Dragon Tale

豪傑ろとが龍王を退治して、ろうら姫を娶り、子孫が三つの国を開いてからはや数百年。西の砂丸城に、珠のような幼な君が一人いた。黄金の髪に練絹の肌、けれどいかなる呪いか、身には男のものと女のもの、二つながらに併せ持ち、故に忌み子と怖れられていた。

名をとんぬらという童児は、先祖の悪縁か、はたまた前世の因果か、片羽の体から穢れを払うべく、城から遠く離れたほら穴にある泉でみそぎを重ねた。小さな姿がとももなく、わずかな暇を盗んでは清めの場に向かうようすに、父母は胸を痛めたけれど、あれこれ調べて試した薬も加持祈祷も効かず、ただ子供のひたむきな信心を黙って見守るよりなかった。

とはいえ異形の世継ぎは、地位を失うまいとして四苦八苦していた訳ではない。もしもの時は妹姫瑠々が婿取りをすればよい。まだ稚いが、いずれ優れた器量に育つだろう。祈りがるびす様に通じず、奇しき半陰陽のまま生涯を送らねばならぬのならば、いっそどこかの山に庵を結び、ただ独り静かに暮らそうと、ませた頭で考えていたのだった。勤行はすべて、生来の真面目さによるものだった。

とりわけくっきりした満月の晩の、明くる日。常の如く朝早くに出立して、昼ごろまでに行きの道のりを終えると、地下の暗がり深くに分け入り、鏡の如く凪いだ水の辺に着いた。頭巾をとり、萌葱の直垂を脱ぎ、褌を外し、一切をきちんと畳んで、守り刀を置く。あとは闇にぼうと仄光る裸を、ゆっくりと泉にひたす。真円の波紋がゆっくりと広がっていく中、神霊へ呼びかける字句を口にしながら、手を合わせて肩までつかった。

唱える声には、いつにも増して熱が入っていた。もし今度もしるしが得られないのなら、諦めよう。未練たらしく元服まで勤行を続けても甲斐はあるまい。浮世を捨てて暮らそうと決めていたのだ。

四半刻ばかりたっただろうか。だんだんと骨まで冷たさが染み透ってくる。少しも歯を鳴らしたり、震えたりしないのは、けなげではあった。だが相変わらず、辺りには物音一つない。果して、るびす様が答えるようすはなかった。

白い息を一つ吐いて、石筍の下がる天井を仰ぎ、水から出ようと向きを変えた時、だしぬけに、どろどろと低く太鼓の鳴るような響きが聴こえた。驚いて耳を澄ませているうちに、音は段々と大きくなり、ついには水面を震わせ、巌の穹隆から幾つもの欠片を落として、ほら穴全体を震わせる。

「あ…るびす様…?」

もしや求めていたしるしかと頭上を仰ぐと、凄まじい揺れとともに岩盤に罅が走り、万雷の轟きとともに、二つに裂けると、外界の光が差し込んだのだ。激しく波立つ泉の真中で、呆然と立ち尽くし、明るい陽射しの帷を眺めていると、やがて、再び影が水面をすっぽりと掩う。何かとてつもなく大きなものの気配に、はっと後退ると、遥か高みから青銅の鐘の如く深い響きが届いた。

”探したぞ!”

洞あなの天井に開いた割れ間から、長々しくのたうつ躯が降りてくる。鱗が石筍の突起に触れて火花を放ち、角と牙と爪とがそれぞれ、毀たれた神域のあちこちを削ってさらに破片を散らせた。

現れたのは大蛇。否、雄鹿の角、巨鰐の腹、怪魚の鱗、荒鷲の爪、猛虎の掌、奔馬の鬣を併せ持ち、瑞雲をまといつけ、稲妻を操る化生、龍だった。

るびすとかけ離れた、禍つ神の到来に、砂丸城の跡取りは凍りついたが、しかして国を守る一族の役目を思い起こすと、素早く水から上がる。衣服よりも先に小刀に手を伸ばしたが、寸前で霹靂の閃きが白木作りの柄を弾いた。

”たわけめが!”

龍は尾を鞭のように飛ばして、獲物の足を払うと、よろめいたところへ巻きついて、あっという間にとぐろの内にからめとる。

「お、おのれ…私を砂丸城がとんぬらと知っての狼藉か!」

”おうとも!我は龍達ろんだる連山に住まいす龍母ゐ゛るたが子、乙太なり!今日は砂丸に嫁取りに参ったのだ!”

「よ、嫁取り…さ、さては瑠々を!一命に換えてもさせまいぞ!ええい離せ!離せ!あやしき、くちなわめ!成敗してくれる」

”るる?そのようなものに用はない。俺が娶るのはお前だ!”

「な、何を!侮るか!砂丸の男子を愚弄してたただで済むと…ひゃぁっ!?」

果敢な台詞も中途から情けない悲鳴に変じる。鱗の生えた尾が股間に潜り込み、まだ糸を一本引いただけのような秘所を擦り上げたのだ。

”ふん!これのどこが男子だ!”

「や、やめ…ひきょうも…んっ…ぁっ…」

ざらつく蛇の皮膚が幾度も感じやすい場所を往復すると、抗う声にも次第に甘やかな喘ぎが混じり始めた。ころはよしと巨躯は動きを止めると、淡い輝きを放って長虫から人へと姿を移ろわせた。

とんぬらより僅かに丈の高い童児。質の強い烏羽色の鬣に、利かん気そうな顔付き。あけっぴろげな笑みを浮かべながら、嫁と決め込んだ相手を逃さぬようしっかり抱すくめる。

金髪の幼な君は三分の怒りと三分の畏れ、三分の驚きで以って、さほど齢の離れぬ見ためをした異国の神を窺がった。あとの一部は、凛々しい容貌に惹かれる、認めがたい気持ちだった。

「俺の嫁になって卵を産め!」

「な、何を…んむ…」

まだ誰にも許していなかった接吻を、見知らぬ男児はあっさりと奪った。小さな舌が性急に押し入って、乱暴に口腔を捏ねる。どうにか逃れようとする双生の子を、龍の子が強引に押さえつける。獲物の瞳に映っていた意志の輝きが薄らぎ、蕩けきるまで、口付けは続いた。

唾液の橋を作って唇と唇が離れると、乙太はにんまりしてとんぬらへ命じた。

「四つん這いになって、足を開いて、えーと尻を上げろ」

「…ぁっ…いや…だっ」

「むっ!」

龍達山の主は拳を固めると、ぽかりと砂丸城の世継ぎを殴りつけた。

「ぁうっ」

頭を抑えて倒れこむ華奢な獲物に、そのまま圧し掛かると、指を開き、平手にして、今度は円かな尻を打ち据える。小気味のいい音とともに、白い臀肉に紅葉が散っていく。

「ひぎゃぁっ!はぐっ!くううん!」

小さな掌の一撃一撃が、双生の子の体の芯まで響く痛みの波となって伝わる。わずかに霆を帯びた攻めは、容赦なく柔肌を臙脂に腫らし、時には双丘のあいだの秘裂や菊座さえ刺激して、絶え間ない叫びを引き出した。とんぬらが耐え切れず涙を零したところで、乙太は急に止まる。

「聞き分けよくして、俺の嫁になるな?」

山吹の髪を汗にぬらした幼な君が、なけなしの誇りを振り絞って、えずきながら首を横に振ると、龍の化身はむっとしてまた尻叩きを再開した。またしても甲高い哭き声が迸り、泉を渡っていった。

疲れを知らぬ折檻がどれだけ続いただろうか。とうとう双生の子の心も折れ、だらしなく失禁しながら、ぐったりと四肢を広げて地面に潰れる。龍の子は、脂汗をかいた細首の後ろあたりに口を寄せて再び尋ねた。

「俺の嫁になるか?」

「ぅ…なる…から…もぉ…やめ…」

「ちゃんと言え」

乙太が、せっついてとんぬらの耳をかじる。

「ひっ……乙太様の…嫁になって…ひぐ…卵…産むから…おしり…叩か…ない…で…」

「よし!」

よくできたとばかり止めの打擲をくれると、龍達山の主は有頂天といった表情で砂丸城の跡取りを眺め下ろした。幼い雄に屈伏した雌の肢体が、最前命じられた通り、四つん這いになり、脚を開いて、尻をもたげる。

柘榴のようになって震える双臀に、乙太は満足げに手を置くと早速に腰を進めて、過たず陰唇を貫いた。前戯も愛撫もなく、勢い任せの抽送に、とんぬらの枯れかけた喉から、また苦悶の音色が零れる。破瓜の血がほっそりした太腿を伝い、平らな岩の足場に点々と朱の滴を落とした。

やがて龍の歓喜の咆哮が奔って、天井の破れた地下の泉に跳ね返ると、いつまでもいつまでも谺した。


細かな漣が、ずっと泉を揺らしていた。水中にねじれうごめく龍の巨躯に、縛り付けられた童女が一人。否。男児か。否。半陰陽の子。蛇や蜥蜴の仲間だけが持つ、二股に分かれた陽根が、腟と腸を同時に貫いて、臍のあたりまで形がはっきり覗えるほどだった。

長虫の伴侶となる誓いを立ててから、新妻はもう何日もろくに寝ていなかった。夫が蛇身になってからは、食事の時も排泄の時も番ったまま、浅い睡みの中でさえ肉の悦びに浸っていた。口移して飲む竜涎が、活力を保ち、高めてくれてはいたが、代わりに頭の冴えを奪い、体を絶えず火照らせて、幼な君を少しづつ愚鈍な雌へと堕としていた。

「乙太様ぁ…おにゃかぁ…くるしい…はじけ…そぉ…子種…でっ…」

”へいきだ。女の腹はじょうぶだ。やや子が入るんだ!”

「でも…でもぉ…おしりも…あぐ…もぉ…だめ…だしたいのに…だせなくて…くるいそ…」

”んんー。でも…ちゃんとはらむまで…”

「も…はらんだからぁ!!ちゃんと、ちゃんとはらんだからぁ!!」

泣きじゃくりながら懇願するとんぬらに、乙太は牙をかちりと鳴らして首を傾げた。

”分かった”

ずるりと二本の凶器を引き抜くと、微光を放って人の姿に戻る。だが両腕はしっかりと嫁の腿を抱えて、赤ん坊に用を足させるような格好で支えている。

「ぁ…ぁっ」

「いいぞ?」

「ぁっ…あはぁっ♥」

双つの肉穴から勢いよく白濁が溢れる。滝のような勢いで浄めの泉に落ち、淫らな水音をさせながら、膨らんでいた腹が凹むまで延々と排泄を続けた。さらには愛液と尿の混ざりものを零しながら、砂丸城の跡取りはまた絶頂に達した。痙攣しながらのけぞり、婿の痩せた肩に頭を載せて喘ぐ嫁の耳元に、楽しげな問いかけが届く。

「これでいいのか?」

「はい…はい…」

「だけど、お前の国の…だいじな場所なんだろ?この泉」

「ぁ…」

ぞくりと寒けが背筋を走る。神霊への祈りの地を穢し尽くした狼藉に、恐ろしい禁忌の思いが起こる。最早るびす様が願いに応えるはずもなかった。だが触れ合う肌を通して伴侶の熱が伝わると、恍惚が悔悟を塗り潰していく。

「も…構いません…私は…この体で…龍の嫁になります…卵を産みます…幾つでも…」

「そうか!よかった!母上は俺一人しか作らなかったから、龍達の連山は主が不足しているのだ!」

「は…はい…あの、お山は全部でいくつ…」

「えーと百と八つだ!」

「え?」

「だからちょっと早いと思ったけど、急いで嫁取りに来たのだ。今からじゃないと間に合わないだろう?」

「え?え?ちょっ…」

「さぁ砂丸城へ行ってあいさつをするぞ!そうしたら龍達に帰っていっぱい続きをする!一度に八つぐらいは産めよ!」

「いや、いやあああああ!!!!」

とんぬらの絶叫をよそに、乙太は再び巨躯へと変じると長々しい尾を巻き付け、天へと通じる岩戸を潜って高く高くへと昇っていった。あとには浄めの泉が、幼い雌雄の狂宴のあとも、少しも渾りのない冷たく澄んだ水をたたえ、静かにたゆたっていた。


「無理!」

がばと起き上がるトンヌラの横で、いつもの如くズィータは少年の笑みを浮かべて寝返りを打つ。また夢が交じり合ったのだ。最近は二人で寝ているとよく起きるのだ。どうしてなのか分からないけれど。枕の下にあったおかしな護符はとおの昔に片付けたのに、一度つながったものは中々断ち切れないらしい。

「まったく…何で…」

ロンダルキアの闇后が寝台の側の机を一瞥する。王が床に就く前に読んでいた書物が載っていた。”ジパング―猛き黄金の国”、伝説の上方世界、ミッドガルドにあるという幻の国の名前。どうせ腹心の将軍、バズズがまたよそから仕入れた本を借りたのだろう。いつも妻の子供っぽさをからかうくせに、夫本人はこうして稚い異郷への憧れを隠し持っているのだ。

「それにしても…」

半陰陽の娘は、頬を膨らせると、夢路の連れの上へかがみ込んで、額に額をぐりぐりと押し当てる。眠りの深い青年は、これくらいでは置きやしない。

「どうしていつも、無理矢理じゃないといけないんですか?乙太って子は…」

「ん…」

「たまには…やさしくしてくれたって…いいと思いますけど…?」

おまけに百と八つだなんて。数えたのだろうか。峻嶺に囲まれた地に嫁いだうえはと、内侍のデビルロードの博識を借りて、城から望める峰々の名前も一通り覚えたが、とてもすべてを把握しているとは云い難い。

目の届く限り白銀の尾根が連なる彼方には、また別の山並があり、その向こうにはさらにほかの険岳が続いているのだ。この厳しい雪国だけで、一生かかっても周り切れないほどの峠や谷がある。なのに、ズィータは、なお遥か別の天地に焦がれるのだろうか。

「おかしな…人…」

呟くと息がかかってくすぐったかったのか、青年の口元が動き、なにごとかままやいてから、いきなりぱちりと瞼を開いた。

「まちがえた、とんぬら。全部で八百と八つ・・・・・だ」

「ひっ…」

顔をひきつらせる妻をいきなり抱き寄せると、夫はまた幸せそうな笑みを浮かべ、無邪気な睡みに沈んでいった。

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