「何処を見てるの?」
俺はそいつの視線の先を見ていた。そいつは俺の生足を見ていた。
「……綺麗な足だなと思って……」
そいつの無骨な手が俺のすべすべした太腿をなぞる。
「エロい」
「…終わった後に…何を今更…」
そいつは深く溜め息を吐いた。まぁそうなんだけどね。
「何?もう一回したいの?」
「……寝ろ」
そいつはそっぽ向いてしまった。大きな背中は嫌いじゃない。
「お前だって背中すべすべでしょ」
唾液をたっぷり含んだ舌で裸の背中を舐めると舌が背骨を知覚した。
「寝ろって…。もう一度する程体力無いから」
そいつの言葉に俺はぷーっと笑ってしまった。
「お互い年だねぇ」
「貴様のその足、まさか剃っているわけじゃないだろうな」
「まさか。元からこうだよ。あんまりすね毛無いんだ。十代の時はすね毛のある奴が羨ましかった」
さも呆れたように「その頃からこういう嗜好があったのか」と言われたからむっとした。
「お・れ・はっ、女の子が好きなの!…結婚だってしてるし…」
「それを言うなら我輩は女性と同居しているが何か?」
「ああもういい、寝る!」
俺がそっぽを向くとそいつが動いた音がした。だから俺は壁の方に体を向けたまま言った。
「寝ないの?」
「……綺麗な足だな。細いし」
「足フェチ?」
「誰が」
「お前が」
「あのなぁ。何年付き合ってるんだ」
「へえ、知らなかったなぁ。お前がそういう性癖を持ってたなんて」
にやにやとしながら体を寄せたらそいつはそっぽを向いた。
「楽しいか?我輩をからかって」
「人生は楽しまなきゃ損でしょ。楽しいからお前といるんだし、楽しいからこうしているんだよ」
産毛だけが生えている足をそいつの男らしい太い腿に寄せた。
「触りたかったら幾らでもどうぞ」
「だから…我輩は珍しいと言ってるだけで触りたいとは…」
「へえ、わざわざ他人と太腿の毛を見比べたりしてるんだ。そういう嗜好があったとは知らなかったなぁ」
視線を動かすと4本の足が絡まっていた。心より足の方が素直だ。
「足だけ見ると女みたいだな」
「あ、それすっごく失礼」
「誰に対して失礼なんだ?」
くつくつと喉の奥で笑っている。俺はそれを見て少し不機嫌になっている。
「愛し合ってると心と心が通じ合うって言うんだけどねぇ」
俺がそう言うとそいつは真顔になって「は?誰と誰が?」と聞いてきた。
「愛してるからこういう事してんでしょ?」
「何の冗談だか」
足だけが別の生物のように動いて。口ではそう言ってるのにこいつの足は俺から離れたくないと言ってるんだよね。だって俺の足を少し離したらそいつの足が追ってくるし。心と足は違うのかな?こいつから足だけを切り離したら足だけが俺の方についてくるんだろうか。もし足に目があったら…。
足の視線はずっと俺を追っている。こいつは喜怒哀楽が殆ど表に出ないし、ひねくれてて感情を素直に表に出さないからその分ご主人様の代わりに足が感情豊かに俺を追うのだろう。
体を密着させてそいつを抱き締めて腕を背中に回す。絶対拒まない、分かってる。
「だって足が望んでいるから」
「…何か言ったか?」
「ううん、何も」
「貴様の体の中で…足だけは褒めてやる」
「足だけ?」
「あとはもう少し健康的に太れ。…痩せすぎだ、貴様は」
「食料買いに行って両手一杯の袋の中にお菓子とインスタント食品ばっかりなお前よりはマシだと思うけどなぁ」
目を閉じるとひんやりした足の感触が感じられた。俺が背中に回している腕の力を抜いて本格的に寝ようとしたら……今度はそいつが俺の背中に腕を回してきた。

ほんと、素直じゃないの。真っ暗な闇の中で視線だけが向けられているのが分かる。


俺は、こいつの足だけじゃなくて全てが好きなんだ。こいつが俺にそう言わないから俺がこいつの分まで言ってあげよう。沢山沢山愛してるから、と。



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