そっと、襖の戸が開けられる音に、目を瞑っていた雛乃は、目を開け、
音のしたそちらに目をやる。暗がりの中、人影が浮かんでいるのが、暗闇に慣れた
目ですぐにわかった。

雛乃「要芽・・・か・・?」
要芽「(ビクッ)ね、姉さん?ごめんなさい、起こしてしまいました?
すぐに出て行きますね」

そう言うと、要芽はすぐに踵を返し、部屋を出て行こうとした。が、雛乃は
そんな妹の後姿が、酷く弱弱しいものに見えた。
泣いてはいなかったが、その後姿からは、妹がずっと昔のあの時のように、
泣いているように見えた。

雛乃「要芽、待て」
雛乃はとっさに妹を呼びとめた。

雛乃「近う寄れ、寝てなどおらぬ。丁度、寝苦しさに困っておったところだ。・・・
   少し、話をせぬか?」

要芽「でも、もう時間も・・・」
時計の針は、もう丑みつ時を指していた。

雛乃「なになに、我は『あだると』であるからなぁ。この位の時間、夜更かしにも
入らぬぞ」

要芽はクスリと困った笑顔を見せると、「はい」と返事をして、襖を閉め、
雛乃の布団の横に座った。

雛乃「・・・」
要芽「・・・」

しばし無言の二人。

要芽「あの、雛乃姉さん、身体のほうは・・・」
そこまで言いかけると、雛乃はため息をついて、要芽の言葉を止めた。
雛乃「要芽よ、そなたの話すべき事はそんな事ではなかろう。相変わらずよの」
要芽「え?」
雛乃「何か・・・。仕事で辛い事でもあったのか?」
要芽「!?」

そう言われると、要芽は図星であると言わんばかりに驚いた表情を一瞬ではあるが確かにした。

要芽「い、いえ、別」
雛乃「要芽よ、他の妹達は皆寝ておる。我と要芽だけだ。昔のようにの。
   何を遠慮しておる?我はそんなに頼りなくなったのかの」
要芽「そ、そんな・・・」
雛乃「我はどんな時でも要芽の味方だぞ?何せ要芽は我の初めての可愛い妹であるからなぁ」

起き上がった雛乃は、横にいる要芽の顔を笑顔でそっと撫でた

要芽「姉さん・・・。う・・」

要芽は、声を押し殺しながら、涙を流し始めた。雛乃はそんな要芽をそっと自分の胸に
かき抱いた。要芽も心の緊張を解いたのか、自ら、雛乃の胸に頭を許し、涙を流した。
雛乃はいつまでも、自分の膝で泣く、要芽を優しくかき抱き続けた。

しばらくして、落ち着いた要芽は、今日あった事、最近までの事を全て雛乃に話した。
雛乃は、その妹の話を真剣に頷きながら、聞き続けた。

要芽「ひどいでしょ?姉さん」
雛乃「そうよの。それは要芽の怒りももっともよの」
要芽「そう・・・。ってあら、もうこんな時間・・・。ごめんなさい、姉さん」
雛乃「だから、謝る必要などないと、さっき言ったばかりであろう。困った弁護士だ」
要芽「まぁ、姉さんったら」

二人は、布団の中で目を合わせると、くすりと笑いあった。

要芽「ありがとう、姉さん。もう、大丈夫です」
雛乃「の、ようだな。」

要芽「姉さんには甘えてばかりですね。私は。」
雛乃「何を悪い事があるか。要芽は、我の可愛い妹であるからなぁ。」
要芽「・・・ありがとう、雛乃姉さん。じゃあ、姉さん・・」
雛乃「何だ?」
要芽「・・・もうちょっと、こうやって一緒に寝ていてもいいですか?」
雛乃「本当に甘えたがりよの」
要芽「ええ、そうなんですよ。気づいていませんでしたか?」

二人は、また、目を合わせるとクスクス笑いあった。
要芽「妹達には今夜の事は内緒ですよ?」
雛乃「さて、どうするかの?」
要芽「もう、姉さんったら」

その夜、二人は、子供の頃に戻ったかのように、話し続けた。
静かで、吹く風が涼しい、優しい初夏の日の夜・・・。月は満月だった・・・。

(作者・名無しさん[2004/05/14]) ※2004/06/08修正

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