「ん゙ぉ゙お゙お゙っ…産むぅっ♥…産みますぅっ♥…女神よぉっ♥」
逞しい筋骨をした、大柄な女が、うめくように祈る。向こう傷だらけの顔は底知れぬ苦悶と快楽にゆがんでなお、死すべきさだめの人のものならざる麗しさを保っている。
烈婦が懸命にいきみ踏んばっている場所は、かつて寺院の地下堂だった大きな広間。今は天井を失い、二つの太陽が輝く空の下にあらわになっている。残る四方の壁には暗がりが張り付き、何かがうごめいていた。
だがあたりのようすにかまうそぶりもなく、女は蹲踞の姿勢で膝に指を食いこませ、規則正しい呼吸を保とうと努めていた。はちきれんばかりの胸から母乳がしぶき、いびつにふくらんだ腹を内側から何かが押している。千もの蛇が皮膚の下でうごめくかのようだった。
「めがみ…めがみよぉ…んっ…ぁっ」
どこからともなく伸びたあまたの触手が、口腔や肛門にもぐりこみ、舌にからみつき、粘膜をこする。秘裂を広げ、雌芯をそっとかすめ、恍惚とともに赤子をひり出させる。
「んごぉおっ!!」
広がりきった骨盤のあいだを抜けて、手足がねじくれのたうつ肉紐の群と化した赤ん坊が転び落ちる。何匹も、何匹も。すぐにくねる太い蔦の群が抱き取り、いずこかへ運び去る。
「ふひゅぅ♥…ふひゅぅっ…♥…新しき命…女神の民のぉっ…ぉんっ♪」
大仕事を終えたばかりの胎内をうねる蔓がまさぐり、残滓を掻き出す。厚みのある尻をゆすりながら、多児の母は歯を食いしばり、泣き笑いの表情になってから、軽く絶頂に達する。
せつな、がっしりした四肢がほどけ、ばらけた太索のようにうごめいてからまた戻る。ぽっかり穴を空けた淫穴から愛液を、同じく愛撫によって弛緩した尿道から小水をこぼし、とっさにさしのべられた生ける綱にしがみつきながら、いっぱいにのけぞり、半ば白目を剥き、満ち足りたあえぎをこぼす。
周囲を取り巻いていた影の群がざわめき、一つが進み出でてる。
「哲究様。お疲れ様です」
おっとりした縹緻の妊婦。宿した仔を気にしてか、ゆるやかな足取りで近づく。しかし出産を終えたばかりで脂汗まみれの女は、獣じみた笑いを浮かべ、いきなり相手を抱き寄せ、唇を奪った。
「ん…むっ…ぷはっ…哲究様…おたわむれを…」
「よいではないか古読…そなたも産めば分かる…たぎるのだ…血が…」
「ぁっ…やっ」
哲究と呼ばれた大柄な女は、ひとまわり小さな古読という女の乳房をねじるように握り、白蜜をしぶかせてから舐めとると、望月のごとくふくらんだ腹を立て続けに掌で張って、真紅の痕を重ねていく。
「ひぐっ…ぎぅっ…だめ…あかごが…」
「かまわん。あのしぶとい雄の種が、女神の眷属に根付いたのだぞ。これしきで流れるか」
烈婦は孕み女の陰唇を指でかき乱し、ついで突き出たへその周りを揉んでから、いきなり中心に指を埋めた。
「おごぉっ!あぎっ…ぁっ…」
「ふん。いつも私が手ずから広げてやっているのに。おおげさだぞ。ほら。二本は入るのを女神と皆に見せてやれ」
「ぎぅ…ひぎぃ!!らめぇ!てっぎゅうじゃまぁ!…あかごがぁ!」
「そのための準備ではないか。さあ女神よ。古読めに祝福をお与えくださいますよう」
哲究は古読を後ろから抱くようにして、開いたへそ穴を外気にさらしながら、呼びかける。また蔓が三、四本頭上から降りてきて、丸々した胴を慈しむようになぜてから、やがて本来入口ではない場所から臓器の内に侵蝕する。
「ぁぉっ♥…ぉっ♥…ぉおおおお!!!!」
妊婦がえびぞりになってわななくと、張り詰めたへそまわりの芯のあたりで何かがのたうち、暴れ回る。赤子が逃げ場を求めているようだった。ほっそりした四肢が一瞬のたくる触手に変わり、またすぐ落ち着いたが、股間はみじめに尿をこぼし、全身が断続して震える。
「安んぜよ。そなたの仔はもう女神の眷属となった」
「ぁあっ…嬉…しく…ぞんじ…ます…めがみ…さま…」
二人が天を仰ぐと、ほうもない背丈の人型が広間を見下ろしていた。無貌の頭がかすかに傾いてから、あまたの腕が伸びて、集まった半人半魔の妊婦へ次々にからみつき、臍や小水の穴や菊座や産道をえぐって、それぞれの胎児になにがしかの干渉を行う。
「なんと…晴れがましい…景色か…」
女神のしもべが恍惚とつぶやく。そこかしこで甘鳴きとともに、一斉に幼い眷属を地上に送り出す儀式が始まろうとしていた。
身重の雌のさらに外輪を取り巻くように見守っていた別のものどもにも、興奮のさざなみは広がっていく。およそみずみずしさやふくよかさとは真逆の、痩せていびつな輪郭。しかしくねる四肢はどこかに通っている。うち一体は人間だったころのくせで顎を指でつつきながら何か考え込むようだった。
これでよかったのかと。
たどるべき道の一切が切り替わったのは、いつだったのか。過去か、未来か、あるいはもはや存在しないどこか異なる世界でか。
地上を徘徊する魔物はまばらで、ただ人間ばかりが闊歩していたのは覚えている。
憂鬱だった。かつて女神を崇める寺院で、さまざまな後ろ暗い仕事をこなす影僧として過ごしてきた身には、ひどく生きづらかった。ながらく畏怖と尊崇をもって民草の支持を受けてきた宗門の一切は突然に地下にあるという迷宮からあふれ出た魔物の来襲によって滅び、衆生を救おうと降臨した女神さえも、おぞましい化生どもの首魁である邪悪な龍と相打っていずこかへ消えたという。
もはや希望はなかった。瓦礫を片付けながら、影僧は胸をふさがせていた。一連の騒乱のうちに同門を導くべき高僧、哲究は非業の死を遂げ、また優れた知識と思慮をもって幾多の論考をものしてきた若き学僧、古読も命を失い、もはや教勢を建て直すに恃みとすべき人材がいなかった。
溜息がこぼれる。逝ける穏やかな風貌が脳裏に浮かんだ。好漢ではあったが、何かにつけ寺院、僧院の抱える問題を掘り起こしては、いらざる騒ぎを起こす悪癖があった。あげくよりにもよって街の政(まつりごと)をつかさどる参事会や配下にある衛士隊と密かに通じ、哲究の大業を阻もうとしたのは嘆かわしい一件だった。
「私は…古読殿、そなたが哲究様の右腕となり、いずれは寺院を率いる人物になると期待していたのだ…」
だが普段は文書記録に鼻先まで突っ込んでいるような青年は、なぜか知勇を備えた先達に反旗を翻した。心ならずも後をつけ、行動を監視するつとめを担ったのはや随分と遠くに思える。結局、すべてが進むべき方向をそれ、衛士隊と影僧のあいだに血なまぐさい戦いが起き、有為の士があたらむごい最期を迎えた。
「…もし、やりなおせるなら…」
たわけた願いが脳裏をかすめる。とたん指が何かにあたった。むなしく昔日の反芻を続けながらも、崩れた建物から祭具や資材などを見出そうと、煉瓦や石や材木をどかしていたのだが、ようやく一つを探り当てたらしい。
「…これは…?」
あまり大きくもなく、平べったい正方形の木箱だった。封印を施してある。以前なら丁重に保管場所に戻したところだろうが、もはやためらいもなく切って開く。入っていたのはなじみのない形状をした機器。恐らく異教で吉凶を測るのに用いる占盤(うらわ)だろうか。
「…占盤…もしや」
記憶をたぐる。かつて夢中で目を通していた古読の論考が浮かんでくる。
“このように迷宮の財宝と世に言う数々の遺物のうち、もし呼び出しの大釜が空間を司る祭器であるとするならば、時間を司る祭器もまた存在するのではないか。運試しの占盤がさようなものであるとする説はすでに参照すべき青の第七百六十五号の論考に見られる”
影僧は懸命に内容を思い出そうとした。
“運試しの占盤は、時間をさかのぼり、すでに起きたくさぐさをやり直せるという。実際に使った学僧がいるとの説もある。ただ確証はない。実験の結果についてはわずかな覚書だけが残り、当の学僧は、あたかもくだんの遺物について一切を忘れたかのように二度と論考をものしていない。ほかに誰かが実験を行ったとする記録もない”
女神の信徒は顎を指でつつきながらじっと思いに耽った。
「運試しの占盤…時間をさかのぼる…忘れる…」
かつてであれば一笑に付しただろう。だが呼び出しの大釜は悠久のはるかに著された文書にある通り、迷宮からとめどもなく魔物を汲みだし、ついには女神を顕現させ、龍と対決せしめたのだ。
「ならば…これも…」
震える手で占盤をなぞる。迷宮の財宝、あるいは妖精の遺物とも言う魔法の道具は、ただ念じるだけで使えるものから、複雑な操作の方法を解き明かさねばまったく働かないものまで、さまざまだ。呼び出しの大釜は後者に属していたが、はたしてこれはどうか。
「願わくば…どうか…」
指が何かの仕掛けを弾いた。たちまち空間がよどみ、ねじれ、白い靄がかかる。
いつのまにか影僧は、ほの暗い寺院の地下堂に立っていた。目の前では大柄な壮年が、苛立ったようすでのし歩きながら、愚痴を撒いていた。
「ええい、あと一歩で女神の再臨が成るというのに、参事会の呼び出しだと…白髪の最長老め…何を考えておる…しかも場所は…あの穢れ爛れた色町の…男娼どもが集う芝居小屋だと…例の太った蛇、赤胴とかいうばばあと結託したな…いったい何を企んでおる…だが行かねばならぬ…今要らざる疑いを招く訳には…」
哲究だ。元冒険者にして北方では一揆衆との土地争いに功のあった武僧あがりの大師。しかも博覧の及ぶ広さは並の学僧の比ではない。生きている。ぴんぴんしている。
「行ってはなりません!」
とっさに声が出た。高僧は振り返り、じっと配下を見つめた。
「なぜだ?そなた、何か掴んでいるのか」
「もうすぐここへ衛士隊が攻め寄せて来ます。あのものどもは、我等の大業を知らず、呼び出しの大釜を魔物を汲みだす道具としかとらえておりません。我等が多数の釜を隠し持っているのを確かめれば、目的を誤解し、没収しようとするでしょう」
「なに…なぜ奴等にここに釜があまたあると漏れたのだ」
「古読殿です。地方の僧院回りが長く、寺院の秘密に通じておらぬうえ、釜から魔物が出てくるのを目にして動転し、魔物を除いた衛士隊に密告したのです」
「む…あやつめ…頭の切れる男と思っていたが…存外凡俗な…」
「まだ若いのです。すぐに身柄を抑えるべきでございましょう。それと、衛士隊は手先として元冒険者を差し向けてきます。腕利きの盗賊です。やつにご神体を奪われぬよう用心を」
「…腕利きの盗賊…ふむ…もしや…よし、ご苦労であった。そなたら影僧の調べがなければ、あやうく白髪の最長老にたばかられるところであったぞ。あの昼行燈め、老いたりとはいえ双楽あなどるべからずだな…」
即座に大師は、警備を固めるよう呼びかけ、武僧の一隊に古読を拘束させた。
影僧の言葉通り、やがて元冒険者の盗賊が潜入を図り、続いて馬車を連ねて衛士隊が到着した。だがすでに備えはできており、寺院側が機先を制して攻撃をしかけると激しい闘争が始まった。
敵は見慣れぬ大型の弩などを持ち出し、名高い火傷の隊長の指揮もあって手強く、また盗賊もすばやく動き回って味方を混乱に陥れかけたが、ご神体が霊験あらたかな働きを示し、また死体をしもべとして操る哲究の武器、白亜珠も猛威を振るって、どうにか返り討ちにした。
「…我等の受けた傷は大きいが、かの盗賊こと群青鞭に衛士隊の中核。これらを除いた以上、もはや白髪の最長老にさしたる手駒は残っていまい…傭兵衆は市内には入らぬ…色町は力押しはとらぬ…商工組合どもに金勘定以外の頭はなし…あとは東の帝国の密偵が気にかかるが…なに奴等も単独で寺院を襲うだけの度胸はない…成ったぞ!我等が大業」
高僧が吠えるのに、配下は拳を握って相槌を打った。
「おお…ついに平安が…終わりなき繁栄が訪れるのですね」
「そうだ…いよいよだ…世界の終わりを超え…苦しみなき時代が始まる。女神にすがるひとにぎりのものだけが、そこへ辿り着けるのだ」
真珠の光沢を帯びた長方形の紙を握りしめ、大師が指示するもと、呼び出しの大釜は完全に起動し、空間をゆがませ、よどませ、ねじれさせ、寺院の天井が吹き飛ばしたが、皆恐れはしなかった。
待ち望んでいたものは顕現した。
たちまちのうちに周囲のものは眷属、誤って“痩せた男”と冒険者が呼んでいた存在になった。たとえようもない喜びが全身を浸し、ねじくれた四肢がのたうった。
続いてすでに眷属となっていたものどもを、学者なる人物に率いてあらわれ、寺院のものどもを驚かせたが、すぐに互いを受け入れた。同じ大いなる主に仕える娘等が、何故反目する必要があろう。
かつて哲究と昵懇でもあった学者は、ほかにいくたりかの知恵深き同胞を交えて相談しながら、苦難のすえ獲得した楽土を安堵するための施策を決めていった。まずすべての呼び出しの大釜を破壊した。地下にあるという迷宮から、女神の天敵である龍が出てこれぬようにするためだ。
不可思議な財宝が用を為さなくなるとともに、恐らく迷宮そのものも崩壊したろう、というのが眷属となり従順になった古読の考えだった。
迷宮は妖精という種族が作った世界と世界をつなぐ回廊で、呼び出しの大釜がそれぞれをつなぎとめる鋲の役割を果たしている。残らず打ち毀てば、迷宮はもやいを解いた船のごとくいずこかへ流れゆき、やがて潰えるという。
次は地上の敵をどうするかだった。女神は強大にして不死のはずだが、傷つきはする。人間を恩寵をもたらす唯一の拠り所であるがため、危険にさらしてはならなかった。幸い学者には、同法に類まれな力を付す術を心得ていた。
眷属を炎、氷、水を操る巨人のような姿に変え、それらが女神とともにあふれ出た多数の魔物を駆り立てながら、東の帝国、北の一揆衆や土豪、南の海賊衆や貿易組合、西の草原部族などに臨んだ。
捕虜をとらえれば、なるたけ眷属にした。かくして頭数は徐々に増えていったが、しかしなお不足していた。永遠の命を得たものは仔をなせなかったのだ。
“これではいずれ我等の命脈は尽きる”
定例の評定で、学者は腕をくねらせながら意思を伝えた。
“すべての敵を滅ぼしたあとであれば、もはや仔をなさずともよいが、今はまだ繁殖せねばならぬ”
哲究が同じように身振りで応える。
“いかにする。いくばくかの人間どもに祝福を与えず家畜として飼い、赤子を差し出させるか”
すると古読が控えめに意見を述べた。
“それは悪しきこと。女神の祝福は本来、衆生に等しく注ぐべき。さような理由で遠ざけてよいものとは思えませぬ”
“そなたの心根は柔らかすぎる”
元高僧のたしなめに、元学僧はしかし引き下がらない。
“もう一つ。我等の性を忘れてはなりませぬ。他の種を見ると、痛めつけ、血を流させたくてたまらなくなる御しがたき面を。事実、戦場から運ぶ人間の捕虜の多くが、なぐさみに同胞の手にかかって散っております…人間を家畜として養うなど、うまくゆくとは思えませぬ”
学者は肯定のしぐさをした。
“いかにも。人間どもとは言え、我等の同胞になるべきものを無益なことだ…だが抑えようがない”
“ではいかにする”
哲究が尋ねると、一同は黙りこくった。やがてまた古読が四肢をうごめかせて話す。
“一案ですが、眷属のうちから有志を募り、仔を孕める体に戻るのはいかがか”
“なんと…祝福を捨てよと申すのか…しかし戻ったものはほかの眷属がすぐに殺めてしまうであろう”
“完全に戻るのではなく…半人…とでも言うべきか…人間と魔物の中間の如くなったものどものについて…以前学者殿が何かおっしゃっていたかと”
“うむ。色町のものどもが目指していたのがそれだ…なるほど。半人となれば、眷属からの攻撃を避けつつ、仔をなすこともできる…だが女神の似姿から離れる悲しみは並大抵ではない”
“それでも…人間を家畜とし、恩寵を惜しむよりはよいでしょう。そして、あくまで自らの意思で半人となると決めたものだけが、重荷を引き受けるのです”
元高僧は手足を胴に巻き付け、しばし黙ってから告げる。
“悪くない…うまくゆくなら、私が半人となろう”
“私もなります”
元学僧ものたうちながら申し出た。すると最後のひとりが、くねりつつ話を引き取る。
“私も、と言いたいところだが、主の御傍にも誰かが残らねばならぬ。なにより、この考えが御心に沿うかどうかまず尋ねてみよう”
女神はすべてをよしとした。もっとも影僧だったものも含め、すべての眷属は誰も何か願って拒絶を受けた覚えはほとんどなかった。
ただ計画を実行に移すにあたって、障(さわ)りが明らかになった。半人となったものどもは一様に雌の器官しか備えていなかった。雄がいなければ繁殖はできない。一同はまた考えあぐねた。人間の雄を使うことも検討したが、やはり眷属がすぐ屠ってしまい、長持ちしない。
「我等と交配ができ、なおかつ容易に死なぬ雄を探さねばならぬ」
はちきれんばかりの若さを備えた女となった哲究は、怪しげな丸薬をかじりながら、いまいましげにつぶやく。
東の錬金術師から奪ってきた巻物をもとに作ったもので、服用した個体の殺意を情欲に捻じ曲げ、かつ子作りを促す見えざる印を四方に発散し、周囲の眷属にもある程度まで影響を与えるが、しかし同胞が人間をひねり潰すのを完全に止めるまでにはいたらない。痛しかゆしのできばえだった。
「それは…魔物?」
古読もまた丸薬をかじりながら問う。
「魔物…であろうな…我等や人間に近いのは嘆きの精、だがすべて雌だし、そう丈夫でもない。なにより地上では長く生きられぬ。あとは引き裂き狒々か、あれは頑丈だが、しかしうまくゆくかな」
「狒々ではうまくゆかぬでしょう…ほかに」
「まあよい。学者めが何か思いついたと言っていた。我等はこれらの薬の効能を高めるのだ…実験を重ねながらな…」
哲究がにじりよると、古読はおののき、やがて互いの触手を伸ばして愛撫を交わし始めた。
「ぁっ…哲究様…んっ…」
「そなたは見た目によらずはねっかえりゆえ…よき母となるようきちんと躾けねばな」
「ふぅ…ふぅっ…そのような…屁理屈を…ぉんっ!!そこは違…っ不浄のぉっ」
大柄な女の腕が枝分かれしくねりながら、一回り小さな女の菊座をえぐる。
「産みの苦しみは激しいものとなろう。まぎらわせるのには肉の悦びがよい。そなたがどこをもてあそんでも気をやる、淫蕩な雌になるよう仕込んでおく」
「ひっ…ぁっ…それも…へり…くつ…」
「かかか。さようさ。本音を言えば、そなたの小利巧な顔が崩れるのを見たいのよ」
「ふぅ…ふぅ…もぉさんざんお見せ…し…くひぃいいい!!?」
紅蕾をねじり上げ、陰毛をむしりながら、直腸をえぐる。荒い息をついて抱き着いてくる半人を、同胞は優しく扱うどころか、肩に歯を食いこませ、尻朶をしぼり上げて、痛みでもって報いる。それすら秘薬の働きか快い痺れとなる。
「でっぎゅうざま…おじひをぉ…」
「ならぬな。それに学者の着想について、私の考えが正しければ、我等が番う雄は、慈悲など求めようもない相手だぞ。狼藉には狎れておけ」
「ひぎぃいいい!!」
また嬌声とも悲鳴ともつかぬ叫びを上げる後輩を、先輩はじっと覗き込んでから、かみつくように接吻した。
女神の眷属となった影僧はすべてを離れたところで観察しながら、ぼんやりと何か、人間だったころの意識の残滓をなぞっていた。これでよかったのか。正しかったのかと。
そばには出産を終えたばかりであえぐ半人の雌達。痛めつけてやりたい衝動はあるが、まだ抑えられる。産まれたばかりの仔等は、おとなに育つまでは乳や肉を与えたうえ、再び祝福を与え、完全な眷属とする予定だ。
すでに見るべきものは見たと判断を下し、移動を始める。かつて人間がひしめいていた虚ろな街並みを抜けてゆく。やがて交尾場に着く。まだ孕んでいない半人の雌が集まる場所だ。通りすがりに何匹かの素肌を鞭打ち、秘裂を叩いて悶えさせる。嫌がってはいない。うっとりと見つめてくるものさえいる。
薬のせいであられもない昂りを示すやからに相対していると、重い負担にあえて志願した同胞だというのにどこか一段下という考えを抱かずにいられない。
“どけ”
むこうも婢のように従う。
建物に入る。かつて人間が参事会堂と呼んだ施設。すぐに獣の唸りと、雌のあえぎが聞こえてくる。きつい魔物のにおい。
緑の毛皮をし四つの腕を持つ狒々が、大兵の女を押さえつけ、めちゃくちゃに犯している。逞しくも肉置き豊かな手足ははや無惨にちぎれ、裂け目では触手がくねり、乳房や脇腹には握りつぶしたり、肉を噛みちぎったような跡がある。粗削りだが整った顔は何度も殴打を受け、痣だらけだが、涙と洟と涎と血にまみれてなお陶然としている。
「あぉおお、ごしゅじんざまぁ…ぎもぢぃよぉ…おでのこどもっどぶっごわじでぇ!はらんなかもぐかぐちゃにじでぇ!!」
剛直がめりこんだ下腹は変形し、子宮を破って内臓を攪拌せんばかりだが、それすらたまらない官能をもたらすらしかった。巨女は四肢の切り株から短い肉紐をうねらせながら、もっともっととせがむ。狒々は番の頭を床にたたきつけ、鼻血を噴出させ、凶器を広がり切った蜜壺から引き抜くと、だるまの胴を壁に押し付け、腹を何度も殴りつけてうっ血させてから、また性器を納める鞘のようにねじ入れて、勝ち誇って吠えた。
そう遠からぬところで四つん這いになっていたもう一人の巨女が、びくりと背を震わせ、いっそう熱心に毛皮をまとった番の股間にむしゃぶりつく。
「あむっ…むっ…ね…ご主人様…俺…上手だろ…だから馬頭みたいに…ひどいことしないで」
狒々はうなって、そっと背中を撫でてから、厚みのある双臀を鷲掴んだ。
「ひんっ…わがっだ…わがりまじだぁ…ひどくじでぐださい…牛頭はぁ…好きにぶっごわしでいい…ごしゅじなさまのおもじゃですがらぁ…」
すすり泣きながら告げると、四本の逞しい腕が半人の雌を持ち上げ、後ろ抱きにして屹立にゆっくり子産みの穴を押し当て、ねじこんでいく。
「ぶぎぃい!?」
根元まで一気に押し込み、白目を剥いて痙攣する牛頭に、“夫”は牙を剥いて笑いかけてから、両手両足を掴むと無造作に引き裂いた。
「ぎぁあああああ!!!!!!!」
千切れた手足はごつい拳の中でのたうつ触手となり、さらに塵と崩れる。泡を吹きながら、しかし“妻”は絶頂に達していた。小水に弧を描かせて痙攣する伴侶の乳房を思うさまねじり上げ、意識を無理矢理引き戻すと、もう片方の番に近づいていく。
「あぐ…馬頭ぅ…」
「あは…牛頭ぅ…なんて顔してんだよぉ…」
「らっで…らっでご主人しゃまがぁ」
「すぐわがるよぉ…可愛がってもらえでうれじぃって…」
二人はそれぞれの雄のうながすまま接吻をし、千切れた両腕両脚の先から伸びた触手を絡み合わせる。たわわな乳房と乳房を潰し合わせ、突き殺さんばかりの勢いを持った狒々の打ち込みを必死で受け止め、うめきとむせびの重唱をはなつ。
安全な間合いをとって、影僧はじっと見入っていた。引き裂き狒々の玩具になっている雌は正確には志願して半人になったのではない。女神の恩寵に最後まで抵抗を示し、眷属となっても反抗心が消えなかった元冒険者で、学者がなんらかの手段で頭をいじっておとなしくさせたのだ。かくして、どんないたぶりも歓んで受け入れる狂った半人となった。
引き裂き狒々の方も同様におかしくしてあるようだ。二匹の雌があたかも同族であるかのごとく執着し、片時も離さず、食事や排泄のときですら犯しながらというありさま。すでに十個の酒樽があふれるほどの精を放っているはずだが、まったく孕むようすはない。実験は明らかに失敗しているが、まだ止むようすはない。
学者は明言しないとはいえ、いわば叛徒への懲罰が目的だから、構わないのだろう。もっとも古読が知れば反対するだろうが。
「えへへ…あがひゃん…ごしゅりんしゃまのあがひゃん…じぇったい…めじゅよりしゃぎにはらむがらぁあ…」
「おで、おでのほうがしゃぎぃ…それにぃ…いっぱいぎもぢよくして、なぎわめいでおもじろがらせるがらぁ…しゅでないでぇ…じゅっといじめでぇ…ごしゅりんじゃまぁ…」
凄惨だが死の恐れはない。半人とはいえ恩寵を受けた筋骨はたやすく再生する。手足さえも。さらに必要ならまだ回復膏や蘇生液といった、どんな傷でもまたたく間に癒す秘薬も蓄えはたっぷりある。
影僧だったものは踵を返し、奥へ向かった。本物の雄。交配ができる雄がいる場所に。
咆哮が響く。寒けがする。甲高い罵りとともに風を切る音がして、すぐ爆発が起きる。
交尾場は、女神の膝元である街にありながら、最も危険な敵をつなぐ牢獄でもある。
「逃がさねえって言ってんだろ魔王!てめぇも物覚えがわりぃなあ!」
荒々しいたたずまいを持つ裸の女が、鎖付きの鉄球を操りながらわめく。
かつて議場だった広間の床には不思議な魔物が縫い付けてあった。男とも女とも、少年と少女ともつかぬ怜悧な容貌、ところどころ抜け落ちた獅子のたてがみと毛皮、破れた蝙蝠の翼、途中で切れた蛇の尾。
胴体は以前、街の空を自由に飛び回っていたころに比べると人間に近づいている。腕と脚の関節の向きや、腰の形なども変わったようだ。胸にはたわわな四つの乳房が揺れているが、へその下には引き裂き狒々ほどではないにせよ凶暴そうな男の性器がある。切れ長の双眸からは、何を思うかは測り難い。
「んだよ。見回りかよ…へっ…ちゃんとやってんだろ…牛頭と馬頭は?また旦那にひどいことされてんのか。だっせえなあいつらは…」
早口にまくしたてる半人を、影僧はじっと上から下まで眺めやる。確か視目という、元は冒険者として最高位階をきわめた白金紋章を持つ男だった。仲間の牛頭と馬頭と同じように頭をいじってあるはずだが、闘志は失っていない。
手に持つ武器は、眷属をも一撃で屠る危険な代物だ。だが魔王をうまく抑えておけるものがほかにいないので、仕方なく使っている。
「こいつは何も問題ねえよ…最近はおとなしくなったんだ…次の種付けか?そろそろ俺もやらせてくれよ…なあ」
ほかの半人の雌と変わらず、あさましい好色さをまるだしにして訴えてくる。女神のしもべはあとずさり、背を向けた。
「いいだろぉ。なんで俺だけ種付けしちゃだめなんだよ!がきなら何匹でも孕むからよぉ!!なぁ!」
影僧だったものが逃げるように退くと、鉄球使いは勢いよく鼻息を吐いてた。
「陰気くせえやつ…魔王…痛かったか。悪かったな…あんまり優しくしてると俺、もっと頭をおかしくされちまう…お前のこと分かんなくなるかもしんねえからさ…そいつは困るし」
魔王は低くうなった。視目はためらいもせず武器を放り捨てて、眼前で揺れる四つのたわわな胸の間に飛び込み、毛皮がおおった乳房に鼻を埋めて甘えた。
「怒んなって…ああ…分かってる…手足と翼の杭を抜いてほしいんだろ…そんでまた戦う気なんだ…そいつはだめだ…今度こそやべえ…お前が…なんだっけ…眷属を取り込んでて…雄として俺達とガキが作れても…女神そのものを脅かすようなら…あいつらはお前を殺す方を選ぶって…だから…なっ」
四つん這いになって陰唇を剛直にこすりつけながら、視目は呼吸を見出し、頬を上気させる。
「…気持ちいいだろ…この穴っぽこにお前の…挿れるのはだめだけど…これぐらいなら…っ…」
少女のようにか細く啼いて、元冒険者はあっさり気をやる。
「はぁ…お前の匂い嗅いでるだけでこうだ…俺は…あの薬はほとんど飲んでねえ…だから…お前のせいだからな…なあ…俺が一番強ぇし、お前の番にふさわしいのに…ほかの雌ばっか種付けしやがって…哲究のばばあなんかあんなに何回も…畜生…」
複乳のあいだを這って、耳まで裂けるあぎとのそばまで来ると、唇をすぼめてそっと頬に触れる。
「食い殺してもいいんだぜ…俺のこと…そいつは誰も禁じてない」
「ミル…メ…」
魔王が名を呼んだようだった。がばと身を起こした視目は、双眸を丸くして囚われの麗人を見つめてから、頬を赤く染めた。
「お、俺の名前、呼んだのか…呼んだよな…へっ…やった!はじめて呼んだ!すげえ!お前の名前も教えろよ!なあ!」
「…タ…イ…」
「タイっていうのか!可愛い名前だな!へへ…タイか…タイ…タイ…」
たてがみのあいだにのぞく首にしがみつく。
「好きだ…タイ…俺のタイ…俺の番になってくれよ…お前のガキ、いっぱい産みてえ…」
「ミル…メ…ボクヲ…トキハナテ…ボクナラ…ミンナヲ…モトニ…」
「だめだって…お前は女神様には勝てねえよ…女神様に勝てるとしたら…えっと…あれ…まあいいや…とにかく…そうだ…あれ、またしてやるよ…な?」
荒々しい女は向きを変え、剛直に向き合うと、おとがいが外れそうなほど口を開いてしゃぶりつく。激しく上下させ、喉の粘膜さえ用いて奉仕させながら、ごつい肉幹を存分に味わう。
「んむ…んっ…む…」
街ち焦がれる子種がなかなかあふれてこず、眉をひそめた視目は大きな獣のふぐりをにぎった。
「んむぅっ!!!」
ようやく迸りがあり、量の多さに鼻からも唇の端からもあふれさせ、咳き込みながら離れる。
「けほっ…けほっ…あいかわらずすげえな…」
この世で一番のごちそうでもあるように、指と舌で白濁を一滴あまさず舐めとりながら、半人の雌は破顔した。明るくあっけらかんと。
「まだ…できるよな?お前すごく強いもんな…哲究のばばあも最後はひいひい言って降参してたし…でも俺はあいつより強いぜ」
視目は腰をくねらせてから、猿のように跳躍して、タイの視線の届く高さの議席に駆け登った。
「そこなら見えるだろ…ちょっと待ってろよ」
背を向け、がにまたになって尻を突き出し、小刻みに震えると、排泄口の粘膜をめくらせながら、透明な球を産み落とす。握り拳より大きいだろうか。一つ、二つ、三つ、四つと腸液をからみつかせて転び出る。
「あぉっ…ぁっ…ぁぐ…ふひぃ…ひんっ…どうらあ…色町にあった…男娼用のやつだぜ…これで…腹んなかきれいにして…いい匂いにして…柔らかくすんだ…いつもぶるぶるして…クソしたくなるみてえな…変な感じだけどよ…でもぉ…これで…お前の…入…んぎぃっ…?」
もう一個、ひときわ大きな玉が菊座をいっぱいに広げてあらわれた。
「んほぉっ♥…ぉっ♥…」
しばらく蹲踞の姿勢でわななき、じっとしてから、やや足をもつらせつつ、また魔王のそばへ戻る。しなだれた陽根を見下ろして、不機嫌に口をへの字にしてから、爪先を伸ばして亀頭をとらえ、親指と人差し指のあいだでこする。
「俺の尻じゃ、たぎらねえってのかよ…ずりいぞ…俺はお前のそばにいるあいだじゅう交尾したくてしたくてたまんねえのに」
「ミルメ…ボクヲ…トキハナ…」
「だめだっての…ほら…硬くなってきた…へっ…じゃ…いっただきまーす♪」
両脚を開き、、いきむようにして肛孔を広げ、桁外れの逸物を咥え込む。
「んぐっ…ぅっ…でっが…ぃ…ぎぅう!んっ!!んぅうう!!!!」
脂汗をかきながら、幾度もつかえ、しかし並ならぬ胆の太さを発揮して、どうにか半ばまではらわたの奥に埋めさせる。
「ぁっ…かはっ…タイ…タイ…タイの…ぜってぇ全部…もら…ぅっ!!」
根元まで受け入れる。括約筋が切れたのか、血が少し出る。
「いだ…ぐねえ!…うごぐがらな…ぜってぇ俺ので…タイを…ぎもぢよくざせ…るんらぁ!」
腰を弾ませ、胴をくねらせ、伸び始めた髪から汗の珠を散らしながら、小ぶりだが形のよい乳房を揺らして、最強の冒険者は最強の魔物と鶏姦にふける。はじめは痛みをこらえるだけのあえぎだったものが、次第に爛れた響きを帯びてくる。
「ぁぐっ…すご…ぁっ…ぐっ…はらわた…全部ひき…だされ…っぉぐう!!」
タイの腰が跳ね、結腸を突き破らんばかりの勢いで長杭を打ち込み、せつな、視目の意識を飛ばす。
「かはっ…ぁっ…タ…ィ♪…俺ぇっ…タイの…女房にぃ…なるぅ…♥」
獣が咆哮し、半人の嬌声と共鳴する。大きさの合わぬ二つの腰と腰がぶつかり合う都度、淫らな音が議事堂、いや交尾場に響く。
異形の屹立が粘膜を削り、臓腑を揺する激しさに、雌は幾度も気をやり、ややあって大量の子種を注ぎ込まる膨張感にえづきながら、なおも番にしがみつき、懸命に尻を振った。
どれほどつながりあっていたか。視目はまるで蛙のように脹らんだ腹をかかえ、ぶざまに滑り落ちてから、口から精を吐き、だらしなくげっぷした。開ききった後門からは噴水のように子種があふれる。
花嫁衣装がわりに白濁にまみれながら、魔王の妃は恍惚とままやく。
「タイ…タイ…おれのタイ…」
獣じみた花婿はまぶたを閉ざし、求めざる交合によって失った力をまた養おうとするかのように緩やかに呼吸する。だが弱々しいすすり泣きを耳にして、また耳まで裂けるあぎとを開いた。
「ミルメ…ダイジョウブ…ボクハ…ソバニイル…」
「タイ…死ぬな…ずっと…一緒…」
「アア、ズット…イッショダ…」
議事堂の壊れた扉ですべてを観察していた、影僧だったものは、今度こそ雌雄を置いて歩み去った。隣の間では、狒々がそれぞれの雌を取り換え飽かず犯している。外で待つ半人の群は淫気にあてられ、互いに手足をからみつかせて慰め合っていた。
さらに来た道を取って返す。大通りでは女神の眷属が面白半分に半人を嬲ったり、小さな魔物をひねり潰したりしている。
寺院跡地に達すると、哲究と古読がそれぞれ触手の拘束を受け、搾乳を受け快よさげに鳴いているのが聞こえた。ほかにも胸の張った半人が、眷属から打擲や締め付けに遭いながら仔等に呑ませる滋味をせっせと絞り出している。
影僧は、終わりなき営みをふりほどくようにして鐘楼へ昇る。二つの陽の沈むかたを望むと、氷や炎の巨人が、牧童のように魔物を狩りたてつつ征途につくところだった。草原部族を狩りにゆくのだろう。
“これで…よかったのか”
身振りでつぶやいてから振り返る。
はるかに仰げば、雲突くようななまめいた輪郭が立ち尽くしている。あまたのねじくれた枝を生やした大樹と紛う女神の、謎めいた無貌の首が、無言のままただじっと迷宮のあった街を見下ろしていた。