鉄格子の嵌った窓の外を覇者はずっと見ていた。
窓の外にはちらほらと雪が。
「もうこんな季節になったんだね」
みずはの言葉に、覇者はゆっくりとベッドから上半身を起こし、窓の外を見た。
病棟で貸し出されている薄い服を着ている姿はどこか痛々しい。痩せて、表情が無くなったと思う。入院してから季節が変わった。白すぎる部屋は清潔すぎて自分には合わないとみずはは思う。
外に出ると吐く息も白く濁るだろう。
友人の精神が壊れた姿を見るのは辛い。想っている相手なら尚更。けれど、責任の一端はあるから時間が空いた時には病室に来ている。
いつ来ても慣れない。どの国に行っても入院する程の病気はしないみずはは慣れる事はない。病室に溶け込んでしまっている覇者とは対照的に。
精神が少しづつ軋んでいくのを分かっていながら大丈夫だと言い聞かせていた。
病室の時計の秒針が音も無く動く。じっとしているのは耐え切れないけれど、この友人はずっとここでこうしていたのだろう。
みずはが来ない日も誰も来ない日もじっと座っていて。何かをする事もなく。
静かだ。
静か過ぎる。
先程から一言も口を開かない覇者と、一方的に話すみずは。
最初はそれなりに話していたと思う。今では殆ど会話らしい会話をしなくなった。
やがて覇者は横たわって目を閉じた。
「また来るよ」
最初は抵抗していた。日が経つにつれて諦めるようになり、従順になっていった。
だからといって本当に好かれていたわけではけしてそうではなく。
覇者が従順になるにつれどことなくみずはのその目は冷めていった。
トクン、トクンと出した精液を口の端から零しながらその時に初めて覇者がみずはに対して「好きだ」と言った。
嫌だとか嫌いだとか、そういう言葉はずっと聞いていた。けれど、「好き」の一言を聞いたのは初めてだった。
それから入院するまでが早かった。
友人関係を壊し、嫌われるのを承知していた。拒んでも嫌ってもみずはが諦めないのでやがて拒まなくなった。
こんな行為で手に入れれるわけでもないのに。
寒さには強いつもりだけれど、まっさらな雪は清潔すぎてあの病室のようだ。
暗い空を見上げた。息が白かった。
今は嫌いだとは言わなくなった。みずはも好きだとは言わなくなった。でも、もう元の友人関係には戻れない。
行き場を失った恋愛感情は雪のように降り積もっていく。
いっそこのままで。
雪の上を歩く音がいつまでも響いていた。
<END>