「今日も面倒だったな、学校。牛乳は…っと」

 一日のノルマも半分までいった、至って順調。
 最近巴姉さんの身長がすごく伸びてきたっていうことは……

「これで身長も伸びるはずよね♪」
 また一つ自分が完璧になっていく。
 何やら居間から声が聞こえてくる。


「そこはこうでしょう?もっと頭を使いなさい」
「う…うんっと…こう?
要芽姉さん」
「そうよ…よく出来たわね…」

 …最近は慣れてきたけれど、やっぱりこの風景って気に入らない。
 空也は調子に乗って要芽姉さんの所に大したことの無い用事でよく遊びに行ったりする。

「私にはどうして勉強を聞きに来たりしないのかしらね…」


──そう、私はつい最近戦争と平和についてのテーマで世間が驚くような作文をを書いて注目された。
 大変だったし本当に脳のありとあらゆる細胞を使ったためそうなることは当然だと思っていた
 だから褒められてることもまた然るべきことだった。でも……気分は良いものにはならなかった。
 その時も、空也は要芽姉さんの所で勉強を教えてもらっていたのか
 二人一緒にやってきて少し私を褒めるだけだった……
 もちろん普段褒められることの少ない要芽姉さんから褒められたことはとても嬉しかった。
 それでも、もっと褒めて欲しかった相手が居たんだ。


…………。


 その日の夕飯にはその話題が上った。

「しかし高嶺は良く頑張ったな、我もこのような体でなければ褒美を取らせてやれるのだが…」
「いいえ、その言葉だけで充分です。ありがとう、雛姉さん」

 瀬芦里姉さんや海はともかくとしてアイツまでもこの話題に触れることすらなく
 ひたすらにイカリングを頬張っていたのだ。

「(イカ……好きなのかな。そういえば本郷って言う男の子に
 ヒーローごっこなんていつも悪役で勝てなくって泣いて帰って来てたわね……。)」

 自分が主役のはずの話題なのに、目線を向けたその先では
 何事も無いかのようにひたすらイカを食べている少年がいる。

「(……何かだんだんイライラしてきたわ。)」
 おいしそうにイカリングを食べる空也。


「ちょっと空也!アンタさっきからイカしか食べてないわよね!?」
「うん、ボクこのイカリング大好きなんだ」
「私もイカ好きにゃー♪イタダキッ!!」
「あ〜!セロリお姉ちゃん、それボクのだよう……」
「じゃあお姉ちゃんが食べさせてあげるね、く〜や♪」
「わぁい、ありがとうお姉ちゃん」
「(ぷつん)」

 何かが切れる音がした。

「……イカと……アタシ……」
「どうしたの?高嶺お姉ちゃん」
「そんなに……イカが好きなら……アンタなんか……!」
「!!?」

 高嶺は空也にストンピングをかました! ガッ!
 空也に70のダメージを与えた!

「え……?」
「私の分まで食べて……そんなにイカが好きなら海にでもどこへでも帰ればいいじゃない!」
「どうして?ボク何かお姉ちゃんに悪いことしたの?」
「そうやって……そうやって何も分かりませんっていう顔が腹立たしいのよ!」

 高嶺の足から凍てつく波動がほとばしる! ゴゴゴゴゴ!
 空也にかかっているお姉ちゃん成分は全てかき消された!

「え……ぇ……?」
「それに!好きって言うよりは同類よね?」
「男の子のくせにナヨナヨしてウジウジして、本当にみっともない!」

 高嶺は空也に精神攻撃をした! ゴーン!
 空也は耳をふさいでとっさにその攻撃をかわした!


「な……話を聞きなさい!このイカ!」
 ガッ!ガッ!
「アンタなんかねぇ、サイクロン号にでも轢かれて吹っ飛べばいいのよ!このイカ!イカッ!」
「お姉ちゃん…痛いよう!」
「うるさい、このイカ!」
「う……ぅ……うわああああああぁぁん!」

 空也は逃げ出した!
 しかし、敵にまわり囲まれてしまった!

「どこへ行くの?まだ食事中でしょ?それにイカの大好きなイカリングもまだ残ってるわよ!」
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「あやまれば何でも済むって思ったら……」
「そうよ、高嶺」
「え?」

 バシ!

足が痺れた…正確に言うとしたら叩き落とされた、とでも言えばいいのか。
「お母……さん?」
「今は食事中ですよ?それに…一体どうしたって言うの。いつもの高嶺らしくないわよ?」
「だって……私だって……!」

 居ても立ってもいられなくなって、その場から逃げるようにして出て行った。

「何…で…空也……は私のこと……えぐっ……見てくれないの……
 いっつも…要芽姉さんばかり……ぐすっ…」

 しばらく自分の布団から出ずにずっと枕に顔を押し付けて、でもばれないように泣いた。
 その後、お父さんに少しだけ怒られたけど……
 泣いているのがばれてたのかあまり叱られなかった。


………………。
………。

──プシュー……
「…………うや……」
「………!?」
「(はっ、いけない!寝ちゃった…)」
「(しかも、泣いてるじゃない私!こんな可憐な少女が泣いていたら世の中が放って置かないわね)」

 慌てて涙を拭いて、バスを降りる。
 まだ日は高く昇っていて刺激が強すぎたのか目にしみる。

「何で…あんな夢を今頃見たんだろう……」
「あ、そういえば書店に行って単行本を買わなくっちゃ」
「ん、新人作家……?」

 そこには最近名前が知れて来ているという一人の作家の本が大量に積まれていた。
 タイトルは───『憧れの横に』

「犬上詩子……聞いたこと無いわ」

 見出しを見てみる。そこには……「あの人に振り向いて欲しい……」……何かの因縁だろうか?

「ま、まあたまにはこういうモノも読んでみることも悪くないわよね」
 誰に対してではないが、一応呟いてみる。
「(それに……内容が気になるし)」
「……アイツが帰って来るのは……もうちょっとね」

 それまでに読み終えることなど造作もない。……今更態度を改めることなんてもう出来ないだろう。
 この本が何かのきっかけになるかもしれない、そんな期待を胸に家路へつく。

 まだ日は落ちていないのに、背伸びしたヒグラシが鳴いていた。

(作者・名無しさん[2004/07/06])

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