某都内にあるテキスト学園。その一室、医務室の中で覇者りん理事長は相変わらず頭痛や胃痛に苛まれてベッドで横になっていた。学園の中で理事長が一番体が弱いのも考え物である。
それはともかく、保健医の宇佐教授は理事長の熱を計った後こう言った。
「熱は無いようですね。原因はストレスではないかと」
「・・・思い当たる節がありすぎて嫌になるな。だいたい何故この学園はホモばかりなんだとか、まともな人間の比率が少ないとかあいつとかあいつとか」
理事長が完全に自虐モードに入ったので宇佐教授は肩を竦めて「抗鬱剤飲んだ方がいいですよ」と忠告した。
「ああ、そういえば飲み忘れたな。取ってきてくれないか?」
「副理事長を選んで病院に入院している間、代りに運営してもらうのはどうです?」
「・・・一度入院したら出られなくなりそうだが。考えておく」
教授は薬を取りに部屋から出て行った。覇者りんは日が燦燦と降り注ぐ保健室で眠りに入ろうとした。
数分後、ノックの音。覇者りんがちらっと目を開けるとそこには体育教師兄貴がいた。
「・・・兄貴?」
一番医務室に縁の無い人物が入ってきたからいぶかしがるのも無理はない。
「いや、理事長室に行ったら宇佐教授が倒れてましてね。これは何かあっただろうと」
「倒れた?救急車は?」
「保険医が倒れたと外部に知られては大事になるでしょう。多分過労ではないかと」
覇者りんは溜め息を吐きながら「人の事言えるのかあの教授」と漏らした。
「この学園は医療に関しては最新設備が整っているからな。(テキスト学園)女学院の(保険医)ikuko先生を呼んだらどうだ」
「既に手配してます」
「・・・この学園は兄貴以外体の弱い奴ばかりだな。最近の若者は外に出歩かないでインターネットばっかりやっているから体がなまって」
「そういう貴兄はまだ20代でしょう」
「もう30だ」
「それでも若い」
「病人が多いから医務室だけは医療の最新設備を整えたがな、根本的な解決策にはなってない気がする」
「たまには休んだらどうですか?」
「それは教授にも言われたな。・・・となると我輩の代理を勤まりそうなのはみずはだけか。あの男に学園を運営させると数日でとんでもない事になりそうだが。他人に対する外交術に関しては右に出るものがいないからな」
「貴兄の頭の中はみずはだけなんですね」
「・・・・・・」
無意識にみずはの名前を出してしまった事にげんなりしながら覇者りんは兄貴に言った。
「宇佐教授が倒れているなら貴方が代わりに薬を取ってきてくれないか?我輩の机の引き出しに入っているから。睡眠薬が無いと眠れないのも困ったものだな」
「取りには行きません」
「・・・確かに薬に頼るのは体に悪いのは分かっている」
「そうではなく」
兄貴は口元だけで笑うと医務室の部屋の鍵を閉めた。途端に覇者りんが怯えた表情になる。それというのも兄貴は学園の生徒を何人も手にかけた噂が広がっていて、本人も否定しない猛者だからだ。
覇者りんは慌ててベッドから起きると窓の外を見た。三階。体力で兄貴に勝てる訳がない。なら・・・
覇者りんが窓を開けようとした時、後ろにいる兄貴に軽々と体を掴まれてベッドに戻された。
「危ないですね。いきなり自殺衝動ですか?」
これから起こる事を予測してそのまま飛び降りていた方がマシだったと思っていたら逃げようとしたところを押さえつけられた。
「何を怖がっているんです?」
「我輩が怖がるなど。・・・理事長にこんな事して許されると思っているのか」
背中から寒気が襲ってくる。間違いなくやばい。
「大丈夫ですよ。鍵が閉まっているのに気付いた誰かが鍵を開けるまでの間ですから」
びりっと音がして上着を引き千切られて無駄な抵抗だと知りつつも兄貴を押しのけようとした。
「止めろ」
「そんなに嫌ですか?別に男の相手をした事が無い訳じゃないでしょう?」
兄貴が覇者りんの素肌に触る。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
「何で我輩だ!貴方を慕っている人間なら幾らでもいるだろう。わざわざ好きでもない奴の相手をしなくても!」
「そんなに大声で叫ぶと外に聞こえますよ」
「聞こえるように言ってるんだ!」
「見られてもいいんですか?・・・みずはに」
その名前を出されて覇者りんはびくっと体を強張らせた。既に泣きそうな表情になっている。
「あいつにだけは知られたくない」
「だったら大人しくしているんですね。なぁに、私が満足したら帰りますよ」
「とっととやれ。そして帰れ」
「そんなに好きなんですか?あんな、夜中に理事長室に忍び込んで蝋人形に手持ちの衣装を着せて遊んでいるような奴が」
「・・・夜中に何をやってるんだあいつは。それに夜中だと学園中鍵が閉まってるだろう」
「複製のキーはひと揃え持っていると自慢してましたよ」
あいつにとっては蝋人形のオブジェも単なるマネキンにしか映らないんだろうか。意識がそっちに及んだ時、兄貴に唇を塞がれた。覇者りんは思いっきり侵入してきた舌を噛んだ。口腔内に広がる血の味。覇者りんはその血を吐き出した。
「凄い目で睨みますねぇ」
「喋れないぐらい噛みきってやればよかった」
完全に敵視の表情をして冷たい目で見る覇者りん。兄貴は口から滴る血を拭いながら獰猛な笑みをした。
「その顔ですよ。私を慕ってくる、私に犯されたがっている輩をやっても詰まらないでしょう。嫌がる相手だからこそ面白いんですよ」
「貴様は友人だと思っていたがな」
「みずはの事だって最初は友人だと思っていたんでしょう?」
「奴の名は出すな」
「私がそのまま触っても感じないようですから、どうせなら奴の顔を浮かべながらしてはどうですか?」
「ふざけるな」
「嫌なら目を閉じていればいい。痛みなどそのうち慣れる」
抵抗も空しく、全裸にされた覇者りんは獣の前のひ弱な獲物にしか見えなかった。ぎりぎりと噛み締める唇から血の味が広がっていく。
「そんなに嫌ですか?」
「我輩にした事、後悔させてやる」
「口ではそう言ってても自分から求めるようになりますよ。みずはがそうだったように」
「・・・あいつが・・・」
「顔が青くなってますよ。貴兄がみずはに目を付けられる前はあいつは私と遊ぶのを好んでいた。今となっては何を思ってあいつが私の元を離れて貴兄に近付いたのかは分かりませんが・・・大方、その地位にあやかろうと」
もう兄貴の言葉も耳に響いてこない。覇者りんは虚ろな目でみずはが・・・と呟く。頭の中がぐわんぐわんと反響する。
「嫌だ・・・」
「昔の話ですよ」
「それでも嫌だ・・・もういい、沢山だ」
「そんなに好きなんですか?」
覇者りんはそっぽを向いた。もう抵抗する力を失ったようだ。
「他愛も無い。もっと楽しんだらどうです?あいつのように」
そしてそのまま目を閉じる。今を見ないように。
「抵抗しない奴をやっても詰まらないんですがね。優しくしますよ。痛みを感じなくなるまで」
執拗に兄貴の手が全身をまさぐる。何も感じない。嫌悪感だけが積もる。みずはに会って問い詰めたい思いと、会いたくない思いが交差していた。体は寒くて・・・熱い。触られても舐められても気持ち悪さしか感じない。この時間が早く過ぎればいいとそれだけを願っていた。
「もしかして不感症ですか?セックスに気持ち良さを感じないなら奴とやっても楽しくないでしょう」
「あいつの事は口に出すな。誰にでも感じさせられると思うなら大間違いだ」
「奴は感じやすくて」
覇者りんが素早く上半身を起こして兄貴に殴りかかったが、その手を受け止められ、両肩を押さえつけられそのまま横にならされた。
「まだそんな力が残っていたんですか」
「我輩をいたぶってそんなに楽しいか?貴様が奴と昔どうだったのかもう知った事ではない!やるならとっととやれ!そして我輩の前に二度と姿を見せるな!吐き気がする!」
「そんなに大声を出したら外に聞こえますよ。もう聞こえてるんですかね。多分部屋の外では大勢の生徒が聞き耳を立ててますよ。・・・あれの何処がいいんです?」
「少なくても貴様よりはましだ」
「終わるまで部屋の外で聞き耳を立てて聞いているかもしれませんよ。奴はそういう人間だ。貴兄が奴をどう過剰評価してるかは知りませんがね、あいつが貴兄だけで満足するわけがない」
「もう一度殴られたいか?」
「出来ない癖に。でも暴れられてそのまま入院されたら当分会えなくなりますからね。ではこうしましょうか」
兄貴が背広のネクタイを取ると、覇者りんの両手首を掴んでそれでがっちり縛った。
「外せ」
「自分から求めてくるようになったら外してあげますよ」
体を捻って何とか逃れようとする。
「頼む、助けてくれ」
「それが人に物を頼む時の態度ですか?いい加減素直になったらどうです。私は慣れていますから苦痛を与えないと先ほどから言っているでしょう。・・・それとも、教授のように気絶したいですか?」
「・・・何?」
「上段回し蹴りでこめかみをちょっと。生徒もひ弱ですけど、教師も少し鍛えないと駄目なんじゃないですか?私と互角に渡り合えるのは警備部長ぐらいしかいないでしょう」
「貴様・・・っ、暴力で・・・」
「どうせ貴兄の事だ、表沙汰にはしないんでしょう?」
心底目の前の人物にぞっとした。兄貴の力でこめかみを蹴られたら脳震盪ぐらいは起こしているかもしれない。
「警察に通報したらどうするつもりだ。貴様だけの問題ではなくなるんだぞ」
「彼も分かっている筈ですよ。私に危害が及びそうならその身がどうなるか。自分が可愛ければ警察など呼べやしない。大丈夫ですよ、みずはに頼んで女学院のikuko先生を呼ぶように伝えましたから。今頃は二人で面倒を見ているでしょうね」
「そういうからくりか」
「だから彼は当分来ない。彼にはね”教授が何者かに襲われた”と伝えておきましたよ」
「自分でやっておいて・・・よくも」
「先程のようなやる気の無い表情よりやはりこういう顔の方がいいですね。憎しみに満ちていて。私にそんな顔をする人間はこの学園には1人もいないですからね」
「だいたい男同士でこんな事をしてるのが間違っている。そう思わないか」
「思いませんね。これも一つの愛の形でしょう」
「そういう言葉は我輩を自由にしてからにしろ。他人を暴力でどうこうする奴が愛だのなんだの口にするな。虫唾が走る」
「あまり我侭言うようでしたら貴兄の腹を殴って気絶させますよ?」
「そうしてくれ。何ならクロロフォルムで我輩の意識を消滅させてもいい」
「人の願いを聞き入れる程出来た人間じゃないのでね。このまま続けますか」
兄貴が服を脱ぎ出す。覇者りんはその隙に窓際に寄ってその縛られている両手首で窓を突き破ろうとした。何度か窓を叩くうちに窓ガラスがガシャーンと音がして割れた。血塗れになった手首を縛っているネクタイを何とか割れたガラスの破片で切ろうとする。下着だけになった兄貴が窓際の覇者りんを両手で軽々と持ち上げ、ベッドに投げた。
「ぐっ」
「手にガラスの破片が刺さってますよ。痛くないんですか?」
「3階とはいえ、窓ガラスが割れていたら誰かが気付くだろう。そして保健室に鍵がかかっているのが分かる。後は鍵を持っている奴が開ければいいだけだ」
痛みで脂汗が滲んでくる。ネクタイは血の色に染まってもう使い物にならない。
「理事長のイイ声がこれで外にも聞こえるわけですか」
「奴は複製のキーはひと揃え持っているらしいな。だったら当然この部屋の鍵も持っているだろう?」
手首から血をどくどく出しながら覇者りんが不敵に笑った。
「その前に出血多量で死ぬかもしれないとか考えないんですか。動脈切れていたらどうするつもりです?」
覇者りんは血の気の失った顔で「いっそこのまま殺してくれ」と小さく言った。
「どうやら動脈まではいってないようですね。ならじきに乾きますよ。それにしても無茶をする」
兄貴が突き刺さったガラスの破片を一つずつピンセットで抜いていく。その度に覇者りんはうめいていた。
「どうせならこの血を利用しますか」
出血により意識が持ってかれそうになった時、後ろの孔に何かが塗られる感触がした。
「やだ・・・何をして・・・」
「男のここは慣れてないと濡れませんからね。手首から出ている血を塗っているんですよ。手首から血が幾らでも出てくるから潤滑油には困らない」
「触るな」
「血でべたべたでまるで処女みたいですよ」
叫ぼうとしても声にならない。ぴちゃぴちゃとおぞましい音が下の方から聞こえてくる。
「くっ・・・痛い・・・」
「力入れているからですよ」
こうなってしまった以上、どうすればいいのか分からない。吐き気は一段と増し、血の臭いと獣の臭いが混ざり合って酷い臭気になっている。吐き気がする時は吐いてしまえば楽になると分かっているのに、口からは唾液しか出てこない。体の内部で指が蠢くのが分かる。ある意味触手にも似て、人間以外の何かにまさぐられているようだ。そのまま両足をM字に開脚させられると、逃げる覇者りんの腰を引き寄せて少しずつ侵入していった。
「うわ、あ、ああ、あ」
がくがくと兄貴に引き寄せられるまま体が踊る。下肢からはまた新たな血が流れていった。
「どうやら充分にほぐれていなかったようですね。でも貴兄が早く終わらせるのを望んだんですよ」
「痛い、痛い、痛い、痛い・・・」
「どうやら中で切れたようですね。でもほら、そのおかげで出し入れがスムーズに」
「もうやだ、何も抵抗出来ずに、こんな、相手のなすがまま」
覇者りんは泣きそうになるのを堪えていた。もうこれ以上相手に弱みを見せたくない。
もう血とともに体中の力が抜けきっている。何ml流しただろうか。すっかりシーツは血の色に染まり、血が溜まった所はどす黒く変色している。
「感じないといつまでたっても辛いままですよ」
根元まで一気にいれられた時、喉が締め付けられる思いがした。
「うぐぁ」
「まさかこんな程度で意識を手放すつもりではないでしょうね」
まだ意識があるのが恨めしかった。快楽は一切無い。苦痛と圧迫感のみだ。息苦しくて叫ぼうとしてもその声そのものが嬌声じみたものになってしまう。
兄貴が腰を動かす度に体ががくがくと揺れる。もう自分の意思では動かない。口からは意味不明な言葉を吐きながら血と唾液と胃液が流れていくだけだ。
「そのまま失神すればいい」
血で溢れた中を腰を激しくぶつけて出し入れする。そして・・・内奥で兄貴のものが跳ねた。びくんびくんと放出し、入り口から血と共に白く濁った液が出てくる。覇者りんはそれをぼんやりと見ていた。
兄貴は濡らしたタオルで血を拭きながら「助けを呼んできますか」と言って出ていった。もう動く力も無くなった覇者りんは立ち去る姿を見ているしかなかった。
保健室の鍵が開く音がする。そこから慌てて来たのはみずはだった。
「どうしたんだよその傷!!」
「・・・・・・」
顔を背く事も出来ず、新たな血が流れるままにしている。みずはは縛られているどす黒くなったネクタイを外すとオキシドールで消毒した。
「宇佐教授は倒れてるし、兄貴からは覇者りんが保健室で自殺をはかったって」
「・・・・・・」
「窓ガラスで手首切るなんて無茶だよ」
「・・・・・・」
「どうして何も喋らないの?」
「どうせなら出血多量でそのまま死ねばよかったんだ」
「覇者りん・・・?」
「貴様が兄貴とそんな関係だったなどとは知らなかった。貴様は何が目的で我輩に近付いた」
「どうしたの?変だよ・・・何が・・・」
みずはは敢えて目を逸らしていた血塗れの下半身を見、そして絞ったタオルで丹念に拭いた。
「染みる?」
「多分中で切れてる。当分使い物にならない。・・・もうどうでもいいか、そんな事は」
抑揚の無い口調。壊れた人形のように静かに横になっている。
「・・・最初は学園を乗っ取る目的で近付いたけど、それも失敗して・・・そしてこの学園で働くうちに覇者りんの毅然とした所を好きになっていったんだ。俺にないものを全て持っている。冷静さ、その若さで理事長まで上り詰めた能力。・・・でもさ、人を好きになるのに理由はいらないでしょ。そりゃあ俺も昔は来るもの拒まずだったから色んな人と遊んだし、それに関しては後悔してない。でも今は覇者りんだけだよ」
「兄貴の手では全く感じなかった。痛みだけだった。もう充分慣れている体なのにな」
自嘲気味に笑うと、起きあがろうとしたが痛みに顔を顰めたのでみずははやんわりとその体を横たわらせた。
「俺が側にいる。兄貴は許せない。それに、ここに覇者りん1人にしておいたら死にそうなんだもん」
「授業はどうした」
「ボイコットする。覇者りんが死んだら兄貴をメッタ刺しに闇討ちしてそのまま俺も死ぬから」
「馬鹿げた事を」
「だって覇者りんのいない世界なんて生きてる価値ないよ。頼むから自殺とかするなよ、俺を死なせたくなかったら生きろ」
みずはは両手首に包帯を巻きながら覇者りんの目を見てそう言う。
「全く、敵わないな貴様には」
「あ、笑った」
「そんな所が兄貴が貴様を選んだ原因なんだろうな」
「兄貴は只の遊びだよ。だって俺が本気になったのって覇者りんだけだもん。俺、お前を守る為なら何でもするよ。俺だったら別に代わりに兄貴にされても」
「もう、いい。貴様が身代わりでも何でも兄貴とどうこうなるぐらいなら我輩が自殺した方が余程マシだ。頼むから、我輩以外の人間ともうそういう事はしないでくれ。触られている最中に何度も何度も兄貴が貴様をどうしたのか、そればっかり聞かされて気が狂いそうだった。いっその事狂えてしまえばどれだけいいかと思った。何でだ・・・何で我輩はこんなに弱くなってしまったんだ・・・貴様さえいなければ・・・貴様にさえ出会わなければ強くいられたのに・・・」
みずははその体をそっと抱き締めた。
「痛い?」
覇者りんは緩やかに泣いていた。その涙が安堵によるものなのか、絶望からなのか、痛みなのかは本人にも分からなかった。ただ、その体温だけが心地良かった。
その後。みずはが覇者りんに渡したのは二対のペンダントだった。トップに細工が仕組まれているらしい。
「これ、発信機になってるから何かあった時にトップを強く押せば相手のペンダントも光るようになってるから」
「服に隠れてたら分からないだろう」
「ふふ。そんな事は無いんだな。これ、結構凄く光るから服の中からでも光るんだよ」
「副作用は無いのか?」
「じゃあ首からスタンガンでもぶらさげておく?」
「・・・これでいい。それで、聞きたかったのだが貴様、夜中に厳重にロックしてある理事長室に忍び込んで蝋人形に着せ替えやってるんだってな」
「ああ、俺頭いいからあれ位の鍵はちょいちょい、と。衣装運ぶの兄貴にも手伝ってもらったし」
「聞きたくないが、兄貴に手伝ってもらう代わりに・・・」
「大丈夫、本命は覇者りんだから」
理事長室で覇者りんは兄貴への自宅謹慎の書類を書き終わると深い溜め息を吐いた。
「当分貴様には学園は任せられんな。問題がありすぎる。・・・我輩も何故このような男を気にしてしまうのか・・・」
書類にハンコを押し、いつものように机から抗鬱剤を取り出すと苦い顔をして黒豆茶で流し込んだ。
「好きだからでしょ?」
「今回で我輩は貴様への独占欲を嫌な程思い知った。・・・我輩に他に好きな奴が出来ればもうあんな思いをしなくても済むんだろうな。いっそ、誰も好きにならなければ」
「本気で言ってる?それ」
「そうしたら貴様が後追い自殺する事もないだろう?」
「覇者りんに他の相手が出来たら浮気してやる」
みずはが胸のペンダントをえいっと押すと覇者りんの体が発光した。
「何だこれはー!」
「うわぁこうなるのか。言っておくけどね、俺の独占欲は覇者りんの数倍強いんだからね」
「分かったから、この光はどうやったら消えるんだ?」
「放っておくとそのうち消えるんじゃない?」
「・・・こら」
全てに疲れた表情をして椅子に凭れ掛かる覇者りんに、みずはは「じゃあこの書類、兄貴に持っていくから」と伝えた。
「我輩はもう当分会いたくないから、代わりに殴ってこい」
「かわされると思うけど」
「クリスタルガラスの灰皿を投げつけるとか、何でもやり方あるだろう。全く、何でこんな学園に就任したんだろうなぁ」
「いいじゃん、俺に会えたんだから。体が治ったら・・・」
「いいからさっさと行け」
みずはが去った後でぼうっと部屋の蝋人形達を見ながら「辞めようかなこの仕事」と呟く理事長であった。
余談だが、宇佐教授は秘密裏に当分休暇を与えられ、その代理としてテキスト学園女学院のikuko先生が両方の学園の医務室を行ったり来たりしている。何故かikuko先生が就任してからというもの男子生徒の怪我が絶えなくなったが、それはまた別の話。ついでに理事長は暇があれば格闘技を習いに行っているらしい。
会議中に体が発光した時はやはり失敗したかなと後悔したが、それもまた後の祭りである。
<END>