うつらうつらと意識の海をたゆたっている。現実はあくまで灰色で味気ない。モノクロの現実をカラーにしてくれていた相手は海の向こうだ。あれほど我輩は我輩とは違う、突飛な行動をする奴に引き摺られていたようだったのにこうして側にいないだけで相手を求めてしまう。今は手に入らないから。手に入る距離にいた頃は邪魔扱いさえしていたのに。

ベッドの上で横になって目を閉じる。その強い手と長い睫。聡明な目。その手は時に乱暴に時に優しく我輩を触る。

さわ・・・

髪を触るのが好きだったな・・・と思いながら自分の髪を触る。奴に触られていると思うだけでぞくりとする背徳感が。指先の細かい動きが首筋にまで達して。

あの視線とあの手。

こそばゆいのにそれでいて微妙に高ぶっていくのが分かる。

その、手が快楽を求めて移動する。男の体でそれ以外が感じるなど知らなかった。分かりたくもなかった。我輩でもどうしたのだろうと思うぐらい異常に過敏な体。モノクロの世界の中でザーザーとノイズが頭に響く。

鎖骨の窪みに指を這わせる。奴がどの手順でどうするのかはもう知ってるから。それをなぞっている。

こうして、ここにいない相手を想像しながらしている間も奴は享楽的な生活を送っているのだろう。いつもそうだ。それでも・・・我輩が他の男とどうこうと考えただけで眩暈がするし、女を手に入れたいともそういう事をしたいとも全く想像つかない。我輩だけ・・・奴の専用になっている。奴は金髪碧眼の女が好きだから海の向こうで楽しくやっているだろうに。カラーの世界で。その目で。その手で。

心臓が高ぶってきた。嫉妬するのはもう諦めている。疲れきった体で指を胸に伸ばす。よく、そこを触ってないのに乳首が立つなんて、とからかわれたが、一人でしていてもそういう状態なのだから何も反論出来ない。体が熱い。パジャマを脱いで布団と毛布を剥がしてもまだ暑さが滲み出てくる。

乳首を触ると下着が濡れてきた。触っている場所は気持ちいいのに下の方は気持ち悪い。

思わず声が漏れる。そんな声もからかうから、されている時はなるべく声を押さえているのに今は誰もいない。我輩一人だけだ。

男が一人でして、声を上げて、他の人間から見ればさぞかし滑稽に映るだろうな。

自嘲気味に笑う。じらされてじらされて我輩が欲しがるまで触り続ける。鬱陶しくて手を押しのけると強い力で押し戻される。奴の方が力が弱いのに。握力など我輩の3分の1しかないのに。

音楽家のような細い指先。細くて長くて白い指。遠くにいるのにまるで近くにいるかのように熱病に魘されている。

自分ではあまり性欲がないと自覚していた。でも奴に会うだけでこれから先を予測して体が反応してしまう。いや、会っていない今でさえそうされていると思いながら快楽を追っている。こんな行為は何も生み出さない。無駄でしかないのに。

自分で自分の体を抱き締める。・・・する時はいつもそうだ。他の人間が全く思い浮かばない。間違っているのは分かっている。それなのに手が止まらなくて。

恋愛に正しい形なんて無いんだよ。

正しいだけの恋愛なんて詰まらないじゃないか。

奴ならそう言うだろう。奴は一番奔放に生きている。規制を科している我輩を笑うかのように。

ナイトテーブルの横のジンを少し呷る。酒で気持ちを誤魔化しながら、その実動く手は我輩の気持ちに添えようとして移動する。胸から脇腹へと。

頭に聞こえるノイズ。そして部屋の外を流れる車の音。手が動く度に聞こえる床ずれの音。それだけの世界。

苦い酒を喉に流し、続ける。雨が降ってきた。その雨音に呼吸が混じる。

下肢に手を伸ばす。布の上からでも盛り上がっている。思わず赤くなりながらも手を擦ってみる。

そこだけが別の生き物のように動いて。

ほら、俺の目の前でしてみろよ。

そう、優雅に笑う。

見ていてやるから。イキたいんだろ?

悪魔が耳元で囁く。奴に出会わなければこんな快楽など知らなくてもすんだ。人の触れ合いも、側にいない寂しさも何もかも。

じっとりと舐るように見る。我輩の痴態を。その手に墜ちた人間を見て笑っている。その視線で。

いなければいいと何度願ったか分からない。奴の手によって変化していくのが分かる。その先を見るのが怖かった。なのに・・・実際いなくなってみればこのざまはどうだ。物足りないとさえ思って・・・

下着を脱ぐと先走りの液がだらだらと出ていた。ねばねばした液体が鈴口から止め処も無く出る。奴が動かしているのを想像して動かす。頭の中は靄がかかったようだ。

こんなもんじゃないだろ?

こんな快楽で満足するのかい?

その声を追い払い、行為に没頭する。

そんなにだらだら汁を出して、よっぽど淫乱なんだねぇ。

頭の中で笑う。こんな体にした癖に。よくも。

もっとしてほしい癖に。そこだけで満足する?

まやかしの声が聞こえる。ここには我輩一人だけなのに。一人だけで・・・入れられているのを思い出しながら誰もいないのに・・・いつものようにジンに睡眠薬を浮かべて眠ってしまえば性欲なんてふっきれるのに。

目覚めさせた相手は遠くて。

手が粘液でべたべたと汚れていく。汚れていない方の手でグラスを掴み酒を呷った。道徳が薄れていく。奇妙な距離感。近くにいるのに遠い。

 

達した時はボトルの中のジンが半分に減っていた。

 

 

下着を変え、手を洗い妙に目が覚めたので奴のサイトを覗いてみた。どうせまたどこぞかの金髪女とどうこう、という記事を見る気持ちで見たらどうやらアルプスの山中にいるらしい。大人数での車中での移動。これなら誰かに手出しする余裕もないだろう。我輩は下着姿だけのままで笑いながら手もとのジンを飲んだ。奴も少しは禁欲生活をすればいい。そして一人になった時・・・我輩を近くに感じてくれるだろうか。喉を潤す酒が美味く感じた。

体だけは壊すなよ。

そう画面の相手に告げて我輩はバッカスの神の手に委ねられるまま眠りに就いた。

 

奴に出会った事は我輩にとって良かった事だろうか。悪かった事だろうか。知ってもいい世界なのか、知らなくてもいい世界なのか。それでも、その差し出された強い手を取ったのは我輩なのだから。

 

 

<END>

 

 

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