ここはどこだ。

 

目が覚めた時に周りを見渡した。狭い部屋の中。コンクリート打ちっぱなしの壁。空調は効いているのか寒くはない。高いところにある窓を見上げると外にはみぞれが降っていて。

 

何故こんなところにいる?

 

記憶が途切れている。その時に鉄製の扉がぎぎぎと音を立てて開いた。

「目覚めたのかい?」

闇を纏ってその男は現れた。そして扉は閉じられる。

「・・・みずは・・・ここは何処だ」

「ようこそ。地下室だよ」

壁に凭れて目を細めて笑う。そういえば、目が覚める前に最後に見たのはこいつの顔だった。

こいつのオフ会がカナダのトロントであるのでつい出かけてしまい、それから・・・。

「どうしてこんな所に、貴様何をして」

「知りたい?」

みずははスタンガンを取り出し、スイッチを入れた。バチバチと閃光が走る。

「・・・それか」

「覇者りんの事はずっと見てた。欲しかったんだ。だから・・・」

「何を子供みたいな事を。欲しがる?はっ、貴様にそんな趣味があったとはな」

精一杯虚勢をはってみても身長より高い窓。扉はみずはが入ってきた入り口のみ。

「大丈夫だよ、逆らわなければトイレぐらいには行かせてあげる。そこでしてもいいけどね」

「犯罪だぞ。分かってるのか」

「知ってる?誘拐された人間はね、何年も経つと誘拐犯から逃げようという気さえ起こらなくなるらしいよ」

「・・・っ、何年って何だ!」

みずはよりは力がある。・・・が、この扉はみずは以外に開く事が出来るのだろうか。

道具もなにもない。

「さあ、始めようか」

 

狭い空間逃げる場所もない。力は覇者の方がある。どうするか。一撃で仕留めないと。

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。何なら痛み止めの薬でもあげようか」

にこにこと笑っているみずはが近付いた所で膝蹴りをくらわした。腹にもろに当たったらしく蹲って腹を押さえている。覇者は扉に走り、がちゃがちゃと開こうとした・・・が、何をどうしようとしても開かなかった。

「貴様、さっさと扉を開け・・・ぐっ」

スタンガンがバチバチと鳴って覇者はそのまま倒れた。

「どうやら躾が必要だね」

 

再び目覚めた時は首輪ついていた。

地下室のベッドの足から伸びた鎖がつけられていて。

「貴様ぁ」

「抵抗出来なくなるぐらい体力を奪ってあげる。みずはがこれからする事に比べたらさっきの一撃ぐらい食らっても仕方ないかもね」

「近付いたらまた蹴ってやる」

「取り敢えず放置しておくよ。みずはが求めてるのは忠誠だけだから。すぐに逆らおうという気がなくなるよ」

みずはが去っていった。

 

部屋が一気に寒くなっていく。空調を止められた?外はみぞれが風と共に降り注いでいるのに。

「ふざけるなよ・・・?」

息が白くなっていく。体からどんどん体温が奪われていくのが分かる。

耐えて二時間か。そのまま凍死するのか。人間が餓死するまでには一週間はかかると聞く。

人をこんな刑務所の独房のような場所にいれやがって。

今頃はぬくぬくとこっちが根を上げるのを待っているのだろうな。癪にさわる。ベッドのシーツを体に巻きつけて扉を睨み続けていた。

 

更に数時間後。

「待たせたね」

寒さに凍えている所に一気に暖房が入った。

「貴様、ここを出たら殺してやるからな」

「赤い首輪、似合ってるね」

「人の話を聞いてるのか?」

「ねえ、覇者りん。お前はもう人間じゃないんだよ。みずはの犬になったんだよ。分かる?犬なんだからご主人様の言う事は聞かないと」

「また蹴られたいのか?」

「へえ、まだそんな体力あるんだ」

せせら笑う。半分凍死しかけた体にそんな体力がある筈が無いのを分かっていながら。

 

服を脱がすのを押しとどめようとする度にスタンガンのスイッチが入る。バチバチとした音を聞いただけで体が竦んでしまう。

「寒くないでしょ?」

「何で、男に、しかも貴様に」

「諦めたら?こうなる運命だったんだよ。あ、最初だから舌噛まれると怖いからね。こんなもの用意したんだ」

口枷を見せられ、その体から離れようとした。

「待て、舌噛まないから、やめてくれ」

「自殺しない?」

あくまでもにこにこと笑うみずは。本当に嬉しそうだ。

「でも舌噛んだぐらいじゃ死なないよね」

裸の体を触っていく。寒くもないのに鳥肌がぞわぞわと立って。

「触るな。気持ち悪い」

「気持ちよくなる薬あるけどいる?」

「・・・」

覇者は目を逸らした。

「いい子だね。大好きだよ」

「貴様なんか大嫌いだ」

 

唇に口付けをされ、舌がぬめりと侵入してきた。思わず総毛立つ。舌を噛み切ろうと思っても相手の手にはスタンガンが。スイッチの入ったままで。バチバチと光を放って。

悔しい。

唇が離れた後、唾を相手に吐いた。

「まだよく立場が分かってないみたいだね」

みずはは顔についた唾液を覇者の顔になすりつけて。

「もっと強い電圧あげようか?」

がたがたと震える覇者。逆らえない。どこまでされるのか。

「逆らわなければ痛い思いはしないよ」

「狂ってるな」

「狂っていくのはお前だよ、覇者りん」

悪魔の笑みに見えた。

 

体の稜線をなぞられていく。早く終わってくれとも、終わるのが怖い自分もいる。けれど、意識不明のままいつの間にか終わっているのは嫌だ。

体の奥に指が入れられた。

「・・・っ」

「よぉくほぐさないと。初めてだからね」

全裸の覇者と服を着たままのみずは。鈍い痛みが連続的に続いて体から力を奪い去っていく。

スタンガンはポケットに仕舞われていた。けれどどうせ出れないならさっさと終わればいい。全てはそれから・・・。

みずはが服を脱ぎだした時に思わず後ずさった。

逃げても逃げても壁。これから起こる恐怖。

「初めのうちだけだからね、痛いのは。後で痛み止めあげるよ」

逃げようとした体を捕まえられて。覇者の目には恐怖がいっぱいに映っていた。

奥歯ががちがちと鳴る。

その体を押し倒されて。

「止めろおおお」

侵入され、がくがくと体が揺すぶられる。連続して痛みが続いていく。

足をMの形に広げられて、どんどん入れられて。

数分が数時間のように感じた。

痛いと言いたいのにそれは声にもならず。悲痛な声が響く。

頼むからもう早く終わってくれ。

体から力が抜けていく。ぐったりと抵抗する気力をなくした覇者はみずはのなすがままになっていた。

「大好きだよ」

大嫌いだ。

 

みずはが覇者の中から抜いた時、覇者の目はどんよりと虚空を見ていた。そのだらんと開いた口にみずはのものを捻じ込んで精液を放出した。

「全部飲んでね」

「げほっ、げほっ」

苦い精液が口から溢れ出る。とてもじゃないが飲めたものではない。

「あーあ、顔汚れちゃった。お風呂場行こうね」

出してくれるのか。この部屋から。

覇者はみずはに鎖を引っ張られて鉄製の扉の部屋から出た。

 

やはり部屋から出てもそこは地下室で。コンクリート剥き出しの壁に浴槽とシャワーのノズルと。水道管に鎖を繋がれて覇者は浴槽の床にぺたりと座っていた。

「顔、綺麗にしないとね」

虚脱した体と意識の中でそんな言葉を聞いた。そして・・・みずははシャワーのノズルを手に持ち、温水の水量を目一杯最大にすると覇者の髪を掴んで顔に水を直撃した。

「く、苦しい、ごほっ」

ごぼごぼとした音が覇者の口から漏れる。みずははシャワーを止めると浴槽の水に覇者の髪を掴んでそのまま顔を入れた。

「がはっ」

ばしゃばしゃと何度も何度も風呂の水に顔を入れられては引き上げられ。苦しくて涙が出てきた。

「もう精液零さないよね?」

浴槽から髪を掴まれ引き上げられた覇者の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。

 

「痛み止め、置いておいたから」

また元の場所。紙コップと錠剤。ガラスのコップならそれで体を傷つけると思っての判断だろう。

覇者は疲れきった顔で体を拭かれるままになっていた。

 

結局、薬は飲まなかった。

 

 

「お腹空いてない?」

それから数時間後。そこに置いてある服を着て覇者はベッドで横になっていた。

「・・・いらない・・・」

「まだ痛む?」

「・・・」

痛くはなかったが、答えるのも嫌になっていた。

「ご飯、そこに置いておくから」

床に皿がじかに置かれる。もちろんフォークやスプーンといったものはない。

「犬でしょ?這い蹲って食べなよ」

「もう放っておいてくれ」

「ご飯食べる気力もない?痛み止め飲んでないから別に痛くないんだね」

「貴様から貰うものに誰が手をつけるか」

「ふーん、そう。まだ一日目だしね。食べたくなかったらそのままにしておいてもいいよ。それ食べないと次のご飯ないから」

「トイレに行きたくなったら?」

「風呂場まで連れてってあげる。そこでしゃがんで女の子のようにすればいいよ」

「もう、いい。消えろ」

「・・・尿道カルーテル突っ込んでやろうか?」

「消えてくれ」

「今日のところはこの辺にしておくかな」

 

結局食事には手をつけず、ひからびていくのをじっとただ見ているだけだった。

 

 

「おはよう」

2日目が来た。

「あーあ、ご飯固くなってるよ」

もう見慣れてしまったその笑顔。その顔に覇者はコップの水をかけた。顔から水が滴ってもみずはの笑みは変わらなかった。ただ、目が笑っていなかった。

「そんな態度とっていいの?」

「暴力で人を支配する人間は最早人間じゃない。貴様は・・・人間のカテゴリーから離れているんだ」

「そういうお前は犬だよね、覇者りん」

「我輩は犬じゃない」

「うるさいからもう喋らなくていいよ」

みずはが覇者の首から伸びている鎖を引っ張る。首に擦れた痣が出来る。覇者は首輪を両手で押さえて痛みを軽減しようとした。

「そんな口にはみずはのものでも咥えてたらいいんだよ」

朝立ちで勃っているものを取り出し、覇者の頬に当てる。覇者は目を見開いてそれを見た。自分の体にもついているグロテスクなもの。他人のものをこんなに意識のはっきりした状態で間近に見たのは初めてだった。

壁に頭を押し付けられ、口の中一杯に突っ込まれる。

「舐めろよ」

吐き出そうとしてもどこにも逃げ場がなくて。

「ほら、舐めろよ」

覇者は懇願する目でみずはを見上げていた。

「言うこと聞きなよ。痛い思いをしたくなかったら」

その口に広がる味がとてつもなく嫌で。昨日の事を連想させて。顎が外れるぐらい開いた口に喉の奥まで侵入するそれ。

「しないならいいよ」

連れ去られてから初めてみずはの笑顔が消えた。それが口から抜かれたと同時に安堵と恐怖心が一緒に起こった。

ジッパーを閉めてみずはがその部屋から出る。覇者は鎖をなんとかして外そうとした。

あいつが来る前に。ここから早く。

重い鎖が外れないと脳で分かっていても。混乱する。何をされるか。何をされるか。逆らうとどうなるかは昨日の時点で思い知った。油汗が湧き上がる。

みずはが持ってきたのは乗馬鞭だった。

「カッターナイフだと取り上げられるかもしれないからね」

恐ろしいものを見る目でそれを見る。

「もう止めてくれ」

「今に止めてくれって言わなくなるから。それまでの我慢だよ。それとも、欲しがるようになる薬欲しい?」

首を左右に振って否定する。

「分かったらみずはのものを取り出してしゃぶるんだ。アイスキャンディーを舐めるようにね」

「何でそんな事・・・」

「するの?しないの?」

冷たい言い方。全く笑っていない顔。薄ら笑いでも笑みが浮かんでいる方がましだ。

怒張したものを口に頬張る。酷く気持ち悪い。ぬめりとした液体が次から次へと溢れてきて。

「うえっ」

こみあげる吐き気。覇者は顔を上げた。

「誰が顔を上げていいって言ったの」

みずはは覇者の髪を掴むともう片方の手で鼻を摘んで無理矢理口をこじ開け、口の中に捻じ込んだ。

「おえっ」

髪の毛が引っ張られてまた根本まで顔を近づけられ。独特の臭い。

「舌、使えよ」

喉にそれが突き刺さって。

「噛むなよ」

一方的に命令されて。自由をなくして。

どうしてこんな苦しい思いをしなければならないんだ。

諦めと怒りが交互に押し寄せる。

がり、とみずはのものを噛んだ。その瞬間、頬を叩かれた。

「ふざけるなよ?」

ふざけてるのはどっちだ。どういう状況だこれは。

「そんなに怪我したいんだ」

嫌なものは嫌なんだ。

ここでみずはを押しのけて。思いっきり怪我させて。立場を上にして。部屋から出る方法を聞きだして。

頭の中ではぐるぐる回るのに実行に移せない。

「そっちがその気ならこっちだって」

また服を脱がされて。嫌だ。嫌だ。

「どうしたら止めてくれるんだ」

叩かれた頬にそのグロテスクなものを擦り付けられている。

ふいにみずははその行為を止めると覇者から離れて鞭を拾った。

「止め・・・」

みずはは答えない。

「何か言え。いつもべらべらと貴様ばっかり喋っている癖に何故何も言わない」

五月蝿いぐらいに命令している人間が何も言わなくなると逆に怖く。

怯えている覇者にみずはは思いっきり鞭を振るった。

「ぎゃあ」

「いーち」

服が切り裂かれ、体の中心に傷が出来そこから血が滲む。覇者は思わず体を丸めた。

「にー」

その蹲った背中に容赦なく鞭が飛んでくる。

「さーん」

「我輩が悪かったから、だから」

「よーん」

それから次々に飛んでくる鞭。

「きゅー、じゅー。さて、次はどうする?」

「何でもするから」

「精液も全部零さないで飲むね?」

ぺろぺろとみずはのものを舐める覇者をみずははいとしそうに見ていた。

「最初からそうすればいいんだよ。口をすぼめて絞るような感じでやってごらん。頭を上下に動かして。・・・そう、覇者りんは飲み込みが早いね」

精液さえ搾り取ってしまえばやられなくて済む。そんな諦めにも似た感情が支配していた。背中からは相変わらず血が滲んでいる。頭ががんがんする。

「好きだよ、覇者りん」

貴様なぞ大嫌いだ。

 

結局みずはがいなくなった後、精液に塗れた口で昨日の乾いている食事を皿を両手に持って食べた。

この生活がいつまで続くんだろう。

家族が捜索願を出すのはいつだろう。それまでに生きているだろうか。

壁に体を凭れながら覇者の頭にはそんな事が過ぎっていた。

 

「いつになったらこの首輪は外れるんだ」

風呂の排水溝に自分が出した尿が流れていく。全裸の覇者はそれをじっと見ていた。

「外したら逃げるでしょ」

「首が痛いんだ」

「痛み止めいらないって言ったよね」

「寝る時ぐらい外してくれ」

「そんな泣きそうな顔で言われると弱いんだよなぁ。分かった。みずはも覇者りんを傷つけたくないんだ、本当は」

服がぼろぼろになるまで鞭を振るっておいて。力ずくで犯した癖に。どの口がそう言って。

「キスして。上手く出来たらあの部屋にいる時ぐらいは外してあげる」

「・・・何で貴様なんかに」

「無理強いはしないよ。今日は裸で寝たらいい」

「・・・」

「ほんとよく泣くねぇ」

何故か上機嫌のみずはに覇者は唇を合わせた。歯をこじ開けて舌が侵入してくる。そのままみずはの舌は動かない。覇者はそっと唇を離した。

「やっぱりいい」

「ふーん」

がくりと項垂れている覇者。優越感に浸っているみずは。風呂場からなら内側から出られるかもしれないのに、何もする気にならない。

みずははしゃがんで覇者のものを口に含んだ。その舌使いでたちまちのうちに覇者のものが勃起する。

「美味しいよ、覇者りんの蜜」

べちゃべちゃと舌を絡める音。覇者は両手で耳を塞いだ。

何も見たくない。何も聞きたくない。

目も耳も閉じているのに濡れた音が浴槽内に響いている。

濡れていく体が酷く気持ち悪かった。反応する体も。気持ちよさを感じる心も。これがずっと続いてほしいと思った時には眩暈がした。

男にしゃぶられて。鎖で繋がれて。陵辱されて。それでも快感を求めるのか。

みずはの口から出されたものは天を仰ぎ、放出を求めていた。

「ねえ、見ろよ。これが現実だよ。どんなにみずはを嫌ってても体は正直なんだよ。素直になりなよ」

「聞きたくない!」

「早く出したいでしょ?」

「もう我輩にこれ以上関わるな」

「聞き飽きたよ」

すうっとみずはの目が細くなる。

「また水責めにあいたい?」

ぶんぶんと首を振って否定する。みずはは覇者の手をどかし、その耳を舐めた。

「ひゃうっ」

「ほうらいきたいでしょ?」

耳から首筋を舐められて覇者は今までにない声を出した。

「びんびんに感じちゃってるじゃん」

「やだ・・・」

「ねえ、何が嫌なの?言ってごらんよ」

胸の飾りを舐められて覇者の体がびくびくと痙攣する。自身のものに手を伸ばそうとした覇者をみずはは止めた。

「いきたいんでしょ」

「お願いだから・・・いかせてくれ・・・」

「キスして」

今度のキスはちゃんと舌を絡めてきた。みずはの手が覇者のものに伸び、上下にしごき始める。

「ん・・・んっ・・・」

はぁはぁと苦しげな呼吸音。やがてみずはの手に白い液体が出された。

「自分で出したものは自分で始末しないと。ね?覇者りん」

にっこりとべたべたに汚れた手を覇者の口に当てる。

「舐めろよ」

その手から顔をずらそうとする。

「舐めないとやっちゃうよ?今されたい?後でされたい?」

覇者は恐る恐るみずはの手についている自分の精液を舐めた。

「いい子だね。好きだよ」

 

また部屋で一人になる。やっと重い鎖が外された。そして首輪も。体全体がひりひりと痛い。

奴の手によって感じてしまうなんて。

もう呪うしかなかった。確実にこの状況に馴染んできている。

新しい服。新しいシーツ。そして高い窓の外は相変わらずみぞれ。

起きて窓を見ているか寝るかしかない状況。サイドボードの水で嗽をする。自分自身の精液が口の中に残っているのが嫌で。嗽した水をなんとか飲み干しまた窓を見上げた。

みずはが入ってきた。鞭もスタンガンも持っていない。しかしもう逆らう気力を失っていた。

ほっとしたのと同時に、また地獄のような時間が来るのかと思った。

「早くしろ。貴様の顔なんて見たくないんだからな」

「ご飯いらないの?」

「・・・いる・・・」

「服脱いで」

覇者は言われるがままに服を脱いで、ベッドに横たわった。

「従順になったね」

「早くして早く終わらせろ」

「出る寸前だといい声出すんだね」

「いいから、貴様の言葉は聞きたくない」

「足開いて」

おずおずと少しだけ足を開く。

「もっと開くでしょ?」

みずはは足を開いた覇者のアナルに顔を近付けて舌を挿しいれた。

「やっ・・・はあぁん」

快楽に犯された声が響いていく。舌を出し入れしながらペニスに手を伸ばして上下に動かす。

「ああっ・・・あっ・・・そこ・・・」

「何口から涎出してよがってるんだよ。みずはの事嫌いじゃないの?」

くすくすと笑う。覇者は真っ赤に顔を染めた。

「きら・・・嫌って・・・いるんだ・・・」

指が唾液でスムーズに出し入れ出来るようになっている。

「男なのに後ろの穴で感じて。変態じゃないの?」

くちゅくちゅと淫らな音が響いて。反論したいのに。体が正直で。

「あ、はあっ」

「だあいすき」

「嫌だ、もう、出る」

「後ろの穴だけでいっちゃう?」

ぬぷりと取り出した指。何も考えられなくなっていく心。

「力抜いて」

体の奥が濡れて気持ち悪い。これをどうにかしてほしい。

二度目の侵入は一度目よりは痛くなかった。

「た・・・たすけ・・・ん・・・」

「まだ感じないか。そうだよね。まだ二回目だし」

その言葉とは裏腹に、これは慣れると覇者自身は気付いていた。

入れられながら体を触られて。その指がまるで触手のようだと思った。

「嫌だ・・・い・・・嫌・・・」

「腰動かしてよ。これでも結構体力使うんだからさぁ」

「あぅ、あああっ」

びくびくと体を痙攣させて覇者が達した。力が抜け、ぐったりとその身を任せている。

「いった時の覇者りんの顔、凄く素敵だった」

達しても尚体内で動くものが酷く気持ち悪く。異物感が。

「ひぎぃ」

「早く感じるようになるといいね」

パン、パンと腰がぶつかりあって。やっとみずはが覇者の中で達し、覇者は漸く終わったと思った。

「まだだよ」

シーツに染みが広がっていく。その言葉は恐怖を起こすのに十分だった。

「嫌だあ」

「あれだけ感じておいて、どの口が嫌って言うの」

弱り切った覇者の体を後ろ向きにし、みずはは覇者の腰を上げさせた。

「ほら、足開いて」

「もういいだろ?今日はもうやっただろ?」

「じゃあ道具入れられたい?別にみずははいいんだよ。覇者りんが一日中バイブ入れられて悶えてても」

「・・・それだけは・・・」

「終わったらご飯食べさせてあげる」

 

砂を噛む様な味気ない食事。ぼろぼろの体。次々に汚されていく。どこまで堕ちていくんだろう。

「携帯置いておくからトイレに行きたくなったら言ってね」

残された黒い携帯に「嫌いだ」そう一言入れた。

大嫌いだ。みずはも。我輩も。

泣きそうになった。

 

翌日。

次にみずはが持ってきたのはテープレコーダーだった。もうそれを引ったくって投げつけてやろうという感情も起きない。

痛み止めを飲むと腰の痛みが消えた。コップはサイドボードにことんと置いた。

「そろそろ感じるようになると思ってね。声を録音してやろうと思って」

死んだ魚のような目でそんな言葉を聞いた。覇者は膝を抱えて蹲っている。

みずはが現れただけで反応する体が恨めしかった。

「疲れきった顔してるね」

こんな毎日が続くのか。繰り返し繰り返し犯されて。だんだん体が慣れていって。パブロフの犬のように反応して。

「もうしたくない」

「でもね、体は正直だよね」

パジャマのズボンを脱がされた時、下着に染みが出来ていた。

テープレコーダーの録音スイッチが押された。

「自分でしてみてよ。出来るでしょ」

「したくない」

「それともみずはがいない時に一人でしているの?」

「誰が」

体の熱は上がる一方で。嫌いなのに。嫌なのに。

「自分でしたら外に出してあげる」

「本当か?」

みずはは答えない。覇者はそろそろと自身に手を伸ばして扱き始めた。

「違うよ」

その手をやんわりと覇者の尻に持っていく。

「こっちでしょ?」

「・・・」

覇者は泣きそうな顔でみずはを見ている。

「それともここに閉じこもっていたい?」

覇者は後ろの穴にゆっくりと指を入れた。体全体が指を拒否しようとしている。顔を上げて窓を見るとみぞれは止んでいた。

「何処を見てるの?」

ゆっくりと指を出し入れする。みずはの射るような視線から顔を背けながら。

「はあっ・・・はあ・・・はあんっ・・・」

穴の中は酷く熱く、ぬめりとした液体が出てそこだけ別のもののようだ。

一本の指が二本に増え、ぐちゅぐちゅと中を掻き出す。

切なげな声が響き、延々と録音される。覇者は録音されているのを知りながらその行為に没頭している。

「すっごいびんびん。ケツの穴がそんなに感じる?」

最早みずはの言葉も耳に入っていなく。自分自身に手を伸ばそうとした所を素足で踏まれた。

「マゾ」

そんな冷たい言葉も、遥か彼方だ。

「欲しいんでしょ」

鋭利な言葉。

体中が熱くて寒い。頭に響くその声。

「欲しくな・・・」

「じゃあこれは何だよ」

手首を掴まれ、穴に入れていた指を見せ付けられる。

「これがお前の現実なんだよ。分かる?」

目を逸らす。ペニスを弄んでいた手も止まる。

「好きなんでしょ?本当は」

「嫌い・・・なんだ・・・」

「たった3日でここまで感じる体になってて。何が嫌いなんだよ。続けたいんだろ?されたいんだろ?感じてるんだろ?」

「言うな・・・」

だらしなく伸びた足からズボンを完全に脱がす。

何て現実だ。

「こんなにべったべたに染み作っておいてよく言うよね」

「本当に外に出してくれるのか」

「みずはの上に乗れよ」

「な・・・?」

「自分で入れるんだよ。二度と言わない」

みずははベッドに横たわった。

今なら絞め殺す事も、殴る事も出来るんだ。

脳内では殺す事も過ぎったが、殺意を抱くにはあまりにも体の熱が邪魔だった。

のろのろとみずはのものを取り出し、口に咥える。拙い動きではあったが、覇者が自主的にそれをした事にみずはは満足していた。

ゆっくりとみずはの上に腰を下ろしていく。

先端が入った時点で覇者は顔をしかめた。

「まだ入るでしょ」

潤んだ瞳で離れようとする覇者の腰を両手で掴み、一気に腰を下ろさせた。

「ひぎぃ」

何度かはみずはが離れようとする腰を掴んで押さえていたが、やがて覇者が腰を動かしだすとみずはは笑みを浮かべた。

「あ、あ、あ、あ、あ」

「気持ちいい?」

「気持ちい・・・」

「その顔、今度写真で撮ってあげる」

「それだけは・・・」

「でも腰は動いてるんだよね」

「それは・・・ああん・・・」

みずはは体を起こして覇者の唇を堪能した。結合している部分からはねちゃねちゃといやらしい音が響いている。

高い声で鳴いている姿を見てみずはは愉悦に浸っていた。

「あ、ああぁ」

唇から糸が引いて離れた時、覇者は達した。ぐたっとみずはに凭れかかっている。

「はぁ・・・はぁ・・・」

「約束通り、外に出してあげよう」

テープが切れた。

 

また首輪をつけられた。寒いからとコートを渡され、鎖に繋げられたまま地下室から出た。オーク材で作られた建物。暖炉の火が燃え、空調が効いている地下室よりは暖かそうだ。

「逃げようと思わない方がいいよ。さっきの声、他の人に聞かれたくないでしょ」

「別に逃げようなんて・・・」

「変わったね」

外はやはり寒かった。あちらこちらに雪が積もっていて。

「いつになったら帰してくれるんだ」

みずははその質問に答えず、その代わり覇者にこう言った。

「何、人間らしく二本の足で歩いてるんだよ」

一瞬意味が分からなかった。

「犬だろ?四つ足で歩けよ」

「ふ、ふざけるな!もし誰かに見られたら」

みずははにっこり笑うと覇者の腹に膝蹴りを食らわした。

「げほっ」

雪に手をついて蹲る覇者。

「ほうら、四つ足になった」

ぎっ、と覇者はみずはの顔を睨んだ。

「心配しなくてもこの辺はあまり人がいない所だからね。こんな中心街から外れた所に来る人なんていないよ」

「手が冷たいんだ」

「ふーん。だから?それで?」

こんな時、みずはが絶対有利に立っていると思い知らされる。

「畜生」

起き上がろうとした背中を足で踏まれた。

「お仕置きされたい?」

「もういい」

「じゃあ部屋に戻ろうか」

「風呂に入りたい」

「そうだね。寒いからね。温まろうか」

四つ足のまま、地下室まで歩かされた。これまでにない屈辱感を味わっていた。

 

水道管にくくりつけられた鎖。赤い首輪。暖かい湯に入っていてもケツの穴が染みて落ち着かない。

ふいに眠たくなってきた。

このまま溺れ死んでしまおうか。

ふとそんな思いが過ぎる。溜め息が聞こえたのか、体を洗っているみずはが「どうしたの?」と聞いた。

「なんでもない」

全て諦め切った顔でそう呟く。

みずはが覇者の入っている浴槽に来たので、上がろうとした。

「いいよそのままで。二人入れるから」

この男から逃げたい。体が示しているのは拒否反応なのか。それとも・・・。

ずきん、と体の奥が疼いた。

二人分の体積で湯が溢れ出る。みずはは覇者の体を抱き締めた。

そういえば、みずはが全裸で抱き締めたのも久しぶりかもしれない。

曜日の感覚が完全に薄れている。まだ一週間も経っていないのに。

「好きだよ」

「そんな独善的な想いなどいらない」

 

夢を見た。衆人環視の中で犯されている。自分からみずはを求め、「もっと」と足を開いてみずはを誘っている。「ここは他人がいるから別の部屋へ行こう」そこで覇者から上に乗って。それはそれは楽しそうに。

がばっと起きる。誰だ?誰なんだこれは?夢で見た自分の顔が酷く淫らで。滝のように汗が出ていた。

「おはよう。もう昼だよ。12時間も寝ていたんだね。流石に疲れてたのかな」

寝汗がびっしりと。みずはの顔を見た時に夢を思い出して瞬時に赤くなった。

夢の中の声。現実のこいつ。

恥ずかしそうに顔を背ける覇者の両手を後ろで纏め、手枷をした。

「貴様、仕事はいいのか」

「覇者りんの相手をしてない時は部屋で仕事してるよ」

心配しなくても大丈夫、とにこりと笑う。そのみずはが取り出したのは紫色の直径3センチはあるようなバイブだった。

奥歯ががちがちと鳴る。先程までの熱が一気に冷えていく。

「そんなに怖がらなくても。みずはのものに比べたら小さいよ」

起き上がろうとする覇者にみずはがのしかかってきた。

「そのまま寝てていいよ」

下半身を丸裸にされ、みずはは「朝だしねぇ」と笑う。まさか先程の夢のせいだとは言えない。言える筈もない。

濡れてもいない入り口にいきなりバイブが入れられた。

「痛っ」

ずぶずぶと入っていく。ウィーンウィーンと機械音が響く。

「体の力抜かないと辛いのは覇者りんだよ?」

最奥まで入れられ、そのままスイッチを最大にされ。

「うわあああ」

バンドで抜けないように固定されて。外そうとしても手枷が邪魔で。

「あうっ・・・あう・・・あ・・・」

バイブの動きに覇者の腰が揺れる。

みずははデジカメを取り出し、バイブで悶えている覇者の顔や体や入れられている所を執拗に撮り続けた。

「写真は・・・や・・・やめ・・・はぁ・・・んんっ・・・」

「気持ちいいんでしょ?」

「ああ・・・うっ」

射精してもまだ動き続けるバイブ。ぐったりと生気を失ったようになる覇者。

デジカメを床に置くと、みずははまた勃起し始めた覇者のものを足で踏んだ。

「ああっ・・・あふっ・・・」

ぐりぐりとペニスを足で踏まれても快楽だけが次々と増して。

「まだ出そうだね」

「やっ・・・」

ペニスを踏まれて痛い筈なのに。全て快楽に変わっていって。

「ふあっ・・・もう・・・出・・・うんっ・・・」

二度目の放出はみずはの足に踏まれたままだった。

「もう、いいからこれ外せ」

「あーあ、覇者りんのせいで足汚れちゃった。舐めるよね?」

ベッドにみずはが座り、覇者の前に素足を伸ばす。覇者はにじり寄り白濁の液をぺちゃぺちゃと舐めていた。

「可愛い」

くす、と笑ってみずはは覇者の髪を撫でる。

「ほんといい子だね、覇者りん」

覇者はどろりとした目でみずはがバイブを取るのをじっと見ていた。

分泌液に塗れたバイブ。

「これで二回いったんだよ?しかも一回はみずはの足に踏まれて」

「口の中が気持ち悪い」

そんな言葉しか出ない。

「だから?」

「貴様は・・・自分自身の精液なぞ舐めた事もないだろう」

「あるよ。何度も」

サディスティックな笑みでそう言う。何も反論出来ない。

「分かったよ。水用意してやるから」

覇者の手枷をはめられたままでみずはは出て行った。覇者は自身のしなびたものを見ていた。


皿に入れられている水。依然としてつけられたままの手枷。

「どうやって水を飲めと」

「まだ分からないの?」

みずはは覇者の体をベッドから押した。床に転がる覇者。

「ふざけるなよ?」

「飲みたくないならいいよ。そのままでいたら?あ、そうそう。お腹空いてない?」

「さっさと手首のもの外せ」

「まだ分からないかなぁ。ギブアンドテイクって言葉知ってるよね?覇者りんがみずはに一つ願い事をするなら、みずはのお願いも聞かないとね」

「これ以上何をしようというんだ」

「簡単だよ。みずはのものが欲しいって言えばいいんだよ」

「誰が・・・」

「あっそう。じゃあね」

「待て、行くな」

「そんなにみずはのものが欲しい?」

「いらない・・・けど・・・でも・・・」

「はっきりしろよ。みずはとしたいか、したくないか。それしか選択肢がないんだよ?今の覇者りんには」

「・・・」

覇者は手枷をつけられたまま床の皿に顔をつけ、水を飲んで嗽をして口の中のものをその皿に出した。

水の中には白い精液が浮かんでいた。

「今に自分から欲しいって言うようになるよ」

覇者の下着とズボンを上げ、笑う。覇者は濡れた下着が物凄く気持ち悪かった。

 

唯一の連絡手段の携帯電話。何度これを壊そうと思ったか分からない。壊してしまえばもう連絡が取れない。

オフが終わって二人きりになった時にみずはの言った言葉。

「もしかするとカナダからまた移動するかもしれないから」

それはいつだ。その時はここから出られるようになるのか。

本当にここから出るのを望んでいるのか?

みずはが関わってこないいつもの平凡な毎日を。

馬鹿な。我輩はホモじゃない。男にされるのなんて望んでいない。

冷たい床に横たわりながらあの強烈な快感をもう二度と忘れる事はないと思った。

嫌すぎる。

「食事持ってきたよ」

「手が痺れてきた」

「まぁそうだろうね」

全く意に返さない。

「これを付けられたままだと携帯で連絡が取れないんだが」

「別に服着たままで尿を出してもいいよ。汚れたら新しい服着せてあげるから」

「どうすればいいんだ」

冷たく笑う。

「分かるでしょ?もう」

「・・・そういえば貴様はカナダからもうじき出るような事を言っていたな」

「よく覚えてたね。本当は何年も相手してやりたいんだけど、覇者りん置き去りにして行くしかないんだよね。ま、体でも売って生活すれば?勿論パスポートとか覇者りんの荷物はぜーんぶみずはが向こうの仕事先に持っていくから」

滝のように流れる汗。そもそもここはカナダの何処なんだ?街まで何キロ離れているんだ?歩けというのか?

「靴と服ぐらいは置いてあげるから大丈夫。ここから出たかったんでしょ?」

「外の気温は?」

「マイナス20度」

あっさりと言う。

「貴様は友人だと思っていたのにな」

「さてと。そこにご飯置いておくから」

「行くな。・・・お前が欲しい・・・」

覇者はみずはの中心に口を寄せ、唇でジッパーを下ろして下着のものを咥えた。

じゅぶじゅぶと音がする。

「ん・・・んぅ・・・」

青臭い味。けれど、今一番頭によぎっている恐怖は

もし置いてけぼりにされたら。

唯一の手段の携帯電話でどうにかなるだろうか。そもそも助けを求めるにしてもここは何処だ。

こいつにすがるしかないのか。

こんなにも嫌いなのにこいつしか頼る相手がいないのが腹が立つ。

「上手くなったねぇ」

覇者はみずはのものから口を離した。屈辱感に塗れて。

覇者を全裸にさせ、覇者を後ろ向きにさせるとみずはが貫いた。

そこから蕩けるような感覚。

「ああ、あああああ」

体が非常に熱い。

「もっと、奥まで」

これは夢か現実か。

「出る時はイクって言うんだよ」

腰と腰がぶつかりあう音。

「ああ、いい、はぁん」

頭の中が真っ白になっていく。

「おねだりするの上手になったね」

にちゃにちゃとぶつかりあって。

「もっと、もっと欲し・・・もう、イク」

「みずはも、もう出そう」

「イク・・・イク・・・はああああんっ」

二人同時に発射した。ぐったりと床に崩れ落ちた覇者の手枷をみずはは外した。

「上出来だったよ、覇者りん」

「貴様なんか・・・嫌いで・・・」

「あれだけ乱れておいてよく言う。でもみずはのチンポは好きなんでしょ?」

何も答えない。

「素直になればいいのにね」

みずはは覇者の奥から出る精液をタオルで拭い、それから覇者の小さくなったものを拭いた。

「覇者りん、大好き」

虚空を見つめている覇者にキスをする。

貴様なんて嫌いだからな。

その言葉は最初の日に比べたらかなり空しく心に響いていた。

 

体の奥がじんじんと疼く。手で飯を掬ってその汚れた手は皿の中の水で洗う。

ひりひりとした手首の感触。この家に何日分の食料が置いてあるのだろう。

みずはがいなくなっても何日暮らせるのだろう。

薄ぼんやりとそんな事を考えていた。

 

体が痒いから風呂に入りたいと告げた。今度は首輪も鎖も無い。

今なら脱走出来る。こいつを叩きのめして。パスポートと現金を手に入れて。それでおさらばだ。

なのにこんなに力が入らないのは何故だ。

理由は分かっている。あれだけやられた後で力なんて残っているわけがない。いや、そうじゃなくその他に・・・。

覇者の思考を見透かすようにみずはが言った。

「覇者りんが壊れたらここから出してあげる」

全裸で風呂場まで歩かされるのももう慣れた。そして風呂場で用をたすのも。

もう壊れているかもしれない。

「可哀想だからね」

そんな残酷な笑みで言われても本当に可哀想だと思われているのかさえ分からない。

頭の芯が蕩けるようなキス。何も言われてないのに覇者から舌を絡めていく。

綺麗になった覇者の体を舐めまわしていく。

「はん・・・はふん」

「乳首感じるの?やらしい」

熱に潤んだ目。欲情する体。欲しがる心。

「はんっ・・・そこいい・・・もっと・・・して・・・」

「エロいね」

蕾に入れられた指の数が増えていく。覇者は体をくねりながらみずはを誘っている。

覇者の先端からどろりとした液が出た。

「気持ちいい・・・」

「みずはの事、嫌いなんでしょ」

「き・・・嫌い・・・だけど・・・止め・・・止めないでくれ・・・」

「本当に嫌っているかどうか疑問だよね」

「指だけじゃなくって・・・もっと太いのが・・・」

「淫乱」

「誰のせいで・・・」

体中にびっしりと汗が浮き上がる。覇者は浴槽の縁に両手を置き、みずはの方に尻を突き出した。

「早くしろ・・・欲しいんだ・・・お前が・・・」

「だんだん分かってきたじゃない」

待ち焦がれている。膨張したものを持て余している。

楔を打ち込まれて覇者は大きく鳴いた。

「いい・・・いいっ・・・何で・・・こんな・・・」

「こんな感じるのかって?」

「貴様なんかに・・・あふっ・・・溢れるっ・・・」

よがっている覇者からみずはは抜いた。きょとんとした顔でみずはを見る覇者。

「覇者りんの顔を見ながらしたいな。どうせなら」

言われるがままに風呂に入る。体のねばねばが風呂の水で流される。

風呂の中で再度向かい合っていれられた。二人が動く度にばしゃばしゃと水が跳ねる。

「はぁ・・・はぁ・・・いい・・・いいよぉ・・・」

泣きそうな顔で腰をどんどん動かしている。

「やっぱりいいね。この顔」

「イク・・・もうイク・・・」

「いいよ。一緒にいこう」

「はぁん・・・あーっ」

覇者が放出したものが湯に浮かんだ。ぐったりしている覇者の口にみずはは自身の精液を注いだ。覇者はそれを飲み干した。唇の端から精液が少し垂れて。

「美味しい?」

こくこくと頷く覇者。

「そう、よかったね」

「もっと・・・しよう・・・」

みずはの唇に覇者が合わせる。舌を入れて吸い尽くすようにかき回す。みずはは覇者の唇から離れ、冷たい目で見下した。

「ねえ、覇者りん。何を企んでいるの?そんなに良かった?本当はみずはをぶっとばして現金とパスポート奪ってここから逃げたいと思っているんでしょ」

「本当に・・・したいんだ・・・したくてしたくてたまらないんだ・・・だから・・・」

脳みそがゆるやかに溶け出して。思考が麻痺していって。する事しか考えられなくなって。

「ここが何処か分からないから。逃げ場ないから。みずはがいないと日本に帰れないから。従順なふりしているだけでしょ、本当は」

「違う」

「みずはの事、嫌いじゃなかったの?」

「早く入れてかきまわしてくれ。欲しいんだ、本当に」

「さよなら」

一人取り残された覇者はその場で自身のものを弄んでいた。

 

「ほら、覇者りんの財布とパスポート。欲しかったんでしょ?」

赤い首輪を付けられ、地下室から出された覇者が見たのは初日に本当に欲しがっていた品物。

「あと携帯。それと日本大使館の番号もそこにメモしてるから。行きたければ何処にでも行けばいいよ」

「いらない。お前とずっといたい。側に置いてほしい。頼むから一人にしないでくれ。何でもするから。犬にでもなるから。何でも言う事聞くから」

「どうしたんだよ。みずはの事、嫌いなんでしょ?」

「好きなんだ。お前にされるのが。我輩の頭の中にはもうお前とする事以外何もないんだ」

「本当に何をされてもいいの?」

「だから・・・」

覇者は薄く笑みを浮かべて服を脱ぎ始めた。

「少し目を覚ました方がいいんじゃない?」

みずはが持ってきたのは乗馬鞭。そしてバイブ。覇者はバイブを取ると穴を指でかき回してバイブを埋め込み、スイッチを入れ出し入れし始めた。

「最低」

バイブでよがっている覇者の体に次々と鞭が降り下ろされる。その度に「ひっ」と体を捩じらせて鞭から逃れようとするが、あくまでバイブを出し入れしている手と自身のものを扱いている手は止めなかった。

もう何度達しただろう。全身に鞭で出来たみみず腫れの痕を残し、ぐったりと倒れていた。ぐったりと疲れきった体で恍惚の笑みを浮かべながら。

「そろそろカナダから出なくちゃ。この家は一ヶ月契約にしてるから。楽しかったよ。好きだったよ」

「我輩はみずはが好きだ」

「別にいいよ、もう。飽きたの。バイバイ」

取り残された覇者は死骸のようにそこに横たわっていた。

 

みずはがいない毎日。望んでいた日。腹が減ると冷蔵庫から食料を出して何かを食べ、無表情な顔で風呂に入り、排泄をした。

欲望が溜まるとバイブを使い、欲望が排出されるとバイブを洗った。

この家から出る気持ちは微塵もなかった。

ただ、只管みずはを待ち続けていた。

嫌いだという気持ちはとうに消え失せていた。

携帯電話が鳴ったのは久しぶりだ。みずは以外の人間の声。覇者はそれを切った。

みずはに何度も電話した。会いたいという言葉は忙しいからの一言で全て打ち消された。

 

「まだいたの」

覇者は答えない。何も反応しない。

「そろそろこの家の期限も切れる頃だから」

もう会いたいという電話もしなくなった。

「聞いてる?」

覇者は動かない。

「みずはが欲しいんでしょ?」

「・・・」

「会いたかったんでしょ?」

「・・・」

みずはは覇者の体に服を着させ、外の車に乗せた。

助手席の覇者は窓の景色に目を向けていたが、本当にその目に映っているのかどうかは謎だった。

 

精神病院に入れられた覇者は鉄格子の外から窓を見ている。英語が飛び交う部屋。覇者は看護婦の言われるがままに行動するだけで、後は寝ているか起きて窓の外を見ているだけだ。たまにみずはが見舞いに来ても何も反応しない。

「みずはがいないと何も出来ないんだね」

「・・・」

「日本に帰りたい?」

「・・・」

「また来るよ。好きだよ、覇者りん」

 

季節は秋から冬に変わろうとしていた。

 

 

<END>

 

 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!