古い家だった。
なんでも鎌倉時代から続く家柄とかで、あの男も、無能なくせにそのことを鼻にかけてばかりいた。
なぜ母があんな男の妾になどなっていたのか未だにわからない。
あの男の家族も同様だった。
何かといえば「我が家は・・・」と、家の格式云々を言う、イヤな連中ばかりだった。
母が病気で死に、月代の家に引き取られることになったときに
私の地獄が始まった・・・

下女同然、いや、それ以下の扱いだった。
世間体があるので何とか学校には行かせてもらえたが
家に戻れば召使いのようにこき使われた。
犬の餌のような残り物を与えられ、寝起きは庭の片隅の土蔵。
中学2年の時に、あの男の息子に犯されたのが初体験だった。
それに気づいたあの男は、息子を止めるどころか一緒になって私を犯した。
二人の雄の性の奴隷になることと引き換えに、なんとか高校まで進学はさせてもらったが
あの男の妻のヒステリックな折檻はその度合いを増した。
学校にいるときだけが、私の自由な時間。
いつか自由になる日を夢見て、いつかあの家を出る日を夢見て
私はひたすら勉学に励んだ。

転機は不意に訪れた。
寝起きする土蔵の片隅で見つけた、古い巻物と奇妙な指輪が私の運命を変えた。
不気味な姿への変身。襲ってくる奇怪な化け物との戦い。
それは、私が力を手に入れた証しだった。
やがて、私は気づいた。
この力は、死体を残さない。ただ砂のようにして消し去ってしまう・・・
近所の野良犬でそれを確認したとき、私の心は決まった。

死体の残らない殺人は立証しにくい。
だが、家の中で私一人生き残っていれば疑いがかかることは避けられない。
慎重に計画を練り・・・そして、実行した。
やがて、連絡のないことを不審に思った分家の人間が訪ねてきたとき
私は土蔵の中に閉じこもり、怯える少女を演じきった。
鳥のような化け物が襲ってきたと告げると、分家の人間は簡単にそれを信じ
事件を闇に葬ってくれた。
その後、必死に家の中を探し回っていたのは
おそらく指輪と巻物を探していたのだろう。
すでに私が指輪の戦士となっているとは思いもしなかったようだ。

その後、私は分家にひきとられた。
肩身は狭かったが、あの家よりはずっとましだった。
こうして、私は望む物を手に入れた。
自由と、復讐と・・・そして、力。
いや、力こそが私に自由と復讐を与えてくれたのだ。
化け物ももう襲ってこない。
もはや望む物はないかに思えた。
だが。
あの巻物に記された指輪は、あと二つあるようだった。
一つの指輪でこれだけの力が得られるのなら
二つ目、三つ目の指輪を手に入れたならどれだけの力を持てるのだろうか?
さらなる力が与えてくれるであろう何かのために、私は指輪の探索を始めた。

大学を卒業して、私は高校の教師になった。
配属は、出身の高校。
帰ってきた。思い出など何一つないこの街に。
私が過ごしたあの家はもうない。
何か手がかりがまだ残っていないかと思っていたのだが。
ただ、またあの化け物が襲ってくるようにはなった。
これも手がかりをつかむきっかけになるかもしれない。
そう思って夜毎街を彷徨っては化け物を殺して回った。
そんなある夜、私はもう一人の指輪の戦士に出会った。
私より少し年若いこの娘が指輪を持っている。
隙を見て、殺す。殺して、奪い取る。
それが私の選んだ生き方だった。

今、もう一人の指輪の戦士と相対し、そして彼女の持つ物を見せつけられた。
弟。家族。愛。守るべきもの。大切なもの。
たとえ私が残りの指輪全てを手に入れても
決して手に入れられないものを、この娘は持っていた。
なぜか倒れているこの娘に、母の面影がちらつく。重なる。
優しかった母が、私を諭しているように感じる。
引き返しなさい、と告げているような気がする。
引き返せるだろうか。
ここまで来て、引き返すことが許されるのだろうか。
引き返せば、私にも大切な物が見つかるのだろうか。

余力はあった。
かなり消耗はしていたが、倒そうと思えばできなくもない。
だが、あえて手を止めて、背を向けて引き返す。
そう、引き返してみることにした。
・・・引き返しても何もなかったとしても
何も大切なものを見つけられないとしても
それはそれでいい。
もともと何も持っていない身の上なのだ。
不思議と、気が楽になっていった。
「OK、こういうのも・・・悪くないわ・・・」

(おしまい)

(作者・名無しさん[2004/05/30])

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