花房と、寝た。

 

そんな行為はいつもの事だ。ただの性欲処理の相手。何の感情も起こらない。

長い髪の毛。そして深紅の唇から紡ぎ出される言葉。

「愛してます、あるじ」

花房が体に口付けを残していくのを澱んだ目で見る。

「あるじの美しい体、顔、わたしは美しいのが好き」

求められても、それまでの事で。他に女を見つけるのも面倒だし、花房はホモンクルスの実験第一号だ。だから長くいるに過ぎない。

 

行為が終わり、疲れると追い出す。俺を本当に慕う奴なんてこの世にいなくて・・・俺を慕うのは俺が作った人間型の道具。俺に従うようにインプットされた奴らだけ。香水の匂いが漂う部屋。何となく寝心地が悪くて寄宿舎から外に出た。漆黒の夜を少し欠けた月が照らしていた。

 

ぼそぼそと話し声が聞こえる。

(こんな真夜中に密会か)

つい先程まで女を抱いていた自分を余所に置き、その声のする方に歩いた。

「貴方は美しいわ」

聞きなれた声。建物から人影が二本伸びている。

悟られぬように忍び寄り、そっと見てみた。先程まで抱いていた白い腕。それが他の男・・・に絡まっている。

(・・・鷲尾)

花房から出る薔薇の蔦が鷲尾の全身を覆っている。鷲尾も、振り解こうと思えば解けるのにそうしようとしない。

「あるじに従う貴方は美しい。美しいモノが好きなの、わたし」

「それは私があるじを慕っていると知っててこうしてるのか?」

「出来ないの?あるじにこんな事は出来ないでしょう」

花房が顔をあげて鷲尾に口付けする。舌の縺れる音がする。

俺は立ち去ればいいのに出来なかった。放出した熱が集まっていくのが分かる。

「拒まないのね」

「私の心はここには無い。それでも楽しいか?」

「そんなのとっくに分かってる。あるじの心も誰も向いてないのも。だから、こんな二人でするのもいいじゃない?それとも・・・人間の生殖行為の仕方を知らないのかしら」

「挑発するのか?」

「いけない?」

「・・・あるじがいる」

俺の姿を風で感じたようだ。咄嗟に向こうから見えないように隠れたのに。

「だったら?溜まっているんでしょう?何時でもいいわよ、わたしは。わたしをあるじの代わりにしても」

「お前では役不足だ」

「肉体だけでも」

鷲尾は薔薇の蔦から抜け出して、こっちに来た。

花房が薄っすらと笑っていた。

 

「あるじ。こんな夜中に外出してお体の方は大丈夫なんですか?」

心配性の鷲尾。けれど、俺に何もしない。・・・出来ないかもしれない。

俺が覗いていなければ今頃・・・。

少し苛ついてきた。こいつも俺の下僕でしかないのに。

「口紅。ついてる」

本当はついてなかったけれど、そんな言葉を残して寄宿舎の方に歩いた。鷲尾がついて来るのが分かる。

「ついて来なくていい」

「お機嫌が悪いようですから」

「放っておいてくれ」

「・・・分かりました」

鷲尾の腕が変形して、空を飛ぼうとするのが見える。

「何処にいくんだ」

「何時もの寝場所へ。樹の上にでも」

「・・・お前は俺が好きか?」

「愛してます、あるじ」

花房と声がダブる。

「やっぱり来い。疲れているから、俺の部屋まで連れていけ」

「はい」

鷲尾に両腕で支えられながら部屋まで戻った。矛盾してる。

どうかしてるんだ。薔薇の匂いが薄く残った部屋でベッドに座った。

寒くて熱い。頭痛がする。薬と水を嚥下した。

「何故俺が好きなんだ?」

「あるじに蘇らせて頂きましたから」

そんな言葉を聞きたいわけではないのに。

どんな言葉を聞きたいのだろう。こいつの口から。

「お前は俺の実験道具だ」

「存じてます」

「だから他に余計な感情を持つな」

「あるじがおっしゃるのでしたら」

「そんなに自己を押し殺して楽しいか?鷲尾」

「あるじが・・・」

「いいから、もう一人にしてくれ」

揺れ動く感情。本当は一人にしてほしくない癖に。誰にも。花房にも鷲尾にも。

「誘われても、するなよ」

「分かりました」

鷲尾がいなくなった後、咳き込んで、そして吐いた。洗面所で胃液を吐いて、その後鏡に映った顔はまるで病人そのものだった。如何にも病んでいる顔。

(何処が美しいんだ)

醜い顔。それよりも醜い心。

二人がいない所で何をしているかこんなに気になる自分の心が嫌になった。

体の弱さを呪うしかない。幾多もの病気に苛まれ、大量の薬を飲んでは血を吐く日々。

二人は俺のものなのに、俺のものだという確証が持てない。

 

欠けた月が笑っていた。

 

 

全裸の花房が俺に跨って喘いでいる。腰がぶつかる音。濃厚な薔薇の匂い。汗で絡まる長い髪。乱れた顔は美しくて、どこか醜い。

「あるじ・・・あるじ・・・」

その赤い唇から俺を求める声。床に脱ぎ捨てられた衣服。

「愛してます」

「聞きたくない」

花房に「どけろ」と命令した。結合していた部分から透明な液が伝わる。

「あるじ・・・」

「そうやって、鷲尾を誘惑して、抱かれたのか?」

「鷲尾なんて只の遊びですわ。わたしはあるじ以外愛してません」

「実験体だもんな、お前は。・・・鷲尾を呼んでこい」

花房から笑みが無くなってじっとりとした目で俺を見る。

「命令だ」

「分かりました。あるじ」

 

どいつもこいつも。むかむかする。吐き気がする。

俺に従っていればそれでいいのに。いや、従っているんだ。そういう風に作ったんだから。俺が、この手で。

「あるじ」

俺の前に畏まっているこいつ。花房を拒絶しなかったこいつ。

「気分が悪いのなら横になっていた方が」

「構わん。鷲尾・・・お前は生まれ変わってから一度でも・・・したのか?」

「いえ」

「溜まってるんだろ?」

「本来、生殖行為は子孫を残す為に行うもので」

「さっきまで花房を抱いてたんだ」

「左様で御座いますか」

「それだけか?」

「それだけ・・・と仰いますと?」

全裸の俺は手の仕草だけで鷲尾を来させる。

「出してないんだ。途中で、帰らせたからな」

「・・・そうですか・・・」

「お前は俺を愛しているんだろう?」

「当然です」

ベッドの上に座っている俺を正座して見上げる鷲尾の茶色の髪を引っ張り、顔を俺の局部に近づける。花房の体液が空気に触れて白く濁っているのが付着している。

「ほら、綺麗にしろよ。それを咥えて、舐めるんだ」

鷲尾は何の躊躇いもなく俺のものを咥えて言われるがままに綺麗にしていく。

(やっぱり花房と比べると上手くないな)

人間を初めて相手にするんだから当たり前と言えばそれまでかもしれないが。

放っておくと何時間でも舐めていそうなので「もういい」と中断させた。

それで役目が終わったとばかりに帰るとばかり思っていた。なのに

「私の気持ちを知っていてこのような事をされるんですか?」

いきなり鷲尾に抱きしめられる。驚いた。命令以外の事をする鷲尾。

「どけ」

「ずっとあるじを想っていて、けれど何も出来なくて、してはいけないと自制していて、こんなに愛しているのをあるじだって分かっているのに」

翻弄させられる。この俺が?こいつに?こいつなんて只の下僕だろ、なのに。

「男の抱き方なんて分からない癖に。この先、どうするんだ?元猛禽類が同性同士でやれるのか?人間の男なんてやった事ない癖に。やり方を教えてもらわないと何も出来ない癖に」

息苦しい。鷲尾が泣いているのが分かる。

大鷲だった頃のこいつと俺がまだ蝶野家にいた頃のトレーナー役だった頃のこいつ。何となく、こいつが何をどうしたらいいのか分からずに泣いている姿が側にある方が辛い。

「ここじゃ狭いかな。やらせてやるよ。花房も呼んで、例の場所に連れて行ってくれ」

鷲尾は涙を拭いながら「有難う御座います」と小さな声で呟いた。俺はその姿に満足げな笑みを浮かべていた。

 

学生服を着た俺は、花房と共に鷲尾の背に乗って飛んでいる。行く先は薔薇が咲き誇り、蝶が舞う場所。俺が一番気に入っている場所。

夜の雫に濡れた薔薇と、闇夜に舞う蝶。明るいうちに見るのもいいが、夜もまた格別だ。

鷲尾に座って見ているように命じ、花房のボトムスだけを脱がした。下着にじっとりと染みが出来ている。

「もう濡れているのか」

「あるじのせいですわ・・・あん」

下着の中に指を入れる。少しかき回しただけで受け入れ態勢は充分だ。淫乱め。

「欲しいんだろ?」

「はい・・・あるじ・・・」

花房が俺の服を脱がしてからこう言った。

「鷲尾としろよ。あいつは人間とした事がまだ無いからな」

「何の遊びですか?これは」

鷲尾が冷たい声で言う。

「いいわよ、わたしは。それとも・・・やり方が分からない?」

「しろよ。・・・鷲尾」

「命令ならば」

下着を下ろして四つん這いになる花房。服を着たままの豊かな乳房が薔薇の絨毯に囲まれる。

「嫌、いきなり入れないでよ」

嫌とか言う割に犬のように喘いでいる。

「ひぃ・・・大きい・・・」

結合部分からそれ特有の音が聞こえる。

「俺が欲しかったんだろ?」

大きく開いた口の中に捩じ込む。

「んんっ、んー」

前後から攻められて苦しそうな花房に嗜虐心が生まれる。花房を犯している鷲尾も何故か苦しそうな顔をしている。

「やっぱりフェラ上手いな」

必死に縋り付いてくるこいつを少し愛しいと思いながらも、指に花房の黒髪を絡ませて力を失い崩れ落ちそうになると髪を引っ張って持ち上げようとする。

ふいに花房が俺の中心から口を離した。

「あん・・・もう・・・いく・・・いっちゃう・・・ああーっ」

一際大きな声を上げてそのまま崩れ落ちた。

「誰が止めていいって言ったんだ?」

「申し訳ありません・・・鷲尾・・・止めてよ・・・あはぁ・・・」

ひぃひぃと口から涎を垂らしてよがっている。

「はぁ・・・、はぁ・・・」

鷲尾も荒い息を吐きながらなお犯し続けている。

「離れろ、鷲尾」

「・・・はい・・・」

体の力がすっかり抜け切った花房がそのまま腰だけをあげたまま薔薇の絨毯の上に倒れた。

「ほら、さっさとそこに寝そべって足開けよ。欲しいんだろ?俺が」

「ええ・・・あるじ・・・」

正常位で足だけを開いている花房の上着を全て脱がす。白く豊満な胸が月の光に照らされる。

「ひくひくと欲しがってるぞ。そんなに良かったか、鷲尾は」

「言わないで下さい・・・わたしはあるじが」

イったばかりの液が太腿まで流れている。そこの蜜壷に俺自身を突き刺した時、また一声鳴いた。

「あっ・・・あっ・・・」

よがっている花房に腰をがんがんぶつけながら、呆然とそこにいる鷲尾を呼んだ。

「汚れるから全部脱いだらどうだ」

俺の側にいる鷲尾のまだ達してないそそり立ったモノを手で扱く。先程まで花房の中に入れていたせいか、分泌液でぬらぬらと濡れている。

「「あるじ・・・」」

二人の声が同時に響く。

「出すなよ」と笑いながら俺は鷲尾のモノを口に含んだ。

「止めて下さい、あるじ」

上目遣いで見ると心底困惑している顔だ。

口の中で脈打つ鷲尾の男根と、俺の男根を包む花房の子宮。

口をすぼめて付け根から精液を吸い出すように頭を動かし、亀頭の先端を舌の先でちろちろと舐める。また口の中でびくりと跳ねた。それを見計らって鷲尾から口を離す。

「本当に止めてほしいのか?」

二人が俺によって翻弄されるのが心地良い。

「すみません・・・続けて下さい・・・」

俯いて、俺にされるのを待っている。

「ひぃ・・・あ・・・はぁ・・・わたしだけに・・・集中して下さい、あるじ・・・」

「お前はもっと締め付けてればいいんだよ、花房」

「はい・・・ぁ・・・熱い・・・ぃあ・・・」

再び亀頭にキスをして咥える。鷲尾も理性を失ったのか、俺の口に一心不乱に腰を打ち付けてくる。

「んぐっ・・・んっ・・・」

喉に突き刺さる。その時、鷲尾が体を離そうとしたので逆に引き寄せた。

びくん、と跳ねて口の中一杯に白い液が流れてくる。全て出し終えるまで口の中に溜めてから、花房の唇にそれを流し込んだ。

「えふっ、げふっ、げふっ」

咳き込んで零れた精液を見ながら「飲めよ」と命令する。

むせながらもなんとか飲み干したようだ。

「あるじ・・・あるじのが欲しい・・・」

むせた瞬間の強い締め付けで言われなくても達しそうだ。

それに出した後の鷲尾は教えられなくても俺の後ろに回って尻の穴に舌を出し入れしている。

「やるよ・・・くくくっ」

喉の奥で笑って、高く鳴いた花房の奥に精液を放出した。

「ああ・・・あるじ・・・」

股の中心から精液を垂れ流しながらうっとりとした顔で俺を見つめる花房を余所に、鷲尾に「そっちはもういいから綺麗にしろ」と再び命令した。

もう小さく縮んで萎びたモノを鷲尾が舐めている。

これでいいんだ。心の中で哄った。

 

「花房を通して繋がったんだ、分かるか?」

「・・・はい」

少し寒くなった体を花房に抱きしめられながら鷲尾の背に乗って飛んでいる。寄宿舎までの時間。

「初めて人間の女を抱いた感想はどうだ?」

「わたしは・・・あるじにして貰った時が一番・・・その・・・」

「やっぱりな。花房は?」

「あるじが喜ぶ事なら何だって致します。私にとって一番大事なのはあるじですから」

「当然だな。鷲尾・・・したくなったら・・・言えよ?してやるから」

「「あるじ。愛してます」」

 

何の感情も起きなかったこいつらを少し愛しく想い始めていた。それと同時に、今度はどんなプレイで苛めてやろうかとも思っていた。

 

朝の光が三人を包んでいた。

 

 

<END>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

























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