トントントントン…………
野菜を切る音が耳に心地よく響く。
「ともねえ、野菜切り終わったけど。今日は何にするの?」
「うん……きょ…今日は…野菜炒めと…ミックスフライと…お肉のお浸しと…西瓜の煮付けかな…」
ほう。なんだか見たことも聞いたことも無い料理ばっかりですな。特に後半の2つが。
まぁ、そこはそれ。中華の覇王の異名を取ったともねえならば俺の知らないレパートリーがあっても不思議ではない。
でもなんか気になる。いつものともねえならそんな「もしかしてこれ料理?」みたいな前衛的な料理なんか作らないはずだし。
「じゃあ……揚げ物からやるから……空也は野菜炒めをお願いしていいかな?」
「らじゃー」
て、ともねえ。
たまごを冷蔵庫から出す。
割る。
そしてそのまま、熱した油の鍋にっ…………
「なんとぉぉぉぉぉっ!!」
すんでの所で受け止める。
「ぁっ………!?」
ふぃーーー。ギリギリセーフだったぜ………
「ともねえ!どうしたのさ、ぼーっとしちゃって……これは、衣にするヤツじゃないの?」
「あ、あはは……そうだよね……ごめん、うっかりしてたよ……」
むーん。これはもしかして。さっきからの微妙におかしい言動。ぼーっとするほどの意識。
これらを総合して導き出される答えは………

1.(今夜……空也の部屋に行っても……あぅ……いいかな…)のお誘い
2.流行性感冒

俺の比較的よく当たる勘に従うと………1だな。
ファイナルアンサー?
ファイナルアンサーでお願いします。
ざんねん!わたしのぼうけんはここでおわってしまった!
なんて小ネタは置いといて。


ぐいっとな。
「ともねえ、ちょっとおでこ借りるよ」
「あっ……く、空也!?」
やっぱり。
「と〜も〜ね〜ぇ〜!?」
「あ、あぅ!?」
「なんで俺が怒ってるかわかるよね?」
「う……うぅ……」
「まったく……無茶しちゃダメって言ったでしょ?具合悪い時は素直に言う!」
「ごめん……空也」
「はーい、回れ右。ほら、エプロンも外す」
「で、でも、ご飯の支度が……」
「大丈夫。後は俺が全部やっとくから。とりあえず今日はもう寝ること!いいね!」
抵抗するともねえを部屋まで連行する。
はぁ。なんでこう無理ばっかりするかな、ともねえは。
…………少しは頼ってくれてもいいのに。
今まで俺はともねえに甘えっぱなしだった。晴れて姉弟から恋人になってもその図式はあんまし変わっていない。
なので、まぁ、その。ちょっとは頼られる男になりたいワケで。とりあえず今は気合い入れて夕食をば作りますか。
そして夕食後。
「ともねえ、大丈夫?」
「あ…空也……ご飯の支度……大変だったでしょ…?」
「それはもーいいから。おかゆ持ってきたけど食べられるかな?」
「ありがとう……うん、食べられそう…」
「食べたら薬飲んでね、置いとくから」
「やっぱり……優しいな……空也」
う。ともねえはこういうところは凄くまっすぐだ。だから困る。照れてきちゃってしょうがないのだ。
「ほら、食べたら薬飲んですぐに寝る!病人の仕事は寝ることだよ?」
ぴしゃり
と。ふすまを閉めて部屋を出る。よかった。そんなに大したことはなさそうだ。
さてと。明日も大変そうだし俺も早めに寝るとしよう。


…………!?
キンキンキンッ!!
耳鳴りみたいな共鳴音。
くそっ………なんだってこんな時にっ!!
ともねえの部屋に向かって走り出す。
部屋の前まで来たが反応はない。ともねえの性格だと這ってでも行きそうなもんだが。
あ。さっきの薬で眠っちゃったのか。どうするか……放っておく訳にもいかないし……
透子先生に頼むって手もあるけど、見返りに何を言われるか分からないし。
「………決めた。俺がやってやるっ!!」
僕としてのパワーが発揮されてる状態でならけっこうやれたんだ。
勝てないまでも、一般の人を巻き込まないように追い返すぐらいならできると思う。
俺も何かの力になれないかと、いろいろ武器になりそうなものも買ってある。
そうと決まれば善は急げだ。もう誰かが襲われてるかもしれない。
ありったけの”武器”を装備してオンボロ原付に飛び乗った。
ぃぃぃぃぃぃん………
頭の中に響く例の音が強くなってくる。こっちか!
音に従い原付を急がせる。しめた!こっちの海岸ならなんとかなる!
そして原付を止めてゆっくりと近づく。
……………いた。しかも。
「4対1はさすがにヘヴィだぜ……」
普通の色のが3匹、そしてなんかやたらと羽根飾り?が豪華な赤いのが一匹。
アレはもしかしなくても通常の三倍強かったりするんだろーか。やっぱし。
けどもうここまで来たらやるしかない。覚悟を決めろ。相手がクロウなら人間じゃないんだ!俺だって!
「行くぜ、相棒」
手の中のモデルガンを握りしめる。たかだかモデルガンと侮るなかれ。ガスは最高圧力のに換装したし、
なんせ弾丸は雑誌の目次横によくある通販で買った神経断裂BB弾(500発8000円[税込])に変えてある。
目とかの急所に当たればそれなりには効くと思う。
やることは一つ。最初に全力攻撃。しかるのちに逃げ回るっ。
一匹でも戦闘不能に追い込めれば上等だろう。


5……4……3……2……1……GO!
カウントダウンをして岩陰から飛び出す。
「食らえぇぇっ!!」
「ギィッ!?」
「ギシャァァァァ!!」
予想通り、羽根を広げてガードされる。
しかし、不意の対応に反応が遅れた一匹の顔を銃弾が直撃する!!
「ギャグァァァァアァ!!!???」
よっし!そこそこ効いてるみたいだ!続いて怯んだ一匹に向けて倉庫にあった日本刀を振りかぶる!
「でやぁぁぁぁっ!!」
いけるっ!そう思った一瞬。
パキィンッ!
刀が澄んだ音を立てて折れ飛んだ。
「なっ……!?」
防いだのは後ろに居た例の赤い奴。しかも素手でだ。
やっぱりコイツは別格か……
ばっ!
隙を突いて間合いを取る。
初撃は不意を付けたから成功したようなもんだ。気づかれた以上乱戦なんて出来るハズがない。従って残された策は………
「やれやれだ……こいつはマジにヤバいかもしれん……だが柊家にはひとつだけ伝統的な戦いの発想法があってな……」
「ギィ?」
「逃げるんだよォーーーーッ」
全速力で駆け出した。僕パワーも加わってるから原付までギリギリ行けるはずっ!
だが。
「なんで追いつかれてんだーっ!?」
やっぱり3倍だからなのか?大佐だからなのかっ!?
ドスッ。首筋に痛みが走る。
意識を手放す前に浮かんだのは
「で、でも僕が力を発揮できるのは私が姿を変えている時だけだから……普段はいつもと同じだから、無茶はできない」
忘れてた。ゴメンよともねえ。
そして、俺の意識は闇に落ちた。

(作者・愚弟氏[2004/08/18])

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