総帥の部屋。マジック総帥の気分によってこうして呼ばれる。シンタローは服を脱いで横になりながら、またこんな夜が始まるのかとそう思っていた。

総帥の、命令。ここに来なかったらマジック総帥の方からシンタローの部屋に来る。自分の部屋を汚されるのは嫌だった。

──ああ、まただ。半裸のマジックの手にはよく切れるナイフ。死ぬ事はないけれど、痛みには慣れない。他の野郎が血塗れになるよりいいか。そんな感情が起こる。

「愛しているよ」

ナイフで肉を裂かれる。シンタローは絶対に痛いとか、止めてくれとは言わない。

「シンちゃんの顔だけは傷つけないよ。綺麗な顔してるからね」

赤く染まった手を頬になすりつけてにっこりと笑う。その顔に唾を吐いた。

「まだよく分かってないみたいだね」

その拳を腹に思いっきり打ち込まれて。血反吐と胃液を吐き散らす。その隙にマジックはシンタローの後ろに回って手枷をした。

「・・・くっ」

「ほら、これで眼魔砲も出来ないでしょ?」

「はなからする気ねえよ」

再びナイフでざっくりと切られる。血がぼたぼたとシーツを濡らす。

「くっ」

その血を潤滑油にして後ろの穴に指を入れられる。血を失っていく感覚。

「ああ・・・」

そのまま突っ込まれて。かき回されて。気絶する度に殴られて。

「夜も更けるから帰っていいよ」

反吐が出そうだった。

 

なんとかガンマ団支給の服を着てよろよろとその血生臭い部屋を後にする。二度と来るかと思いつつも他の奴がこんな目に合うのも嫌だった。

(ティラミスとかチョコレートロマンスとかされそうだしなぁ)

 

自分の部屋で服を脱いで横になる。血と内出血で変色する体。内線でアラシヤマを呼んでそのまままた意識を失った。

「またこっぴどくやられましたなぁ」

呆れた様に言う。シンタローは薄く目を開けて治療道具一式を持ってきたアラシヤマを見ている。この光景も見慣れたもので。シンタローはアラシヤマ以外の人間に治療をさせようとしない。これがアラシヤマでなくグンマ辺りだと傷付いているシンタローよりも辛そうな顔でぼろぼろと泣くだろう。

アラシヤマはシンタローの血をタオルで拭っていた。淡々と。無言の時間の中でアラシヤマが口を開いた。

「なして、愛してるのに傷つけるんでっしゃろなぁ」

消毒液を綿で浸しピンセットで摘んでシンタローの傷口に当てながら「染みますえ?」と聞く。

「・・・いや」

滲む血を黙々と拭うアラシヤマ。その綺麗な顔に特別な感情がわく事も無い。可哀相だとか辛いだろうとかそんな感情を持たれるぐらいなら一人で痛みに耐えながらいる方がましだ。

──っか、ほんとに愛してるんかね・・・クソ親父」

「わてはそんな事はせぇへんよ」

「お前は俺を愛してるんだろ?」

確認する口調。そんな相手じゃないとそもそもこんな事はさせない。

「わてが愛してるのはあんさんだけどす。・・・ほな、後は自分でやりなはれ」

「下の方は綺麗にしてくれんの?」

挑発する口調。こんな事はいつもの事だ。

「そこまで悪趣味じゃおまへん」

こんな返事もいつもの事。そんな言葉の繰り返し。

「お前は俺を見て抱きたいとか思わんの?」

「何、阿呆な事言うてはりますのん」

アラシヤマの喉がぐびりと鳴った。結局、欲情してるんじゃねえか。

「散々やられた後だから抵抗する力もないぜ」

自嘲したように、笑う。

「愛してるんだろ?──俺を」

アラシヤマに近付き、口付けをする。ああ、口の中が血塗れで気持ち悪いな。

「何しなはりますのん」

真っ赤な顔をしてシンタローから離れる。その反応が楽しい。

「悪ぃ、さっき血ぃ吐いたから変な味しただろ」

「そんな事を言うてはるんじゃおまへん。消毒終わりましたんえ、ほなわては帰らせてもらいます」

「親父に何度も中に出されてすげえ気持ち悪いんだわ、今」

出血は止まっても内部からだらだらと流れる精液。シャワーを浴びたら傷口に染みるだろう。

「・・・あんさんは“悪い”とかわてに言わへんでもいいどす。シンタローはんを好きでなければなしてこんなとこ来るん。それこそ言わなくても分かるでっしゃろ。わてかて他の輩にあんはんのそんな姿を見せるのは耐えられまへんよ」

じっとりとした目で、その細い指でシンタローの傍に寄ってマジックの出したものを全部かき出すように指を動かす。

「ああ・・・くぅ・・・」

「痛いどすか?」

「お前の手つきが気持ちよくてさ」

「わての理性を崩すつもりはるか?」

「分かるだろ?・・・誘ってるんだよ」

ぐちゅぐちゅといやらしい音が響く部屋。あくまでも平静な顔のアラシヤマ。

「そんな手には」

「じゃ何でこんなに勃ってるわけ?」

シンタローの手がアラシヤマの中心に服の上から触れる。無表情な顔がまた赤くなった。

(おもしれーな、こいつ)

「好いてるお人にこんな事しててどうにもならない方がおかしいどす。あんさん、わてがどれだけ顔に出さないように努力してはるか全然分かってないどっしゃろ」

「っつーかさ、何で我慢してるんだよ」

「それは・・・あんはんはマジック総帥を」

アラシヤマが言い終える前にシンタローはアラシヤマの襟首を掴んだ。

「俺だって好きで抱かれてるわけじゃねえよ。マゾじゃあるまいし、こんなに体ずたぼろにされたくねえんだよ。俺の他にこんな目にあって使い物になんなくなったら困るだろうが。だいたいこんな姿他の誰にも見せたくねえんだよ。お前だから・・・、すまん。口が過ぎた」

「謝んといて。シンタローはん・・・抱いてもいいどすか?」

「んな、辛そうな顔するなよ。ずっと抱きたかったんだろ?」

襟首から手を離した時「すんまへん」と一言だけ謝った。

 

夜明けの光が差し込む部屋で、アラシヤマは時間をかけてゆっくりとシンタローの傷口を癒すように舐める。シンタローは何も言わずさせたいままにさせていた。

「ずっと・・・したかったんどす・・・わては・・・」

シンタローの陰茎を扱き、もう片方の手で体中を弄る。

「お前さぁ、ガンマ団入ってから他の奴と寝た?」

「任務で」

「じゃなくって、団員と」

「性欲ぐらい自分で処理出来ますえ」

「ふぅーん。愛撫はもういいからさ、お前も服脱いだら?」

「・・・」

すらりとしているのに筋肉質な体。体の中心の先端からはやはり透明な蜜が零れていた。

「先走りの液だらだら流してるんじゃねえよ」

「すんまへん」

「謝んなよ。俺もこうだからさ」

アラシヤマがくすりと笑う。そういえばこいつの笑った顔今日は初めてだなと思った。

シンタローは「顔が見れる方がいいだろ?」と笑いながら足をM字型に開く。

「その格好、辛くおまへん?」

「このまま放置される方が辛いっての。いいから来い。あのなぁ、俺が男を誘うのは初めてなんだからな」

「わては三国一の果報者ですわ」

アラシヤマがシンタローに口付けして、そのまま正面からゆっくりと挿入した。

「もっと奥まで挿れろよ」

ずっ、と更に深く楔を打ち込まれる。

「はぁ・・・はぁ・・・」

(この時だけは・・・わての・・・わてだけの・・・)

二人の息遣いがシンクロする。シンタローの長い髪と口から漏れる嗚咽。

こんな表情を総帥がいつも見てるかと思うと憎らしくも、恨めしくもなる。

シンタローの両腕がアラシヤマの背に絡まってきた。

「わりぃ・・・もう出そう・・・んっ」

喉の奥で鳴いて、シンタローは放出した。その締め付けにアラシヤマも思わず出そうになったが、シンタローの中奥から自身を出すとティッシュに包んで放出して精液のついたものは塵箱に捨てた。

そしてシンタローはぐったりと横になっていて、シンタローの腹にこびりついたものを綺麗に拭き取る。

「別に俺の中に出しても良かったのに」

シーツに横になっているシンタローと、もう服を着ているアラシヤマ。

「いいんどす。・・・これで晴れて両思いになったんどすなぁ」

「俺がいつお前の事を好きだって言ったよ」

「冗談どす」

「悪趣味。普通やった後はベッドの中でピロートークとかするもんじゃねえの?」

「少し眠りなはれ。これ以上期待持たせるような事を言わはったら、わてはほんまに玉砕覚悟で総帥に喧嘩ふっかけますわ」

「俺は寝るからさっさと帰れ」

「ほんまに、自己中心なお人やなぁ。愛してます」

「また、呼ぶよ。傷治してもらいに」

 

またな。そんな言葉と共に扉が閉められた。その後、シンタローは泥のように眠った。

(わては世界一の幸せもんで、世界一の不幸もんどすなぁ)

 “何であんなお人好きになってしまったんはろ”と少し疲れた顔で自室から見る朝の光を浴びながら窓の縁に頬をついていた。

 

 

そしてまた、二人の長い夜が始まる。

 

<終>

 

 

 

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