Die Zwölfte Nacht

ツヴェルフの夜は日暮れとともに始まり、朝焼けとともに終わる。

彼は音を立てず街を歩き、息もせずに延々と、食事を得られる場所を探してあちこちの暗がりを巡る。

一晩に一回、なにかにありつければましな方だ。

出くわすのは、どいつもこいつも不景気な面ばかり。たとえ同情を持ち合わせていたって、腹を満たす足しにはならない。

薄汚い身なりで煉瓦の壁にもたれ、しゃがれ声で唄う酔っ払いの老婆。まだ娼婦のつもりでいる。

血走った眼で誰彼構わず唾と罵詈を吐き付け、睨み返されるとすぐ怯えて逃げ出す男。肩に入れた船乗りらしい刺青も、今はくすんで見える。

がりがりに痩せこけ、皮膚を病んだぶちの猫。この街に残飯は少ない。鼠は多いけれど、捕えるだけのはしっこさは、学んでこなかったようだ。

春はたけなわというのに、吹く風は冷たく湿り、すえたドブの匂いも混じっていた。

弱々しくまたたくブロンズの灯火の下には、辺境帰りの傭兵が固まって立ち、マントをはねて、卑猥な冗談に打ち興じている。前の仕事で、ろくな給金をもらえなかったらしいと、瞳のよどみ方で分る。いずれ荒っぽい真似をしでかすだろう。

近寄らないでおこう。

ツヴェルフは溜息をついて、けばだった外套の襟を寄せた。フケまみれのもつれ髪に指をつっこみ、ぼりぼりと掻く。

頭から飛び出すシラミもいない。栄養の悪い宿主に愛想を尽かせて、他へ移ってしまったらしい。きょろきょろと辺りを眺め回し、あきらめて、よそへ行こうと心に決めたちょうどその時、背後で靴音がした。

「坊や」

媚びるような、甲高い猫なで声。食事の機会が訪れた。まだこの街も捨てたものではないと、ぼんやりした喜びが胸に広がる。

「おじさんと来ないかい?お腹が減ってるんだろう」

振り返ると、銀鎖を首に巻いた商人風の肥満漢が独り、ひきつった笑いを浮かべて立っていた。たるんだ顔肉の中に、小さな、欲深そうな両眼が埋れ、濡れた光を放っている。

ツヴェルフが何も言わずにじっと見つめると、向こうは胸のあたりで手を合わせ、インクの染み付いた丸っこい指を、忙しなく組み変えた。革ズボンを履いたハムのような両足が、左右に重心を移すたび、幅のない丸肩が、落ち着かなげに揺れる。

どうやら、骨と皮ばかりの、生きたゴミのような浮浪児に話し掛けたのを後悔している風だ。

男は急に軽く手招きしてから、きびすを返すと、細い小路を曲がって消えた。ツヴェルフは、だまって後についていく。

匂いをたよりに、くねくねとした通りをたどって追いかけていくと、あたりは急に寒さを増した。町外れのこの一角には、市街と外とをへだてる、高い城壁の影がかかっていた。見上げると、黄昏に染まったものみの塔が、住民をおどしつけるように黒々とした姿を見せている。

だが頑丈な石垣も、形のない衰えと滅びとを締め出せない。

どんな小さな都市でも、疱瘡の流行などで人気が絶え、すっかり打ち捨てられて、乞食と癩病みだけがねぐらにするような区画がある。もし暗がりを押して進めば、やがて行き着くのは、追い剥ぎさえ凶事を恐れて近寄らぬ横丁の行き止まり。さらに奥へ踏み込むのは、うかつな余所者か、もの狂いだけだ。

けれど、そういう場所こそ、好都合だというやからもないではない。

袋小路の奥に、あかあかとした灯が点る。夕闇の中、商人は使いふるした角燈を片手に、連れを待ち受けていた。

少し遅れて来た浮浪児は、その光を認めてほほえむと、するりと外套の前を開き、青白い肌をあらわにした。

でぶの男は落ち着かぬ様子で、たるんだ顎肉に浮いた汗をぬぐうと、四方に視線を巡らせてから、舌で唇を舐め、ややあって口を開くと、どもりがちに命じた。

「て、手をついて、ケツを出せ」

ツヴェルフは、素直にうなずくと、求められた姿勢をとった。商人は角燈を足元に置くと、もどかしげに腰帯を解きながら、そばへにじり寄った。

「ひ、広げて見せろ」

命じられるがまま、細い指が、そこだけふっくらと脂肪のついた尻たぶをつかんで、よく使いこまれた菊座を露にする。でぶの男は、震える手でその谷間に触れ、なぞると、突然ぐいと肛門をこじ開けようとした。

浮浪児は苦痛と歓喜の混じった叫びを漏らす。刺激を受けた後孔は、すぐにも腸液をにじませ、括約筋をものほしげに伸縮させた。

「くそっ、淫売」

商人は誘われるように、剛直をそこに宛がい、強引にねじ入れた。

か細い嬌声が1つ、角燈の光と共に、彼方のしじまから響いた。

雲母越しに揺らめく蝋燭の火に照らされ、破れた木塀のおもてに、小さな子供の影が踊る。ほっそりした肢体は、外套の裾をからげ、柳の細枝のような腕を支えに、虚空へ裸の尻を突き出していた。

背後からのしかかる肥満漢は、交尾する雄豚のように荒くあえぎながら、激しく腰を打ち付けている。

「淫売め!淫売め!ガキの淫売め」

ツヴェルフは、侮辱の言葉に答えるようにあえかに啼いた。舌を突き出し、開ききった瞳孔から随喜の涙をこぼしては、妖しく胴をくねらせる。皮被りの陰茎は、へその下あたりまで反って、抽送にあわせて凹んだ腹を叩き、快楽の露をすりつけている。

長旅の憂さを晴らすためか、商人の攻めは執拗で、容赦が無かった。1度中に放っても、まだしつこく食いつく。

やがて四半刻が過ぎ、天の東では蒼褪めた月が、皓々と輝き始める。

「ほらっ、恵んでやるぞっ。俺の子種を、お前の卑しいケツ穴にな」

ひときわ激しい突き上げの後、またたくさんの精液を注がれて、少年は、幾度もえずくと、ぐったりと石畳の上へうずくまった。

「次は口だ。舐めてきれいにしろ」

いきなり顎を横へねじ向けられ、赤黒い肉幹を押しつけられる。あどけない唇はしかし、嫌がる素振りもせず、白濁に塗れた尖端を頬張ると、慣れた様子で舐め清め始めた。

「くっ…たいしたもんだっ…ずいぶん男を咥えこんできたんだろうなっ…」

商人は少年の頭を抑えると、力任せに喉奥まで剛直をねじ込み、熱く濡れた口腔を掻き回した。無抵抗の獲物を蹂躙する喜びに、品性を欠いた容貌はいよいよ狒々じみてくる。股間からのぼる、くぐもった呻きを封じるように、下半身の動きもさらに乱暴になる。

「飲めっ」

再びの射精。ツヴェルフは瞼を伏せて、睫から涙の珠を落とすと、口の中を逸物と種汁でいっぱいにしたまま、しばらく何もできずにわなないた。下の口に続いて、上の口からも粘液を流し入れられ、性戯に馴れたツヴェルフもだいぶ堪えたらしい。

むせそうになるのを懸命にこらえ、鼻から溢れる前に、精液のすべてを嚥下する。必死の努力を示すが如く、白い首筋がかすかに収縮した。

男はうっとりとした面持ちのまま、小さな口から性器を引き抜くや、ズボンを上げ、腰帯を締め直して、もったいぶった空咳をする。次いでふところからきれいな手巾を出し、額を拭うと、裾からごみをはたきおとした。すっかりみだしなみを整えると、まだ陶然としている犠牲へ、急に感情のこもらない眼差しを向ける。

「食い物欲しさに男を誘うとは、なりはチビでも、魂は穢れきってるな」

ツヴェルフは、快楽の残滓によどむ双眸で相手を見返した。すると肥満漢はしめつめらしい表情を作り、手巾を胸にしまいながら、軽く頷いてみせる。

「罪深いガキを掃除するのは、市民の義務だ」

言うが早いか、吊り帯についた短刀の鞘を払い、毀れた刃を闇に閃かせる。あとに続く忍び笑いは、奇妙に神経質な興奮の響きがあった。

「お前のどす黒い心臓をえぐり出してやる…淫売め!」

切先が浮浪児の頬をかすり、宙へ赤い血の筋を引いた。

だが、兇器がさらに深く肉を裂くよりも早く、幼い肢体はバネじかけのごとく背後へ飛びすさる。脱げ落ちた外套が、風に翻って2人の間をさえぎった。

路上の石だたみに、白い雫が点々としたたる。

菊座から精液の糸を垂らしながら、ツヴェルフは大きく左右の脚を開き、腰を低く落とした。両手の指を鉤爪の如く折り曲げ、さきほどまで男の陰茎を愛しげにしゃぶっていた口は歯を剥き出して、威嚇の唸りを放つ。うなじから背にかけて、青白い肌が角燈の光に照らされ、暗がりの中にくっきりと浮かんだ。

商人はわずかに眉をひそめて、浮浪児の奇妙な格好を観察した。首のあたりに、性交によるものではない、いやな汗を掻いているのを感じる。一撃でしとめ損うという思わぬ失態に戸惑い、ちらりと手にした武器の刀身を一瞥すると、おのれに聞かせるような口調で、芝居がかった台詞を述べた。

「…お前で5人目だ…どいつもそうやって逃げようとしたぜ……さぁ、えぐってやる。さっきより硬くて鋭いのでな。えぐり出してや、るっ」

言い終えるや、でっぷりした巨躯は獲物へと突進し、相手のあどけない顔面めがけて短刀を振るった。がつんと、顎の骨が固いものにぶつかる音に続いて、魂消るような絶叫が横丁に響きわたる。

「ぎぃいやあああああっ」

せつな、手首から先を失った男は、鮮血を撒き散らしながらぶざまによろめいた。

ツヴェルフはよつん這いの姿勢のまま首をかしげ、食いちぎった拳をおもちゃのように振り回すと、それが握り締めている短刀ごと溝に放り捨てる。次いで、唇の周りについた血をぺろりと舐めとって、2、3度まばたきした。澄んだ瞳は最前より烈しい欲情に燃え、きつい飢餓のかげりを帯びている。

「おぅうう…手が、手が……」

噴水のように血を溢れさせる切り株を見つめながら、哀れな殺人鬼はまだ我が身に降りかかった災厄を理解しかねているようだった。

少年は、まごうことなき肉食獣の咆哮を上げ、無防備な背中へ躍りかかると、べっとりと脂汗に滑る延髄のあたりへ歯を立てる。

「うぎっぎっぎぎぎゃあああっ、やめてやめてやめっ…うぎいああああ…っが」

ひどく重たく、かさばったものが石畳に倒れた。痩せこけた狩人はその上に圧し掛かると、皮膚をやぶり、筋骨をひしぎ、血脈をひきむしる。あとは、ひどく密やかな響きだけが夜気を満たしていった。

しばらくして、赤く染まった屍から、まだぴくぴくと活きの良いハート型の肉塊をえぐり出しながら、ツヴェルフは久しぶりのご馳走に舌づつみを打った。退廃と悪徳にこごった心臓ほどうまいものはない。

あまりもの覚えの良くない少年の頭脳は、いったいこれが何百回目の食事か、しかとは思い出せなかった。豚や牛、鶏を味わう時、誰がそんなささいなことを気にかけるだろう。

だが、人間は復讐を好む種族だ。 最近はツヴェルフも、少し獲物の身分にだけは気を使うようになっていた。 この街でも参事会員を3人、公証人を1人、職人組合の親方を2人平らげた。衣服をあらためてみると、今度の獲物は下端らしいと分かったが、やたらと重い財布を持っていた。

そろそろ縄張りを移す頃合かもしれない。空にはまだ星が降る。黒冥に隠れて城壁を越えれば、東の地平が白み始めるまでに、どこか新しいねぐらへたどり着けるだろう。少年は伸びをして、穴だらけになった亡骸から離れた。出かける前にもう1回、狩りをしようか。まだたっぷり時間はある。

ツヴェルフの夜は日暮れに始まり、朝焼けとともに終わるのだから。

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル