ささいなことで怒られた。

いや、ちがう、彼は、ささいなことだとは思っていないだろう、実際そうかもしれない。自分は人より劣った人間だからそういうことがよく分からない。

口角に泡を浮かべて激昂する彼を前に、言葉に詰まってただただ圧倒されるばかり。
よくこんなに怒れる、と思う。疲れないのかなこのヒト。

「ちゃんと聞いてますか!?」

涙を浮かべて悲壮めいた顔に、ああ、はいはい聞いてますよ、と言葉を返すも、その表情に不覚にも、別のことを想像してしまってドキドキしてしまって、ああまずいだろうやっぱりそれはでてくるな今はそうときではないのだから、と心の中をえいえいと蓋をする。



…あれほど怒っていたのが嘘のように、今、この腕の中で彼が甘い声をあげている。

怒りに青ざめていた頬が上気して赤く染まって、あ、とかう、とか言葉にならない声を口にしている。
腰を上げさせて、感じるところを重点的になんの手加減もなく強く激しく攻め立てると、やめてくださいもう無理ですと息も途切れ途切れで、泣きながら懇願してくる。…そんな姿が心から可愛いと思う。


あんなに怒ってたのに。

「いいですかカカシ先生、そもそも人間は…、ささいなことから始まった説教は、重箱の隅をつつくようなオレのイルカ先生宅での暮らしぶりの指摘から、私生活の、本当にごく一部の人間にしか知られていないプライベートにまで及び、最後には人間のあるべき姿を語るという壮大なテーマで幕を閉じた。

教師の顔があんなに似合っているのに、いざ、蓋を開けてみれば、中身はオレと変わらない、気持ちいいことも大好きな普通の人間。 そんなあたりまえといえば当たり前―――そんな事実に、ほっとしている自分がいて、笑い出したくなる。

そしてこんな気持ちにさせたイルカ先生が小憎らしくなる。

「大好きですよ」

―――真顔で、道徳だとか倫理だとかを解いていたくせに。

辛そうに眉根を寄せて、こちらを見上げてくる唇が濡れている。
それを親指の腹で拭うと、再び自らの唇で塞ぐ。

こんな気持ちにさせる貴方が憎らしいけれど、心のどこかで正直な貴方に甘えている部分もある。

どれだけ無理難題を持ち込んで困らせても、最後には、貴方は絶対に許してくれるから―――――

ベッドの上で、快楽にうち震える体を抱きしめて、耳元で何度も囁こう。

大好きだと。

貴方が大好きだ、と。













(2006/1/16:書)
























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