エル・カザド1


あの時感じた想いは、一体何だったんだろう。

食事を摂る為に立ち寄った街のタコス屋で、ナディがトイレに席を立ってからずっとエリスは考えていた。
リカルドとナディの仲睦まじい様子を見て、淀んだ感情を覚えたこと。
もう数日前の出来事ではあったが、エリスは未だにその感情が何だったのか理解出来ずにいる。
ナディが自分の隣に居てくれないことが嫌だった。
ナディが自分を見てくれないことが嫌だった。
ナディがリカルドと視線を交わし微笑み合うことが嫌だった。

「あたしとリカルドが仲良くしてたから、それで…」
あの時ナディが言った言葉を反芻する。
認めるのが何となく悔しかったので否定はしてみたけれど、エリスが感じたものは間違いなくそれだったのだと思う。
傍に居て欲しい。
触れたい。
触れて欲しい。
遠い昔エリスが博士に持った想いと限りなく似ている。
博士にはエリスなりに思考を重ねプレゼントをするという形で想いを伝えようとしたけれど
今の彼女は昔を凌ぐ程の、相手を求め自分を惑わす強烈な感情をどうしたら良いのか、完全に分からなくなっていた。


「それでお前、あの娘をモノに出来たのかよ」
ふと、大きな声がエリスの耳に飛び込んでくる。
声の主にぼんやりと目をやると、数席離れたテーブルに座った大柄な男が三人、下卑た笑みを浮かべていた。
「当たり前だろ。昨日の夜なんか、大喜びだったんだぜ、あの女」
「おい、詳しく聞かせろよ」
得意げに鼻を膨らませて語る男と、無闇に囃し立てる仲間の二人。
お昼時で人も多い時間帯、店内で食事をしていた大勢の客が、下品な会話を繰り広げる男達に眉を顰める。
ところがこの手の話に嫌悪を示してもおかしくはない程客の中でも幼いエリスは、掴んだジュースのコップを口に運ぶのも忘れるくらいに、彼らの会話にじっと耳を傾けていたのだった。

好き勝手に喋り倒した男達が店を出て間もなく、ナディが戻ってくる。席を立ってから十五分近く経っていた。
「エリス。食べ終わった?」
「ナディ…遅かったね」
「ついでだからすぐ隣の宿をとって来たんだけど…どしたの?何かあった?」
「…ううん。何でもない」
「何でもないって顔してないわよ。人も多いから平気だと思ったのに…もしかしてまたあいつが来たとか」
「違うよ。本当に何もなかった」
「そ?ならいい。じゃ、ちょっと買い物してから宿行こっか」
「いえっさ」
男達の話から学んだ、どうやら仲良しな人とする行為について。
本当にそれで好きな人を喜ばせる事が出来るのかと疑問に思っていたエリスは、ナディの笑顔を見て決心を固めた。



何事にもタイミングは必要である。
エリスはベッドに腰掛け、部屋の窓辺に立って外を眺めているナディの後姿を見つめていた。
あまり世間に詳しくないエリスでも、今から実行しようとしている事に何となく後ろめたさを感じていたのだ。
いつもなら無言でも心地良く二人の間に流れる空気が、今は重い。
「ね、エリス」
「?」
後ろを向いたままのナディの両肩が揺れる。どうやら笑っているようだ。
どうして彼女が笑っているのか解りかねたが、ナディが嬉しいならエリスも嬉しい。
どうせなら顔をこちらに向けてくれれば良いのに、とエリスは思った。
「今日は珍しく会わなかったわね」
「会わなかったって?」
「リカルドとリリオ。最近は、行くところ行くところで会ってたのに」
「…リカルド」
嬉しそうなナディの心に存在していたのは、リカルドだった。その事実に、エリスは言葉を失う。
代わって数日前に覚えた感情が、再び胸をざわめかせる。姿を見せてもいないリカルドを思うナディに、それは恐らく以前よりも上回っていた。
―早く。早くしないと、ナディがリカルドの元へと行ってしまう。

「ナディ」
「んー?」
「こっちへ来て」
「何よ?」
軽い態度と足取りで、エリスの様子に何の疑問も抱かず、ナディがやって来る。
「ここ座って」
「…?はいはいっと」
そのままエリスの横にあぐらを掻く。
「ナディ」
「うん?」
「…ナディ」
「だから何って」
肩に手を置いて、至近距離でナディを覗き込む。形の良い眉が、困ったように下がっていた。
じっとエリスを見つめる青い瞳に吸い込まれそうになり、エリスが思わず凭れるように体重を預けると、ナディはいとも簡単に仰向けに倒れた。
「こら、エリス」
「…」
胸に頭を乗せ心音に耳を傾ける。
ナディが優しい言葉をくれる時は、いつもエリスの鼓動が弾む。
比べて静かなナディのそれは、恐らくこの行動をただの戯れだと思っているからだろう。
露出した腹を人差し指でなぞられて、始めてその心臓は律動を崩した。
「ちょっと…」
「ナディのお腹、ぷにぷにしてて柔らかい」
「喧嘩売ってんの、あんた」
「…売ってない」
チープな旅を長く続けているとは思えないほど滑らかなナディの肌の感触に溺れそうになるのを、エリスは自分で押し止める。
ナディを怒らせたい訳ではないのだ。思い返せば、自分が口を開く度にナディの機嫌を損ねているような気がして、暫く黙っていようと決意する。
健康的な褐色の腹にそっと口付けた。

「こら、こらこら!エリス!何してんの!」
慌てて肘を立て上半身を起こすナディに構わず、エリスはぺろりと腹を舐めた。
まだシャワーを浴びていないから、少ししょっぱい。綺麗にしてあげるつもりで、密着する舌の面積を広げた。
「エリス!」
臍に到達すると、始めてびくりと反応らしい反応をナディが見せてくれたので、エリスは其処に舌を捻じ込み奥へ突き入れた。
「…っ!いい加減にしなさい!」
「…ナディ…」
一喝され、頭を下へ押される。拒絶を示されたエリスは、顔を上げ悲しげにナディを見つめた。
もっと強く叱り飛ばそうとしたナディが、それを見て怒りを萎えさせ溜息を吐く。
「いきなり何するのよ」
「どうして怒るの…?」
「どうしてって…あんたねえ」
何をどう説明したら良いか分からず髪の毛をくしゃくしゃに掻き毟るナディの両手を取り、エリスは勢い良く枕に押し付ける。
再び大きな音を立てて仰向けに倒れる事となったナディ。驚きに目が見開かれる。
「…エリス?」
「怒らないで。もうちょっとで、ナディを気持ちよくしてあげられるから」
「はあっ?って、何処触ってるの!」
あまり豊かとは言えない胸の膨らみを服の上から空いている左手を使って包み込む。
「やめ、なさいっ!」
性急に裾から侵入した指で直接肌に触れられるのを感じ、身体を捩って逃げようとするナディだが、両手首を強く頭上に纏められているので自由が利かない。
つい最近まで賞金稼ぎをしていたナディ。力には多少の自信がある。
これが非力な少女ならばどうにでもなるのだけれど、相手がエリスでは到底敵わない。
足をばたつかせてみるも、エリスに跨られ完全に動きを封じられる結果となった。

本格的な抵抗により焦るエリスは胸への愛撫を早々に諦め、ナディのホットパンツへ手を掛ける。
片手で器用に止め具を外し下着と一緒にずり下ろした。
「エリス、あんた…」
エリスが何をしようとしているのかようやく理解したナディが、呆然と呟く。
早く。
早くしなければ。
焦燥感を秘めた瞳が、ナディの露わになった秘所を凝視する。
初めて目にする訳ではないのに、その光景は何故かエリスを昂らせた。
「…」
壊れたりしないよう、そっと陰毛を撫でてみる。髪の毛とも違ったその手触りに、エリスは息を呑む。
ナディの様子を窺うと、彼女は頬を薄い桜色に染めて唇を引き結び、視線を外へ向けていた。
(嫌がるの、やめてくれた)
その事に無性の喜びを覚え、ぴったりと閉じた線を中指を使って横に広げてみる。
濡れているとまではいかないが、じっとりと湿った其処は高い温度を持っていた。
「…あっ」
強弱すらつけない勝手気ままな拙い動きではあったけれど、膣へと浅く挿入された冷たいそれを感じ、ナディは小さく悲鳴を上げる。
「ナディ」
「…なによ…」
「…これからどうしたらいいのか分からない」
「…へ?」
思いがけない言葉にナディがきょとんとエリスを見やると、拗ねた表情で唇を尖らせていた。いじけたようにナディの性器を弄りながら。
「あの人達は、女の人の此処にいれると喜ぶって言ってた。でも私、持ってないから」
「…あの人達って誰?此処にいれると喜ぶって何?」
「さっきご飯食べたところで聞いた。此処にいれるって言うのは…」
「わーわー!もういい!もういいからとりあえず手を離しなさい!」
「でも…」
「さっさとする」
「…いえっさ」
低い声で凄まれたエリスは、不承不承といった様子でナディの手首を解放すると、彼女はすかさず着衣の乱れを直した。

「それとあたしの上からも退いてくれる?」
「でもナディ…」
「あー、もう。何なのよ、一体」
「もっと仲良しになりたかったのに」
「充分仲良しでしょうが」
「もっとなりたかった。でも出来なかった。ナディが好きなのに」
余程の事がない限り泣いたりしないエリスがポロポロと涙を流し始めた事に面食らうナディ。
一つ溜息を吐いて赤くなった手首を擦りながら半身を起こし、エリスと向かい合った。
「エリス」
「ごめんなさい、ナディが嫌がることして」
「分かったから、顔を上げなさい」
日頃エリスを包み込んでくれたナディの優しい声に、ようやくエリスが顔を上げる。
数秒逡巡した後、ナディは頬に伝う涙を唇で拭ってから、それをエリスの唇へと合わせた。
すぐに離れたナディの顔を、今度はエリスがきょとんと見つめる。
「…何してるの?」
「……ああ、もう。ほんとにあんたって娘は…。色々とぶっ飛びすぎなのよ」
「?」
「嫌だった?」
「嫌じゃなかった」
「嬉しい?」
「嬉しい」
自分の指で唇に触れながら、エリスが表情を緩める。ナディの温もりが、そこに残っているような気がして。
そんなエリスを見て苦笑しつつも、唇を塞ぐその指を取って、ナディはもう一度口付けた。今度は、さっきよりも少しだけ長く。
お互いの吐息が感じられる程の近い距離で、ナディは囁く。
「エリスの好きっていうのは、こういう事でしょう」
「ナディはこれで喜ぶの?」
「…喜ぶ」
「…じゃあ、あの男の人たちが言ってたのは?」
「間違いではないけれど…あんたにはまだ早すぎる」
「私がもっと大きくなったらナディと出来るようになる?」
「……まあ、やりようによっては」
「ならこれでいい」
「…なんか腹立つ…」
いつも欲しい答えをくれる大好きなナディ。
好きを伝える方法を教えて貰った事があまりにも嬉しくて、エリスはナディに飛びついた。
呆れつつもその頭を撫でながら。
そもそもそんな事をエリスの耳に入れた奴は何処のどいつで、どうにか探し出して身体に風穴を開けに行きたいと思うナディであった。


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