兄貴が帰ってきた。

兄貴といっても元当学園の体育教師、兄貴先生の事だ。ワタナベとヤマグチの事件で学園を去る事になった兄貴だが、ほとぼりが冷めたとみたのか戻ってきたらしい。我輩も友人として嬉しく思う。そんな兄貴が持ってきたのが一枚のチラシだった。
「何々、兄貴プロデュース、ホモAV出演依頼何だこれは」
「見ての通りだ。因みに健は既に出演決定している。まぁ私の頼みで彼が断られる訳が無いからな。あとはワタナベとヤマグチも大丈夫だろう。あの二人は私を辞めさせたので負い目を感じている。なぁに、目線を入れるとでも言えば
「鬼か。大体、こんな企画、我輩が許す訳がなかろう。学園の風紀が
「私は昔みずはと肉体関係がありまして
「なっ?」
「HP見ましたよ。私の手にかかれば元の鞘に収める事などたやすいそしてAVに
ふふっと兄貴は妖しい笑いをした。
あれはみずはのいたずらで、我輩には何も関係無い。貴様がみずはと寄りを戻したければ好きにすればいいだろう。とにかく、それは却下だ」
「我慢するのも今のうちですよ、理事長」

兄貴は不敵な笑いをしながら理事長室の扉を閉じた。

我輩はどことなく不機嫌になっていた。別にいいではないか。みずはがどうなろうが。兄貴の策略によりAVに出演するようになろうが。しかし学園の風紀がいや、我輩は風紀にかこつけているだけではないか?気になる
溜め息を吐き、職員室へ足を向けた。そこは、兄貴を歓迎する人々で溢れていた。そう、兄貴は人気者だ。風貌によるのかそれとも地位のせいか容易に人を寄せ付けない我輩とは違う。そんな我輩に遠慮なく近寄ってくるみずは。そいつも今は兄貴の周りの人員の1人と化している。あまりの仲の良さに思わず胸が痛んだ。
(私は昔みずはと肉体関係がありまして
我輩はゲイでもバイでもないから、気にする必要は毛頭無い。なのに
生徒がホモAVに出演したとなるとバレた時、学園内で大問題になるだろう。しかし、かといって身代わりにみずはを差し出すのは。教師でも問題になるが、それでもみずはは非常勤講師でありつまりいつ辞めても問題は無い立場で
我輩はみずはの側に寄った。
「覇者りん、兄貴先生が戻ってきて
「知ってる。さっき理事長室で会った」

「で、後で俺と二人きりで話し合おうって。つもる話もあるから」
手早い。我輩は思わず感心したが、感心している場合ではない。我輩は先程の考えを打ち消した。確かに生徒の身も心配だが、だからといってみずはが兄貴とどうこうってのは
「来い」
我輩はみずはの手首を取り、その人の輪から抜け出した。
ずんずん歩く我輩の後ろを手首が痛いと零しながら歩くみずはがいる。
「何だよ」
「いいから来い」
「俺、兄貴が話し終わったら会う約束してるんだけど」
「反古しろ」
「何で」
「理事長命令だ」
これでは只の嫌な奴だ。権力を傘に生徒を自由にする兄貴とどう違うんだろう。
「覇者りん、おかしいよ。いつもはそんな事言わないのに」
この感情が何だか分かる。間違いない嫉妬だ。

理事長室に入り、鍵をかける。みずはは赤くなった手首を見ている。我輩は一言「悪かったな」と呟いた。
みずはは少し怯えた顔をしている。我輩も今の自分の顔を鏡で見たくない。
「みずは。貴様、兄貴と関係があったんだってな」

みずはがびくっと体を振るわせた。
「何だよ。だったら何だって言うんだよ。それは昔の事だし、兄貴は今は竹田君を狙っているんだろう?」
初耳だ。
「もしかして兄貴は竹田も狙っているのか?」
「も、って?」
「兄貴プロデュース、ホモAV企画。テキスト学園の生徒を使ってAVを作るらしい。我輩は勿論止めたが、そんな我輩に兄貴はみずはをAVに出す事を宣言した
「何それ知らない
「知らないだろう。貴様と兄貴は既に別れた相手だし、元の鞘に収まるまで言う筈無いからな」
「元の鞘に戻るって?だって俺が好きなのは
「人の気持ちほど移ろい易いものはない。我輩も学園の生徒があんなものに出演するなど、学園の風紀が乱れるからな」
「だからって教師だったらいいっていうのかよ。俺をそんな目で見てたのかよ。そんなに俺が信じられないのかよ。大体、覇者りんがはっきりしないから」
「何」
「俺と生徒どっちが大事だ?どうして俺ばっかり覇者りんが好きなんだよ。もういいよ」
……みずは」

「疑うんなら勝手に疑えばいい。でも俺は例え兄貴の頼みでもAVで男にされてる所を万人に見せたいと思う程露悪趣味じゃない」
我輩は去ろうとするみずはを後ろから抱き締めた。
「兄貴と二人きりにはさせない」
「離せよ。どうせ覇者りんはノンケでその気は無くて、俺の独りよがりで覇者りんのは単なる気まぐれで俺の事なんか一つも信用してなくて」
「離さない」
「止めろよ。勝手に誤解してればいいだろ?ホモなんか嫌いな癖に」
「いいから力を抜け、みずは」
「好きだって思ってないならほっとけよ。そしたら俺の気持ちも封印出来るから。そうやって覇者りんが思わせぶりな態度をするから」
……認めるのが怖いんだ、我輩は。みずはは我輩など相手にしなくても沢山の人間に好かれている。なのに、何を好き好んで我輩のような人物とと思ってしまう。みずはの方こそ気まぐれではないかと思ってしまうから」
「それって俺が覇者りんで遊んでいるんじゃないかっての?」
「ああ」
「俺は本気だよ。じゃあ本気な所見せてやるよ」

みずはが振り返って我輩にキスをした。二度目のキスは生温かくて。我輩はずるずると力が抜けていった。
「男同士は嫌なんだろ?だったら抵抗しなよ」
「ホモは嫌だけどみずはは嫌じゃない。みずはだから我輩は
「それって好き、って事?」
返事の代わりにキスをして押し倒した。頭の中ではぐるぐると(こんな所で何をしているんだろう)との思いが渦巻いていた。


「声、漏れるっ
「いい、漏れても。鍵がかかってるから」
「ん
何処かで、言わなくても分かるという思いがあったのも事実だ。けれどそれがみずはを不安にさせてしまったのも事実で。みずはがぎこちない動きの我輩をサポートしてくれ、我輩はたどたどしい手つきでみずはに触れていった。その時
「理事長?」
兄貴の声とドアをノックする音。我輩は咄嗟にみずはの口を抑えた。一番知られたくない相手がドア越しにいる。
「何だ」
思わず声が上ずってしまう。
「理事長がみずはを連れ去っていったから何処に行ったのかと」
「何処にいようと貴様には関係無い」

「私にそんな口を聞いていいんですか?風紀を重んじる理事長があのチラシの件を了承する筈が無いでしょう?なら代わりにみずはを
「みずはは貴様には渡さない。みずはは我輩のだ。みずはに何かあったら許さない」
「みずは自身が私の方がいいと言ったとしても?」
「絶対言わない」
「あれほど二人の関係を否定してたのに大丈夫ですよ。AVに出演するのは生徒ではなく、代理を使う事にしましたから。折角戻ってきたのに教育委員会を相手にしたくもないんでね。しかし、この学園の制服は使わせてもらいますよ」
「勝手にしろ」
「それと壁、防音にしないと漏れてますよ」
……
この男は何処まで。兄貴が去った靴音を聞き、やっとみずはが一息ついた。
「バレたね」
「我輩は例えみずはと一緒でもAVでどうのは嫌だからな」
「分かってるからもう一回
ほんの数刻前までノンケだと思い込んでいた我輩が嘘のようだ。


数時間後。
「上手く行ったようだな」
「うん。兄貴先生のお蔭。ああでも言わないと覇者りんが自分からしようとはしないと思うから」

兄貴とみずはは屋上にいる。夕焼けがとても綺麗に見える。学園のHPを見てみずはに祝福の言葉を電話した兄貴に事の真相を話したのがきっかけだ。海外から学園に戻ってから全く進展の無いみずはと覇者の二人をどうにかさせようと苦肉の策を打ち出したのが今日の話だ。つまり、みずはと兄貴の二人に肉体関係は無い。全ては覇者りんをその気にさせる為の嘘。しかし兄貴プロデュースのAVは本当のようだが
「でも本当にあいつでいいのか?飽きたら私でもいいんだぞ(−_−)」
「俺にその気は無いから。あんまり長い時間いないと覇者りんが心配するから。じゃあ」
夕焼けをバックに兄貴がにかっと笑って白い歯が見えた。


「何処行ってたんだ」
「近所のマクド行ってた。平日は安いね。お腹空いたでしょ」
「まぁな」
「覇者りん、もう少し口数多くした方がいいと思うよ」
「そうか」
「ん」
二人で仲良くマクドのバーガーとジュースを食べ飲みした。窓からは夕日が輝いていた。我輩はまた明日から忙しくなるぞ、と思いながらいつまでもみずはを見つめていた。

END








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