●カカイル慕情
止まぬ五月雨の中を
いくばくかの銭を懐にしのばせて遊びに行った遊郭。
遊びのつもりだったのに、つい、長居をしてしまった。
気がつけば今月の食費の分も使い込んでしまって。
明日のわが身の心配をしなければならないが、そんな気も起こらないとぼんやりと思う。
(可愛い子だったな―――――)
見あげた薄暗い雨雲にあの子の面影を映し出す。
(また会えるかな――――)
障子から差し込む白んだ朝日に浮かび上がる憂いを含んだ伏目。
(まるで商売をするつもりはないようだった。)
抱くときは大人しいのに、けして笑顔は見せない。
(あれで客は寄り付くのだろうか)
他の商売女にはみられない、媚びないそんな態度がいい。
(名はなんと言ったか…)
次に会いに来たときにもすんなり会うことは出来るだろうか。
(俺としたことがあの態度に気圧されたか。聞き忘れてしまった)
もし別の客を訪っている途中だったらどうしようかと思いながら、
その時に嫉妬のあまり彼女の仕事の邪魔をしないようにと自分に言い聞かせなければならなかった。