[ i n d e x ] - [ w o r k s ] - [ 不思議な不思議な魔法の石鹸 ]
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不思議な不思議な魔法の石鹸
2000.12.30初出・同日発行「FAKERHOLIC」所収
text and edit by 成瀬尚登

 

  ☆

 

 不意に、健太郎は目を覚ました。

 枕元の時計を見ると、日付の変わったばかりの午前0時15分。

 おいおいと、やや呆れ気味につっこみを入れ、ふたたび布団にもぐる。

 静まり返った部屋。

 時計の針の音、電気機器の主電源の音だけが、わずかに聞こえている。

 その時、健太郎は、耳を澄ませた。

 それらの無機質な音に混ざって、確かに異質な音が入っている。

 しばらくの間、それをじっと聞いていたが、やがて意を決して布団から起きあがった。

 階下の廊下には、灯りが漏れていた。

 浴室の方からだった。その音も、浴室に近づくに連れて大きくなっている。

 泥棒……活字の世界にしか見たことのない存在が、いきなり現実世界にあらわれたことに、健太郎は動揺を隠せなかった。

 だが、その予兆はあった。先週の棚卸しの際に、どうしても計算が合わなかった。計算が合っているなら、仕入れた品物がひとつ足りなくなっているはずだ。

 額も大きくはないし、何を仕入れたかも記憶があやしい。

 そんなことで、その時は捨て置いたのだが……。

 浴室の前で、健太郎は足をとめた。

 緊張のあまり、息をのむ。

 恐い。

 このまま踏み込んでいいものか。

 いきなり殴りかかられた場合、勝てる可能性は、低い。

 刃物など持っていた日には目も当てられない。

 では、警察を呼ぶべきか。いや、呼んでいる間に、逃げられてしまうかもしれない。

 あるいは、自分とスフィーを人質に立てこもって……。

 健太郎は首を振った。

 考えてもきりがない。ただひとつ言えるのは、自分はここの主人であるということだ。

 ぎゅっと拳を握って、健太郎はいきなり浴室のドアを開けた。

「あ……」

 くりっとした瞳と、目が合う。

 健太郎はそのまま固まった。

 髪をタオルで結い上げ、なだらかな胸を石鹸の泡いっぱいにした、半裸の少女の姿。

 まぎれもなく、スフィーだった。

「きゃあああ!」

 叫び声。

 次の瞬間、健太郎の視界に何かがとんでくるのが見えたかと思うと、そのまま一気に暗転した。

 

 

 スフィーはそれを「魔法の石鹸」と呼んだ。

 先週のフリーマーケットでのこと、スフィーはその石鹸をしげしげと眺めた。

 売り主は「美容効果でもあるんじゃないの。よく知らないけど」と、何もわかっていない様子だった。

 同じ売り主が別の魅力的な骨董品を売っていたので、健太郎はその石鹸も合わせて買い取った。

 そして、その石鹸は、いつのまにか倉庫から姿を消していたのだった。

 

「この石鹸からは、強い魔力を感じるのよ」

 スフィーは楽しそうに言った。

「あー、そうですか、そうですか」

 まだ痛む頭をさすりながら、健太郎は投げやりに言った。

「いい加減、機嫌をなおしてよ、けんたろ……」

 スフィーは苦笑する。

「仕入れは合わないし、泥棒かと思って突入すれば痛い目に遭うしなー。これも全部スフィーの仕業とはねー」

「そう言わないでよ、けんたろ。悪いと思ってるわ、うん、反省してますって」

「……スフィー?」

 おもむろに健太郎は向き直って、横柄な視線をスフィーに投げつけた。

「な、なにかな、けんたろ」

「あの石鹸、何に使ってたんだ?」

「な、なにって……あの……そう、お風呂に入ってたのよ」

「こんな時間に風呂か? それに、おまえ、今日は一番風呂を頂戴してたよな」

 じと目で見返す。

「だいたい、あの石鹸、何に使ってたんだ」

「それは……」

 そう言ったきり、スフィーはうつむいてテーブルに「の」の字を書きはじめる。

 逃がさないぞとばかり、スフィーをにらみつける健太郎。

「……ね」

「は?」

 かすかに聞こえた声を問い返すと、突然スフィーは顔を上げて、苛烈な表情で応えた。

「胸よ、胸! あの石鹸を使って、胸を……!」

「胸を?」

 だが、動じずに健太郎は返す。

 気勢をそがれた形で、スフィーはためらいながら続けた。

「む、胸を……おおきく……したかったのよ」

 妙な沈黙が包む。

「はあ?」

 思わず、健太郎は眉を寄せる。

 こほんと、スフィーは咳払いをした。

「美容に効果があって、魔力があるんだったら、きっと胸も大きくなるはずなのよ」

「で、効果は?」

「それは……」

 その容赦ない言に、スフィーはしゅんとなる。

 石鹸は先週仕入れたのだから、計算上、スフィーは既に1週間ほど石鹸を使い続けていることになる。

 だが、めだってスフィーの身体に変化があったとは感じられないし、スフィーの今の態度からもそれがうかがえる。

 健太郎はため息をついた。

「あのな……」

「そうだ、けんたろ!」

 遮るように、スフィーは叫んだ。

「けんたろが洗ってよ」

 その言葉に、健太郎は絶句した。

「おれが、洗うって……それ……」

「胸は、男の人がもむと膨らむって聞いたことがあるのよ。そうよ、きっとこの石鹸は、男の人に洗ってもらわないと効果がないんだわ」

「本気か、スフィー」

「うん、本気」

 スフィーは屈託ない笑顔を見せた。

 

 

 浴槽のガラスに、スフィーの陰が映る。

 健太郎は腰掛けにすわって待っていた。

 別に何かをされるわけでもないのだから、Tシャツに短パンの三助スタイル。

 ガラッという音がして、スフィーがその姿を現した。

 バスタオルで身体を隠し、恥ずかしそうに上目遣いで健太郎を見る。

 おずおずと歩み寄り、健太郎の前の浴槽のへりに腰を下ろす。

 そして、意を決してバスタオルをとった。

 ショーツを身につけただけの、半裸姿。

 白い肌。つるりとした肢体に、わずかに膨らんだ幼い乳房が控えめに自己主張している。

 健太郎は、自らの役目を忘れて、それに見入った。

「……けんたろ!」

 恥ずかしさを怒りに混ぜて、スフィーはこつんと健太郎の頭を叩いた。

「あ、ごめん……」

 健太郎は我に返ると、手を洗面器の湯に浸し、ついで、魔法の石鹸を両手でこすり合わせて、泡立てた。

 その手を、スフィーの乳房へと伸ばす。

 ふにゅっ

「あ……」

 ぴくっとスフィーの肢体が跳ねる。

 かまわず、滑らせるように、手のひら全体で撫でる。

「やあっ……あっ……やんっ!」

 胸でさらに泡立てるように、優しく。

「んん……いやっ! もう……」

 なされるがままのスフィーだったが、急に腕を伸ばして、健太郎の手首をつかんだ。

「けんたろの、エッチ」

 すねるように抗議する。

「おまえがこうしろって言ったんだろう、スフィー」

「そ、それはそうなんだけど、けんたろの手の動き、いやらしいのよ」

 敢えて憮然とした表情で、健太郎は応えた。

「じゃあ、やめるか?」

「……ううん、続けて」

 スフィーがつかんでいた手を離す。

 健太郎はふたたび手を動かしはじめた。

 そのうちに、ぽつんとしたしこりを乳房の先から感じた。

「くすぐったいよ、けんたろ……」

 切ない吐息混じりにスフィーがつぶやく。

 健太郎は、その乳房をつかもうとした。

 だが、石鹸の泡の滑らかな感触と、乳房の幼さから、つるりと逃げてしまう。

「はあ……はあ……」

 やがて、スフィーの口から喘ぎ声が漏れはじめた。

 健太郎も、心臓が破裂しそうなくらいに鼓動していることに気付いていた。

 いや、破裂しそうなのは心臓だけではなかった。それも、いまにも破裂しそうなくらいに雄々しくたぎっていた。

「けんたろ……」

 顔を上げると、スフィーが視線を落としている。

 その先にはスフィーのショーツがあった。

 それはすっかり石鹸の液で濡れてしまい、そこに隠されているクレバスをはっきりと形づくっていた。

「……ごめん、脱ぐね」

「あ、ああ……」

 スフィーは立ち上がってショーツに手をかけた。そして、健太郎の目の前で脚を上げてそれを脱いだ。

 魅入られたように、健太郎はスフィーの裸体を見つめた。

 肉感をまだあまり感じさせない白い太もも、その先に、肌と同じ色の白い先割れの丘が、ほこらしげに露わになっている。

 石鹸の泡が胸から垂れはじめ、なだらかな線を描いて、そのクレバスの中へとつたっていく。

「……女の人の裸を見るのは、初めて?」

「ああ……」

 見飽きないとばかりに、健太郎はスフィーの肢体から目を離さずに応えた。

「結花のを見たことがあると思ってたよ」

「すふぃ……」

 健太郎は顔を上げた。

「あはは、そんなことないよね」

 スフィーはまた浴槽のへりにすわった。

 健太郎の手が、今度はスフィーの脚の付け根にへ向かう。

 翳りのない、つるつるとした丘に指をすべらせ、そのままクレバスへと忍ばせていく。

 スフィーはびくっと肩を振るわせた。

 熱い花弁、それをかき分けると、そこにはとろけるような蜜の泉が現れた。

「ああ……」

 ため息まじりに、スフィーは声をあげる。

 たぐるようにかき回す。

「あ、そこ……んんっ!」

 花弁の合わせ目に指先が触れると、スフィーは身体をのけぞらせた。

 くりくりと、そこを愛撫する。

「あっ、あっ、だめっ、けんたろ……ああん……」

 合わせ目に滑り込ませていた指先。

 やがて、ぽつりというしこりが感じられた。

「ちからが……はいらないよ……」

 閉じ合わさっていたスフィーのひざが、ガクガク震え出した。

 指先をそこからはなす。

 充分に潤った泉の口に中指をあてがい、慎重に押し入っていく。

「あっ……ああ……」

 ざらりという感触。石鹸と、スフィーの蜜によって、きついながらもするすると、健太郎の指を受け入れる。

 もう少しですべて指がおさまるというあたりで、指先に何かがあたった。

 きゅっ

 心地よい締め付けが、スフィーの中に入っている指を包んだ。

 スフィーの表情は、愉悦に歪んでいるように見えた。

 指を曲げてスフィーの中を刺激し、同時に、親指で花弁の合わせ目に突出しているしこりを撫でる。

「んん! ああ! けんたろ、だめっ……!」

 こらえきれず、スフィーは首を振る。

 蜜を掻き出すように、中指はスフィーの蜜壺をえぐる。

 いつくしむように、親指でスフィーの真珠をこする。

「いや……いっ……いく……イッちゃう……」

 あごを上げて、白い喉をむきだしにする。

 そのひざは艶やかに大きく開かれる。

 健太郎の指が、さらに深い部分を削った。

「だめ! ああっ……あああっっ!」

 びくっ、びくっ!

 健太郎の目の前で、スフィーはすべてをさらけ出した。

 背中をぴんとのけぞらせ、幾度となく小さな肢体を激しく跳ねさせた。

「はあぁ……」

 目を閉じ、半開きになった口から悦びのため息が漏れる。

 すると、不意に健太郎の手に暖かいものを感じた。

 花弁から、蜜とは違う、透明な液が溢れ出していた。

「いやぁ……見ないで……」

 どうすることもできず、うつろな目でスフィーがそれを見つめる。

 健太郎は、締まったスフィーの中から指を抜くと、それを手で受けつづけた。

 

  ☆

 

「……あのね、けんたろ」

 翌日の夕食後、健太郎が立ち上がると、スフィーは上目遣いに言った。

「なんだ?」

 とぼけたふうに、健太郎が問い返す。

「わかってるくせに」

「えー。言わないとわからんぞ」

「もうっ! あの……ね、けんたろ。今日も……魔法の石鹸を使ってよ」

 恥ずかしそうなスフィー。だが、健太郎は平然と応えた。

「ひとりで使えばいいじゃないか。別に俺がいなくてもいいだろ」

 すると、スフィーは笑顔で言った。

「今日は、私がけんたろのこと、洗ってあげる」

 健太郎はうなずいた。

 俺があれを使ってもなあ……という言葉は、敢えて飲み込んでおいたのだった。

 

[不思議な不思議な魔法の石鹸 FIN]   


◇P O S T S C R I P T◇

 「まじかるアンティーク(Leaf/Aquaplus)」のスフィーの小説です。

 シチュエーションとしての「お風呂」は大好きです。 ネタに困ったら、とりあえずメイド服を着せるかお風呂に入れるかというくらいに、自分にとっては強力な切り札でもあります。

 お風呂では「裸である」ということが義務ですから、そのまま非日常的な場面ともなりうるわけで、その点が気に入ってるのではないか……と自分では分析してはいるのですが。これからも「お風呂」はたくさん書いていきたいです。

 常識的に考えれば、のぼせちゃうんですけどね。

 本来は夏コミでのおまけにしようとしていました。

 「まじアン」なのだからもちろん魔法の品物を出すべきだ、スフィーは身体が元にもどることを望んでいるのだから……というように、アイデアがどんどん出て、構想もだいぶ固まってはいたのですが、夏コミ当時、ものすごいスランプに陥っていまして、とても書ける状態ではなかったために、そのままずっと先送りにしていました。

 ちなみに「まじアン」はスフィー以外は攻略していないという……だめだ、自分。

 例によって、[DogNap Dogs]の大槻四季さんと納牧さんにご協力いただきました。ありがとうございました。


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