第2章『犯されて』


 八奴隷の一人奈保子は、かれこれ五年間エレンに飼育されている。
 彼女の背景は特殊だ。二十歳の時に心の隙に入り込んできた高利貸に騙され、多額の借金を抱えてしまった。しかし返済の能力も無く、かといって誰かに相談できるわけでもなく、自分に絶望して東京湾に身を投げようとしているところを、エレンに救ってもらったのだ。
 それ以来、奈保子はエレンに忠誠を誓った。
 それでも初めは後悔したが、エレンがいなければ自分の命は無かったことを思うと逆らえることなどできず、すぐに従順な奴隷となった。
 当時はまだ、今のような秘密クラブなどない。エレンの借りていたマンションで、日々過酷な責めを受けていた。しかし、ほどなくしてマゾ性が目覚め、三年前に泉ビルが完成してからも、エレンのお気に入りとして会員は滅多にとらされない。その代わり、他の奴隷全員の前で責めの限界を試される実験台として、エレンに責められることが度々ある。
 普段の彼女は、他の奴隷たちの世話をしている。
 由美もいずれそうなるであろうが、全員が幾度とも無く繰り返されてきた浣腸責めのために、自然排泄ができなくなってしまっているのだ。
 奈保子の朝の仕事は、全員の体調を見てまわりながら、少量のグリセリン水溶液を注入してあげることだ。そのときに、昨日プレイに来た会員に対する愚痴や思いも聞いてあげる。そして今朝からは、浣腸器が一つ増えた。先ほどまでエレンから、地下三階の調教室で調教を受けていた由美の分だ。
 エレンから浣腸責めも行ったことを聞いていたが、今後なってしまう体調を教えてあげなくてはならない。毎回、この時ほど辛い瞬間はない。それに、由美がここへ連れてこられてから、奈保子が二人目に会う人物だ。
 調教後の由美は放心状態になっていたが、正気に戻ったときに暴れ出すと危ないからと、個室で目隠しをし、胸緊縛を施した上に正座をして奈保子を待つように言い聞かせたとのことだ。
 由美の部屋に入ったら、まず様子を伺って、すぐにでも戒めを解いてあげようと思っている。
 個室の扉は右半分が淡いピンクに塗装されたブリキ製で、左半分は鉄格子が張られた、大きく厚いプラスチック板でできている。それは、中の様子がはっきりと見えるようにしてあるためだ。これは、いつでも奴隷の様子を見てまわれることと、プレイをしにきた会員が、相手を目で見て選ぶための工夫だ。奴隷にプライバシーを主張する権利など無い。しかし、調教室よりは遥かに心が落ち着ける場所である。
 由美の部屋の前まできた。扉の向こうを勇気を出して見てみると、由美は全裸でこちらを向き、エレンに聞かされていた通りの縄衣装をしていた。力無くうつむき、長い髪がだらりと垂れている。
 奈保子は勇気を出して、インターホンのボタンを押す。
 呼び出しの音に驚いたのか、全身をびくっとさせ、扉に顔をわずかに上げた。
『奈保子様ですね……』
 今にも消え入りそうな声がインターホンから聞こえてきた。黒い目隠しが若干濡れていることがわかる。
 奈保子は心を痛めた。由美は、丸まる一晩、エレンに責められ続けたのだから当然のことなのだが、優しい奈保子は、他の人が責められているのを見たり、苦悶の声を漏らしているのを聞くのが辛いのだ。
「今すぐ解いてあげるね」
 奈保子は急いで中に入ると、由美に駆け寄った。
 エレンの責めは大変に強烈なのだが、奴隷の身体には跡一つ付けない。確かに縄跡は多々残ってしまうが、鞭でみみず腫れや蝋燭での火傷はよほどのことがない限り、付けたりはしないのだ。
 大切な商品だから当たり前なのかもしれないが、奈保子は知っている。エレンは奴隷たちを愛しているのだ。だからこそ、愛情を込めて責める。エレンのその思いは、調教を重ねていくと奴隷に伝わるのであろう、誰もが、いつしかエレンに心から仕えるようになる。
 由美の身体も、他の奴隷たちに負けないくらいに白く美しい。そして、乳房の上下に走る麻縄が、それをより一層引き立てている。会員の相手ができるようになったら、間違いなく人気が出るだろう。
 戒めを全て解いても、由美は正座をしたままうつむいていた。
「由美ちゃん、もう大丈夫よ。エレン様はお休みになられましたから。あなたのこと、とても誉めていらっしゃったわ。とっても従順で、いい娘だって」
「……どうして、どうして私なの? 私、何も悪いことしていないのに、なんでこんな酷いこと、されなくちゃいけないの?」
 由美は奈保子を、潤んだ瞳で見つめながら、震える声で尋ねた。
 勿論、奈保子には答えられない。「それがエレン様の愛情だから……」などと言ったところで、納得などしてくれるはずがないのだから。
 困惑はしばらく離れないだろう。答えがあるわけではないのだから。でも、この先何年もエレンの呪縛からは逃れられないのだ。だから今は、由美の心を落ち着かせることが先決と判断した。
「とにかく、いつまでも裸でいないで、好きなドレスを着るといいわ」
 にっこり微笑んで、由美の手を取った。
「あっ!」
 由美は、その時初めて気が付いた。自分が何も身につけていない、生まれたままの姿であることを。
 それに引き換え、奈保子は奴隷たちの世話役ということからか、紺のメイド衣装を着ていた。三分袖で膝上十cmの紺のワンピースの上から、眩しいくらいの純白のリボンとエプロンドレス。フリルが付いたカチューシャがなんとも可愛らしい。ぱっと見で高級な衣装だと分かる。
 ベッドとは反対側の壁がクローゼットになっていて、奈保子はそれを開けて見せた。
「すごい……」
 由美は思わずため息を漏らした。
 そこには、さまざまな衣装が掛けられていた。中には白衣やセーラー服、ウェディングドレスといったコスプレ系の服もあるが、半分は今までの由美の財力では到底手を出すことのできない、衣装ばかりだ。
 会員が晩のおかずを選ぶと、好みの衣装を着用させることができるのだ。
「普段は好きなお洋服を着ていてもいいのよ。ブラとショーツはこちらのケースに入っているからね。生理用品はその隣。それからドレスミラーの棚にはコスメ類や髪留めとかが入っているから、もちろん好きに使って大丈夫よ。足りないものがあったら、気軽に私に言ってね。すぐに揃えてあげるから。エアコンはそこのボタンで操作して頂戴。それから向こうの扉はユニットバスになっていて、いつでも利用できるようになっているわ。あと、その壁に取り付けられている手と足枷、あれのお世話にならないように気をつけてね」
 簡単に部屋の説明をしてあげた。
 安月給のOLだった由美にとって、この部屋は今までの1DKアパートとは天と地の差だった。大型テレビもあるし、ミニコンポもある。人気のコンシューマーも揃っている。このような設備を整えているのも、ある意味エレンの作戦なのだが、やはり身体が売り物なだけに、いつも女性であることを忘れないで欲しいという考えも、含まれているのだ。
「あ、そうそう。そのテレビだけど、ゲーム専用なの。ここには新聞、ラジオ、テレビといった情報源は、基本的にないの。外部との接触はお客様と以外は全く無しだと思ってくれていいわ。だから、電話だって存在しないからね」
 電話が無いのは辛いことだが、仮にも誘拐犯が自ら外部と接触できる物を置くはずがない。当然と言えば、当然である。
 その説明の間に、由美はアンダーウェア着けた。どちらも淡いブルーに統一する。そしてドレスを選んだ。ブティック「エレン」のショーウィンドウにディスプレイされていた服と、同じ物だ。
「とっても似合ってるわよ、由美ちゃん」
 さっきまでの悲しい顔はどこ吹く風の由美を、奈保子はほっとした気持ちで素直に誉めてあげた。
 鏡台の前に座った由美の、乱れてしまっている長い漆黒の髪を、奈保子が丁寧に梳かしてあげた。そして、ブルーのドレスに合うリボンを選び、ポニーテールにした結び目を飾った。まるで王女様のような自分の姿に、由美は喜びを隠し切れずにいたが、ふと暗い顔になった。
 奈保子も、その様子の変化を見逃さなかった。今まで数名のこの場面を作ったが、このようになることも、シナリオの一つになっているかのようだ。
「お尋ねするだけ無駄かもしれませんが、ここから出られる時は来るのですか?」
 鏡に写る奈保子の目を見詰め、小さな声で尋ねてみた。
 それに、小さく首を振る奈保子。
 やっぱりというように、由美は一呼吸分、目を閉じた。
 奈保子は由美の肩に手を置き、小さな声で言った。
「ここから、エレン様の呪縛から逃れられる方法はただ一つ。聞きたい?」
 問いの答えは、聞かずとも解る。
 由美は立ち上がり、奈保子が部屋に持ってきた浣腸器のことを訪ねた。
「これはね、私の毎朝のお仕事なの。ご存じないと思うけど、何度もお浣腸で強制排泄を繰り返していると、自分の力では排泄ができなくなってしまうの。残念だけど、由美ちゃんもいずれそうなってしまうわ。だから、毎朝皆さんの体調を聞いて、そして排泄のお手伝いをするの」
「……身体、そんなふうになっちゃうのね。一度なったら、治らないのよね」
 由美の頬に、一筋の光るものが流れた。
 奈保子はそれに気が付かない振りをして、説明を続けた。
「お客様から声が掛かったら、私たちにお休みはないけれど、基本的に生理のときはゆっくりできるわ。でも、吉田様と早瀬様は生理中の娘を指名されるので、その場合はお休みできないわね。それで由美ちゃん、次、いつごろか聞いてもいいかしら?」
 由美はちょっぴりうつむいて、
「この前終わったばかりです……」
 と、答えた。
「でも、しばらくはエレン様からの調教しかないわ。恐らく十日ほど。仮にその時に生理があっても、お休みは出来ないから関係ないことですけれどね。でも、毎朝私がくるから、その時に体の状態は、どんなことでも隠さずに言って頂戴ね」
「はい……分かりました」
 由美は素直に頷いた。
「さ、床に四つんばいになって」
 奈保子の言葉に、由美は驚いた。
「え、でも、私、まだ自分でできます。それに、今までエレン様に責められて、お浣腸もされました。だから、何もありません……」
 自分で何を説明しているのだろうかと、由美は恥ずかしくなり、最後は小さな声になってしまった。
「ええ。エレン様からは、どのような責めを行われたのかをお聞きしました。でも、これが、私たちにとって大切なことだから、これは今日からしなさいというエレン様の御命令です。エレン様とお客様の御命令は絶対です。もしも逆らったら、どのようなことになるかは、エレン様からお聞きしましたね?」
 立ちながら、小さく頷く由美を見て、先を続ける。
「ならば、私にお浣腸をさせてくれるわね?」
 由美は素直に従うしかなかった。
 床に膝を付き、手も付いた。人前で犬のような格好をさせられるのは、それだけで恥ずかしい。でも、今までエレンに散々させられたことだ。それに、優しくしてくれる奈保子には、恥ずかしいという感覚は少なかった。
 奈保子は、由美の体勢が整ったところを見て、まずはドレスの裾を、腰までたくし上げた。それから、先ほど着けたばかりの、同色のショーツを脱がした。
 若干紅潮した肌色の、奇麗な形の桃を、一度優しく撫でてあげる。それからゆっくりとパンティーを足から抜き取った。
「ちょっと足を広げてね。これだと、アヌスが見えないから」
 由美は、もじもじと、でも大きく股を開いた。
「それじゃ、お浣腸するね。量はほんのちょこっとだから安心して。でも、おトイレに行きたくなっても、少しは我慢してね。すぐに行っちゃうと、きちんと全部を排泄できなくて、後で余計に苦しくなっちゃうから」
「はい……」
 もう一度、由美のお尻を撫でてあげ、アヌスにローションを塗る。
 ローションの冷たい感触と奈保子の優しい指使いで、由美は恥ずかしながらも感じてしまった。たった一晩の調教で、由美はアヌスの快感を覚えてしまったのだ。
 奈保子は由美の反応がかわいらしくて、しばらくアヌスを指でほぐしてあげた。
 人差指が難なく入れられるようになってから、トレイから由美用のガラス製浣腸器を手にした。ガラスのカチッという触れ合った音に、由美は体を強張らせた。
「だめよ、力を抜かないと痛いわよ。エレン様に教えられた通りにしてね」
 由美は言われた通りにアヌスから力を抜いた瞬間、冷たい感触を覚え、そして、腸内に冷たいものが入ってくるのを感じた。
 でも、それは一瞬のことだった。
「はい、終わり」
「え? これだけで良いのですか?」
 量の少なさに驚いた由美だが、
「これは責めではないのよ。量なんてほんのちょこっとで良いの。でも、効き目は同じだからね」
 と、奈保子が優しく説明してくれている間に、もう、便意が襲ってきた。
「うっ……。量なんて関係ないんですね……」
「もう少し我慢しないとだめ。一度波を乗り切れば、急に楽になるから。それで、次に便意が来たときにおトイレに行きなさい。そうしないと、奇麗に排泄できないからね」
「は、はいっ」
 由美は足を震わせながら、必死に耐えた。
 そしてしばらくすると、それまでの便意は嘘のように消えた。
「ね、楽になったでしょ。次は行っても大丈夫だからね。そのとき、ドレスを汚さないように注意してね。もし何かあったら私を呼んで頂戴。全てが終わるまで、私はお部屋で待っていることになっていますから」
 ほどなくして訪れた便意で由美はトイレに行き、少々時間が掛かったものの、用を足してきた。もっとも由美の腸内には何も残っていないので、注入された浣腸液とごく微量の粘液を排出しただけであった。
 羞恥のため、真っ赤な顔をした由美を迎え、奈保子は朝の仕事を、無事に終えることができた。
「あまりに突然のことばかりで、しかも今までエレン様に調教をしていただいたんですから疲れているでしょ?」
 由美はベッドに腰を落とし、こくりと頷いた。
「これからは、永遠に奴隷としてエレン様にお仕えしていくことになります。苦しいこと、辛いことが沢山あるでしょう。でも由美さんが仲間になって、私たち奴隷は八人になりました。支えあって生きていきましょうね」
 奈保子は由美の手を取って、強く握った。由美も、握りかえした。
「ベッドに入るときは、枕の下にネグリジェが入っていますから、必ずそれに着替えてください。それから、一度身につけた下着と、ドレス等は例え汚れていなくてもクリーニングしますので、そこの籠にきちんと畳んで入れて、ドアの外に出しておいてください。その時、ショーツとブラは、ドレスの上に置いてくださいね。恥ずかしいかもしれませんが、私たちは奴隷ですから、恥ずかしくないことなどありませんから」
 そこで奈保子は、くすりと笑った。
 多分、奴隷という身分できっちりと収まってしまった自分に対しての、嘲笑があったのだろう。
「もしも、このことを忘れてしまった場合は、エレン様からきついお仕置きがありますから、十分注意してくださいね」
「……ということは、今着けているものはもう脱がなくてはいけないのですね?」
「もう、お休みになるのであれば。それと、お部屋の電気は消えませんから、必要ならば、アイマスクを利用してください」
 奈保子は、握っていた手を解き、立ち上がった。そして朝の道具セットを手に持つと、部屋を出る前に、一言注意を言った。
「私は今だけ、お客様といいましたが、私たちはお客様のことを御主人様とお呼びしなければなりません。だから、これからは御主人様ですからね」
「はい、わかりました」
 由美は疲れすぎていたので、眠気を忘れてしまっている。だが、身体は休息を求めているためか、ろれつが回らなくなってきている。
 でも、聞きたいことがあるらしい。
「どうしたの?」
「どうして奈保子様は、そんなに明るくしていられるのですか? ここを抜けだそうとかは思わないのですか?」
 実はこの質問が、奈保子にとって、一番答えずらいものなのだ。
 ちょっと考え、口を開いた。
「私は、強烈なマゾですから。近いうちに、私がエレン様に責められているところを見ることになると思いますから、きっとその時に解るでしょう。私が、ここから出られない、その大きな理由を」
 意味深な言葉を残して、部屋を出て行こうとしたが、「なにかあった場合は、ベッド横のボタンを押してください。私がすぐにお部屋まで向かいますから」
 と、言い、
「私たちはエレン様や御主人様がお呼びになられたときは、どんな場合でもお相手にならなくてはなりません。例え寝ているときにでも。なので、目が覚めたら調教ルームだったということもあります。でも、眠れるときにゆっくり体を休めてください。まだしばらく、エレン様からの調教が続きますから」
 と、付け加えた。
「おやすみなさい」
 奈保子が優しく微笑む。
「お休みなさいませ、奈保子様」
 由美は丁寧に頭を下げた。
 部屋を出た奈保子は、静かに扉を閉めた。
 奈保子が立ち去るのを目で追いながら、姿が見えなくなると本当に一人になったということを実感した。
 それにしても、なんという一日だったのだろう。
 三週間前に彼氏が浮気していたことを知り破局。それから何もやる気が起きなかったものの、企画会議に提出した案が採用され、週明けからの巨大プロジェクトに参加できることになり、そのキックオフパーティーで着用しようと久しぶりにブティック・エレンに訪れた。恋の悩みからも立ち直り、新しい気分で今年の残りを頑張ろうと思っていた矢先であった。
 ふぅ……
 溜息を一つ吐いた。現実なのか夢なのか、未だに区別が付けられない。しかし、手首にある縄痕は、明らかに現実として肌に付いたものである。それを軽く摩ってみる。
 確かに感じる痕の痛みと、指に感じる凹凸。現実だ。
 ふぅ……
 もう一つ、大きく息を吐き出した。今までSMなどおとぎの国の世界と同じくらい、自分とは全く無縁の行為だと思っていた。別にセックスフォビアではない。人並みに肉体の愛も育み、楽しんできたつもりだ。
 しかし、もうこれまでの生活に戻ることができないということを事実として知った今、SMの世界に溺れ、快楽と苦痛の挟間に取り残されるのも、一つの人生かもしれないと半ば諦めのように思った。
 ふぅ……
 最後の溜息を吐くと立ち上がり、ドレスを脱ぎ、ブラジャーもショーツも下ろし、ネグリジェを着た。とても薄い生地なので、裸体以上の恥ずかしさがある。しかし、昨夜の意識を失いかけた浣腸責めは、金輪際嫌なのでこれを着るしかない。
 衣類を奇麗にたたみ、籠に入れ、ドアの外に出しておいた。
 ベッドに入り、アイマスクをして、横になった。
 感じていなかった眠気が、一気に襲ってくる。
 これからの我が身を案じる暇もなく、意識がぷつりと途切れた。
 髪をポニーテールに、縛り忘れたままで。

 それから数日の間、エレンからの調教は続いた。
 ある時は三十時間の耐久縛りを施され、無理な体勢から身体の限界を通り越し、初めて失神を経験した。奴隷としての言葉遣いを、奈保子からお互いに胸緊縛後ろ手縛りでフックにつながれ向かい合って、教わった。少しでも間違えると、エレンから容赦のない鞭が、由美と奈保子の両方に飛んだ。
 張り型を使っての、フェラの練習もさせられた。一日三時間程しかない睡眠時間に、由美は疲れきっていた。しかも、睡眠時間もアヌスの拡張ということで、磔台に固定され、アヌス拡張器を使った調教が行われていた。
 それからさまざまな調教を受け、体力の限界が見られる由美に、やっと休息が与えられた。その日は、数回用を足しに起きただけで、懇々と眠り続けた。
 そしてある日、由美は他の奴隷七名に、紹介されることとなった。
 今まで、エレンと奈保子以外には会わなかったのだ。
 由美以外の奴隷たちは先に地下三階の調教室にて、全員思い思いのドレスを着たまま、エレンより上方手首縛りを受け、フックに爪先立ちになる高さまで吊るされていた。この時ばかりは、奈保子も例外ではない。しかし、奈保子にはメイド衣装しかないので、着ているものは普段とあまり変わらないように見えるが、カチューシャのフリルやワンピースの白い襟の部分が微妙に違う。
 その時由美は、自室にいた。エレンに待機するように言われていたのだ。その時間を利用して、身体を奇麗にしておこうと考えた。ちょうど今朝方、奈保子にお願いしていた、今まで使用していたシャンプーとコンディショナー、ボディーソープが手に入ったのだ。
 改めて裸身を見てみると、昨日の蝋燭責めの時の赤い蝋が、まだ少し付着していた。それを丹念に洗い落とし、今は、バスローブのまま鏡台の前で、肩下まである自慢の漆黒の髪を、丁寧に梳かしている。
 そして、髪を結ってから薄く化粧をし終えたところに、麻縄と真紅の首輪、そのセットの引き縄を持ったエレンが部屋に入ってきた。
「エレン様……」
 由美も、エレンにはだいぶ心を開いてきた。この数日の間に、ここからは逃げ出せなく、エレンが絶対の存在だということを身をもって知らされた。それに、エレンがどのような気持ちで奴隷の調教をしているのかが、ほんのわずかに分かってきたからだ。
 少なくとも、お金を儲けようと思い、このような危ない橋を渡っているわけではないことは気が付いたのだ。
 そして、なによりも奴隷のことを、まるで我が子のように思っていることも、エレンと奈保子の様子や、実際に二人と接して感じることができた。暇な時間があれば、奴隷たちのために夕食を作ってあげたりもするのだ。
 確かに、日々の調教は辛い。逃げ出したいとも毎度思う。でも、今ここを後にしても、自分には戻れる場所が無いのではないかと感じる。今まで忘れかけていた愛情という物に、久しぶりに触れている気がするのだ。
 それが例え、縛りや鞭、羞恥の命令だとしても。
 愛情の表現など、世の中には沢山ある。エレンは、それがたまたまSMだっただけなのかもしれない。と、奈保子が呟いたのが、由美には印象的だった。
 エレンは、レザーの女王様スタイルで、びしっと決めていた。
「由美。明日からあなたは、私たちの可愛い奴隷たちと同等に扱います。御主人様方に指名されれば、初めのうちは私も同席しますが、きちんとお相手をしなければなりません。今日は、明日からの本当の奴隷生活を始めてもらう意味での、先輩方へのご挨拶です。分かりますね」
 由美は、エレンの話を床に跪き、聞いていた。奴隷としての最低限のマナーである。それが、やっと身についてきたのだ。
「はい、分かりました」
 由美は、床に額がつくまで、頭を垂れた。
 そんな姿勢に、エレンは嬉しそうに微笑む。
「由美は一番の若年です。経験ももちろんありません。先輩方は、すでに調教室で待っています。しかも、苦しい戒めをされて、待たされているのです。それを頭に入れて、調教ルームに入りなさい。いいですね」
「はい、エレン様」
 由美は、お淑やかに、心からの返事をした。
「今日のあなたは、衣類の着用を禁止します。そのかわり、これをプレゼントするわね」
 エレンは真紅の首輪を取り出した。由美は、エレンがそれを嵌めやすいように、首をあげ、髪の毛をまとめた。
 その首輪は、由美がここへ連れてこられた初めての晩に付けられたものだ。小さなハート形のネームプレートには、[Slave No.8 Yumi]と彫られている。
 由美に首輪が嵌められる。そのひんやりしたとした肌心地は、奴隷という身分を実感するには十分過ぎるほどである。
 そして最後に、顎の下でカチャリという音がした。
「この首輪は鍵付きよ。だから私以外には絶対外せない」
 これがどういうことか由美にだってわかる。奴隷の証という意味もあるが、ここから逃げ出すことができないという気持ちを植えつける役割も果たしていることくらい。
「ありがとうございます」
 という、お礼も忘れなかった。
 一生外せない首輪を付けられたという絶望感よりも、やっと奴隷という身分に落ち着けたという安心感が勝っていたからだ。ふと思い出すと、奈保子は黒い首輪をしていた。黒のメイド服という制服がある彼女には、それに合わせて黒なのだろう。
「調教ルームに行く前に、あなたも縛っておきましょうね」
 エレンが由美を立たせると、後ろを向かせ、バスローブを脱がせて、背中に手を組ませた。エレンは、胸緊縛がお気に入りだ。女性の美の特権ともいうべき乳房の上下を麻縄で飾り、見る者、される者を魅了するのだ。
 組んだ両腕をさらに厳しく絞り上げ、由美が小さく声を上げたところで、がっちりと固定した。しかし、強く縛ってしまっては長時間耐えられない。肌と縄に指二本分くらいの余裕を残し、最低でも一時間は耐えられる縛りにする。
 一見簡単そうだが、エレンも慣れるまでには数年を要した。その間、奈保子には色々と辛い目に合わせてしまった。そういった失敗を積み重ね、今の縄師、女王としてのエレンが存在するのだ。
 最後に首輪に引き縄を付け、エレンは縄衣装だけを纏った八番目の奴隷を、胸を弾ませながら調教室へと連れ出した。
 自室から調教室までは、全員の部屋の前を通って行かなくてはならない。今までは、他の奴隷には由美の顔は秘密にされ、また由美にも他の奴隷とは一切顔も合わせないようにということで、廊下を歩くとき、由美は全頭マスクを嵌めさせられていた。
 連れられる間、すべての部屋をちらりと覗き見ていったが、どの部屋も大変に奇麗だった。これは恐らく、エレンの教育なのだろう。
 部屋の掃除機がけは、その者が他の部屋で調教を受けているとき、奈保子の手が空いている場合に行われている。
 すべての部屋の前を通り、廊下の突き当たりがら、左に二回曲がると調教室だ。右に曲がれば上り階段があるが、その手前の扉は、セキュリティーカードを通さなければ開くことはできない。
 しかし、奴隷もこの階段は上る機会が多い。地下二階に、調教室が二部屋用意されているからだ。
 エレンは黒塗りの鋼鉄の扉の前で立ち止まり、由美を振り返った。
「心の準備は出来たかしら?」
 由美は、エレンの見事なまでの誘導により、心臓が張り裂けそうなほどに緊張している。一度、深呼吸をしてから、「はい、大丈夫でございます」
 と、やや震える声で、エレンに告げた。
 エレンは小さく頷き、ノブに手を掛けた。
 蝶番のきしむ音がする。しかし、力はほとんど入れていない感じだ。恐らく、雰囲気を出すための演出なのだろう。
 室内は、大変明るかった。もう、見なれた部屋だが、その中央には、奈保子を含む七人の奴隷たちが、手を天に向かって真っ直ぐ伸ばし、麻縄の手首の結び目にフックを掛けられ、爪先立ちで吊るされていた。
 由美は全員の顔を確認する余裕など無く、すぐさま七人の元へ駆け寄り、跪き、頭を下げて挨拶をした。
「皆様、大変にお待たせいたしまして、申し訳ございませんでした。先日エレン様に八番目の奴隷として狩られてまいりました、由美と申します。まだまだ奴隷としての礼儀も作法もわきまえていないふつつか者ですが、どうぞ、よろしくお願いいたします」
 由美は、しばらく頭を下げ続けた。すると、奈保子が、「由美ちゃん、これからが本当の奴隷生活ですからね。だから、みんなで頑張っていきましょ。ここにいるみんなは、仲間なんですから。固くならないで、頭を上げて」
 といって、由美に顔を上げるように、半ばお願いをした。
 由美は、ゆっくりと上体を起こした。そして、ゆっくりと全員の顔を見上げた。
 その時、
「ねぇ、由美? 河合由美でしょ?」
 と、右の方から聞こえてきた。
「え?」
 由美には、その声に覚えがあった。
「佳代? 佳代! あれから全然連絡が無くなっちゃったから、どうしたのかと思ったんだよぉ」
 一年前、まだ短大生だったときに由美にブティック「エレン」を教えてあげた当時の友人、佳代子だった。ある日、突如として姿を消してしまった。内定ももらっていて、あとは卒業するだけという時に。あの時は、足が棒になるくらいに、思い当たるお店や場所を探しまわった由美だが、まさか、ここで奴隷になっていようとは。
 由美は手が使えない不自由な体勢なので、ゆっくりと立ち上がり、左から二番目の佳代子に向かって行こうとしたが、ばしっ! という音とともに、由美は膝から崩れてしまった。
 エレンが由美の背中に、鞭を放ったのだ。
 手を避け、奇麗に背中に振るったのは、まさに神業としか思えない。
 吊られている奴隷たちは、エレンが一本鞭を振るったことに、驚愕している。
「由美! 佳代子と面識があるのかないのか知らないけれど、あなたはまだ挨拶が済んでいないのよ! 勝手な行動は、私が許しません! まだ奴隷としての自覚が足りないようねっ!」
 エレンの厳しい声が、倒れている由美に浴びせられた。
 由美の背中には、可哀相に、一筋の赤い筋が出来ている。
 エレンは滅多なことでは、一本鞭を使用しない。一歩間違えれば、皮膚を引き裂いてしまい、怪我を負わしてしまうからだ。しかし、由美が奴隷としての心を忘れ、過去を振り返ったために、エレンは鞭を振るったのだ。
 そんな由美を見て、誰も同情の声を上げない。奈保子と佳代子は少々苦い顔をしているが、他の者は顔を背けている。自分も同じ目にあいたくないからだ。しかし、佳代子は過去の友人として黙ってはいられなかった。
「エレン様、申し訳ございませんでした。由美を、許してあげてください。私が不甲斐なく、奴隷としての自覚がまだ備わっていないからでした。悪いのは私です。由美を責めるのでしたら、変わりに私が罰をお受けいたします!」
 友情。それは、かけがいの無い物である。
 しかし、奴隷の世界に友情は存在しない。あるのは、厳しいお仕置きだけなのだ。
「分かったわ、佳代子。あなたも一緒にお仕置きを受けてもらうことにするわ。精神的な苦しい責めをね」
 エレンが、口元に笑みを浮かべた。
 それが何を意味しているのか、由美以外の者は知っている。
 佳代子は背筋が凍ってしまったかのように、小さく震えている。
 由美は、鞭のショックが大きかったのか、気を失っていた。
 エレンは由美にアンモニア水を嗅がせて気付けをし、七人の足元で正座をさせた。それから奈保子の縄を解き、命令を下した。
「五〇%のグリセリン溶液一〇〇〇ccを二つ作りなさい。それと、ポンプ注入式のストッパーも二つ用意するのよ」
「はい……」
 奈保子は、佳代子と由美をちらりとみた。二人ともうなだれている。奈保子は場合によっては、このように責め具を用意しなくてはならないときがある。他の者が責められていることを見るのが恐い彼女にとって、この命令は、拷問に近いものである。
 エレンはもちろん、そのことを知っていて奈保子に命令を下しているのだ。
 そのエレンは、手枷と足枷の付いた、皮張りのベッドを、奴隷たちの前に用意した。そして由美を立たせ、縛りを解き、ベッドに横たわるように命じた。
 由美は涙を流しながら、言われた通りにベッドに横になった。背中の痺れるような鞭の痛みに、ベッドの冷たさは心地よかったが、開脚で足を固定されてしまい、浣腸をされるという恐怖で、今にも自分の存在が潰れてしまいそうな感覚に陥っている。
 そして両手を、頭の方に真っ直ぐ伸ばされた状態で、縛られてしまった。吊るされている他の奴隷たちと似たような格好だ。
「二人をしっかり見ているんですよ。少しでも目をそらしたりしたら、同じ目に合わせるからね」
 その鋭い言葉に、奴隷全員は由美へ目を向けざるを得なかった。
 そしてすぐさまアヌスにローションが塗られ、軽くほぐされた後、一番太い場所で直径三センチもあるストッパーを挿入されようとしている。
「い、痛いっ! エレン様、お許しくださいっ!」
 由美が悲鳴のような声を上げたので、エレンは一度中断し、棚から大きなゴム球の付いた口枷を取り出し、それを嫌がる由美に噛ませてしまった。
 そして、再度ストッパーを挿入する。
 由美はあまりの痛みに、悲鳴を上げようにも、うめき声しか出せず、目を真っ赤にして涙を流している。エレンが、少々無理矢理挿入してしまったせいか、由美のアヌスから、赤い物が一滴落ちた。
 エレンはそこに消毒液を数滴垂らした。もちろん、消毒のためにだが、傷口にしみて、由美は大きく身体を波打たせた。言うまでもなく、これもエレンの責めの一つだ。
 後ろに奇妙なものをはやした由美に、今度は、前へ細めのバイブを挿入し、スイッチを最強にした。
 激しいモーター音が、由美のうめき声と一緒に、見させられいる全員の耳へ恐ろしいほど進入してきた。
「さ、佳代子。観念しなさい」
 次に佳代子の縛りを解いた。お仕置きするからといえども、いきなりフックから外したりはしない。ゆっくりと鎖を下ろし、佳代子がしっかりと床に足を付けたのを確認してからだ。
 すぐさま衣類を全て脱ぐように命令する。佳代子は、グリーンを基調としたカクテルドレスを脱ぎ、ブラジャー、ショーツの順に外していった。
 それから佳代子を棚の前まで連れて行き、
「これを、付けなさい」
 と、双頭のディルドウを指差した。
「え、で、でも……」
 嫌がる佳代子を、エレンは一睨みした。
 そのディルドウは、レズ用の道具だ。一人がバイブ付きの方を装着し、脱落防止のためのベルトを股間と両足の付け根から回し、後ろで止める。
 佳代子は一瞬ビクリと身体を震わしてから、
「ん……ぅ」
 と、小さなうめき声を上げて、片方の頭を深く自分の中へと埋め込んだ。ぐずぐずしている佳代子に手を貸す感じで、エレンがしっかりとベルトを締めた。
 女体に、シリコン製の真っ赤なそそり立つ物が生えている様は、見ている方も恥ずかしくなってくる。それを、いくら仲間の前といえどもさらけ出さなくてはならない佳代子は、顔から火が吹き出している。
 そこへ、奈保子が一〇〇〇cc入りのビーカー二つに浣腸液を完成させて、手術室にあるような、いぶし銀の色をしたワゴンで運んできた。
「奈保子、そうしたら、由美へ一つを全部入れてあげなさい。時間を掛けて、ゆっくりとね。あ、その前に、口枷を外して、脱脂綿を鼻につめなさい。そして、アンモニアを垂らしておくんですよ」
「……はい、エレン様」
 奈保子は暗い声で、用意に取り掛かった。
 棚から脱脂綿とアンモニア水の入ったビン、スポイトを用意した。
 丁寧に由美の口枷を外してあげてから、
「由美ちゃん、ごめんね。私のこと、許さなくていいからね。全部、私一人のせいだからね」
 と、目に涙を浮かべて小さく頭を下げた。
 由美は、首を振った。悪いのは、私の方だと。
 奈保子は由美の左鼻に脱脂綿を詰めた。それから、そこにスポイトに吸い取ったアンモニア水を三適垂らした。
 由美の鼻孔に、強烈な刺激臭が嫌でも入り込み、嫌でもむせてしまう。
 これは、失神させないための手段だ。意識があるうちは口で呼吸をすれば耐えられなくもないが、気を失い、鼻で呼吸をしてしまうと、アンモニアの刺激で意識を取り戻してしまうのだ。
 失神とは、身体に限界以上の負荷が掛かったときに起きる、最大の逃げの手段だ。しかし、それを抑制されたということは、この脱脂綿が外されるまで、由美の身体には地獄の負担が強いられるのだ。一歩間違えれば、心臓麻痺を起こしてしまうかもしれない。しかし、エレンは熟知している。身体の限界点がどれくらいなのかを。だが、いっそのこと、心臓が停止してしまった方が、奴隷にとっては楽なことなのかもしれない。
 奈保子は、エレンに命じられるままに、由美へ浣腸液の注入を始めた。由美は今までに、二五%溶液の一〇〇〇ccを三十分間させられたことがある。そのあと一日、酷い下痢に悩まされた。しかし今度はその倍の濃度がある。由美は覚悟を決めた。
 そう。最近、自然に便意を催さなくなってきてしまったのだ。
 全部を注入するのには、相当な時間が掛かる。その間に、エレンは佳代子にもストッパーを挿入した。佳代子のアヌスは由美よりも、遥かに柔軟になっている。ローションをたっぷり塗られていれば、ほぐさなくても直径三センチのものまでは、何とか受け入れられるのだ。
 まだ注入中なのに、由美へ初めの便意が襲った。それを、息を殺して耐える。ヴァギナへの快感に、できるだけ神経を集中させようとした。
 二分ほどして、奈保子は全てを由美に入れおわった。由美の下腹部が、若干膨れている。責めとしては、その量だけでも十分である。腸内に掛かる圧力で、耐え難い苦痛に見回れるのだ。
 一方佳代子へは、苦痛を与えるための液体注入は行われなかった。佳代子はそれを覚悟していただけに、やや安堵したのだが、エレンの台詞に、言葉を失った。
「それを使って、由美を早くイかせてあげなさい。そうすれば、由美の苦しみも無くなるでしょ。でも、それだけだと面白くないから、一分毎にあなたへも液を一〇〇ccづつ入れていってあげるわ。だから、タイムリミットは十分間ね。もしもそれでイかせられなかったら、今日一日浣腸に耐えてもらうからね。さ、はじめさい!」
 言うなり、佳代子のバイブのスイッチを入れ、由美からバイブを引き抜いた。
「うぅ……く、苦しい……」
 由美の鳴咽が、奈保子と佳代子の心を締め付けた。
 佳代子は、まさかこのような事態になるとは思ってもみなかった。一年ぶりに再会できた友達に、再会を喜ぶ暇もなく、レズプレイを強制させられたのだ。しかも、由美はすでに浣腸で苦しんでいる。その状態からイかせられるなんてことは、ほぼ不可能だ。
 しかし、悩んでいるのであれば、少しでも由美に快感を与えてあげて、便意を忘れさせてあげることだと判断した。
 バイブの快感と、直腸で大きく膨らんだストッパーの違和感に襲われながらも、おぼつかない足を前に進ませ、由美のそばへ寄った。
「由美、ごめんね。こんなことになっちゃって。あとで、罪滅ぼしするからね」
 すると、由美は苦しげな声で、
「い、いいのよ、佳代……。くっ! 私たちは、ど、奴隷、あっ! 奴隷、なんですもの。は、早く、私を、ぐ……だ、抱いて……く、ください……佳代子、様……」
 と、ゆれる瞳で、佳代子の瞳をしっかりと見詰めた。
「分かったわ。一緒にイきましょう!」
 意を決した佳代子は、由美の膨らんだお腹に負担を掛けないように、ゆっくりと重なり、そして、静かにディルドウを挿入していった。
「はい、一分」
 エレンの無情で冷酷な声が、部屋に響き渡った。
 奈保子は命じられるままに、佳代子のアヌスストッパーに付いている液体注入口をグリセリン溶液が入ったビーカーに入れた。そしてポンプを何度か握っては戻しを繰り返し、きっちり一〇〇cc分を佳代子の体内に送り込んだ。
 佳代子は、懸命に腰を振った。このくらいの量では責めを受けているという苦痛には襲われないものの、目の前で苦しんでいる由美に快感を与えて、できるだけ苦痛を取り除いてあげようと必死になった。レズプレイはエレンの命令で、半月前に双子の奴隷、紗姫と紗代に一週間集中的に教わっていた。なので、男性顔負けな程に腰を使えている。
「うっ。くぅ……あ、あん! あぁ……か、佳代子様……んぅ」
 由美から、浣腸に悶える声と、佳代子からの快感に喘ぐ声が同時に出る。由美の腹部から空気と液体が出口を求めてグルグルグルという音を発しているのが、佳代子にはしっかりと聞こえる。
 ……由美、ごめんね。本当にごめんね。
 佳代子は罪意識を持ちながらも、そろそろ半分の量を注入させられ強烈な便意に襲われ始めたため、自ら快楽をむさぼり取ろうと激しく奥深くまで、由美の身体に真っ赤な無機質な物体を挿入していく。
 そして、佳代子からも、
「あん、あぁ……は、は、うーん……由美、由美ぃ」
 悩ましい声が漏れはじめた。腹部に受ける苦痛よりも、下腹部に感じる快楽が勝った瞬間だ。
 器用に腰を使い、由美の可愛らしい乳房を優しく、そして時に激しく揉む。由美の乳首は瞬く間に堅くなり、薄紅色の乳頭が恥ずかしげもなくピクンと勃った。
「あは、ああん、あぁ、あっ」
「あぁあん、はぁ、はぁ……」
 二人の女の息遣いが、それを見せられている奴隷達をも興奮させる。
 エレンはミニローターを、吊るされている奴隷に埋め込んでいった。激しく燃えるプレイが行われている時、全員でそれを羨望し、そして快感に溺れていくというもの、エレンにとっては喜びの一つである。大切だと思っている奴隷達だからこそ、快楽という没頭できる幸せを共有したいのだ。
 レズプレイを度々させられている双子の姉妹は特に反応が良く、すぐに甘い声を上げ始める。戒められていなければ、すぐにでも抱き合い、唇を合わせあっていただろう。
 それまでエレンの指示で佳代子に液を注入していた奈保子は、今はエレンと濃厚なキスをしながら、互いに一番感じる部分を触り合う。
 女九人の熱い吐息が、調教室内を満たしていく。
 エレンも、久しぶりにエクスタシーを感じた。
 由美に対して腰を使う佳代子も、そろそろ理性を失い始めてきた。由美を突く度に、己にも咥えさせたディルドウがバイブとは違った振動を下腹部に与えてくる。その快感は、この前のレズ調教では味わえなかった淫靡なものであった。
 知らず知らずのうちに、由美は右目から一筋の光るものを流していた。
 ……もう、だめだわ……私。友達に犯されているっていうのに、こんなに惨めな姿で犯されているっていうのに、おもいっきり感じちゃってる……。全身が熱いよ、佳代子。いいえ、佳代子、様……。
 由美と佳代子、それぞれから愛液がディルドウを中心に向かって伝っている。そして、ディルドウの接合部分でも二人がしっかりと絡み合った。それらは、雫となって床に何滴も垂れている。
 そして、由美は、大きく痙攣した。
「あ、イく、イくぅ……イくぅぅぅ!」
「わ、私も、あぁっ!
 由美が気を遣ったのとほぼ同時に、佳代子も由美に覆いかぶさるようにして身体から力を失った。
 それを見ていたエレンは、急いで由美の鼻から脱脂綿を取り、奇麗な水を含ませた脱脂綿で、由美の鼻を拭いてあげた。その間も、由美は時折身体をピクッと震わせる。完全にイってしまったのだ。
 奈保子も、ふらつく足に鞭打ってエレンの手伝いをする。
 エレンはまず、佳代子を由美から引き離す。由美の身体に入っていたディルドウは、名残惜しそうに粘液の糸を引いた。
 ゆっくり床に降ろし、佳代子にも挿入されたディルドウのバイブを電源を切ってから、それを静かに引き抜いた。そして、洗面器をあてがってから未だに腸内で暴れている恐怖の液体を貯留しているストッパーを外してあげた。勢い良く黄金に染まった液が放出される。後の処理を奈保子に任せ、由美のストッパーも外してあげた。
 由美は、完全に気を失っていて、力なく透明の液が洗面器に流れ出しただけだ。
 全身汗にまみれた由美と佳代子を、やっと地に足を付けさせてもらえた奴隷全員で、シャワースペースに運んであげ、優しく清めてあげる。
 そして、排水溝の近くで二人にホースから直接大量の水浣腸をして、腸内のクリセリン溶液を排出してあげた。
 エレンは、こうやって、奴隷たちの結束を固めていくのだ。
 後片付けを始めた奈保子は、誰もいなくなった調教室で、くすり、と笑った。
 ワゴンの上のタイムウォッチが、九分五十九秒で止められていたことに気が付いたからだ。
「私、エレン様のこのようなところが、大好きですわ」
 奈保子は鼻歌を交えながら、バイブの煮沸消毒を始めた。


〜第2章 完〜


Written by 桃桜 杏
anzuhime_312@hotmail.com


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