
がくり…

…俺が起きたのは、それからまる1日経ったあとだった…
どうやら、後で聞いた話では、他にも知らないうちに何か入れていたらしい。
その正体は…完全に不明である。


俺はお姉ちゃんと横になりながらじっと考えていた。
そして、おもむろに質問を投げかけてみる。
「お姉ちゃん、本当においしく作ろうと思ってる?」
「当たり前だよ〜。でもね、何故か…」
う〜む、これは相当な重症だぞ。
おいしく作ろうと思って作っているのに、その気持ちが完全に空回りしている。
最終的に完成するのは殺人料理ばかり。
といっても、やはり少しは進歩しているようだ。
食べてすぐにマズイとわかるようになっているし。
帰ってこれないところまで逝ってしまうことがなくなっただけでもたいしたものだ。
だからといって、このままでいいはずがない。
どうにかしなくては…
「お姉ちゃん、おいしく作ろうとしているのにな〜。」
おいしく作ろうとしてマズイものが…ん!?
「そうか、そういうことか!」
俺は叫ぶと、ガバッっと起き上がった。
一か八かだが、いいアイデアを思いついたぜ!
「ど、どうしたの、くーや〜?」
「お姉ちゃん、これならいけるかもしれないよ!」


俺の考えは正解だった。
賭けだったけど、なんとか成功に導くことができたぞ。
みんなに証明するため、俺は早速全員を居間に集めた。
「どうやら成功したようだな、くうやよ。」
「本当に海の料理が食べれるようになっているの?」
「イカ、もしアウトだったら承知しないわよ。」
「むふふ、問題ナッシングですよ、みなさん。」
「お〜ま〜た〜せ〜。」
笑顔でお姉ちゃんが登場し、みんなの前に料理を置いていく。
とりあえず今日はカラアゲを作ってもらったのだ。
「さぁさぁ、遠慮しないで食べてよ〜。」
しかし、やはり全員は不安な表情のままである。
ま、そりゃそうだよな。
「うみゃ、食べれるんだろーね?」
「もちろんだよ〜。」
ねぇねぇですらも疑いまくっている。誰もまったく食べようとしない。
仕方がない、ここは俺が一肌脱ぐしかなさそうだ。
「食べないなら俺がもらっちゃうよ。あーん…」
モグモグ…
「ど、どうなの空也?」
「イカ、大丈夫なの…?」
みんなが固唾を呑んで見守る中、俺は…


「…うん!おいしいよ、お姉ちゃん!」
「わーい!ありがと〜、くーやぁ。」
俺の感想を聞いたところで、みんながゆっくりと箸をのばしはじめた。
そして一口放り込むと…
「うむ、うまいぞ。」
「ええ…進歩したわね、海。」
「あぅ…わ、私の教え方がヘタだったのかなぁ…」
「ホントおいしいわ。それにしてもどうやって教えたの?」
「そーそー。」
とにかくみんなはそれが知りたいことだろう。
何せほんの少しの間に一気に上達したんだから、誰だって気になるところだ。
「いや、特別な事はしてないんだ。お姉ちゃんはおいしく作ろうとして作ると、めっちゃマズくなる。
 だったら、その逆ならどうかと思ったんだよ。」
「つまり…マズイものを作ろうとして作ると、おいしいものが作れたということ?」
「その通りです。」
「そ、そんなことでよかったなんて…」
「うーん、やっぱりお姉ちゃんとしては複雑だよ〜。」
ま、そりゃそうだよな。
「いやいや、うみよ。今はこれでもよいではないか。
 努力すれば、いずれは本当に気持ちを込めて作れる時が来るというものだぞ。」
「うん。そうなれるように頑張るよ〜。」
「今後はともえが教えてやるようにな。」
「わかった。」
「くうやもうみも、今回は大儀であったな。飴をやろう。」
「ありがとうございます。」
「わーい。」
やれやれ、無事にミッションが終了してよかったよかった。


うれしいな〜うれしいな〜。
みんなにおいしいって言ってもらえてうれしいな〜。
「あ、高嶺お姉ちゃん。」
「海があそこまでおいしいもの作れるなんて思わなかったわ。」
「うん。でもね、最初は大変だったんだよ。
 マズイものを作ろうなんて、普通は考えないもん。」
「そうよね。」
「でもね、高嶺お姉ちゃんのおかげだったんだよ。」
「へ?」
「高嶺お姉ちゃんのために作ろうと思ったら、自然とうまくいったんだよ〜。」
「こら待て!それはどういう意味よ!アタシだったら残飯程度でもいいやって思ってるワケ!?」
「え〜、そんなことないよ〜。私、高嶺お姉ちゃんのためなら偽札だって大量に作れるよ〜。」
「うぬぬぬ…フンだ!」
あ〜あ、怒っていっちゃった。
カルシウムの足りないツインテールはイヤだね〜。

「なんなのよ、海の奴…!」
「お、姉貴。」
「ちょうどよかったわ!くらえ、シャイニングウィザード!」
「グエー!な、なにするんだ…」
「虫の居所が悪いのよ!アンタは黙って蹴られなさい!」
「うわーん!お姉ちゃーん!」
シャキーン!
「はい、お姉ちゃんですよー。高嶺お姉ちゃん、何やってるのかな〜?」
「う、海…」
「これはもうポイント溜まったから、アレを実行に移す時がきたね〜(チャキッ)。」
「な、何を取り出したのよ…あ、あわわわわ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

その後、高嶺お姉ちゃんはボウズ頭で発見されたよ〜。
どうしてだろうね〜。不思議〜(・ε・)。

(作者・シンイチ氏[2005/03/27])

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