161 名前:1 投稿日:04/08/06 14:48 ID:cDSBl3oQ

それは星の綺麗な夜のことだった

東南アジアでの修行中、
親父のごく個人的な都合でホテルを強制退去させられた俺たちは
海岸近くの空家で野宿をすることになった

(寒い・・)
こんな夜は、昔の自分を思い出す
常に自分の周りには、自分を守ってくれる姉達がいた
でも、あの頃の自分は、いつもなにかが欠けている…そんな気がしていた。
周りにはあって自分にはないもの……父親という存在
翔、今隣にいる親父は、当時よく家を空けていた。
(だから、もしかしたら自分は本当の子供ではないのではないか)
一人で寝る寒い夜には、とくにそんなことを考えることが多かったのだ
壬生という男、あいつが本当の父親と言ったときも心のどこかでやっぱりかと思った自分がいた。
「俺は…やっぱりあのオッサンにとっては…いらない子供だったのかな…」
つい親父にそんなことを聞いてしまったのも、きっとそんな心持ちからだったのだろう。

親父は少し体を起こしたあと、目線を左斜め下におとした
星の光が逆光となっていて、その表情まではわからない
波の音がかすかに聞こえた
「俺と、あいつと、3人で…か、それもいいかもしれないな」
やがて、なにかを決心したのか、親父は静かに語り始めた


162 名前:2 投稿日:04/08/06 14:49 ID:cDSBl3oQ

「海というのは母親を思い出させるものらしいな」
「え?」
「海洋学者になると決めた時、あいつがそう言ってたよ」
親父は遠い目をしていた
「あいつにも、母親がいないんだ」
「!」
「あいつがまだ2歳のころだったそうだ、だからあいつは、母親の顔も知らない」

「そんなあいつが、初めて私に紹介してきた女性がいた」
「すべてを包み込むような強さと優しさを持つ、そう、海のような人だった」
「それが…」
「そう、おまえの母親だ」
風が止まったのか、いつのまにか波の音が聞こえなくなっていた
しぃんとした静寂が、どこまでも続いているようだった
「だが、彼女も、おまえを生む代わりに…」
そこで親父は少し目を伏せた。
なにか大切なものがあるかのように、自分の左手をじっと見つめた。

「幸い私には愛する妻がいた、多くの娘たちがいた」
「壬生は、おまえを引きとって欲しいと言い出した」
「ここならきっと自分には与えられないものを
おまえに与えることが出来ると思ったのだろう」
「私は生まれて間もないおまえを引き取り、息子として育てることに決めた
そして私は、おまえと歳の近い娘に、「海」となずけた」

「自分は一人でいい。
自分の愛した人間はみな、自分の元から去ってしまう。
でも、おまえだけは……もしかすると、そう言う気持ちがあったのかもしれないな」
親父は深いため息をついた
「……壬生という男は、そういう男なのだよ」


163 名前:3 投稿日:04/08/06 14:50 ID:cDSBl3oQ

俺は外に出て風に当たっていた
波の音のなかで、誰かの声が聞こえたような気がした
かぼそく、助けを呼ぶような、少し寂しげな声
「きっと…気のせいだろう」
(そう、もう振り返る必要はないんだ。父親がいなくても、
俺にはお姉ちゃんたちがいる。俺には帰る場所があるのだから…)
海からの風が、すこし柔らかくなったような気がした
星の綺麗な夜だった


164 名前:2と3の間 投稿日:04/08/06 14:51 ID:cDSBl3oQ

「…的なことを空也に伝えておいてくれ、もちろん後で要芽さんにも伝わるようにだ」
「………あん?」
「あの手のタイプはちょっと影があって愛情に飢えてるタイプに弱い。
翔、うまくいったあかつきには俺が後ろ、おまえが前でいっしょに楽しませてやる 誠」
「……おいクソ親父」
「おっと読みすぎた。まったく、あいつもちゃんと段落わけくらいしとかんといかんな」
そう言って左手に隠していたメモらしきものをすばやく外に捨てると
何事もなかったかのように親父は遠くを見つめて言った

「……というわけだ、もしかすると、あいつも寂しかったのかもしれないな」
「それが遺言か?」

(作者・名無しさん[2004/08/06])

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