昼食後のまったりしたひとときを居間で過ごしていると
いったん自分の部屋に戻った海お姉ちゃんが困った顔でやってきた。
「どうしたのお姉ちゃん」
「う〜ん・・・メカ高嶺が見つからないんだよ〜」
「メカ高嶺?」
姉貴の顔色が変わる。
「ちょっと海!アンタ、あれ処分したんじゃなかったの!?」
「パワーを切っておいたから、処分はいつでもいいと思って放置してたんだよ〜」
「だったら部屋にあるんじゃないの?」
「自我に目覚めてるからね〜。勝手に自分でパワー入れて、動き出したみたいなんだよ」
よくわからないが・・・自我ってすごいな。
「なんで自我残したままなのよ!」
「自我があるって・・・まずいの?」
「オリジナルである高嶺お姉ちゃんが邪魔で、消しに来るかな」
「け、消しに来るって・・・マジ?」
「と、とにかく探し出して何とかしなさいよ!」
「メカ高嶺って、そんなに危険なの?何かヤバイ武装でもしてるとか」
「たいしたことはないんだよ〜。殺人プラズマ光線を発射できるぐらいかな〜」
「ひぃっ!?」
殺人って・・・充分ヤバイよお姉ちゃん・・・
「ア、アタシあれが見つかるまで部屋に戻るわ。イカ、ドアの前で護衛しなさい!」
「護衛?」
「あれはアタシを狙ってるのよ!アンタ、戦いなさい!」
「え〜?そんな物騒なものの相手やだよ」
「うんうん、可愛い弟をそんな目に合わせようなんて、ひどいツインテールだね〜」
「原因はアンタでしょうが!」
「まあしょうがないか・・・じゃあ、俺はとりあえず姉貴の部屋の前で見張っていよう」
「私はもうちょっと家の中を探してみるよ〜」


姉貴の部屋の前で待機しているとともねえに声をかけられた。
「あう・・・?どうしたんだ空也」
「実はかくかくしかじか・・・」
かいつまんで事情を説明すると
「そ、そうなんだ・・・でも、メカ高嶺なら私の部屋にいるよ」
「・・・はい?・・・ともねえ、もう一回言ってくれる?」
「メカ高嶺は、私の部屋にいるよ」
「なにぃ〜!?と、ともねえ、何もされてないの!?」
「うん・・・時々喋るけど、何もしないよ」
「ど、どういうことだ・・・?・・・わからないよ、お姉ちゃーん!」
シュパァッ!
「はい、お姉ちゃんですよ〜♪」
「オネイチャーン」
様子を聞きつけて姉貴も部屋から出てきた。
「アタシも事情を聞きたいわね・・・海、あれはアタシを狙ってるんじゃなかったの?」
「ひょっとすると『柊高嶺』としての自我じゃなくて『メカ高嶺』としての自我に目覚めたのかも〜」
「・・・どういうこと?」
「生意気に、オリジナルとして存在しようというわけね。もう一人のアタシではない以上、アタシを狙う理由はないってわけか」
「でも、そうするとコピーとして生まれた意義がなくなっちゃうよ〜?」
よ、よくわからん・・・
「とにかく、居場所がわかったんならさっさと処分しちゃいましょ」
「そ、そんな・・・処分なんて、かわいそうだ・・・」
「はぁ?巴姉さん、あんなのが可哀想だなんてどうかしてるんじゃないの?」
「だ、だって・・・元が高嶺だと思えば、か、可愛い・・・」
なんというか・・・さすがともねえだ。
「あれはアタシに似てなんかないわよ!」
「で、でも喋り方とか・・・似てる・・・」
「うんうん、高嶺お姉ちゃんを完璧にトレースしてるからね〜」
「ごく一部だけでしょうが!」
「ちゃ、ちゃんと私が面倒見て可愛がるから・・・処分とか、しないでほしいな」
「まあ、ともねえもこう言ってるし、実害がないんならいいんじゃない、姉貴?」
「ぬうぅ・・・あれを可愛がるって・・・な、なんだかビミョーに恥ずかしいわよ・・・」


それから、度々ともねえと行動を共にするメカ高嶺を見かけるようになった。
「よう、巴ちゃん!・・・今日は妹連れで買い物かい?」
「あ、あはは、はは・・・」
「今日も活きのいいのばっかりだからね!サンマとかどうだい!」
「うん・・・どれも美味しそう・・・なにがいいかな・・・」
「コノ、イカ」
「おっ、お目が高いね!このイカは上物だよ!しかしさすが巴ちゃんの妹だ、普段買い物してなくても目が利くねぇ!」
「ナメンジャ、ナイワヨ」

「巴、ちょっといいかしら」
「あ、要芽姉さん・・・な、なに?」
「あなた、また私のお皿にピーマンを入れたでしょう」
「あう・・・で、でも、好き嫌い言わないで食べてほしい・・・」
「お黙りなさい!・・・これほど何度も言っているのにわからないなんて・・・お仕置きが必要なようね」
「あう・・・や、やめ・・・」
「ほぉら・・・耳の後、弱いのよね?・・・(ぺろ)」
「ナメンジャ、ナイワヨ」
「な・・・何なの、これは?」
「ナメンジャ、ナイワヨ」
「ふん・・・その気が失せたわ・・・助かったわね、巴」
「あう・・・あ、ありがとう、メカ高嶺・・・」

相変わらず台詞は二つだけだったが
まあ、それなりにうまくやっているようだった。


そして、ある晩。
キィィィン!
覚えのある耳鳴りが響く。クロウだ!
「ともねえ!」
部屋に駆け込むと、ともねえはすでに準備を整えていて俺を見るとこくりとうなずいた。「俺も行くよ!」
ともねえはもう何も言わない。ただ黙ってバイクのあるガレージに走っていく。
俺もまた黙って後に続いた。

その日は、クロウの数が多かった。
「くっ・・・!」
さすがのともねえも苦戦している。俺も何とか援護をしているが焼け石に水で
むしろ自分の身をかばうので精一杯だったりする。
「ギギギッ!」「う、うわ!?」「あ、危ない!」
そのとき、俺の背後からまた別の気配が現れた。くそっ、新手か!?
「コノ、イカ」
ぐあ、メカ高嶺!?
「ああっ!?メ、メカ高嶺は危ないから来ちゃダメだ!」
「ナメンジャ、ナイワヨ!」
ギョーン!
あ・・・そういえばコイツ殺人プラズマとか発射できるんだった。
「グギャーッ!?」
メカ高嶺の光線で一匹のクロウが炎に包まれ、すかさずともねえが止めを刺す。
しかし、敵の数はまだ多い。しかも、ともねえを取り囲んで攻撃を集中させ始めた!
くそっ、この位置じゃともねえに当たってしまうかもしれないからメカ高嶺も光線を発射できない!
と、見かけによらない俊敏な動きでメカ高嶺がともねえを取り囲むクロウの輪の中に飛びこんでいく。
そして、何を思ったのかともねえを突き飛ばした!
「あうっ!?」


「そうか・・・輪の中からともねえを出すために・・・!」
ともねえは突き飛ばされて輪から飛び出し、今クロウに取り囲まれているのはメカ高嶺だけだった。
・・・ダメじゃん、自分残ってたら。
ドカ!バキ!ガス!
タコ殴りにあうメカ高嶺。微妙に間抜けなところまで姉貴にそっくりだぜ・・・
「た、大変だ・・・い、今助けるから!」
起き上がり助けに入ろうとするともねえを、メカ高嶺が片腕を上げて制する。
「ナメンジャ・・・ナイ、ワヨ!」
ドグァアン!轟音とともに眩い閃光が走る!
「グェーッ!」
おお、集まっていたクロウがみな吹っ飛ばされた!・・・って、メカ高嶺、自爆!?
「ああっ!メ、メカ高嶺っ!」
クロウは焼き尽くされて灰になったり、逃げ出したりでもう残っていなかった。
輪のあった中心部分でブスブスと黒煙をあげてくすぶる機械の残骸に纏身をといてともねえが駆け寄り、俺も走りよった。
そこには、バラバラになったメカ高嶺の胴体と、かろうじて原型をとどめているツインテール・・・もとい、頭部が転がっていた。
「あう・・・わ、私のために・・・ううっ・・・」
メカ高嶺の頭を抱きしめて、ともねえが目に涙を浮かべる。
そのとき、キシキシときしむ様な声で、それでもハッキリと
残されたメカ高嶺の頭部がこう言った。
「トモエ・・ネエ・・・サ・・・・・ン・・・」
「う・・・うわぁぁん!メ、メカ高嶺ぇ〜っ!!」
やっと覚えた三つ目の台詞を一度きり喋って
メカ高嶺はそれっきり何も言わなくなった。

今でも、メカ高嶺の頭はともねえの部屋で、大事に保管されている。
「じゃ、行ってくるね、メカ高嶺」
もう動くことはないのだろうが、それでもともねえは毎日話しかけたりして大事にしている。
しかし・・・なんていうか、シュールなオブジェだよな、これ。
「ナメンジャ、ナイワヨ」

(作者・◆Rion/soCys氏[2004/07/04])

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