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鏡を見るといつも死体が映っている。 着古した服。手入れをあまりしない顔。そして目が澱んだ…死体そのものの…顔。 ウィスキーグラスには半分ほど無くなった量のジンが。 何から逃げているんだろう。何に怯えているんだろう。 我輩が鏡を見てると鏡にもう一つ影が映った。 生きている顔が。しかしやはり人間と言うには程遠かった。 「何を…見ているの?」 「…死体…」 「死体?」 「…ああ」 その男は興味深そうに鏡を見る。そこには…我輩とその男しか映っていない。 「君は…生きているじゃないか」 我輩に背後から凭れながら哄う。 死体と、死人に近付いている人間。魔の領域にいる人間。それは…そう、もう人間とは言わないかもしれない。 ジンにまた口を付ける。氷は既に溶けてなくなっている。 鏡の中の我輩の目が…死んだ魚の目のようになった。 いや、元々からかもしれない。 |
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鏡を壊したいと何度思ったか分からない。只、その鏡はそこにあるまま曇った輝きを発している。 鏡が…いや、自分の顔が酷く嫌いだ。 生を楽しむ、死に属する人間と、生すらも楽しめない死に属する人間と。 いつも何もしていないのに疲れている。生きる事すら疲れている我輩を――背後の男は哄っている。 我輩は……鏡から目を逸らした。 鏡に映る自分の顔。そしてもう1人の顔。 目を閉じると我輩に凭れている感触だけが残る。 寝た方がいいよ。そう耳元で囁くので我輩はそのまま――床に身を預けた。 |
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鏡を壊したいと何度思ったか分からない。只、その鏡はそこにあるまま曇った輝きを発している。 鏡が…いや、自分の顔が酷く嫌いだ。 生を楽しむ、死に属する人間と、生すらも楽しめない死に属する人間と。 いつも何もしていないのに疲れている。生きる事すら疲れている我輩を――背後の男は哄っている。 我輩は……鏡から目を逸らした。 鏡に映る自分の顔。そしてもう1人の顔。 目を閉じると我輩に凭れている感触だけが残る。 寝た方がいいよ。そう耳元で囁くので我輩はそのまま――床に身を預けた。 |