PaperBack Writer

 架空かけぞら学園 中高等部 風紀委員会 会議室。

 黒い板に白字で書かれた表札を睨んで、一人の男子生徒が襟を正した。竦む足を無理に前へ踏み出して、ドアの把手に手をかける。

「中等部 木根、入ります」

 ぷしゅっと空気の抜ける音がして、扉が開く。エアコンの効いた空気が顔に当って、じっとり濡れた額や顎下を擽った。無理に肩を聳やかしてつかつかと室内へ入ると、嬉しそうな声が出迎えた。

「良く来たな。木根学生…よし、閉めろ1年!」

 扉の裏側に控えていた女子生徒がさっと飛び出してドアを締め、しっかり鍵を掛けると、背中を貼り付ける。おかしな雲行きに危険を感じた男子生徒が、後戻りしようとするより先に、別の大柄な女子生徒が脇から彼を後手に抑え込んだ。

「…さて木根君。手荒な歓迎を悪く想わないでくれ給え。此方は架空学園中高等部6学年の治安と風紀を預かる身だ…君のような、その、危険人物を相手にする時は…」

 笑み含んだ女の顔が、歯を食い縛って痛みに堪える木根の前に近付いた。ほっそりした指が男子生徒の顔からメタルフレームの眼鏡を奪い取ると、後ろにいた仲間の一人に投げ渡す。

「対抗措置を取らざる得ない。何せ風紀委員はか弱い女子ばかりなものでねぇ…」

「だ、だからって、眼鏡を…、いたたたたた」

 口答えは許さんとばかりに大柄な生徒が捉えた腕を捻り上げる。正面の女は、風紀委員長、と書かれた腕章を己の肩まで引き上げて、ふむ、という表情を作った。

「書記、乱暴をするな。中等部文芸部期待の新人だぞ…部室でいかがわしいゲームをやっていたとしても…その腕を折っては我が学園にとって重大な損失になる」

 書記と呼ばれた少女は、残念そうな表情力を緩めた。年若い文芸部員はやっと肺から空気を吐き出し、改めて委員長の方を見遣った。彼女は腕を組んだまま左右を行ったり来たり、演説するような口調で話し続ける。

「作品を読んだよ。最新作はラブコメディだったね。嫌いではない。私からすればテーマ性や人生の悲哀、といったものが足りないようだが…」

「それはどうも…」

「しかし、あれはいかんね。君の…」

 豊かな胸を包むブレザーの胸ポケットから、白い指がメモリー・カードを取り出す。それを見た途端、男子生徒の顔はさっと青褪めた。

「18禁小説は?」

「それをどこで!」

「部室の臨検だ…」

「な!?大体校則では、部室の検査権があるのは顧問と生活指導の教師だけと…」

「君は入学したてで何も知らんのだな。我が学園において、風紀委員会は、あらゆる校則に優先する権限を与えられているのだ。理事長から直々にな」

「…だったら好きにすればいいでしょう」

 少年の白皙の容貌は怒りに強張ったが、それが男らしさを帯びるには残念ながら後5年は必要だった。増して、余り外聞のよくない秘密を握られたのだ。些か引け目もある。委員長はぞくぞくっと背筋を駆け抜ける快感を抑え、辛うじて平静な声音を保った。

「おやおや、すんなり自分の書いた物だと認めるとはね。つまり君は、その年で女性を性的な妄想の対象にしているようだ…伝統ある学園にそのような生徒が居てはならないんだがな」

「余計なお世話です!女子に迷惑を掛けた覚えは無い!」

「君の彼女にもかね?こういう…その、プレイを要求した事は?」

 扉を抑えていた少女の一人が笑い出す。もう一人が肘で突付いて黙らせようとするが、こちらも噴出すのを必死で堪えているようだ。木根少年はその無邪気な響きの底に篭る、得体のしれない情念にぞっとした。

「あはは、無いですって委員長。私の調べ上げた所、木根学生は寮に入ってから、同性の友達は多いようですけど、女性関係はまだありません」

「ほう、それは喜ばしい…学生としては当然だが」

 委員長の容貌が輝く。何が喜ばしいんだ。執筆が忙しくなければ僕だって恋人くらい、そう胸裡で呟いてから、ふと年上の少女達の目配せにまた妙なものを感じて眉を顰める。

「さて、君の処分だが…」

「停学ですか?だったらちゃんと先生と話をさせて下さい」

「停学?何を言っているのかね。君は退学だ」

「はぁ!!?退学だって、冗談じゃない。僕は…」

「君はもう学生ではない。性的異常者は学生にしておける訳が無いだろう。ほら」

 委員長は一枚の紙を彼の前に突き出した。文面は途中まで指に隠れているが内容は嫌というほどはっきり読み取れた。

 "…久 1年B組。左記の者、風紀紊乱により、学籍を剥奪し、風紀委員会に処分を一任する。今後は同委員会の備品扱いとし、主たる用途を委員の性欲処理と位置付ける"

「君は、本日付で我々の備品目録に追加された。いわばトイレだな。生徒会や体育委員会に取られる前で良かったと思え。あのゴリラみたいなラグビー部の連中に君を壊されたのでは、それこそ学園の損失だからな…その点我々は女子ばかりだし、容姿のほうも、ふふ、揃っていると想うがな」

「ちょ、ちょっと待ってください。言っている意味が」

「あんな小説を書いていて解らん訳でもあるまい、木根学生、いやもう学生ではなかったな…では、学生服もいらん訳だ」

 少年は激しく抵抗した。小説を書いていようがいまいが、不当な扱いに納得する積りは無かった。だが、相手は高等部の生徒ばかりで、しかもやたらと手馴れている。見る見るベルトが引き抜かれ、ボタンが外され、シャツを剥がれ、一糸纏わぬ姿にされてしまう。委員長は一寸眼前の光景を凝視し、ねっとりと独りごちた。

「いい格好だな。それに綺麗な肌だ。やはり推薦入学の話を持っていって正解だった」

「もう、委員長ったらおやじですよ。私だって入学式の時から目をつけてたんですから」

「一昨年、架空小の運動会で発掘したのはあたしですよ」

 意味不明な会話が囁かれる。一昨年の運動会?そういえば、5年生の頃、運動会に架空の生徒がビデオカメラ持参で来ていた気が。近所だったし彼等の弟や妹の撮影だろうと想ったのだが、もしかして違うのだろうか。

「こらこら、早い遅いの話なら私は彼の低学年の時の文集を読んで居る。遠足の時の写真だって裏ルートから…とかく私は学園の繁栄のために優秀な生徒を集めて来たのだ…」

「出た、委員長の18番。年下漁りの自己正当化」

「木根、君はその私の期待を裏切って、こんな淫らしい男の子に成長してしまった。君を見守る母にも等しい私を悲しませた罪は重い」

 好き勝手な言い分に、きっと少年は視線を上げて委員長を睨みつけた。

「あなたのは、権力を嵩に来たストーカー行為だ!退学になった以上、僕はこのことをマスコミに公表してやる!離せ」

 委員長は真青になってよろめいた。他の生徒達も気まずそうに顔を見合わせる。露骨に傷ついた表情で後退る彼女に、鋭い言葉を投げた方も少し後悔した。

「いや兎に角、こういう馬鹿な真似は小説の中だけで充分です…その、委員長に目を懸けて貰えたとしたら嬉しいですし、学園に入れたのも…ですが…」

「黙れ」

 ぱん、と音を立てて彼の頬が張られる。委員長はギラギラした目で小さな下級生をねめつけると、隣に命じた。

「浣腸器を持って来い。最新型の奴だ」

 女子生徒の一人が待ってましたとばかり飛び上がって準備室の方へ向う。浣腸器というものを調べた事のある木根少年は、肌に粟をふいて抗議した。

「や、やめてください。素人が面白半分に使うのは危険なんですよ!」

「我々は素人ではない。学生運動を取り締まっていた頃から伝統的な尋問道具として、体験、使用ともに熟練している」

 腕拉ぎを決める書記が冷静に答えた。委員長はかなり凶悪そうな機器を受け取ると、愛用の刀を磨く武士のように、そっと硝子の表面を撫でた。

「ちょっ!それは馬用でしょ!」

「詳しいな♪やはり作家は違う」

「死ぬ、絶対死ぬ。無理に決まって…」

 他の風紀委員が二人掛かりで大きなバケツを運んでくる。中には少し粘性を帯びた透明な液体が入っていた。

「グリセリン濃度15%です。量は…3リットルくらい?」

「多っ!」

 思わず肩を起こしかけて突っ込むと、また無理矢理押さえ込まれる。書記は裸の背をつつーと指でなぞりながら、落ち着き払って囁いた。

「君の小説には1リットル以上入る子も出てくる、そうですよね。委員長」

「うむ、作家にもそれが可能だと証明して貰わねばな」

「あれはフィクションだって断ってるじゃないですか、実際にあんな事できるわけ…」

 勿論、彼女達はするつもりだった。美味しそうな少年の尻に嘴管を当てると、小型の電動ポンプにスイッチを入れる。

「嫌だ!止めろ!あぐうぅぅっ!!!」

 細い先端が食い込み、ゆっくりと直腸内部に入り込んで来る。両肢を左右から別々の委員が抱き抱え、動けないようにした上で、躊躇無く土踏まずや指の間を舐り始めた。

「んむっ、この前のサッカー部の子と違って匂いがないね」

「れろっ、むっ、流石委員長のお気に入り〜」

「あひゃひゃひゃっ!ちょっ、くすぐったいよっ…うぐぁ…って入らな…あひゃひゃっ…」

 もう泣いていいやら笑っていいやら、錯綜する感覚に少年は混乱状態だった。その間、委員長は、かなり底意地悪く浣腸器をねじり、奥深くまで押し込んで、括約筋のすぐ裏に当る部分を膨らませた。続いて付属の革ベルトを両腿と双臀に食い込ませ、きちんと留め付ける。

「入るものだな。もしかして執筆中に自分で実験した経験があるのかな?」

「あ…がっ…はひっ」

「委員長」

「よし、書記、離してやれ」

 腕が解放されると、さらに二人が飛びついて、掌の汗を舐め始めた。余った残りの生徒は、脇の下や乳首に吸い付いて、甘噛みする。まるで母猫の乳を啜る仔猫達のようだ。

「かっ、あきぃっ!きゃぅっ!」

「あはは、ステキな声で鳴くね?」

「この前の合唱部の女の子より高い声出せるか試してみようか。ね、いっせいのせで噛むよ」

「ひぁあああっ!!」

 後輩達の有能な働きぶりに満足しながら、委員長はポンプの出力を上げた。びくんと木根少年の背が跳ねて、ぐるぐると腹腔を掻き回す液体に涙を流し始める。

 それを目にした責め手の一人が、頬へ唇をつけ、眼球の上までべろべろと舐めていく。

「ぎぃああっ!目、嫌だ…!あがぁっ、お腹もぉっ…」

「いつもモニター画面ばかり覗いて乾燥気味だろう、たっぷり濡らして貰え。嫌だと言っている割にはすっかり勃っているじゃないか。被虐願望もあるのか?」

 むず、と委員長の手が、薄桃色の突起を掴んで、捻り上げる。華奢な躯がまた痙攣し、信じられない角度で反り返った。引き絞った弓のようになる背骨の上で、浣腸液で膨れた腹が極上のブディングのように震える。書記は我慢ならんとばかりに掴みかかり、腹筋を揉みながら臍へ舌を捻じ入れた。

「揉まなっ…いっ!!でぇっ!漏れちゃぉっ…」

「漏れない。我々は素人ではないといった筈だ。存分に狂え」

「嫌だぁっ…も無理ぃ…無理ぃ」

「うるさい口だ」

 委員長は、乱暴に少年のファーストキスを奪い、涎を飲ませると、舌を押しやって嚥下させる。

「委員長、私にも」

「ちっ、惚れた相手の唇も独占できんとは、因果な役職だよ」

「あはっ、美味しそう。委員長、私も私も」

「その次私ねー!あ、駄目よ!あんた達はお尻の皺舐めてるからいいじゃない」

 順繰りに舌の輪姦が行なわれる。流し込まれた大量の唾液に噎せながら、少年は二巡目、三巡目、としつこく口腔を酷使された。その間もバケツの中身はどんどん目減りしていく。もう腹を軽く掴まれるだけで、耐え難い苦悶が襲う程だった。

 すると書記は、頑丈な掌を一度強く食い込ませてから、臍を穿っていた舌を抜いて尋ねた。

「出したいか?」

「う…ぁ…ぁ…」

「頼めば出させてやる」

「が…出させ…て…くだ…」

 委員長が許諾の証に目配せをすると、書記は嘴管の隣に別のホースをつなげた。一瞬管の中が茶色く濁り、ゴムチューブの中を通り抜けていく。

「…浣腸しながら排泄も可能だ。っと詰ったか?誰か延長ホースで、バケツの方のポンプを水道管につなぎ直せ…5分も循環させればグリセリンは消える。後は何時間でも楽に過せるぞ」

「いやぁああっ!!!」

 幼児のように泣き叫ぶ相手を見下ろし、委員長は腰を擡げると、するりとブレザーを脱いだ。ブラウス、ブラジャー、スカート、下着、ソックスを順に外して、きちんと畳む。

「小説のキャラクターも皆そういうが、決して許しては貰えなかったぞ。こういう時私の台詞はなんだったかな。そう、こんな可愛い女の子達と遊べるなんて、木根君は幸せ者…だったかな」

 たわわな胸を隠すようにして、すらりとした両脚を少年の上に開き、ゆっくり尻を沈めて、深々と彼自身を咥え込む。

「あぁっ…はっ…我慢した甲斐が…あった…くっ…太いじゃないか…大人になったら怖い男に…なりそうだ…はっ!」

「ぅあ゛っ…あんっ…はぅっ…」

 普段は決して見られないような委員長の乱れぶりに、書記をはじめ場にいた皆がしばし手を止めて魅入る。

「凄いね…」

「何年越しだっけ…よく入学まで待ったよね…」

「あれだけマークされたらそりゃ何してもバレるよねぇ…」

「奥さんになったら…絶対怖いよ…」

「ねぇ…ちゃんと…私達させて貰えるのかな…」

 心配顔の下級生達に、書記が安心させるように励ました。

「大丈夫だ…委員長とて不死身ではない…学園内マラソンで大学生を抜いて1位だったりもするが…いつかは体力が尽きる!」

「でも、その時は木根くん…」

「…うっ…大丈夫だ!準備室の方にバイ○グラが1グロス残っている。彼もまだ若いんだし、まぁその…」

「そう言う書記だって…付き合ってた柔道部の彼が衰弱して入院したって…」

「あれは、あいつがいかんのだ!…とにかく、私はあれから男をいかせずに楽しむ方法を編み出したし…」

 体育の時間の着替えでもあるかのように、気軽に服を脱ぎながら囀る小鳥達。その只中で、歓喜に哭く少女と、悲嘆に喘ぐ少年の二重奏が、高くあえかな和音となって鳴り響いていた。


 風紀委員会 会議室。机の上には型落ちのノートPCが開き、周りには何枚もの書類が折り重なっている。普段は賑やかな部屋を、今はキィボードを叩く静かな音だけが満たしている。

「よしよし、最新作も優秀だぞ木根君。やはり実体験がものをいったかね?」

「そんなの…関係なっ…」

 風紀委員長は、膝の上で戦慄く眼鏡の少年を揺すって、反応を楽しむと、菊座を貫いたディルドゥの位置を変えて、丁度前立腺の後ろに来るように押し込みなおした。

「きひゃぁっ…あぅぅうっ…」

「ほらな。ここの責めは私が教えてやったのだ。ところで演劇部が君を貸せと煩い。さすがに男子の部活は全部断っているが、理事長からも備品の独占を注意されていてな」

「だめぇ!!」

「まぁ…この前の水泳部の時は凄まじかったからな。お陰で各部活をテーマにした作品が書けたのは喜ばしいが…しかし読者は知っているのかな…」

 射精止めをされた陰茎の雁首を引っ掻き、尿道に差し込まれた細いバイブレーターを抓んで軽く捻る。声にならない悲鳴を満喫し、女は嫣然と笑みを浮かべた。

「彼等のために淫らしい小説を書いているのが、こんなに可愛い男の子だなんて…」

「言わない…でぇ…」

「ふふふ、どうしようかな。公開調教というのも、悪くはないが…」

 心にもない言葉を呟き、再び秘肉の内側を抉り直す。支配欲の充足に、彼女の肩が打ち震えた。首輪のリードを引っ張って、喉を反らせ、キスマークを刻みつつ、謳うように先を続ける。

「偶には外出させてやろう。ずっと会議室で飼っておくと健康に良くない。服がないな…君の私物は全て焼却炉に放り込んでしまったし…そうだ、私の中学の時のお古を着ろ、どうだ」

 少年は答えず、ただ淫靡に腰を揺すった。肯定、と受け取った委員長は目を細めた。

「但し下着は無しだ…汚されては叶わんからな…ふふ、今から楽しみだよ木根君。明日は街に繰り出すとしようか…」

 今にもばらばらになってしまいそうな四肢を強く抱き締め、終りのない絶頂へと導く。放り出されたノートPCのディスプレイには、ウェブサイトのアクセス解析画面が映り、驚異的なヒット数を表示していた。だが作家の悲鳴は、会議室の外にも、インターネットの向こう側にも、決して届きはしなかった。












 この作品はフィクションであり、実在の人物、団体、サイトとは何の関係もございません。似ていたとしたらそれは偶然の一致です。本当ですってば。う、訴えないデー。

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