●すれ違う恋心、ささやかな日常の変化

家に帰る。
今日も一日疲れた。
ごくろうさま俺。
誰もいないがらんとした部屋にあがって、居間に荷物を置く。
どさりと音がする。

居間には、シロウサギの格好をしたカカシ先生がちょこんと小さくなって正座をしていた。

俺はその横を通り過ぎ、台所にたつ。
疲れがたまっている。
蛇口を捻ってコップに水をつぐ。
シンクの前でぐいっとそれを一回、呷った。
水は透明に澄んでいて、心地よく、喉をつるりと滑った。
居間に戻る。
シロウサギ姿のカカシ先生の横を通り抜け、ちゃぶ台の前に正座をする。
そして、もう一杯、水を呷る。

「ふー…」

落ち着いてきた。

さてと…

俺の目の前(正しくは後ろの壁ぎわ)には、認めたくない現実がある。
認めたくなくても認めなければならない。それが現実だからだ。
ぶわと吹き出す汗。震える声が喉からほとばしる。
俺は背後を振り返らないようにして言った。

「カカシ先生、そこでなにをしていらっしゃるんでしょうか」

なんでそんな格好をとか、俺のウチ鍵がかかっていたはずだが、どうして入れたのか、鍵を壊したのかとか、色々聞きたいことは山ほどあるのだが。

というか、なにを考えているのだろうか。
まったくもってさっぱり理解しがたい。
上忍ともなると、これくらいの不思議行為は普通なのだろうか。
ならば俺は永遠に上忍にはなれないと思う。
上忍はやはり想像を超越した存在なのかもしれない。
強さと引き換えに、日常に必要な大事なものを失うのかもしれない。
ならば、俺は万年中忍といわれてもいい。この生活を大事にしたい。
忍としての自分の限界を知って、悲しくて、悔しいが、俺らしいと妙に納得する。
…そして。

別にこだわることではないが、こんなことをシロウサギのきぐるみで悟りたくなかった。


しかも、この上忍様は俺に惚れているという。
俺は男だ。
なんなんだろうか。
分からない。
どっと疲れが増す。
この状況にも、日常の仕事にも。


「イルカ先生には常に新鮮な俺を見て欲しいんです」

かわいくないですか、この格好。

そう言われ、「…どういうコンセプトなんですか?」と、優しく、刺激しないように聞いてみた。

すると、

「癒し系を狙ってみました」

と返事が返ってきた。

"癒し系というよりは、怪しい系だろ"というツッコミは、かみ締めるように飲み込んだ水と共に、喉の奥に消えた。




















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