テキスト学園。数々の伝説を残し、そしてまたみずはによる学園乗っ取り事件があったがそれも失敗し、結局みずはは上の組織を解雇されゴトウと共に学園に赴任した。
今の所みずはは学園で臨時雇いの英語教師になり、ゴトウは食堂でカレーを作る毎日である。
「というわけなんだよワタナベ君」
「何が”というわけ”ですか」
相変わらずとぼけた笑顔のみずはと、あの一件でみずはをこれ以上学園に介入するのを防げなかった生徒会長のワタナベがいて、ワタナベは心持ち面白くなさそうな顔でみずはを上目遣いに見ている。
「万事丸く収まったし、死人は出なかったし。あ、お茶」
「・・・怪我人あれだけ出しておいてよく言う・・・」
しぶしぶとワタナベは生徒会室に置いてあるポットから茶の葉を入れて注いだ。
「分かってないなぁ、お茶の温度は70度だよ?」
「出してもらえるだけ有難いと思って下さい」
「そういう言い方をしていいのかな?私は臨時といえども教師だぞ?」
「あなたが教師でなければとっくに追い出してます」
「それもそうか」
みずははやっぱりお茶は静岡産だねぇとのんびりと茶を啜っている。ワタナベはそんなみずはを見ながら内心苛々していた。
「で、何か用ですか?」
「別に?そういえばこの君達が着ている衣装は私がデザインしたものでねぇ。ほら、何ていうのかな。躍動美溢れる若者たちに最高のデザインを」
のんびりと茶を飲んでいるみずはからは以前に対峙した時のような圧迫感は感じ取れない。
「もう一度言います。何しに来たんですか?」
「ワタナベ君に会いたかっただけ。いけない?」
「よくもまぁいけしゃあしゃあと。あんた、俺達に何したかもう記憶に無いとか言わないでしょうね」
「もう年だから覚えてない」
「・・・・・・」
「そんなに怒らなくても。覚えてるよ。モニターから全部見てたから。で、お茶受けは?」
「ここの備品は生徒会費からのものですから、お客以外にそんなものは出しません」
「私はお客さんだろう」
「あなたは教師じゃないですか」
「それもそうか」
みずはは生徒会室に残っている他の生徒に部屋から出るように命令した。不信な顔をしながらも生徒は出て行った。
「これでよし、と。教師の特権は思う存分使わないとね」
「理事長の恩でいさせてもらってる癖に恩を仇で返す気ですか」
「んー、覇者りん理事長は私の言う事なら何でも聞くから。その辺は抜かりなし。それに邪魔が入るとする事も出来ないでしょ」
「何をする気ですか、あんたは」
「制服の中身鑑賞会。観客、私。主演男優ワタナベ」
「冗談じゃない」
くるりと翻そうとしたワタナベの腕をみずははやんわりと掴んだ。
「もう一度三年生やる?」
「脅しですか?」
「こんなの脅しのうちにも入らないよ。脅しってのはね、君とヤマグチ君との関係を親にバラそうかな・・・とかそういうものだよ」
「卑怯ですよ」
「制服脱がしてその下のスクール水着撮るだけだから」
「あんただって他の人間にこういう事してるのバレたら問題でしょう。理事長は怒らないんですか?」
「理事長は俺のものだから。逆らえないの。私は裸には興味無いから。君に興味があるのはね、毎日スクール水着を中に着ているでしょう。蒸れないのかな、って」
「通気性抜群ですから」
「水着の写真撮るだけで他には何もしないから。私の趣味はね、こうやって撮った男の子の衣装を毎日自分のパソコンのデスクトップにUPさせて日替わりで見る事なんだ。365日色んな子の写真が見れてね・・・。勿論君とヤマグチ君が二人で踊っている画像もあるけど、被写体は近くで撮った方が綺麗に写るからね。で、この写真。自分の息子が常時スクール水着を着ていると親に知れたらどう思う?自分の子供が同性愛者だというのと同じ位ダメージを与えると思うけどね」
みずははより強い力でワタナベを引っ張った。
「恐喝罪ってご存知ですか?」
「あれはね、被害者さえ黙っていれば問題は起きないんだよ。何も法に触れるような事は私は一切していない。それにこの学園は寮生活の者が多い。それだけ情報が外部に漏れにくいものだよ」
「俺の水着はヤマグチに見せる為にあるんだ。あんたじゃない」
「そんな口聞いていいのかな?何も取って食おうとしている訳じゃない。単にその制服の中身を見せてデジカメに撮らせてくれと言ってるだけだよ。別に今日拒んでもいいさ。私はこの学園の教師だからね。君が何年も留年したなら、その何年の間にどんどん心の隙間が出来てくる。来年にはヤマグチ君はいない。そして年数が経つ毎にどんどん君を知らない人物が増えていくんだ。その人達は口々にこう言うだろうね。”どうしてこの人は何年も留年しているんだろう・・・”と」
「あの理事長があなたの奇行を許す訳がない」
「強情だね、君も。この学園で君が誰と何をしているのかバレても君がダメージを食らわなくてもヤマグチ君もそういう目で見られるんじゃないのかな?」
「・・・今日・・・言う事を聞いたらこれから先もずっと言うとおりにしなければならないんだ・・・」
ワタナベからがくっと力が抜けたのを切っ掛けにみずははワタナベを引き寄せ、逃げられないように片手で抱きしめた。敵のうちに捕らえられたと気付いたワタナベがその身を剥がそうとするが、大人と子供の力の差で逃れられない。ワタナベは水着に汗をかき始めた。
「私は優しいからね。いい子にしていれば何も痛い思いをさせない」
ワタナベは数瞬躊躇った後、悔しそうに呟いた。
「ヤマグチに手を出さないなら・・・ほんとに何かしたら大声で叫びますよ」
「最初っからそうすればいいんだよ」
ワタナベはみずはから離れてしぶしぶと制服を脱ぎだした。みずははデジカメを取り出して目を細めて愉悦の表情でその仕草の一つ一つをファインダーごしに撮っていく。静かな部屋にパシャ、パシャとシャッター音だけが響く。
「これでいいでしょう?」
スクール水着をぴったりと肌に貼り付けたワタナベがみずはを睨んでいる。
「あと触り心地・・・かな」
みずはが椅子から立ち上がるとワタナベはびくっと後ずさりした。
「怯えなくても」
「み、水着の触り心地が知りたかったらその辺のデパートに行って水着コーナーで漁ればいいでしょう」
「ちっちっちっ。そうじゃないんだな。人肌で温められたスクール水着。最高だろう。・・・その水着で部屋の外に出るのかい?」
そんなに広いとはいえない生徒会室で優雅に追うみずはと何とか制服を手に取りたいワタナベの追いかけっこが始まった。
そして二人とも息を切らし始めた時、がらっと部屋のドアが開いて二人ともびくりとしながら入り口を見た。
「何をしている、貴様」
「理事長・・・」
「覇者りん・・・」
そこには冷ややかな目で疲れきった二人を見ている覇者りん理事長の姿があった。勿論その着ている服の肩からは鋭利な棘が鈍く光って突き出ている。
「我輩の好意で学園に就任させてやったのにもう問題起こす気か。本来なら貴様はもうこの学園に関われない所なんだぞ。それを・・・」
「はいはい。いつもの説教はいいから。で、誰が覇者りんを呼んだのかなー?」
「言うとそいつが変な目に合うだろう」
「変な目ってどんなの?」
「ごまかすな」
いつもの二人のやり取りを余所に、いそいそと服を着るワタナベ。みずはは横目でそれを見ながら「ちっ」と内心舌打ちをしていた。
「何処を見ている」
「折角いい所だったのに」
「貴様は学園辞めさせられたくなければ少しは大人しくしてろ。何か問題がある度に我輩の胃が痛んで・・・」
「胃薬飲めば?」
「問題を起こすのは貴様だ貴様!!」
「あれ〜?」
「あれ〜?じゃない!もう少し教師の本分というのを・・・」
みずはが、嫉妬するならもうちょっと分かり易い嫉妬をすればいいのにな・・・と思いながらワタナベの服を着ていくところを見ている。完全に着終わったところでみずはは覇者りん理事長に向き合った。
「用も済んだし、行こうか」
「もう二度とするなよ」
「俺には覇者りんがいるからね、本番まではやらないの」
「・・・何を言ってる・・・」
覇者りんがみずはのペースに入った時、ワタナベが恐る恐る聞いた。
「そういう関係なんですか?」
「うん!!」
「違う!!」
最早二人同時なのは息が合ってるとしか言いようがない。
「同性愛者だとバレたら問題なのはみずは先生もそうじゃないですか」
「違う、断じて違う。まさかそんな我輩がこんなのと・・・」
「だってさ。理事長が違うって言うなら違うんじゃない?」
「それはそうと、俺の水着を撮ったの、消去してくれませんか?」
「貴様は何をやってるんだ」
「教師の特権」
「デジカメ渡せ」
「いいのかなー、覇者りんの恥ずかしいの沢山写ってて・・・」
「今すぐ壊す。貴様の手にデジカメがあると碌な事に使わん」
「あの・・・二人がいると仕事にならないので退出してほしいのですが」
「だってさ。出ていったら?」
「貴様もだ!・・・ああ、邪魔したな。もう二度とこんなのに捕まるんじゃないぞ。何かありそうなら我輩に言えばいい。こいつ絡みの事ならどうにかする」
「ほんと気苦労が絶えないねぇ」
「・・・・・・」
覇者りんはみずはの手からデジカメを撮ると中に入っている画像を全部消去した。
「怒ってる?」
「ほんと貴様という奴は・・・頭痛い・・・」
「それじゃあ、またね〜」
ぴらぴらと手を振ってみずはは覇者りんと共に部屋を去っていった。ワタナベは空気が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。
「あー、面白かった」
「全く、貴様も生徒をからかって遊ぶのをどうにかした方がいいぞ。今に訴えられる」
「その時は覇者りんの専属秘書としてまた就任するよ」
「・・・我輩の権限にも限りがあるんだからな」
「分かってるって。あの・・・さ、生徒が嫌な思いをするから・・・じゃなくて本当は覇者りんが嫌な思いをするから・・・でしょ?」
「我輩は学園の一個人である前にここの理事長だからな。そうでなければ・・・」
「安心しなよ。俺が好きなのは覇者りんだけだから」
「そう思っているなら・・・少しは自重してくれ。胃まで痛くなってきた」
「これから保健室向かうんでしょ?看病してあげるよ」
「そうだな」
「大丈夫か?ワタナベ」
「あ、ああ」
生徒会室に駆け込んできたヤマグチがおろおろとワタナベを見ている。
「ずっと見てたんだけど、三等兵が理事長を呼ぶまでそっとしておいた方がいいかなと思って」
「(助けろよ)それにしてもあの二人」
「らぶらぶだ」
「らぶらぶだ」
どうやらまた新たに伝説を作ってしまったようである。
<END>