わたくしは首だけになった貴方を見て美しいと思ってしまいました。
頭部、そして首。その下のものは一切ありません。
首だけがわたくしを見ています。無表情な顔で見ています。
ああ、向日葵の様に太陽の様に明るかった貴方がこんな首だけになるなんて。
なんて美しいんでしょう。
首だけの貴方はもう何も話せません。目は開いているけれども、それだけです。
分かっています、分かっていますとも。こんな状態が長く続かないって事は。
人間は誰しも腐ってしまうのです。おお。おお。何と嘆かわしい。
この方もやがては腐り果ててしまうのでしょう。その前にわたくしはこの方を愛撫しましょう。愛でましょう。
美しい、美しい貴方。首だけになった貴方。いつものように誰にでも笑顔を向けているより余程美しいではないですか。
人はわたくしを異常者と仰るでしょう。それもまた然り。殺人者とも言うでしょう。それもまた道理。
ですけれどもわたくしはこの首だけの貴方を愛してしまったのです。
何故ですって?だって生きている貴方は絶対わたくしのものにはなりませんから。
わたくしは文献を調べました。ホルマリン漬けというのがあるそうです。その首から血を全部抜き取り、体内に防腐剤を注射し、ホルマリンを充分に浸した布で幾重にも巻きつけて保存するそうです。確かにそうすればこのわたくしの手の中にある美しい首から上だけの顔がずっと手元に残るでしょう。その代わり、幾重にも巻きつけてしまってはこのお方の顔が見えないではありませんか。
ああ。ああ。どうしましょう。
悩みました。困りました。この、血の気を失って真っ白くなって更に美しくなった貴方が腐っていくのを見守るべきか、それとも美しいまま布に巻きつけて飾っておくべきか。
悩んでいるうちに警察が来てしまいました。もうお会いする事もないでしょう。残念で仕方がありませんが、これで迷うことなくわたくしは貴方とお別れが出来ます。
大好きなみずは様。わたくしは今でも貴方を想い続けております。
<Fin>