夕食後。読みそこなった朝刊の記事を読んでいると、ふとある記事が目にとまった。
「へえ・・・ここの近所で、ホタル見れるんだ」
お茶をすすっていた雛乃姉さんが首をかしげる。
「ん?なんだ急に・・・ああ、新聞記事か。そう言えば、もうそんなシーズンであるな」
「うん。俺がいる頃には見られなかったような気がするけど、今は違うんだね」
「うむ、ここ数年の市やボランティアの活動で水が綺麗になったからな。扇川や佐助稲荷のあたりがポイントであるぞ」
「へぇ〜・・・さすが、詳しいね、姉さん」
「えっへん♪」
姉さんは地元のことには詳しい。俺が長く離れていて土地勘をなくしていることもあって色々教わることが多い。
「そういえば、沖縄にはホタルはいなかったのか?」
「いるところにはいたらしいけど、結局見に行くことはなかったなぁ・・・」
「そうか・・・では一つ、散歩がてらホタル見物と洒落込もうか?」
「え、今から?二人で?」
「善は急げというではないか、ほれほれ、早くせい!」
どうも、俺に見せたいというよりは自分が見たい気持ちのほうが強そうだけど・・・
「・・・では、お供させていただきます」
「うむ!」

「足元、大丈夫ですか姉さん」
「月が明るいからな、心配は要らぬぞ。さ、この藪を抜ければ・・・」
道ともいえないような道を進み、姉さんがガサガサと草むらをかきわけていく。
やがて・・・
「おっ?・・・おぉ〜!?すっ・・・げぇ〜・・・!」
月明かりの下、木々に囲まれた小さな泉。その上を無数の小さな光点が舞い踊っていた。
「どうだ、見事であろう!」
「はい!いや〜・・・辺り一面・・・ホタルの光で一杯だね」
「ふふ・・・来てよかったであろう?ここはな、観光客なども来ない、我の秘密のホタル鑑賞スポットなのだ」
「そうなんだ・・・いや〜、感激モノだなぁ、これ・・・そうだ、2、3匹捕まえてお土産に・・・よっと!」
ジャンプ一番、一匹のホタルを掌に納めたときだった。

「ならぬ!!」
「わ!?な、なんですか急に大声で」
「ならぬ、と言ったのだ・・・空也、ホタルがなぜあれほど明るく輝くか、知っているか?」
「え・・・?あ、ああ、確かホタルのお腹にはルシフェラーゼとかいう酵素が・・・」
「そのようなことを聞いているのではない・・・ホタルはな、長い時を冷たい水の中で幼虫で過ごす」
「うん・・・」
「成虫でいられる時間は、ごく短い。その短い間・・・ホタルは命を燃やして輝くのだ」「命・・・」
「命を燃やすからこそ、ホタルの輝きは眩しく・・・また、切ないのだ・・・さあ、放してやれ・・・」
「は、はい・・・すいません、姉さん」
「わかればよい・・・いや、わかってくれて、我も嬉しいぞ」
手を開き、そっとホタルを宙に放つ。
放たれたホタルは、救い主が誰であるかちゃんとわかっているかのように
雛乃姉さんの周りをクルクルと舞い、そして光の渦の中に戻っていった。
「どれ・・・我も一つ、舞うとするか」
飛び交う幾百ものホタルの光を背に
手にした扇子を広げ、ゆったりとした動作で雛乃姉さんが舞う・・・
それは美しく、神秘的で、そして・・・なぜか切ない光景だった。
「空也・・・我は、輝いているか?我の命は・・・輝いているか?」
「はい・・・眩しいくらいに」
雛乃姉さんの手がゆっくりと止まり、静かに舞が終わったとき
俺は姉さんをそっと抱きしめていた。
「姉さん・・・ホタルが命を燃やして輝くのは・・・伴侶を探すため、伴侶に見つけてもらうため、と聞いています」
「うむ・・・そうらしいな」
「俺では・・・見つけてもダメですか?」
とす、と姉さんの小さな頭が俺の胸に預けられる。
「つまらぬことを言うな。我は・・・お前のためなればこそ輝ける。お前以外になど、見つけて欲しくはないぞ・・・」
ホタルが舞う。光の渦が祝福するかのように俺たちを取り巻き、流れていった。

(作者・名無しさん[2004/06/06])

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