Love Portion

老いた驢馬にまたがって、配達夫のヴァルはくねった道を進む。行く先は森の奥、とんがり屋根の一軒家。ねじれ木の生垣を超えて、緑の丸扉の前までくると、鞍から降りる。はづなをつながなくても、おとなしい駄獣は辛抱強く荷を載せたまま立っている。

一つ二つと麻袋をとって、苦労しながら地面に置くと、背伸びをして呼び鈴を鳴らす。一度、二度と澄んだ音がしてから、戸は内へ開いて、家の主が顔を出す。丈高い黒髪の、綺麗な女だが、うっすら鱗に覆われた頬に、縦長の瞳孔を持った翡翠の双眸が異彩を放っている。

ちびの運び屋はしかし怯えたところもなく、古びた帽子をとって、白と茶の縞になった頭をぺこりと下げる。

「こんちわリンツィアさん」

「やぁいつもご苦労さんだね。おあがり」

招きに応じて粗布の包みを抱え、よろけながらも薄暗い中へ入る。うしろで蝶番の回る軋みがし、外から差し込む午後の陽射しが細くなると、やがて完全に断たれた。次いで、誰も手を触れていないというのに、閂のかかる響きがする。

いささか奇妙ではあるが、いつもの話なので、ヴァルは特に驚きもせずに導きに従っていく。むしろ注意は正面に向いていた。すぐ目の前で揺れる円かな尻と、しなやかな尾。肌に張り付くような黒い薄絹の下で、長い脚が進むのに合わせて合わせて躍っている。

まじまじと見つめてしまっているのに気付いて、恥ずかしげに瞼を伏せると、大人びた咳払いをして尋ねる。

「この烏麦、地下室に運んどきますか」

「いやいいよ…その上にでも置いておくれ」

言われた通りに爪先だって、大きな樫の切り株を切り出した台に荷を載せる。一息吐いてからふと部屋に漂う、仄かな香りに鼻をうごめかせ、周囲を眺め渡す。

「何だか不思議な匂いがする」

「ああ。もうすぐ牧神の祭りだろ?ちょいと頼まれてね。お館のモロッズの坊主が、身持ちの固い女を見初めて…気を惹くには甘いものがいいってんで…ほら…」

リンツィアは射干玉の鬢を掻き揚げると、ちろりと二又に別れた舌を覗かせてから、台所に消え、すぐに盆を持って戻ってきた。心臓を象った小さな黒い塊が並んで、どれもヴァルの嗅いだ覚えのない芳しい薫をさせている。

「これ何…」

「ちょいとした品だよ。南の国でとれる珍しい豆をね、腐らせてから、絞って…固めて…牛の乳を燥かした粉だの、蜜だの、小麦の粉だのを混ぜて焼いたのさ」

「へぇ…凄ぇなぁ。おいらにゃ作れないや」

瞳を丸くして素直に感心する配達夫に、女主人は淡く微笑みかけると、盆を卓に起き、曲がった爪の生えた指で、大きな茸の椅子を指差した。

「お坐りな。こいつは商売ものだからやれないが。お前さんには苔桃の煮詰めをとっておいたからね。好きだろう」

「えへへ。いつも悪いや」

そう云いながらも運び屋は、えびす顔になり、軽く跳ねて席につくと、床に届かない脛をぶらつかさせる。蜥蜴の化生は頷くと、上機嫌に尾をくねらせながら、薬罐を青い火にかけ、素焼きの甕から木匙で果実の凝りを掬って椀につける。

しばらく眺めていたヴァルは、肩を揺すって声を掛けた。

「手伝えることないですか?」

「おとなしくしときな。お前さんも世話焼きだね。まったくメリチェもできた息子を持ったよ…」

「とんでもないや。母ちゃんはいつも、おいらをぐずの役立たずって言います」

「お前さんを働き者にさせとくためさ。だけどちょっとはこうして怠けときなよ。あんまりできた息子ってのも考えものだからね…お陰でメリチェもいつまでも独りでさ…ま…そういう身の上だから、あたしみたいなはぐれもんとも付き合ってくれるんだろうけど…ね」

話が関心のないところへ逸れたので、小さな客は所在なげに周囲を窺がい、壁にかかったからくり仕掛けの時計だの、天井からさがっている、光苔の詰まった燈だのを見物し、ややあってまた、盆に載った菓子へ視線を移した。

どんな草木とも似ていない強い香り。炭のような色なのに、どこか艶があるおもて。いつのまにか唾が沸いてくる。手が伸びかけるのを慌てて抑えて、ぎゅっと目を瞑って思考から追い払おうとする。だがまるで脳裏に焼きついたように、残像が浮かんでくる。

「やっぱり亭主がいなくちゃね。メリチェみたいのは。勝気に振る舞うより、淑やかな奥さまってのが向いてるよ…あたしが男なら女房に欲しいくらいさ…。しかし、どこかにいないかね。かわいくて、気が利いて、よく働く嫁さんがさぁ」

「リンツィアさんなら、どんな婿さんだってとれると思うけどな。村一番の別嬪だもの」

ヴァルはぼんやり答えてから、慌てて唇を結んだ。親から張り手を喰らうような口の利きようだった。南の豆からできたという食べ物に意識を傾けすぎて、うっかり本心をこぼしてしまった。耳まで赤くなって縮こまるが、向こうは真面目にとったようすはなく、せっせと仕度をしながら、冗談混じりの返事を投げてくる。

「婿さんじゃないよ、嫁さんさ。しかしメリチェならともかく、あたしみたいな薄気味悪いのを捕まえて別嬪だなんてお世辞が過ぎるね。いっそ、お前さんが嫁にならないかい。可愛がってやるけどね」

「あはは。おいら母ちゃんの側にいないと」

「そうだねぇ。やっぱりそいつが問題だ。ったく。メリチェもほんの小娘の頃にお前を産んでさ…せっかくのいい奉公先から逃げてきて…一時はどうなるかと思ったけど…おっと…いけない迷迭香マンネンロウの葉が足りないね…待たせて済まないけど、ちょいと下に行ってくるよ」

「おいらやります」

「退屈だろうけどじっとしてておくれ」

闇の髪がたなびき、暗い衣が翻ると、薄緑の鱗をまとった影が、部屋の隅にある穴へ飛び込んだ。鼓動が一つ打つほどの間を空けて、地下室へ降り立つ気配がある。

配達夫は物音に耳を澄ませ、女主人の軽やかな身ごなしを思い描いてぼうっとなってから、ふと三度盆に目を向けた。幾列にも連なった黒い心臓の形。一つだけなら、ばれはしないと胸の奥で仔鬼が囁く。

けれど美しい孔雀石の瞳が、あとで呆れた色を浮かべるのを想像すると、伸びかけた指が止まる。幾度もためらい、逡巡してから、しかしとうとう夢遊病のような頼りない手つきで端にある小さな欠片をとり、かじってしまった。たちまち舌に染み渡る甘みと苦み。陶然として、さらに次をつまみ、噛りつく。瞬くうちに、四つ、五つと頬張り、我に返った時にはすでにいたずらでは片付かない量を飲み込んでいた。

真青になって凍り付くが、もはや元には戻せない。やがて梯子の縄が鳴って、失われた貴重な品の作り手が上がってくる。

「…やれやれ。まだ蓄えがあって良かった…おや…ヴァル!あんた!」

「ひっ…ごめんよ…ごめんよぉリンツィアさ…ぁっ?」

怒りに牙を向き出す蜥蜴の化生に、運び屋は震え声で謝ろうとし、急に狭い肩を強張らせた。服の裾を押し上げるようにして、股間が盛り上がり、張り詰めた頂点に染みを作っている。下穿きの中で幼茎が硬く勃って、僅かな身動きすら刺激となって伝わり、喘ぎを漏らしてしまうほどだった。訳の分からない感覚に戸惑い、涙含みながら、羞恥に耳まで茹だったように朱に染める。

「やれやれ…惚れ薬入りだってのに…粗末なもんをつっぱらせちまってまぁ」

叱り付るというより、からかうようなリンツィアの口調に、ヴァルは相手の容貌から視線を外せないまま、半泣きになって懇願する。

「…リンツィアさ…ひ…見ないで…おいら…見られると…だめ…」

「そいつはね。食べてから初めて会った相手に参っちまうって代物さ。男なら女、女なら男にね。一個なら淡い恋に、二個なら熱い想いに、三個なら焦がれるほどの愛に、四個なら永遠の奴婢に…何個食べたんだい?」

女怪は細身を少年の側へ近付けると、耳元へ息を吹き込みながら問いかける。あどけない面差しは臙脂に燃えて、潤んだ瞳はもはや焦点が合っていなかった。

「…分かんなぃ…」

「おやおや、お前さんみたいに、七、八個もかじる食いしん坊は…死ぬまで色に狂うのさ」

「や…ぁっ…」

深紫の唇が薄桃の唇を塞ぎ、二又の舌が菓子の甘みが残る口腔に侵入すると、唾液を啜り飲む。女主人は媚薬の残りを飲み干しながら、獲物のあどけない面差しを覗き込み、自ら同じ魔法にかかりながら、痩せっぽっちの背に手を回すと、鉤爪で衣服を引き裂いた。


日も落ち、木々の下を餌を求める野鼠が駆け回り、枝々の上に梟が羽搏き始める頃。魔女の晩餐はたけなわを迎えた。

主菜は童児の柔肉。時間をかけて飼い慣らし、誘い込んだ、瑞々しい肢体。待ちに待った御馳走を、一糸まとわぬ姿に剥いて、滑らかな皮膚に余さず咬み痕をつけて下拵えを済ませ、円かな臀には鉤爪を深く食い込ませていた。

蜥蜴の化生は獲物を余すところなく堪能していた。昨夜まで、ただ排泄のためのみにあった窄まりを太い尾で貫き、限界まで押し広げて、凹んだ腹が歪に張るほど内部を蹂躙し、粘膜を鱗で擦り上げる感触を楽しむ。肛孔を犯し抜く一方で、けなげに硬くなった春の土筆のような器官を、冷たい秘裂に咥え込み、食い千切らんばかりに締め付ける。

「あ゛ー…ぁ゛ー」

少年は声変わり前の喉から、乳呑み仔のままやきにも似た声を漏らすと、そこかしこに歯型を刻んだふっくらした唇から、涎を幾筋も垂らし、枕代わりに押し付けられた魔女のたわわな乳房を汚した。

「んっ…いい顔になってきたね…」

リンツィアはヴァルの、若い汗の匂いをさせる縞模様の髪を撫で、うなじの辺りに顔を寄せて囁く。同時に腟を蠢かせて幼茎にきつくからみつかせ、結腸まで達した尾の先をさらに奥へと進める。続いて起こる掠れた悲鳴を至上の楽の音の如くに聴きながら、一方の手で背筋をくすぐり、もう一方で小振りの尻を揉みほぐす。

「まだ…早いけどさ…このまま今の仕事させとくと、どっかほかの家に連れ込まれて…食われちまいそうだからね…」

「…ぇ…ぁ?…んっ…」

「ちょいと器量が良すぎるのさ。お前さんは。メリチェとあいつの胤じゃしょうがないけどね」

「ふぁ…ぁ…ひぅっ!!!?」

先の裂けた舌が耳孔をねぶりながら侵入し、鼓膜をかすかにくすぐる。童児はまたおののいて、眼前にある豊かな胸の谷間に鼻先を埋めると、柳の苗木のような腰を激しく打ち振って、苦悶と喜悦をともどもに示した。生白く発育不良な牡の印は、冷たい蜜壺に収まったま蕩けるような快さに震え、野太い異物を咥え込んだ直腸は、括約筋を伸縮させるたびに背筋に疼くような甘い痛みを奔らせているのだった。

辛いのか、気持ちいいのか。訳が分からなくなりながら、小さな配達夫は、大きくしなやかな蜥蜴の化生にしがみついて、子が母にねだるように痩躯を揺すった。求めているのが責苦からの解放なのか、さらなる玩弄なのか、本人にも判然としていないようだった。

朦朧としながら、上目遣いに無言の懇願をするヴァルへ、リンツィアは顔を近づけると、大粒な雫を溜めた眼を一舐めした。

「ひ゛ぁ゛っ」

「…塩辛いね…口直しをしようか」

長い指を伸ばして、卓から心臓を象った菓子をとると、二又の舌に載せ、噛みつくように接吻する。甘く苦い欠片。もう受け入れてはいけないと分かっているはずなのに、少年は夢中になって味わい、唾液に溶かして女主人と分け合った。どちらも目を瞑って相手の唇を貪り、官能を確かめ合った。

やがて肋が透けるほど薄い胸と、ふくよかな膨らみを持った胸とがぴったりと重なり、互いを捕える腕に力が増す。それぞれの芯央から鼓動が伝わる。片やゆっくりと強く、かたや疾駆したあとのように忙しく早く。

銀の糸を引いて口付けがほどけると、童児は頬を火照らせつつ、巨躯のつがいを仰ぎみる。稚い双眸は硝子玉のように光を吸い込んで昏いが、口元は恍惚に緩んでいた。魔法の恋に堕ちきった、操り人形の様相。

碧鱗の媼は唇を三日月に歪め、すらりとした脚で華奢な胴を折らんばかりに引き寄せると、肉襞に粘った音をさせ。鋭い尾で菊座を乱暴に攪拌し、腸液の泡を溢れさせると、ひっきりなしに嬌声を迸らせる獲物に優しく尋ねる。

「ヴァル。あたしを好いてくれる?」

「ふぁ…好き…おいらぁ…リンツィアさん…好きだよぉ…」

「メリチェより?」

「ぁ…ぅ…」

「まだ可愛がり方が足りないかな?」

鉤爪の指が伸びて、淡く色づいた乳首をつまむと、左右に捻った。

「ひぃいいい!!」

「どうだい?あたしん家の子になるかい?お嫁になってくれるかい?」

「…ひにゃぁ!…ふっぐぅっ…やらぁ…むね…やっ…らめ…ひだ…んっ…」

「おや嘘おつきだね…つながってたら…全部分かるんだよ?」

「ふぅ…ふうう…」

荒く呼吸しながら、少年は弱々しく頭を振って否定の仕草をする。だが菊座の締め付けも、秘具の硬さも、精一杯の取り繕いをあっさりと裏切っていた。異形の女はまた激しく双方を攻め立てながら、情を籠めて囁いた。

「あたしも好きだよ。ヴァル」

「ふぁ…?…ぁっ…ぁああああああああ!!」

リンツィアの告白が、最後の抑制の糸を切ったのか、ヴァルは甲高く哭いて極みを迎えた。まだ精通のない幼茎はただひくつくばかりで、肛門だけが潮とまがう量の腸液を噴く。再び尾がくねると、一度超えたはずの峠に再び昇りつめ、幾度も幾度も繰り返し絶頂に達する。

「ひぁ!はぁ!ひぎぃいいいい!!ぁっああああ!!」

「ヴァル…ヴァル。あたしのお嫁さん。本当はね、おしめを換えてやった頃から、あたしのものにしようって決めてたんだよ…」

女怪はいささかも穏やかな調子を崩さず話しながらも、しかし嬉しくてたまらないというようにおののく餌食を抱き締めた。

「ふぁ……ぁっ…ぁああ!!」

「素直な、いい子に育つように、ちゃんと我慢してたんだからね。おままごとみたいに、お前さんのお客になってさ…」

「ひぐ…リン…ツィアさ…」

「やっと女に興味を持つ年頃になって…ふふ…ヴァルも男の子だからね。勇気を出してくれるまで待つつもりだったけど…あいつにも急かされたしね」

蜥蜴の牙が鎖骨のあたりに食い込み、また裏返った叫びを起こさせる。

「ぅっ…ぁあ!!」

「毎日、御飯を作っておくれ…メリチェ仕込みのおいしい料理…お家を綺麗にして…それから…薬の調合も手伝っておくれね…あたしの知ってることは全部教えてあげるからね…もちろん夜は、可愛く啼いて、愉しませておくれな」

魔女は歌うように述べると、そっと卓に腕を差し延べた。すると残りの菓子は次々に蝙蝠に形を変えて宙へ舞う。合図があったかのように窓の緞子が左右にめくれ、硝子戸が開くと、早春の肌寒い夜風とともに、朧月が金の帯を差し入れてきた。

十幾つかの黒い翼は、星天に向かって飛び立つと、すぐに宵の陰に紛れてしまった。リンツィアは頷くと、汗だくになって弛緩するヴァルをあらためて見遣り、耳朶を甘咬みすると、また終わりのない戯れに耽っていった。


「遅い!」

よろず屋のおかみメリチェは箒を手に店の裏口に立って、やかましく足を踏み鳴らした。いつもよく働く我が児に、半ば休みをくれるつもりで、友人のもとへ届けものをさせにやったが、夕餉の刻を過ぎても帰らないのでさすがに堪忍できなくなってきたのだ。

「まったく。ちょっと甘かったかしらね…ヴァルときたら赤ん坊の頃から、リンツィアさんにくっつくと離れたがらないんだもの…御飯食べてくるなら行く前に言っときなさいよ…ああもう…お腹空いた!」

むやみと独り言が多いのも、たった一人の家族が側にいない寂しさのためか。栗色の巻毛とどこか童女のような面差しのせいで、子を持つ身とは思えぬ稚さを漂わせている。ただ砂時計型の胴や、すらりとした四肢は、色気のない仕事着にくるまっていても、十分に艶めかしかった。

「…だいたいリンツィアさんのところには、ダロウィのまぐさだってないんだから…あら?」

遠くから蹄の音がする。目を凝らすと、道の向こうからのっそりと年老いた驢馬が姿を現し、近付いてくるのが認められた。ただ鞍には乗り手がなく、代わりに傍らで雲突くような偉丈夫がはづなをとって歩いている。

「やぁこんばんわ。この驢馬が僕の狩り場に入り込んでいたのでね…多分君のだと思うが」

慇懃に告げた声はまだ若々しい青年のものだった。角燈が照らし出した容貌は、性別を察するのに迷いそうな線の細さがあり、蒼褪め、眉間から神経質そうな特徴を帯びている。膝まである象牙色の套衣や、しっかりした革靴が、否応もなく身分と財産を宣伝していた。

「あなたは…」

愕然とするおかみに、郷紳は静かに進み出て、明かによろず屋の備品ではない美しい細工の入った綱を差し出した。

「ねぇ。このご老体はちゃんとつないでおきたまえよ。うちの林に狼はいないが、山猫ぐらいは時折よそから移ってくるから」

「よ、余計なお世話です!」

メリチェは真赤になってはづなを引ったくると、おとなしい驢馬の側へ近付いて、空の鞍を確かめた。

「あの子ったらもう…ダロウィ。ごめんなさいね…怖い想いをさせて…こんな男と一緒に帰ってくるなんて生きた心地がしなかったでしょう」

「ひどいなぁ…」

純白の髪を撫でつけながら、青年はわざとらしく溜息を吐く。若い母はきっと怒りの篭もった眼差しを向けた。

「うちの子は…うちの子に何もしていないでしょうね」

「…どうして?僕等のヴァルは、ちゃんと魔女の家にいるよ」

「どうしてあの子の名前を知ってるの!それに…どうしてリンツィアさんのことも…」

詰め寄るメリチェを、白皙の偉丈夫は両の掌を広げて押し留める。

「僕も彼女のお客なんだよ…頼んでいた品と一緒に手紙を受け取ってね。小さなお客があるから…不調法で失礼と」

「あぁそうですか!でも…それでヴァルだって分かる理由はなくてよ!あの子には近付かないと…」

「誰でも知ってるさ。近在一の美貌で知られるよろず屋のおかみの、独り息子がまたふわふわした可愛らしい働き者のおちびさんで、森の魔女にすっかりなついているというのはね」

「…そうですか。兎に角、ダロウィを連れて来ていただいてありがとうございます。それじゃ」

くるりと踵を返して厩に向かおうとするおかみを、郷紳は咳払いして呼び止めた。

「ねぇ…」

「こんなことで恩を着せられると思わないでくださいな!私はあなたとは…」

「違うんだ。今日は驢馬を還すために来た訳じゃない…その…ちょっとした贈り物をしに来たんだ」

「結構です」

女は省みようとせず、地面へと言葉を吐き付ける。

「毎年、お返ししているはずです。あの子への誕生祝いも、私への品々も。ご無用と」

男は悲しげにうつむいて、低く呟いた。

「…うん。君を侮辱して悪かったよ。だけどさ…まもなく牧神の祝祭だ…恋人同士が縁を結び、愛を育む…」

「あなたと私に縁などありません!お帰り下さい」

「せめて昔みたいに呼んでくれないのかい?モロッズって」

メリチェは唇を咬むと、急に振り返った。

「あなたが私に何と呼ばせていたか教えてあげま…えっ!?」

モロッズは、小さな絹の袋を捧げ持っていた。口を縛っていた紐はすでに緩めてあり、中から黒い心臓の形をした菓子が覗いている。馥郁たる香りが立ち昇ると、たおやな顔立ちを引き攣らせていた険が和らぎ、いきりたっていた肩がすとんと落ちる。

「…あら…」

「これなら受け取ってくれるだろ。ちょっとした…甘いものだよ…」

「…そうね…そうですね。私も…少し言い過ぎました…中へ入って下さい。お茶ぐらいならご馳走するわ」

「ありがとう。光栄だ」

相好を崩し、真底幸せそうに答える青年に、若い母はちょっと恥ずかしげに瞼を伏せ、ちょっと待って下さいと断って、先に厩へ行った。てきぱきと忠実な駄獣から装具を取り外すと、あとからついてきた連れも、上着を脱いですぐに手伝う。普段から馬の扱いに慣れているらしく、よどみなくこなしていった。

「まぐさや水は、館でくれておいたよ。蹄鉄もみたし、ぶらしがけも一応したんだけどね。君はまた自分でやりたいだろうな」

「あの子の仕事なのに…いいでしょう。今日は驢馬より先にあなたに何か差し上げます」

「どうも」

あくまでにこやかなモロッズに、メリチェはやれやれと肩を竦めて屋内に入る。店の奥がそのまま住まいになっていた。戦で後継ぎをなくし、嫁いだ娘のもとへ行くという老翁から、気に入られて譲り受けた、小さいながらもかけがえのない城だ。

狭いがきちんと整頓の行き届いた居間に、身分の高い客を通しても、少しも羞じる素振りはなかった。貴婦人のような態度で、椅子を勧めると、埋め火を興して木炭をくべ、薬罐に湯を沸かす。

郷紳は長躯を小さな席に押し込んで、殊勝そうに縮こまっていた。おかみは鮮やかな手並みで茶を煎れると、水差しで顔を洗い手を漱いで、水を換えると、相手に差し出す。

向かい合って腰かけると、女は皿に出した菓子を指でつまんだ。

「…おいしい…私もヴァルもこんな不思議な味は出せない…ああ…」

頬を綻ばせながら、次々に口へ運んでいく。男はただ愉しそうに見守るだけだった。

「思い出すな…君は昔から甘いものが好きだった。屋敷に上がった最初の頃、僕を怖がってたのに…外国のお菓子があるといったら…すぐついてきて」

「…」

メリチェは手を止めて、きつく相手をにらみつけようとしてから、急に凍りついた。みるみるうち酩酊したように赤らむと、ふらついて卓に肘をつく。唇は半開きになり、牝犬のように舌を突き出して、文字通り甘い息を吐く。

モロッズは温厚そうな笑顔のまま、いきなり腕を伸ばして、量感のある乳房を鷲掴むと、ねじ切らんばかりの勢いで握り込んだ。

「ひっぎぃ…!?」

痛みに痙攣する女を、男はひょろりとした体格からは想像もつかない怪力で卓に引きずり上げると、接吻を奪った。おとがいを掴んで閉じさせないようにしながら、熱い口腔をめちゃくちゃにかき回す、強姦のような口付け。

「ぷはっ…うん…やっぱりやり方は忘れてなかったねメリチェ」

「どう…して…」

「魔女のお陰だよ」

「嘘…リンツィアさんが…裏切る訳…」

「ふふ。ちょっとした取引だよ…ヴァルを…えへん。ま、あの人は君より君自身の幸せを考えてくれてるってことさ」

「そんな…勝手な話、許さな…」

「許すも許さないもないよ。君は僕のものじゃないか。すぐに思い出させてあげる」

長い指が、衣服を紙か何かのように引き裂いていく。若い母はろくに抵抗もできないまま、ただ力なく青年の顔を叩こうと手を振り上げ、すぐに押さえつけられた。

モロッズは、剥き出しになった白い太腿を掴んで、メリチェの肩へ押し付けるようにすると、言葉にならない非難が上がるのも構わず付け根のあたりを観察する。

「何だ…やっぱり捺してやった烙印は消えてるね。魔女の術か…いいとも。どっちにしろ成長したら薄れてしまうはずだったんだから…今度は消えないようにするから、安心するといい。どこがいいかな。ここか…ここか…真白くてきれいな乳房の裏もいいかな」

「…やめて…気違い…」

「何故?家畜に紋を付けておくのは当然だろう?あの頃の君はよく弁えていたはずだよ…僕が手ずからしてあげたら、ありがとうって、真赤に焼けたお尻を振って、泪を流して喜んでたのに」

「違う…私はまだ…分からなかっただけ…あんなの…私じゃない…」

郷紳はにっこりすると、いきなりおかみの下腹をまさぐり、叢を捕えて強引に毛を千切った。

「あ゛ひ゛ぃっ!」

「やっぱり、いじめられると気持ちよくなるのは何年断っても同じだね。おもらし癖も」

愛しげな嘲りの通りに、震える股からは失禁とともに愛液が零れていた。メリチェは耐え切れず啜り泣きながら顔を覆おうとする。だがモロッズは許さずに手首を捕えて、羞恥に歪む縹緻を鑑賞した。

「覚えてる?君は真夜中に、庭の柑橘の木の根元でするのが好きだったよね。夏のはじめに花がいっぱい咲いてる下で、四つん這いになって、ちょっと恥ずかしそうに僕の方を見てから、片足をあげて…そりゃぁ綺麗だったね。ほら。うしろに差した犬の尻尾を揺らして」

「いやぁ…いやぁ!!!」

「小さくて、抱き締めただけで潰れそうだった君も可愛かったけど。こんな風に立派に育った姿も素敵だよ」

所有の権利を疑いもしないように、青年は目の前の乳房を好きなように揉みしだき、尖端をつねり、横から叩いて、まるで頑是ない子供のような悪戯をする。たびごとに若い母は呻き、新たな涙を流しては、秘裂を濡れそぼらせていく。

「…君がヴァルを孕んだ時、ほっそりしてたお腹が月が満ちていくように膨らんでいくのは…すごくどきどきした…でもちょっと心配もしたんだ…そうだ、ちゃんとお乳はやれたのかい?今度は大丈夫だよね?こんなに大きくなったんだもの…たっぷり量がとれるはずだ。赤ちゃんだけじゃなくて僕の分も…夢だったんだ…朝食にいつも絞りたての君の乳を飲むのが」

「あなたの中は…少しも…変わってない…もとの…鬼…」

「君の中だって変わってないよ」

郷紳は微笑んで洋袴をくつろげると、魁偉な逸物を引き出して、ものほしげにひくつく花芯にあてがった。おかみは恐れと悔しさにもがきながら、心の奥に閉じ込めていた小さな少女が期待に喘ぐのを聞いた。

「ひっ…」

「ほら、これは忘れないだろ?」

野太い剛直が突き上げると、半裸の肢体は弓なりに反って痙攣する。端正な容貌は、白眼を剥き、舌を突き出して、下卑た牝の様相を呈して、洟や涎と飛ばして、はっきりと獣じみた喜悦の喚きを発した。

「あぉお゛お゛お゛お゛お゛お!!」

「あはっ。その顔も昔と同じだねっ♪…んっ…ヴァルを産んでも…ここは…ちゃんときついままだ…小さい頃の訓練のおかげだよきっと…はっ…そうそう…っ…さっき僕の呼び方を…教えてくれるって言ってなかった?」

「あひ…ひっ…ぁっ…ごしゅじんさまぁ!ご主人様ぁあああ♥」

「うん。よかった。やっと僕のメリチェだ」

主人が軽やかに嗤いながら、荒っぽい抽送を始めると、奴婢は嬌声を上げてしがみついた。灼きついた脳裏で、封じていた記憶が甦り、怒濤の如く思考を埋め尽くしていく。

孤児院の厳しい尼僧たちのもとから自由になりたい一心で奉公に上がった日。行儀の良さが受けて、御曹司の側仕えになった晴れがましい朝。四つ年嵩の、真白な髪をした、少女のように美しい少年に導かれ、広い花園を駆け回った真昼時。ままごとのような結婚の申し出。たった二人で伽噺の世界に生きていた幻のような午後。信じたつもりはなくても、幸福だった。

でもあとは暗いだけ。無邪気な遊びの一線を超える、唐突な接吻の求めに怯え、引きとめようとする手を振り切って逃げた夕暮。どこで覗いていたのか噂は広まり、世知に長けた小間使いの先輩はそろって忠告した。身分の高い者がきまぐれに示す、真剣めかしたからかいに乗るな。狼の慰みに牙にかかって、泣くのは愚かな兎よと。恐怖よりも胸を焼いたのは、ちっぽけな娘の矜持だった。

顔を合わせるのを避け、わざと粗相をし、配置を換てもらおうとしたぎこちない回想。若い主の怒りに満ちた眼差し。初めての折檻。暇を貰おうと大旦那様に直訴した、ひどく張り詰めた瞬間は、書斎にあった置物、青銅の鷹の形まではっきり思い出せた。

淋しい帰り道に見た黄昏の金色。突然の恐怖。破瓜の痛み。馬のいななきと揺れる視界。森の縁に建つ別荘の淋しげな佇まい。鬼のように歪んだ御曹司の顔。苦悶と快楽が交互に襲う悪夢のような歳月。人間から動物、ただのものへと変わっていく時間。

けれど、どれだけ酷い戯れに遭っても、偽りに満ちた愛の誓いだけは斥け続けた。やがて隙をついて遁れ、僻地に潜んで、大人になるためのいとまを得て、誰にも踏みつけられない暮らしを得た。

なのに。

「あは…私…堕ち…ちゃった……」

「っ…ん…えらいよメリチェ。ほら、寄宿学校の仲間を呼んで…目隠しをした君にっ…順番に皆の膝に乗ってもらった…だろ?あの時…ちゃんと僕のものを、下の口で…区別できたよね?やっぱりここで僕が分かるんだ」

「ぅ…ぁっ…」

男は腰を動かしながら低く歌う。淫らな椅子取り遊びの童謡。詞だけは、都にある白亜の学舎で教わったという雅な古代語だった。

女には単語の一つ一つが理解できた。牧神のもたらす芽吹きと開花への他愛のない讃頌。奥方になるには素養がいるからと、心にもないでたらめとともに、嬲られながら手解きを受けた語学。地理に歴史、算術、理学、乗馬に水泳まで。みじめな境遇をごまかすために、必死に勉強したけれど、結局すべて虚しい晦ましだった。どれも男子が身につけるもの。商家に逃げ込んだ小娘に役立ったのは算術ぐらいだった。

稲妻のように掠める恥辱の過去を追い払うように、頭を振ったところで、再びきつい打ち込みを受けて、めくるめく感覚に意識が遠ざかりそうになる。

「あいつらのうち何人かは、今も時々君に会いたがるよ。もちろん絶対教えないけど…しつこいし…」

顔は一度も見なかったけれど、主人と同じ身分の少年等が交した会話ははっきり耳に残っている。ちっぽけな玩具で存分に遊んだあと、家督を継ぐ前に婢のつまみ食いができる立場を羨んだり、正式な妻を迎える前に婢を抱く放埒をたしなめたりしていた。

「…ねぇ?僕のものになるよね?」

いささか急かすような問いかけが、想念を現在へと引き降ろした。

若くともやり手のよろず屋のおかみ、やかましやの母は、だだの奴婢に戻ると、媚薬の染み渡った神経の隅々に甘く苦い痺れを覚えなが、息もたえだえに応じた。

「はい…私…ご主人様のぉ…ものですから…愛人でも…家畜でも…便器でも…好きにして下さい…」

「何言ってるんだ…結婚してくれるんだろ?」

いい加減に手垢のついた、くだらない嘘。メリチェは虚ろな瞳のままどうでもよさそうに頷く。するとモロッズは馬鹿みたいに満面の笑みを浮かべ、腕を伸ばすと、菓子の入った袋をまさぐり、小さな黄金の輪をとって差し出した。

秘裂から昇る新たな波に酔い痴れながら、女は霞む目でちらりと相手を一瞥し、急に凍りついた。眩く白い閃き。思考は被虐の泥濘に落ちていても、商人として養った観察力は、見誤りはしなかった。金剛石。よく肥えた葡萄の粒ほどにも大きな。

「ぇ…ぁ…ぇ?」

「随分遠回りになったけど。やっと受け取ってくれそうだね」

また、甘く苦い接吻。胸の高鳴りが熱い血に乗って全身を巡り、こめかみの奥でうるさいほど大きく響く。灰に褪せていた世界が彩りを取り戻していく。失った少女の日々と同じほど鮮やかに。

呆然と指輪を見つめる奴婢を、主人は軽く揺すって、かつて仕込んだ牝孔の具合が少しも落ちていないのを確かめてから、囁き返した。

「大きさが合ってよかった。毎年作らせているんだけど…君は中を見もしないで突き返すんだから…でも大丈夫。皆とってあるからね。耳や胸の先や、臍や、君の大事なところに穴を通して、全部つけられるようにしてあげる。これからも毎年一つずつ…増やすね」

「ぅあ…ぁ……ごしゅじん…さま…ごしゅじんさまぁ…」

嬉しさにぼろぼろ泣きながら、花嫁の花婿のほっそりした首を抱いた。


「母ちゃん…ただいまぁ」

ヴァルが帰ったのは暁だった。破けた服の代わりに、ひらひらした裳裾にやせっぽちの胴を突っ込んだおかしな格好のまま、どこかぼんやりした表情で、ふらつきながら裏口の戸を潜った。

居間には勢いよく暖炉の火が燃えていた。メリチェは、乱れ髪にうすものを羽織っただけという、普段からは考えられない、しどけないようすで、ぼんやりと宙を仰いでいたが、息子の姿を認めると、すぐに席を立って駆け寄り、ひしと抱きしめた。

「ヴァル…うう…ヴァル…ぅ…ごめんね…ごめんね…」

「ん…母ちゃん…んっ!?」

親は児の頬を両の掌で挟んで、恋人同士がするような濃厚な接吻をした。まだ媚薬の影響が残っているのか、二人は息を荒らげて互いの唇を貪ったあと、やっと我に返って、そさくさと離れる。

「お、おほん…遅かったわね」

「…ぁわ…あのね…おいら…母ちゃんに言わなきゃいけないことが…」

「わ、私もよ…」

双方譲り合ってから、ややあって母が切り出す。

「私ね。しばらくその…お店を休んで、勉強をしようと思うのよ。やっぱり小さい頃かじっただけの学問じゃ、商売をやるにしたって、大きくはできないの…それで…ごしゅ…お館のモロッズさんが厚意で助けてくださるそうだから…ど、どうかしら」

「は…へ…あのモロッズの旦那?母ちゃん前から嫌いだって…」

「そ、そんな事ないわ!とってもいい方よ。ただちょっと…不器用なだけで…ひとの悪口なんてするもんじゃないわ…」

「う、うん…」

「それでよかったら、いっしょに勉強しないこと。ヴァルは、覚えはいいんだし」

息子はもじもじしてから、うつむいた。

「でもおいら…」

「あの…モロッズさんに、ヴァルをきちんと紹介したいし…だって…あの…」

「お、おいら!リンツィアさんのお弟子になろうって決めたんだ。住み込みで」

今度はメリチェが目を丸くする番だった。ヴァルは顔を真赤にしながらまくしたてる。

「り、リンツィアさんは、そりゃぁ別嬪できっぷがよくて、何でもできるけど、やっぱり手伝いがいた方が助かるっていうし。おいらぁ、あの、家畜の病を治したりとか、魔除けを作ったりとか…やってみたいんだ…」

「まぁ…でも…そうしたら離れ離れに…」

「ちゃんとお休みは貰うよ。リンツィアさんは、おいらがまだちょっと、あの、壊れやすいからって。えと。あ、違う違う!!あう…あのちゃんと、母ちゃんにも会えるよ」

「だけど…」

「母ちゃんはおいらより小さい頃に奉公にあがったんだろ…ね?いいでしょ?」

「そうねぇ…まぁリンツィアさんが迷惑でないっていうなら」

「な、ないよ!ちゃんとおいらが欲しいっていってくれたよ!何度も!」

「はぁ?」

「うきゅっ…とにかくお願い!」

拳を握り合わせて祈るような仕草をする少年に、血の繋がった女は腰へ手を当てて告げた。

「分かったわよ…リンツィアさんが甘いからって、怠けるんじゃありませんよ」

「やった!ありがとう」

欣喜雀躍のヴァルを横目に、メリチェは掌で唇を抑えながら欠伸を噛み殺すと、誰に向けるともなく呟いた。

「ああいけない。眠いくてたまらないわ。どうせ今日は牧神の祝祭だもの。二度寝してしまいましょう」

「え?」

普段は勤勉を形にしたような親の口から、不似合いにのんびりした台詞を聞いて、息子はぽかんと立ち尽くす。

若い母はくすっと息を漏らすと、嫣然と息子を見遣った。

「構わないわ。祝祭に用があるのはこれから結ばれる人達だけ。契りを済ませた者にはただのお休みよ」

そう告げてまた眠たげに口元を覆った手には、白い宝石の嵌まった指輪が輝いていた。

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