繁華街にある大きな書店の少女コミック単行本のコーナー。
周りを見れば小学生から主婦っぽい人まで・・・女性ばかり。
普段お姉ちゃんに囲まれて暮らしている俺にとっても、ちょっとここは居心地が悪い。
「あれ、空也さん?こんにちはー。奇遇ですねー、こんなところで」
後ろから聞き覚えのある可愛らしい声が呼びかけられ
振り向くと、いつも見慣れた事務員の服装ではなく、私服姿のいるかちゃんがいた。
「あ、こんちは・・・ちょっと、頼まれ物の買い物で」
平たく言えば、姉貴のパシリをしているわけだが・・・
「ですよねー、空也さんが少女漫画読むのかなーって、一瞬思っちゃいましたー」
そう言って、ぺろ、と舌を出しているかちゃんがてへっと笑う。
「いるかちゃんも漫画を?」
「はい〜♪今日は事務所もお休みなので、久しぶりにお買い物でもと思って」
「あ、そう言えばお姉様家でのんびりしてたっけ・・・」
「それで、お気に入りの漫画の新刊が今日発売だったのを思い出して、慌ててやってきたんですよー」
「へー、俺が頼まれたのも今日発売のなんすけど、同じ奴かな?・・・それにしても、どこにあるんだろう」
実はさっきから探してるのだがまるで見つからない。新刊だから平積みだと思うんだが・・・
「このお店、少女漫画が充実してますからねー。じゃ、一緒に売場回りましょうか?」
「あ、助かります。正直、どこに目当ての本があるんだか見当が付かなくて困ってたんすよ」
姉貴に頼まれたタイトルをいるかちゃんに告げると
「あ〜、やっぱり同じですね〜♪だったら、多分こっちですよ」
いるかちゃんが俺の手を取る。手を握ってから、急に恥ずかしくなったのか
「あ・・・えへ・・・・こ、こっち、ですよっ」
顔を赤らめながら、それでも手は離さずに俺を引っ張っていった。

目当ての本はすぐに見つかった。が
「はわ〜・・・一冊しか、残ってない・・・」
「弱ったな・・・・ちょっと店員さんに聞いてみるよ」
聞いてみたが、残念ながら、今残っている分で初回入荷分は終わりらしい。
「・・・じゃ、いるかちゃんどうぞ」
「いえいえ〜、空也さんこそ」
「いや、せっかくのお休みで楽しみにしてたんでしょ?悪いよ」
「でも・・・空也さん、これ高嶺さんの頼まれ物ですよね?・・・買って帰らないで、大丈夫ですか?」
う。読まれてるなぁ。確かに、もし買って帰らないと色々ひどい目に遭いそうではある・・・
「・・・ホントにいいの?」
「はいー♪私はまた別の機会にでも」
「悪いなぁ・・・そうだ、今日はお休みなんだよね?」
「はい?そうっすけど?」
「じゃ、替わりと言ってはなんだけど何か奢らせてよ。お昼とかまだでしょ?」
「あ、はい・・・うふふっ♪」
「?」
「初めて会ったときも、空也さん私のことナンパしたんですよねー。結構慣れてるのかな?」
そう言って俺の顔を覗き込むと悪戯っぽく笑う。
「あ、いや、別に慣れてるってほどじゃ・・・で、OK?」
「そうですねー・・・あのときは、お姉様から電話があってお断りしちゃいましたけど、今日は喜んでお受けしますよ♪」

こうして、何度かデートするようになり、俺たちはつきあい始めることになった。
もちろん、要芽お姉様には内緒で。
だが、いつまでも隠しておけるはずもなく
また隠しておくわけにもいかないことだった。
初めて二人が結ばれた次の日、俺は仕事が終わる頃を見計らって事務所に顔を出した。
そして、思い切って二人で要芽姉様に打ち明けた・・・
ソファに並んで座った二人を姉様の冷たい視線が射抜く。
「・・・空也。私といるかがただの雇い主と部下の関係ではないことは知っているわね?」
「はい、承知の上で・・・」
「いるか。空也は弟といっても血の繋がりはないの。だから私も含め、何人かの姉は関係を持っていた
るわ」
「は、はい!でも、私とつきあうようになってからは・・・その、してない、と・・・」
「そう。では、もしここで私が、許さない、と言ったら・・・どうするつもりなのかしら?」
「え・・・?」
甘かった。きっと許してもらえるとしか考えていなかった。
許してもらえないのなら・・・どうすればいいんだ?
俺は打ちのめされ、返す言葉がなかった・・・

そのときだった。
目に涙を浮かべながら、いるかちゃんが立ち上がり、叫ぶ。
「そ、そのときは・・・この事務所を辞めて!・・・空也さんにも家を出てもらって!・・・二人で、生きていきます!」
「・・・空也も、そのつもり?」
「は、はい!」
恥ずかしい。俺よりもいるかちゃんのほうがよっぽどしっかりと覚悟を固めていた。
もっとしっかりしなくちゃと思うと同時に、いるかちゃんへの思いがまたいっそう強くなり
俺も立ち上がって、震えるいるかちゃんを支えるように寄り添う。
しばしの沈黙の後、姉様がふっと笑った。
「そこまで覚悟をしているのなら、私の許しを得る意味はないのではなくて?」
「・・・へ?」
「だってそうでしょう?私が許そうが許すまいが、二人は愛し合っているのだから」
そう言うと、姉様は立ち上がりくるりと背を向けた。
「私としては、もし許しを与えなければ、ただ可愛い弟と優秀な人手をいっぺんに失うだけ。だったら・・・」
姉様がまたくるりとこちらを向く。その顔は・・・優しく微笑んでいた。
「いちおう許して、二人とも手元に置いておく方が得、よね?」
「そ、それじゃあ・・・」
「まあ・・・許してあげるわ・・・本音を言えば、悔しいけれど、ね」
「あ・・・ありがとうございます、お姉様!」
二人揃って頭を下げる。
「別に礼を言われることもないけど・・・そんなに感謝しているのなら・・・」
・・・姉様がまた少し笑う。ただし、今度のは妖しい微笑。
「・・・たまに、二人のベッドに私も混ぜてもらうというのはどうかしら?燃えそうじゃない?」
「えっ?・・・・・・・・・・・・・・・ダ、ダメです!やっぱりダメ!」
・・・やっぱり?っていうか、今ちょっと考えてなかったか?
「ふふ・・・楽しくなりそうね、空也」
楽しいかどうかはともかく、まだまだ波乱はありそうだなぁ・・・

(おしまい)

(作者・名無しさん[2004/05/30])

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル