(・・・ちょっと退屈だな)
俺はいつものように犬神家に泊まりに来ていた
いつものようにねぇやとねーたんと夕飯を食べてねーたんの部屋でのんびりくつろぐ・・・
はずだったのだがねーたんは明日までに書き上げなければならない仕事があるとかで今修羅場モードに入っている
「ごめんね、くーくん。もう少しで終わるから」
俺の退屈だオーラを感じ取ったのか急にねーたんが振り向いて言った
「気にしないでいいよ、ねーたんの仕事してる姿見てるのもけっこう好きだから」
「あ、あんまり見ないで・・・恥ずかしい」
ねーたんは顔を赤くして慌てたように俯く
やっぱかわいいよなぁ・・・
ねーたんのそんな仕草を見ていると自然に頬が緩んでしまう
おそらく今、俺は第三者が見たら思わず殴りたくなるようなだらしない顔をしていることだろう
「あ・・・インクが無くなっちゃった・・・」
ねーたんの声で現実に引き戻される
「インクってプリンタの?」
「うん・・・買い置きがなくなってたの忘れてた」
ねーたんにしては珍しいミスだな
「じゃあ俺が買ってくるよ、この時間ならまだギリギリ店も開いてるだろうし」
「え・・・いいの?」
「いいのいいの、ねーたん仕事まだ終わってないでしょ?」
「でも・・・もう暗いから危ないよ」
「だからこそねーたんに行かせるわけには行かないでしょ?こういうときくらいどんどん頼ってよ」
「・・・・・やっぱり頼もしい」
ねーたんにじっと見つめられて顔が赤くなっていくのが自分でもわかる
ていうか商店街にインク買いに行くだけでなんでこんなにテンションあがってるんだか
やっぱ俺達はバカップルなのかもしれない
玄関まで見送りに来てくれたねーたんに小さく手を振って俺は犬神家を出た


海岸沿いの道を歩いて商店街へ向かう
太陽は完全に沈んで当たりは真っ暗だ
月明かりに照らされた道を一人で歩くというのも考え方によっては風流なものかもしれない
「・・・ん?」
ふいに愛の視線を感じて振り返る
だがそこには誰もいない
「まさかな・・・」
一瞬ねーたんの視線を感じたような気がしたが気のせいだろう
さっきまでねーたんと一緒だったからのぼせてんのかな?
再び前を向いて歩き出す
「そういえば前もこんなことがあったような気が・・・
あれはまだ沖縄に住んでいる頃だった
あの日、中学生だった俺はマスター若葉に頼まれて買い出しに行っていた
「これで終わりか・・・結構な量になったなー」
なんでもペンションのお客さんにリクエストされた料理があるとかでその材料を買いに来たわけだが・・・
「ねーたんのことだから絶対辛口に仕上げるんだろうなー」
今日のお客さんが辛党であることを祈りながら帰ろうとしたその時だった
「おい!お前あのペンションの居候だろ?」
急に数人の高校生が俺の前に立ちふさがった
こういう状況は初めてじゃなかった
どこの学校にも帆波ねぇやの親衛隊みたいのがいて時々こうやって絡んでくるのだ
「おいおい、チョーシこいてシカトしてっと痛い目にあうぜ!」
「・・・急いでるんでどいてくれませんか」
こういうやつらは相手にしないのが鉄則だ
俺はこいつらの横を通って帰ろうとした
「おい!ちょっと待てや!」
いきなり腕を掴まれた


「離してください」
相手を睨み付けて言う
「こいつ礼儀ってのをを知らないみてえだな、やっちまうか?」
高校生達はにやにやしながらこちらを見ている
いつものやつらよりタチが悪いな・・・
逃げたほうが良さそうだ、よし!逃げよう!
そう思った瞬間だった
「くーくんから離れて!」
後ろから聞きなれた声がした
「ねーたん?!」
慌てて振り向くとそこには軽く息を切らせたねーたんが立っていた
「ね、ねーたん!危ないから早く帰って・・・」
ねーたんは力いっぱい首を横に振って俺の隣まで駆けてくる
「くーくんをいじめる人は・・・許さない・・・」
俺の腕にしがみついてねーたんは言う。
男性恐怖症のねーたんが知らない男にこんなことを言うなんてどれほど勇気がいることだろう
実際、ねーたんの脚はがくがくと震えている
それでもねーたんは目の前の高校生達をじっと見据えていた
「なんだぁ?女に守られて情けないヤツだなー」
「その歳でねーたんだってよ!女みてえなやつ!」
高校生達に笑われても俺は気にならなかった
これ以上ねーたんの男性恐怖症がひどくならないか心配だった
「ねーたん、帰ろう」
俺はねーたんの手を引いて歩き出す
「おい、誰が帰っていいって言ったんだよ」
高校生の一人が俺に向かって手を伸ばす
「きゃっ」


その手は俺ではなく歩笑ねーたんに当たった
ねーたんが尻餅をつく
ただ伸ばした手が当たっただけだ
ねーたんだって倒されたわけじゃなくて驚いて腰を抜かしただけだろう
でも・・・
その光景を目にした俺にとってそんなこと冷静でいられる理由にはならなかった
「てめえ!!ぶっ殺す!!!」
俺は目の前の高校生に殴りかかった
その頃はまだ琉球喧嘩空手なんて習ってない
ただ無我夢中で拳を振り下ろした
「おい!こいつなんとかしろ!」
いきなり後ろから両腕を掴まれた
そりゃそうだ
相手は一人じゃない
映画の世界みたいにかっこよく一人で何人も倒すなんてできっこなかった
「チョーシこいてんじゃねえ!!」
「死ねコラ!!!」
本気になった高校生達が全力で殴りかかってくる
必死で抵抗するが両腕を掴まれていてはどうしようもない
何本もの拳が代わる代わる迫ってくる
ねーたんの声が遠くから聞こえる
俺、ここで死ぬのかな?
高校生集団リンチ殺人なんて見出しが頭に浮かぶ
「ぐわぁっ」
急に拳の雨が止んだ
「空也、大丈夫か?」


腫れあがって半分も開かない目を見開いて俺を呼んだ人物を探す
「団長・・・」
目の前には団長とイエヤスが立っていた
「お前もムチャするやつだな、高校生に一人でケンカふっかけるなんて」
団長は笑いながら言った
「まぁ後は俺達に任せてちょっと休んでろよ」
イエヤスはそういうと団長と共に目の前の高校生達を吹っ飛ばしていく
「こいつらなんでこんなに強いんだよ・・・」
俺は泣きながらしがみついてきたねーたんを抱きしめながら目の前の乱闘騒ぎを呆然と見ていた
・・・・・
「これ、明日までにつけてこいよ」
高校生達が泣きながら退散した後、団長は俺に一枚の紙を差し出した
「なんだよこれ・・・」
「蛇の刺青だ、って言ってもペーパータトゥーだけどな」
団長に渡された紙を見ると確かに蛇らしきものが書かれている
ちなみに団長もイエヤスもあれだけの乱闘の後にもかかわらず傷ひとつない
反則的な強さだ
「この刺青は俺達がどんなことがあっても仲間だってことの証だ」
「お前が結構根性あるやつだってわかったからな」
団長とイエヤスが笑いながら言う
「あぁ・・・必ず明日までにつけてくるよ」
俺も必死に笑顔を作って言った
「まぁ根性はあるみたいだけどあまりに弱いからな、今度琉球喧嘩空手の師匠を紹介してやるよ」
団長とイエヤスはそれだけ言うと帰っていった
そのうち絶対あいつらより強くなってやる・・・


「くーくん・・・そろそろ帰ろう」
「あ、うん・・・」
ねーたんと肩を並べて歩き出す
身体中が痛くて歩くのもしんどかったけれどねーたんに心配をかけないように必死で足を動かした
「くーくん・・・ごめんね」
急にねーたんに謝られた
「な、なんでねーたんが謝るのさ?」
「だって・・・私のせいでくーくんがこんな目にあったから・・・」
ねーたんは今にも泣きそうな声で言う
「そんなのねーたんのせいじゃないよ、俺がちょっとカッとなっちゃっただけだからさ」
必死にねーたんを慰める
なんかさっきから必死になってばっかりだな俺
「それに結果として団長達に認めてもらえたわけだからこれはこれで良かったんだよきっと」
今までは団長たちとはそんなに仲が良かったわけじゃない
きっと今回のがきっかけで本当の友達として認めてくれたんだろう
「うん・・・」
ねーたんはまだ落ち込んでいるようだったがそれでも浮かんでいた涙は消えたようだった
俺達はまた黙って歩き出す
「くーくん」
「な、何?」
急に話しかけられてキョドる俺
むちゃくちゃカッコ悪い
「・・・ありがと」
「・・・・」
もしかしたらその時俺は既に決めていたのかもしれない
この人を一生守ろうって


・・・・・
なんか昔のことを思い出して懐かしむなんてガラにもないことしちゃったな
気が付くと商店街についていた
さっさとインクを買って店を出る
ふと視界の隅に黒いスカートが映った
「ねーたん?」
今度のはたぶん気のせいじゃない
一度後ろを向いてすぐに振り返る
あわてて隠れるねーたん
「いや、見えてるから・・・」
ねーたんが隠れたところまで歩いていく
「見つかっちゃった・・・」
やっぱりねーたんだった
「どうしてここにいるの?仕事は?」
「仕事はインクがないと進まないし・・・くーくんが心配だったから」
こちらの表情を伺うようにねーたんが俺を見上げる
そんな目で見られたらもうこれ以上の追求なんてできるわけがない
「じゃあ帰ろうか」
俺はねーたんの手をそっと握る
「・・・うん」
ねーたんも俺の手を握り返してくる
2人で歩く夜の海岸沿いの道
なんだか一人で歩くよりも月の光が優しいような気がした
「くーくん」
「ん?」
「大好きだよ・・・」
「・・・俺もねーたんのこと大好きだよ」
俺は何があってもこの手を離さない
この人と一緒に生きていく

(作者・名無しさん[2005/02/22])

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