頭の中にいつも虫がいるようだ。
ギヂギヂギヂギヂ
そいつは厭な音を出して我輩の脳髄を支配する。
ギヂギヂギヂギヂ
気にいらない。我輩の肉体は頭の先から足の先まで全部我輩のものだ。誰だ、我輩の中に侵入してくる奴は。
ギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂ
医者の薬を飲んでも飲まなくても同じなのが腹立たしい。
「同化してしまえればいいのにね」
奴が言った言葉。口元だけで笑っている。口元しか思い出せない。その薄い唇が紡ぎ出す言葉。それは言霊となって我輩に侵入する。
あの厭な虫はこいつの前には出てこない。
すっとその指先が我輩の心臓の上で停止する。肉と肋骨に覆われた生命活動を維持する為のもの。
いつも思う。その指が突き破って心臓にまで達しないかと。
ドクン
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン
ぐにゅりと指が皮膚を突き破ればいい。
何処もかしこも脂肪と骨に覆われている。男性器以外は。
そこに指を立てられて指が侵入していっても死なないだろうか。
直接的なイメージを喚起するのはやはり脳髄と心臓だ。髪の毛を掴まれている時も、そのまま頭皮から指が侵入して我輩の脳味噌を掻き回すイメージをする。
ギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂ
また現実に戻る。現実では奴は忘年会で忙しいらしい。我輩は完全にそんなのとは無縁の場所で脳髄の中を動き回る虫の羽音を聞いている。
ギヂギヂギヂギヂ
両手で頭を押えつける。指先にありったけの力を込めて頭部に指を侵入しようとしてもやはり固い殻を突き破らない。
「俺達はね、元は同じ人間だったんだよ。これだけ正反対なのにこんなに一緒になりたいと願うのは、お前が俺の半身だからだよ」
だから我輩の指では不可能でも奴の指なら突き破るイメージがあるんだろう。
頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い
ギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂ
分け離れてしまった分身ならもしかするとまた同化出来るかもしれない。
馬鹿な事を思う。
「死にたいの?」
また笑う声がする。薄く赤い唇が笑みの形に広がって。
「ねえ、死にたいの?」
「死にたいの?」
ギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂ
「ああ」
「じゃあ殺してあげる」
音が、止んだ。