「う〜。く〜や。く〜や。く〜〜や〜。くーやくーやくーや〜」
また海の病気が始まった。
「あー、もぅっ!うるっさいわねぇ、海!たかだかイカごときが帰ってくるってだけでそんなに浮かれるんじゃないわよっ!!」
そのとおり。アイツが帰ってくるのなんて大したことじゃない。10年も会ってないんだからもう他人みたいなもんよね。
「えぇぇ〜〜!?くーやが帰ってくるんだよぉ〜?ほんとだったらこの家どころか町をあげての歓迎パーティを………」
「ア……アンタねぇ……」
この子ならやりかねない所が怖い。はぁ………なんでこんなに弟バカ一代なんだか、この子は。
「あぁ………く〜や〜……はっやく帰ってこないかな〜っ♪」
はっきり言ってアタシには理解不能である。まぁ、専門の下僕が帰ってくるって意味では喜ばしいんだけど。
「ふぅ………」
だらけて居間のお膳に突っ伏す。
イカねぇ………そーいえばアイツ、アタシの事をいつから姉貴って呼ぶようになったんだっけ………?
いつだっけ………アレ………?

………………アイツはいっつも要芽お姉様の周りをちょろちょろしてた。
勉強も要芽お姉様に聞きに行く。
遊びに誘うのもお姉様。
なんでもかんでもお姉様。
何よ、要芽姉さん要芽姉さんって。アタシだって……アンタと……遊んだり……一緒に……
だいたいアイツが悪いのよ。巴姉さんやお姉様ばっかと遊んで。アタシが一緒に遊ぼうと思ったらドラ猫がかっさらって行くし。
外でイジメられたら海に泣き付くし。なんでアタシの方を、アタシだけを見てくれないんだろう。アイツは。


「空也っ!な・ん・でアタシには何も聞いてこないわけっ!?」
「アタシは天才なのよっ!?この超天才が教えてあげるんだから感謝、感激、雨アラレで教わりに来なさいよっ!!」
「うぅ……だ、だってぇ……タカねーちゃん……おしえてくれてる時……なんかコワいし……よくわかんない……」
怖いですってぇ!?アレのどこが怖いってのよっ!!
「ハァ!?アンタこんな問題も分かんないの!?いい……?ジャガイモはヨウ素液に付けると青紫色になんのよ!なぜかってーとジャガイモにはデンプンが入っててね。
で、デンプンはポピュラーな多糖類でアミロースとアミロペクチンの2種類に……(以下3分間有機化学の基礎知識を延々と)」
「う、うん(ちんぷんかんぷん)」
ほら、懇切丁寧な解説付きじゃないの。こんな高度な事を教えてあげてるのに何を言うか、コイツはっ。
「あれじゃぜんぜん分かんないよぅ……(ぼそり)」
!?
「聞こえたわよ……アンタ、いい度胸してんじゃない……このっ!じっくりかわいがってやるわ………泣いたり笑ったり出来なくしてやる!」
「ホラホラホラホラァッ!!」
「うわーん!やめてよぅ!タカねーちゃん!」
「いつもいつも要芽姉さん要芽姉さんって!甘ったれ!グズ!シスコン!バカ!バカ!バァーカ!!」
「うぇーん……なんかよくわかんないけど悪口言われてるのはわかるぅ……」
「ハッ!もう泣くの!?この軟弱野郎!グズの家系を絶ってあげましょうか!?」
ついついイジメの手に熱が入ってしまう。だって、この時だけはコイツはアタシだけを見る。
アタシだけを見て、アタシの電気アンマで泣いて、アタシのなすがままになる。
その時、アタシは空也を自分の物にしている気がして……なんかこう……ゾクゾクしてくる。
歪んでるのかも、アタシ。
この前読んだフロイトの本に載ってたサドとか言うのなのかも。


「もうアンタみたいな弱虫にねーちゃんなんて呼ばれるのもゴメンね。もっと尊敬と畏怖をこめて呼びなさい………そうね。”貴い姉”で姉貴。今からアタシはアンタの姉貴よ」
「あ……姉貴……?」
「ん〜?聞こえないわねぇ!?」
「うぅ……高嶺姉貴……」
ゾクゾクゾクゥッ………また。あ……これちょっと気持ちいいかも……
「フンッ!まぁいいわ!次からちゃんとそう呼びなさいよっ?」
………………そうそう、確かこんな感じ。って。
あれ、こんなのだっけ?コレじゃあアタシがイカの事好きでイジメてたみたいじゃないのっ。
まぁ、記憶は大体劣化したり混乱するものだし。んなハズないわよね。今アタシが好きなのは壬生さん。
アイツは単なる下僕で奴隷で家来でオモチャで弟。それ以上でもイカでも無いのよっ!
「う〜ん……10年ぶりだもんね〜。どうやって歓迎しようかな〜」
海はまだやってた。
「遊び相手増えるからわたしも嬉しいなっ。クーヤおっきくなってるだろーねー」
いつのまにやら瀬芦里姉さんまで。
「歓迎………他の家には絶対に真似出来ない事とかないかなぁ〜………」
「この家にあってよそにはないもの………といえばタカかなぁ」
な。
「なんでそうなるのよっ!!」


「むむ……じゃあこんなのどうかなぁ……ザ・高嶺お姉ちゃんショーーーー!!」
「みんなで高嶺お姉ちゃんになります!!」
「タカになるのっ!?」
「ちょっと……アンタら何言って………」
しゅるり。リボンを解き、海が髪をほどいていく。そしてそれを左右に握って………ってまさか……!?
「ほーら、ツインテール〜。こーんな髪にして〜(・ε・)」
海はアタシの髪型を真似してきた。ナメられてる………絶対ナメられてる!!
「なめんじゃないわよ〜」
「アタシは天才なのよ〜」
「ぐ……うぅっ……!!」
「お、楽しそうだねぇ〜。わたしもやってみよっと」
「成功したら、アンタのパンチのスピードは倍になるのよ!!このイカ!!」
「ん!? まちがったかな…………捨ててきなさい!アタシの求める北斗神拳はまだ遠いわっ!!」
こ……このドラ猫&腹黒メガネコンビーー!!
ぷるぷるぷる………
「あー、タカ。ムカついてる。ムッカついてる〜♪」
「キェェェェェーーーーーーッ!!!!!!!!」
「わっ!?高嶺お姉ちゃんが壊れたぁっーー!」

あーもぅ!アイツなんか帰ってこなきゃいいのよーーっ!!

(作者・愚弟氏[2004/09/12])

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