親と同居している人間と女と同居している人間にとって愛し合う場所はホテル内でしかなくて。京都府内のホテルの一室、部屋の真ん中には白いダブルベッド。そういう部屋。それだけの部屋。
「なんか飲む?」
「ああ・・・お茶」
シャワーを浴びて白いバスローブに着替えた覇者りんが、同じく白いバスローブに着替えたみずはから冷えたお茶を受け取った。
「別に酒でもいいでしょ。でもここの酒ってあんまり種類無いね」
「別にここは酒を飲むのが目的でもないし・・・安いホテルでは仕方なかろう」
「ははっ、言えてる」
みずははベッドの上で赤ワインを飲みながら「やっぱ安物だね」と笑った。覇者りんはつまらなそうにホテルのテレビのチャンネルをいじくっている。
「やはりこういうのしか無いのか」
「しょうがないんじゃない?こういうホテルなんだからさ。ほら、一般の男女ってのはさ・・・そういうのを見て情欲をかき立てるものなんでしょ?そんなのはいいから、早くおいでよ」
「2時間のご休憩でもあるまいし、朝まで部屋を取っておいてそんなに急ぐ事も・・・」
「だってホテルでするのって久しぶりでしょ? 俺、こういうシュチュエーションに燃えるんだよね」
「・・・どこでしようとやる事は一緒だと思うが」
「分かってないなぁ。でもほら、俺のバスローブ姿を見れただけでも収穫でしょ?」
「我輩は貴様のような衣装趣味は無いから貴様がどんな服でも構わないけどな」
「ほんと、ムード無いなぁ。鬱病の人って性欲が無くなるらしいけど、覇者りんの病気が治ったらむちゃむちゃ俺とやりたがる人になったり」
「・・・医者に“いつ治るか分かりません”とまで言われてるのに早々簡単に治るか」
覇者りんは白いダブルベッドに腰掛けた。
「鬱病治ったらすげえ淫乱になったり」
「・・・なるか」
「俺以外の人間を誘うようになったり」
「そういう貴様は何だ。妻だの愛人だの恋人だの一般常識では考えられないぐらいの女をものにして我輩が他の誰かのものになったら嫌なのか」
「だって覇者りんは俺のものだけど、俺は覇者りんのものじゃないもん」
「・・・っつたくこの我侭な男は・・・」
「そういう我侭な男に惚れてるんでしょ?」
みずはは覇者りんに抱き着いてにこっと笑う。覇者りんは諦めたように力を抜いた。
「相変わらず軽いな。何か食ってるのか」
「そんな隅っこの方にいないでさ、こんなに大きなベッドなんだからもっと真ん中の方に行こうよ」
覇者りんはしぶしぶとベッドの真ん中の方に移動した。するりとバスローブを脱いで行くのを見てみずはは「エロチックだねぇ」と笑った。
「男が服を脱いだだけで何がそんなにエロだと思うか」
「だって好きな人が裸になる一瞬っていうの? 花も恥らう乙女ってやつ?」
「誰が乙女だ誰が」
「相変わらずいい体してるなぁ。最近は玄米食みたいだけど、どうやったらその体を維持出来るの?」
「・・・単に鬱病の薬の副作用で太っているだけだ」
「じゃあ俺も精神安定剤飲んだら太るかな?」
「貴様は今のままでいい」
「俺を気に入ってるって事?」
「よくもまぁ次から次へとそういう言葉が出てくるものだな。貴様は躁病の気でもあるんじゃないのか?」
「俺と付き合っっていったら明るくなるよ、そのうち」
「・・・男と付き合っているという時点で我輩はどっぷり暗くなるがな」
「そうかなぁ。俺にこれだけ愛されてて何が不満? 男で一番好きなのは覇者りんなのに」
「せめて“人間で一番好きなのは”ぐらいは」
「分かった。覇者りんが俺に対して毎日好きだとか愛してるとかお前がいないと生きていられないとか愛の言葉を囁くようになったら考えてもいい」
「恥ずかしくて言えるか、そんなの」
「でも俺とこうするのは好きなんでしょ?」
みずはは口付けをした。それから深いキスに変わる。舌が絡めあってキスが続く度覇者りんの息が荒くなっていくのが分かる。そして覇者りんは唇を離した。
「苦しい・・・」
「うぶだねぇ。ほら、鼻で呼吸をしなきゃ」
「してる。・・・けど、あんまりその・・・長いから」
かあっと顔を赤くした覇者りんの姿を見てみずはは獲物を狙う目をした。
「ほんと、いつになっても慣れてないなぁ。俺だけの・・・」
覇者りんは首筋を舐められると荒い息に喘ぎ声が混じっていった。
「もし我輩に彼女が出来たらどうする」
「そんなの、奪うだけだよ。その女の前でディープなキスをして・・・いや、でも俺ぐらいの魅力があればどんな女もいちころだからその女を奪うのもいいな」
覇者りんの目が霞みがかったようになっていく。
「彼氏とか・・・」
「絶対、出来ない。覇者りんが望んでいないもん。俺とするのさえ痛がる癖に、他の男なんてそれこそよだけが立つでしょ? 俺だから、俺相手だから男でもいいんであって、男が好きなわけじゃないんだよ。・・・でも覇者りんは人間そのものが好きなわけじゃないかもね」
「嫌いではない」
「嫌いじゃない、ってのと好きなのとは違うんだよ」
「貴様は人間が好きなのではなくて人間が着ている衣装が好きなんだろ?」
「そうそう。女は服を着て俺の前でファッションショーをやってればいいの。服着てなくても好きなのは覇者りんだけ」
覇者りんは熱に浮かされた目でみずはの頭を掴んだ。
「・・・首筋ばかり舐めてないで・・・他の所も・・・」
「注文多いなぁ。はは、触られてもいないのに乳首立ってる」
「うるさい。だいたい貴様は口数が多すぎ・・・はんっ」
みずはが乳首を口に含むと、覇者りんの体がびくりとのけぞった。
「うわぁ、弱っ」
「暑い・・・暑くて・・・体が・・・」
「俺は涼しいぐらいだけど」
「貴様ばかり・・・そんな・・・にして・・・」
「何言ってるか聞き取れないよ」
痛々しいぐらいにぷっくりと膨らんだ胸の果実をみずはは愛しそうに舐める。
「いいな、この反応。初めてした時と変わらないよ・・・」
覇者りんの方は既に声にもなってない。
「いいから、もう、やめ・・・やめてくれ」
みぞおちを触りながら意地悪な表情で「ほんとにやめてほしい?」とみずはは聞く。覇者りんはこくこくと頷いた。
「じゃあやめてあげる」
乳首をたっぷり弄った後、みずはは挑戦的な目つきで覇者りんを見つめた。覇者りんは荒い息がおさまらずにぐったりとベッドに沈んでいる。
「もうグロッキー? 体力つけた方がいいよ」
「・・・・・・」
覇者りんはベッドに体を預けたままじろっとみずはの方を見た。
「呼吸も収まってきたみたいだし、続きやろうか」
「まだやるのか?」
「止めてほしいならいいけど、折角朝までの料金払ってるのに勿体無いんじゃない?」
「・・・・・・・・・・続けろ」
「ん? 何?」
覇者りんは体を反転させて枕に顔を埋めた。
「聞こえないなぁー」
「とことん意地悪だな、貴様は。・・・貴様だけバスローブのままだし」
「意地悪な俺が好きな癖に」
「我輩はマゾか」
「違ったっけ?」
「絶対違う。断じて違う」
するっとバスローブが脱げる音が聞こえた気がした。
「ほら、愛してるって言いなさい」
「誰が言うか」
「じゃあ何でここに来たの? 何で俺に誘われても断らないの? 何で俺と付き合ってるの?」
背骨をなぞるようにみずはは舐めていく。覇者りんの腰がびくりと跳ねた。
「いちいち・・・質問するな・・・やるなら黙ってやれ・・・」
もう、覇者りんはみずはにされるがままだ。
「どっちが立場が上か分かってる? 自分から動きもしないで要求ばかりするのはどうかなぁ」
「だから・・・我輩はこんな事・・・しなくても・・・」
「声が泣きそう。好きだよ、そんな声も。感度よくて、最高。まだ肝心な所触ってないのに」
覇者りんの太い太腿を撫でるとまた腰が跳ねた。
「もう・・・そんな所ばかり・・・」
みずはは忍び笑いを漏らす。
「ねえ、覇者りん。お前が今どれくらい恥ずかしい言葉でどれくらい恥ずかしい仕草で俺を誘ってるか分かってるの? 無意識? だとしたらかなり天然だね。触られてもいないのに腰が動いてさ・・・ほら、してほしいんだろ? だったらそのお口で言いなさい」
「誰・・・が・・・」
「夜はたっぷりあるし、たっぷり愛してあげる」
「変態」
「その変態に体を触られていれてほしそうに腰が動いている覇者りんの方が変態だと思わない?」
「貴様というやつは・・・とことん・・・性根が悪い・・・」
「自覚してるよ」
また覇者りんを喋れないぐらい責めたてた後、みずはは正面を向いて体を起こして、とやんわりと命令した。火照った体でその言葉に従うと、覇者りんは目の前にあるみずはの体の中心に口を付けた。
「何をすればいいか分かってるじゃん」
覇者りんはそれには答えず、とりつかれたかのように眼前のものをしゃぶっていく。
「言うだけ言っておいて、ほんと好きなんだから」
目を閉じてそれを舐める事だけに集中する。裸なのに蒸し暑く感じる。
「上手くなったよねぇ。最初の頃なんて噛んでばっかりだったのに」
覇者りんは何も言わず(尤もこの状況では碌に話せないだろう)ひたすら大きくするだけに専念している。
「いいよ、もう」
覇者りんは虚ろな目で口から出されたそれを見ていた。
「さっきまでの威勢のよさは何処行ったのかなー?」
「何で・・・我輩はいつもこう・・・」
「認めなさい。俺が好きだからだって」
みずははローションを掌に取ると、覇者りんの後ろの孔に塗りたくった。
「冷たいっ」
「火照った体には丁度いいでしょ。真っ赤な顔して、茹蛸みたい」
「貴様はこんな時まで冗談ばっかり・・・」
後ろの孔を弄くられて指の本数が増える度覇者りんの体がびくびくと跳ねる。
「指だけでいっちゃう?」
「少しだま・・・はぁっ・・・」
「前立腺直接刺激した?」
「はぁ・・・はぁ・・・だから何でそんなに喋って・・・もう、いくから・・・だから・・・」
「だから、何? 女みたいに指だけでいかされるのが屈辱なんだ」
「もう、何でもいいから・・・言う事、聞くから、だから」
みずはが黙ったのでもう広いホテルの一室には指が出し入れされる淫猥な音しか聞こえない。覇者りんは完全に屹立している自分のものを握って扱き出した。その手をみずはは掴んで、横に下ろす。
「誰が勝手に触っていいって言ったの?」
「意地悪しないで・・・早く・・・いかせてくれ・・・頼むから・・・」
「泣きそうな顔して何言ってるの。俺の事別に好きでもない癖に」
「好きだから・・・嫌いだったらこんなとこ来ないし・・・貴様とこんな事しないし・・・だから・・・」
「切羽詰ってるねぇ。淫乱」
「もうどう言われてもいいから・・・さっさと・・・」
みずははくす、と笑って覇者りんの体から離れた。不思議そうな顔をする覇者りん。そしてみずははバスタオルを持ってきた。
「はい、バンザイ。いれてほしいんでしょ?」
操り人形のように覇者りんはその言葉に従い、両手を頭の上に伸ばす。みずははその手首を纏めてバスタオルで縛った。
「言う事聞いてくれたからご褒美にいれてあげる。これからも俺の都合のいい時に・・・分かってるよね?」
こくこくと覇者りんは頷き、おずおずと足を開いた。
「いい子いい子。俺の覇者りん。好きだよ。もう一蓮托生なんだよ。逃れられないんだよ、俺からは」
みずははコンドームをつけると緩やかに侵入した。咄嗟に覇者りんが顔を歪める。
「いつになったら慣れるんだろうね、ほんと」
そんな事を言いながら少しずつ体を進めていく。そのままの体制で覇者りんのものを扱き出した。
「ううっ・・・うっ・・・あぁ・・・」
みずはがすっかり自身をおさめた時、覇者りんは射精した。
「泣くほどよかった?」
「ほんと、うるさい・・・少し黙れ・・・」
みずはが黙って腰を動かしていると覇者りんの口から声にならない声が断続的に響いてきた。
「どっちがうるさいんだか・・・隣に聞こえるよ・・・」
「ああっ・・・やぁ・・・やめっ・・・」
「やめない」
「何でこんな・・・こんな格好して・・・我輩は・・・貴様なんかに・・・」
「その続きは?」
「手・・・ほどいてくれたら・・・言うから・・・」
「自分で触ったりしない?」
がくがくと首を動かして手首のバスタオルを外そうとする。
「いいから腰振ってなさい。外してあげるから」
みずはがバスタオルを外すと覇者りんはみずはの背中に両手を回した。
「自分から腰を動かすなんて・・・」
くすくすと意地悪そうに笑う。
「いいからもっと・・・」
「貴様なんかに・・・何?」
「貴様なんかに・・・感じて・・・」
「後ろの孔にいれられて弄くられて感じてるんだ」
「もう、意地悪言うな。貴様だって・・・いきたいくせに・・・」
「お前のこの顔は俺だけが知ってる顔。俺だけが見てる顔。俺以外の誰もお前のこの姿を知らない。これから先もずっと・・・」
覇者りんが二度目の射精をした時、みずは自身も締め付けられて二人は達した。
「はあ・・・はあ・・・」
覇者りんはみずはに腕枕をされながらぐったりと体を預けている。
「・・・全く、我輩は腰が悪いってのにいつもいつも無理させて・・・」
「途中から自分で腰を振ってた癖に何言ってるんだかなぁ」
「熱に浮かされてたんだ。きっとそうだ」
「やってる最中みたいにさ、俺の事愛してるって言いなよ」
「馬鹿馬鹿しい。誰がそんな事」
「いいのかなー、録音済みテープきゃさりんに渡しちゃうよー」
「録音してたのか!」
「う・そ。んなわけないじゃん。誰がお前のいい声他の奴に聞かせたいと思うの?」
「・・・我輩との関係がバレたら貴様の人生も終わりだろう」
「いいよ。その時は二人で東京行けば。実はさ、仕事見つかったからバイトの打ち合わせで本州まで行かなきゃならないんだよね」
「いつ帰ってくる?」
「気になるんだー。へへー」
「いなくなった方がせいせいする」
「口先ばっかり。やってる時は散々恥ずかしい言葉口にしといてよく言うよ」
「忘れろ」
「いつ帰ってくるか分からない。まぁ俺がいない時ぐらいは一人で慰めててもいいけど。寂しいからって他の誰かと付き合ったら駄目だよ?」
「人の事をとやかく言う前に貴様は愛人やら何やら全部手を切れ」
「後ろの孔が疼いたからって・・・」
「そんなの疼くか」
腕枕している体を動かして、みずはは覇者りんをぎゅっと抱きしめた。
「ほんとに・・・ほんとはさ、俺の事どう思ってる?」
「・・・・・・我輩が口にしたのは嘘じゃない。・・・もういいだろう。分かったら寝ろ。全く、いい年した男に肉体労働させて」
「気持ちよかった?」
「もう言わん。何も言わん。寝る。我輩が人生で一番の災難は貴様と知り合った事だ」
「覇者りん好き。大好き」
覇者りんは溜め息を一つ零すと目を閉じた。みずははその顔をずっと見つめていた。
<END>
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