Skirts Warrior

「被告マド・ハトラー」

地球政府第五百六十四法廷を司る裁判官ロボットは、凶悪犯罪者に判決を下すための口頭論告を静かに始めた。

「あなたは新東京市においてミニスカートを穿いた成人女性七人、および少女五人に対し暴行に及ぼうとし、合計十二回に渡って警察ロボットに逮捕され、累積の罪数が最悪段階に達しました。この事実を認めますか」

「ああ…」

マドは不敵に嗤った。ホルモンコントロールによって作られた中肉中背、整形技術によって生み出された特徴のない顔。だがどれだけ表情筋や眼球に加工を施そうとも、にじみ出る強姦魔の本性は隠せない。

司法の長たる電子頭脳は、平板な調子で先を続けた。

「あなたの希望により、弁護士ロボットは同席していません。判決を下す前に、あなたには自己弁護の機会が与えられています。減刑はかないませんが、公的な記録として発言は残るので、他の人があなたに興味を持ち、参照して、支援活動を行ってくれるかもしれません」

「くくく。いいだろう。ミニスカートを穿いた女は皆男を誘ってやがるんだ!俺は!強い雄として、狩る側として当然の行為をしたまでだ!貴様らが振り回す人権だの平等だのくそくらえだ!いつからか社会は、ロボットどもに去勢され、男が男らしく、自由に振る舞うのを許さなくなった!俺がやったのは異議申し立てだ!くそったれな世界へのな。雄の権利を行使されたくなかったら、女やがきは皆、全身をすっぽり覆う修道服を着るんだな!!」

裁判官ロボットは被告の音声をすべてを保存すると、不意に瞬きをして告げた。

「以上ですか?」

「ああ…おいポンコツ。お前は俺の意見についてどう思う。くく。どうせ教科書通りの退屈なおだいもくを唱えるんだろうな…お前の頭で何かひねりだしてみろよ」

機械はのっぺりした顔をしばらくマドへ真直ぐ向けてから、答えた。

「以前に私が担当した被告は、宗教上の理由から修道服マニアでした。自分の手で脱がすまで肌の一部でも見えていては興奮できないのです。それ自体は違法ではありませんが、暴行に及び、あなたと類似の理論で犯罪を正当化しました。記録を再生しますか?」

強姦魔はしばし絶句すると、のろのろと呟いた。

「概略だけ聞かせろ」

「その被告は、自らを神だとし、修道服をまとったものはすべて、己の眼だけを楽しませるために肌を隠しているのだと主張しました」

「へ、へぇ…」

「このように、どのような服装が他者にどのような印象を与えるかという問題は、今日において多様化しています。地球政府は域内の統一方針として、被害者の外見や加害者の価値観によって、罪の重さを斟酌しないと決定しています」

「それで。俺の刑は何だ」

マドが尋ねると、ロボットはちょっと黙ってから返事をした。

「追放です。時間の流れの異なる別次元へ。あなたに相応しい場所へと」

「なに…」

「ただちに執行します」


空調の利いた裁判所から、次の瞬間には霧けぶる大地に。強姦魔は転移させられていた。肌寒さに竦んでいると、目の前に銀色の球体が漂ってくる。看守ロボットだ。人間の眼玉を模したような金属質の塊で、中心がちかちかと輝き、マドの額に光線を当てた。頭の芯が痛むのを覚えて、マドはぎくりとした。

「おい!俺に洗脳をしようってのか!」

「この世界の言語を刷り込んだだけです」

「この世界だと?ここはどこだ!?」

「地球政府が時空ゲートを通じて把握している流刑地の一つです。我々の歴史でいえば中世初期といった文明水準でしょうか。あなたの価値観で言えば、雄であること、極めて強い雄であることが、求められる世界」

「なに…なんだと…俺をそんなところに置き去りに…」

「地球政府はあなたの生存を保証しません。あなたの行為を束縛しません。あなたの要求に応じません。それではさようなら」

ロボットは揺らめいて消えた。

マドはぼんやり虚空を見上げてから、ややあってにやりとした。

「ふうん。考えてみれば、ここなら下らん法律もない。中世初期なら、女と男の地位が平等なんておためごかしもない。犯されたくなければ、女はせいぜい自衛しろって訳だ。いや、そうじゃないとしても、地球政府の奴等はそう云ったも同じだ…くくく。いいだろう。こいつは処罰どころかご褒美じゃないか!」

霧に巻かれて、すたすたと歩き出す。方角も何も決めていなかった。どこかに家や店があるだろう。通行人にも出会すはずだ。女なら犯して身ぐるみはげばよし。男なら躱せばいい。

辺りは丈の高い草がまばらに群生している。地面は平らで褐色の苔に覆われ、歩く音を吸い込んでしまう。やがて白く烟る視界の彼方に、望み通りの光景が現れる。脚だ。ミニスカートに包まれた、無防備で、しなやかな脚。まさに夢の具現だ。なんという幸運だろう。異世界へ訪れてものの五分もしないうちに獲物をとらえられようとは。

「きひっ…」

流刑者は舌なめずりをすると、姿勢を低く落として一気に襲い掛かった。しかし次の瞬間、叢から縄が飛び出して脛に巻き付くと、マドを引きずり倒した。

うつぶせになって、痛みにうめく強姦魔の頭上を何か重いものがすごい速さで通り過ぎていく。ぎょっとして頭を上げようとしたところで、からみついた索がものすごい力で叢に引きずり込む。

「ななななん?」

「静かに!」

耳元で緊張した子供の声がする。小さな手がマドの背に置かれて、万斤の錘のようにしっかりと抑え付けた。肋が折れそう押しのな強さに喘ぎ、身を起こそうとすると、草のあいだを透かして、二本の生足がゆっくり動いていくのが覗けた。

「く…獲物…獲物…俺の…」

「黙れって。”女”に見つかったらどうする」

女、という単語に篭もる恐怖の響きに、犯罪者はぎょっとして、ようやくと己がすでに異世界の言葉を操っているのを悟った。ミニスカートが遠ざかっていくと、体の上に載った重みが弱まって、少し息ができる。

「なんだってあんな無茶をしたんだ」

囁きかける声に、マドは鼻白んで振り向いた。居たのは小汚いなりをした少年。ぼろをまとって、小さな手に投げ縄をたぐりよせている。

「がき、俺の狩りを邪魔しやがって!!折角のミニスカートを逃がしちまったじゃねえか」

「…ミニスカートと知ってて向かっていったのか!!?発情期でもないのに?」

強姦魔はぐらっとよろめいた。外国語を即席で刷り込むと、こうした意味のずれにぶつかって、乗り物酔いのような、おかしな錯覚に囚れる。

「ミニスカートの女はすべて俺の獲物なんだよ!」

「…あんた…頭がおかしいのか…それとも季節はずれの発情でもしてるのか…違う…」

童児は食い入るように流刑者を見つめてから、独りごちた。

「よそものだな…この世の外から来た…」

マドはびっくりして凍りついた。看守ロボットは、中世と同水準の文明と説明していたのに。こんなちびに見破られるとは、ひょっとすると奴等のとんでもない勘違いなのか。

考え込む強姦魔を、なおも執拗に観察しながら、少年はごくりと唾を呑み、話の穂を接いだ。

「よそものなら、教えてやる。背を低くして、こっちへ来い」

子供は手招きをすると、草のあいだを縫うようにして進んでいく。犯罪者はほかにあてもないとあって、渋々とついていった。幾度も固い茎に肩や頭をぶつけて揺らすと、稚い先導役は振り返ってにらむ。

「おい、そんなにうるさくするな。この草原で一番まぬけなけものだって、そんな物音は立てないぞ」

「…なに…」

「静かにしないと、女にすぐかぎつけられる。そうしたら命はないんだぞ」

「どういう…」

「うるさくするなら、もう連れて行かない。お前に教えてやるために、女を、ミニスカートを見られるように案内してやろうとしてるのに」

女のもとへ案内する。そう言われては従うしかない。とりあえずはだ。マドが神妙になると、少年はまた歩き始めた。

それからどれだけ進んだだろうか。流刑者が息を切らし出したころ、子供は急にまた立ち止まると、身を伏せるように合図した。二人は匍匐していく。風が吹き付け、すぐ正面が大きな断崖に落ち込んでいるのが見える。縁までにじり寄るとほとんど垂直に切り立った絶壁だと分かった。先導役は、怖々指で、はるか下方を指差した。

「見ろ。あれが女だ」

いた。ミニスカートが。大量に。外に顔を向けて輪を作り、内には子供が遊んでいる。女たちは太腿までを覆う布に、煌めく薄い鎖帷子をまとい、利き腕にまさかりを、逆の手に丸盾を装備し、二本の角の生えた円錐形の兜を被っていた。

マドはしばらく目を点にしてから、急に咳き込んだ。

「ミニスカートっていうか…キルトだろ!!あれは!」

地球では違うニュアンスで使われる二つの言葉が、この世界では同じものだった。いや、地球でも実際は同じものなのだが。少年は畏ろしげに頷いた。

「そう。古来から連綿と続く、一人前の戦士の証だ。ここの男なら誰でも、ミニスカートは危険だと、よく承知している。うっかり近付いて頭を刎ね飛ばされても、文句はいえない。そいつの常識が足りないだけだから…」

「え…ちょっとまって…女如きが?なに?男が勝てないって?」

「殺されかけたんだぞお前は」

マドはぎくりと固まった。先ほどミニスカートに突撃した際、頭上を通り過ぎていった、重い風切り音。あれは女が振るった斧の一閃だったのか。屈辱と怒りに頬が赤くなり、思わず歯軋りしてしまう。

「ち、なんて世界だ!男なら牝の一匹や二匹…」

「馬鹿な。さっきは居眠りしていた歩哨が相手でよかったんだ。ああして群を作ってるじゃないか。発情期以外に男が近づけば死ぬ気で向かってくる。ほかのけものと同じ扱いで切り刻まれるんだぞ」

「象かよ!象の群かよ!」

ゾウは、地球の言葉のまま口をついて出た。この世界に相当する生き物はいないらしい。童児は訝しげに首を傾げてから、また告げた。

「とにかく女が自衛する以上、最良の方法だ。発情期以外は女と子供だけの群を作り、男は一人も側へ寄らせない」

「な…そんな不自然な社会があるか!人間はな、男と女が…その…」

「お前の世界では…多分、ほかの暮らしもあったんだろう。だけど、ここでは斧と群の団結以外に守ってくれる力はないんだ」

少年が呟くのに、マドは納得いかぬげに首を振った。

「子供はどうやって作る…」

「発情期に男から襲うんだ。だがそれまでに男同士で争いが起きる。子孫を残せるのは、ひと握りだ。それに勝ち抜いたとしても、運が悪ければ、女たちに袋叩きにされて殺される」

「どんだけガード固いんだよ女の群は!自衛しすぎだろ!…待て…子供に男だっているだろうが…それはどうする」

「一定の年齢になると、群の外へ追い出される。男の群に加わるか、運が悪ければはぐれ男になる…」

「鬼か!」

「女の自衛のためだ。しょうがない」

マドはあらためて群を眺めやった。女の輪の中には、かたわらの少年とそう変わらぬ年ごろのものもいる。不審に想って振り返ると、相手は悲しげに笑った。

「僕のこと?」

「お前…いったい…」

「僕の父さんはね…お前と同じなんだ。よそものだったんだ」

流刑者はあんぐりと口を開けて、また閉じた。

「つまり地球から…」

「うん。父さんが、僕を育ててくれたんだ。群から盗み出してね。とても危険だったけど、二人で一緒に暮らした…ちょうどこのあたりが、父さんが最初にやってきた場所なんだ…だから…もしかしたら…、いつかは同じような男がやってくるかなと思って…」

強姦魔は呆然と、地球と異世界の混血児を見遣った。ぐるぐると想念が頭を巡る。一つ分かったのは、ああした守りの固い女でも、犯せるはずだという事だ。ここに証拠がある。

子供はぼんやり記憶をたどるようだった。

「…父さんは…母さんに…贈物をしたんだって。いい香りのする花を。そんなことをする男はいないから。びっくりしたって言っていた。それから木の根を発酵させたサケを。果物に混ぜたんだって…そうして…」

「まて、そいつの名前はハレレー・クウィウィじゃないだろうな!」

「どうして知ってるの?父さんの名前を」

思い出した。伝説の強姦魔。十二件がすべて未遂に終わったマド・ハトラーと異なり、三十件もの強姦を成功させた伝説の犯罪者。花束に媚薬を仕込み、酒で酔わせて女をものにした。

「ふ、イケメンでカネモチでエリートてだけで、地球じゃうまいことやりやがって…結局、俺と同じ追放刑か!いいだろう。俺はこの世界で奴を越えてやる!で?やつはどうなったんだ」

「…父さんは…死んだ…けっきょく、発情期にがまんできなくなって、女の群を襲って…生きたまま切り刻まれたんだ…」

「まじで…?イケメンなのに…?」

「僕のために、ずっと我慢してたんだ。だけど…僕が止められてたら…っ…」

「へ、へぇえええ…」

顔を引き攣らせるマドに、少年は溜息を吐いて云った。

「だから、お前は無茶するなよ…よそものでも…生きていけるようにしてやるから…」

「あ、うん。はい」

取り敢えず有効な方法を考えつくまではこのがきを利用しよう。犯罪者はそう胸の内で呟くと、殊勝そうに頭を下げた。


次に少年が案内したのは、半ば地面に埋れた粗末な小屋だった。だが中へ入ってみると、意外にしっかりした作りをしていた。亡き父親が建てたといい、とても地球の都会生まれが工夫したとは思えぬ梁や柱の巧みな組み方、壁の張り方に、器用さと考え深さが感じられた。日曜大工の経験すらないマドには感心するばかりだったが、悔しいので表には出さなかった。

野草のスープというまったく味気のない食事を振る舞われてから、さっそくひとつしかない寝床を占領してごろごろしていると、小さな家の主は暖炉に泥炭をくべながら、尋ねかけた。

「なあ。地球ってどんなところなんだ?」

「ああ?退屈なところだよ。かつては血沸き肉躍る戦場や未開の地もあったがな、いまはロボット、ぽんこつのからくりどもがすべてを管理している…女を抱くのにも相手の許可がいる!」

「…でも女に近付いても、殺されないんだろう?」

「当り前だ!そんなでたらめな話があるか!」

「地球では男と女は、どういう風に…その…一緒にいるんだ?」

「ああ。退屈だね!手紙のやりとりだの、手をつなぐだの、デート、二人であちこちうろつきまわるだけの馬鹿げた儀式だの」

「…父親と子供も一緒に居られるんだろ」

「ああ…だから?」

「ううん…その寝床は好きに使いなよ。僕はここで寝るから」

告げ置くと、童児は暖炉の前で草で編んだござのような布団を巻きつけ、すぐ眠りに落ちていった。マドは寝付かれず、ぼんやりと低い天井を仰ぎ、明日からどのように女を襲うか想いあぐねていた。

やがて、うん、という呻きとともに、少年が寝返りを打つ。強姦魔がちらりと視線をくれると、丸みを帯びた頬を一筋、二筋と涙が伝っていった。

「父さ…ん…」

流刑者はじっと相手を眺めやってから、鼻を蠢かし、やがて合点がいったとばかりに首を縦に振ると、舌なめずりをして、命の恩人の側へにじり寄った。

「くひひ…におう…におうぜ…牝のにおいがなぁ…」

手を伸ばして、ぼろ布の上から小振りな尻に振れる。柔らかな感触に確信を強めて、華奢な体のうえにのしかかると、薄っぺらい布団を剥ぎ取って、服を脱がしにかかる。すぐに少年、いや少女は睡みから覚めて、愕然と双眸を見開いた。

「おい!なにすっ…」

「るせぇ!地球じゃ女が男を家に入れたら犯されても文句は言えねぇんだよ!」

「な!離せ!僕はそんなつもりでお前を…やめっ!…おいっ…」

「ったく、がきが、そもそも俺に近付いてきたのは、やられたかったからだろ?なぁそうだろ?独りでいたお前が悪いんだよ。犯らせろおらぁ!!」

マドが涎を垂らしながら服の裾に手をかけたせつな、ずん、と背後から重い音がした。欲望を剥き出しにした表情のまま強張った顔を、べったりと赤い液体が濡らす。ややあって強姦魔の体はぐらりと揺れて、横へ倒れた。後頭部には深々とまさかりが食い込んでいる。

いつのまにか、小屋の戸口に女が立っていた。兜から豊かな巻き毛を覗かせた、中年の、どちらかといえば、ほっそりした体格の戦士だ。

「母…さん…」

少女が擦れ声で呟くと、ミニスカートの女は鎖帷子を鳴らして屋内に入ってきた。

「ままごとは終わり。これでお前も男がどんな生き物か分かったでしょう」

「…殺さなくても…」

「最初の一撃で仕留めなければ、女は不利になる。腕力の弱い方が身を守るなら、容赦などできない。お前が群に加わっていれば、ちゃんと教わっていたはずです」

「でも…」

「歩哨から連絡を受けたの。お前が群の周りをうろうろしていると。私が往くまで何をしていても手を出さないように頼んでおいた。その男が、お前の主張したように、大人しいのであれば見逃すつもりだった…でもやっぱり同じ。あなたの父と同じ」

「違う…」

娘が抗弁しようとしたところで、親子のあいだの空間が揺らぐと、銀色の球が姿を表した。眼球に似たそれは、あっけにとられる二人をよそに、まさかりの生えた犯罪者の骸を撮影すると、淡々と告げた。

「追放五時間後、死亡確認。ハレレー・クウィウィの最長記録を更新せず。帰還する」

「待って!」

少女は急に叫んだ。看守ロボットは旋回して相手に焦点を合わせると、また平板なちょうしで喋る。

「地球人との混血と確認。遺伝子パターンからハレレー・クウィウィの子供と推定。何かな地球の血を引くものよ」

「…あなたたちは、どうして…こんなことを…」

「刑罰と社会的実験」

「でも…そいつは…」

「彼には十一回の更生の機会を与えたが、順応しなかった。よって、最適な土地へ追放した。この土地で強姦は罪ではない。男は女に嫌われていても、強ければ子供を作れる。いや強姦が社会の一部として機能している。我々による男の供給を拒むか?」

ロボットはミニスカートの戦士を振り返って尋ねた。女は首を横へ振ると、少し間を空けてから付け加えた。

「次回はもっと優秀なものを。この男は無能すぎた」

「期待しすぎないように。行政官ハレレー・クウィウィは、地球が治療しがたい特殊な病人ともいうべき例外であり、自らこの土地を選んだのだ。ほかの性犯罪者はおおむねハトラーのような水準である」

少女はたまらず割って入った。

「どうして男を人間扱いしないんだ!」

「人間扱いはしている。我々は、このマド・ハトラーについて、十一回の犯行未遂後も、条件付けや拘束などの対応はとらなかった。かつて厳罰化が進んだ時代には、性犯罪者の人権は著しく制限され、処罰後は自由な行動を許されなかった。しかし今日では我々ロボットがほとんどすべての犯罪を未然に防げるため、処罰後の生活は格段に改善した。クウィウィのようにロボットシステムを熟知し、出し抜くほど狡猾な犯罪者を除けばだが」

「だけど…」

「君はこの世界で不幸なようだな。クウィウィの教育が君を孤立させてしまった。だが我々の世界も君にとって満足のいくものではあるまい。誰もが満足いく単一の世界などない。幸いにして時空ゲートは、無数の世界をつなぐことができる。君が求めるのであれば、特別措置として、我々の把握している範囲で、望みに合うような世界を案内しよう」

少女はじっと銀の目玉を見つめて、やがてそっぽを向いた。

「要らない…」

「そうか。それではさようなら」

看守ロボットが消えると、娘はうつむいた。母は斧を引き抜いて血を拭うと、穏やかに話かける。

「群へ戻っておいでなさい。独りでいては危険」

「いいよ…ここにいる…」

「どうしても?」

「どうしても」

「分かった。ではまさかりを置いていきます。使い方は…分かるでしょう?」

「うん」

ミニスカートの戦士が屍を引きずって去ると、ぼろをまとった少女は拳を握り締め、静かに泣き始めた。かすかな嗚咽の音が、いつまでも、いつまでも小屋にこもって響いていた。

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