Sniff Nose

迷宮のある街。冒険者がもたらす不思議な霊験を備えた財宝と、東西南北を結ぶ貿易による富貴、淫らにして艶やかな色町が惹きつける千客によって、殷賑(いんしん)をきわめながら、地震によって毀(こぼ)たれ、あげく魔王と龍と女神が一度に襲い、多大な被害をだした。

だが、なかば瓦礫と化した家並みにはすでにあちこち流民の天幕がはびこり、疎開から戻ってきた住民とのあいだで摩擦が絶えない。喧嘩、殺人、放火、追いはぎ、空き巣。救いのない、しかし人間が集まっているからこそ起きるさまざまな犯罪。

街は復興しつつあった。


「うおおあああ!」

街を囲む城壁を出た、市外区にある宿屋の片隅。獣脂の蝋燭が燃える薄暗い部屋で、嗅鼻は肩を抑えてわめいていた。

「しずまれ…しずまれ俺の右腕」

だが命令に反して、腕はほどけくねる触手となって暴れる。

「…まだ魔物だったときの名残が出やがる」

荒い息とともに、たわわな乳房が汗にまみれて揺れる。元は小柄な人間の男だったが、街を襲った禍の中で、魔物になり、さらに女になってしまったのだ。激変が心身に及ぼした影響は大きく、時々異常がぶり返すため、仲間からも距離を置いて、場末にひきこもっている。幸い金はあった。

「くそ…くそが」

東方の錬金術師が調合したという得体のしれない丸薬をかみくだき、安酒の剛零で飲みくだす。

「地獄の猟犬団の嗅鼻様ともあろうもんが…このざまとはな…」

地獄の猟犬団。街を救った英雄。冒険者の頂点をきわめたものたちの一員がまさか魔物のよすがをとどめて、流民だまりでくすぶっているとは誰も想像しないだろう。

誰かに相談しようかと考えたが、一番頼りになる知恵袋とまとめ役の二人はすでに街を去った。あとの連中は腕っぷしは強いが頭は回らない。どちらにせよ話づらい内容だった。

初めは人間が殺したくて、食いたくてたまらなかった。特に親しいものがそばにいるほど衝動が高まる。怪しげな薬を飲み始めてから体質が変わり、衝動は変化したが、ろくでもなさは変わらなかった。

犯したい、貪りたい。めちゃくちゃにしたい。地獄の猟犬団の仲間のひとりで、最近やけにぼんやりしている視目と酒を飲んでいるとき、押し倒しそうになってさすがにまずいと分かった。

以来、あなぐらのような場所でひきこもり暮らしだ。もともと性にはあっていた。

「ん…ふっ…ぅっ…」

触手と化した右手で、まだ存在自体に慣れない秘裂をまさぐる。いとわしい器官だが、自らを慰めるのには便利で、膣の奥の奥まで届く。とっくに破瓜は済ませていた。

「んぎぃっ♥」

涙ぐみながら乱暴に粘膜の内側をえぐる。痛めつけるように、罰するように。触手は望むがまま子産みの穴を満たしていき、腹を凸のかたちに膨らませる。

「かはぁっ…ぁっ…んっ…」

他者を嬲ろうとする欲望を内側に向け、むちゃくちゃにかき混ぜながら、嗅鼻は泣き笑いをした。狂いそうだった。いつか仲間だった賢者が言っていたように、心が魔物より恐ろしい何かになりそうだった。

いきなり部屋の戸が叩かれる。

「あに…姉貴、いる?」

声変わり前の少年の喉だ。あわてて触手を引っ込めて、服をなおす。

「な、草採。お前何しに来たんだ…つかどうやって?」

「犬達が、においたどって」

「馬鹿!あいつら連れてきたのか」

「ううん…あに…姉貴が怒ると思ったから、馬頭の兄貴に預けてきた」

少年は薄い木板越しに、じっと部屋に入る許可を待っているようだった。元男の女は頭を掻いて伸びてきた髪を乱暴にひっぱる。

「ならいい。お前も帰れ」

「お、おみやげ。は、早筆さんとつくった。や、やきがしってやつ」

「そんなもん…食い物足りてねえのに」

「の、農協の人、わけてくれた。ざいりょう」

「ふうん…そいつはお前と早筆さんで食べな」

「やだ」

「あ?」

「い、入れてくれるまで、かえらない」

「勝手にしろ」

嗅鼻が毛布をかぶって横になると、草採が座り込む気配がある。馬鹿な弟分だった。


「ったく。真面目というか強情というか」

「やきがし、おいしいから…早筆さん、じょうずにできたって」

薄暗い部屋で、大小二人が差し入れをぱくつきながら、口をものでいっぱいにしつつ喋る。早筆が見たら腰に手を当てて怒るだろう。芝麦の粉を引いて作った生地に、干し果物を蜜液で戻して詰めて焼いたものだ。

「うめえな…」

「早筆さん。すごい」

なぜか自慢げな少年を、女はあきれ顔で見つめる。

「早筆さん早筆さんて。お前ほんとにあの見習い絵師が好きなんだな」

「うん。え、うまいよ」

「知ってるよ。最後の戦いで、龍を描いて女神に立ち向かわせたんだろ。お前が何回も話すから覚えちまったよ」

「えへへ」

「お前だって十分すごいやつなんだぞ。分かってんのか」

「おれ、すごくないよ…」

「すげえよ。お前は…お前がいなかったら俺は…」

脊椎を寒気が走り抜ける。腕がまたほどけそうになっている。

「帰れ…今すぐ!」

少年がそっと女の背をさする。

「あに…姉貴だいじょうぶ?早筆さん呼んでくる!早筆さん、まえ、薬種屋ではたらいててね、おれより薬草とか、くわしいから」

嗅鼻は嗤った。雌の肉食獣の嗤いだった。

「早筆早筆って…俺の前でほかのやつの話すんじゃねえよ」

接吻を奪う。唾液と菓子の甘い香が混じる。はじめ童児は抵抗があるが、尻をねじり上げるとおとなしくなる。馴れていいる。男娼まがいとして仕込んであるのだ。念入りに。糸を引いて唇と唇が離れると、うるんだ眼差しが懇願するように見上げる。

「あねき…ごめ…あの…おれ、だめ…」

「何がだめなんだ。迷宮では俺の好きにさせるつったろ…」

「そう、だけど…おれ、はやふでさんと…け、結婚する…から…もう、ほかのひととはしない…」

「ああそうかよ…だがそいつはなしだ」

「ふぇっ!?」

「草採。お前は嫁にやらねえ。俺のもんにする」

もう一度口づけを奪う。もっとしつこく、食いつくように。狂わせるように。


早筆は唇を噛みながら市外区の雑踏を抜けていた。若い娘というだけで口笛を吹いたり道をふさいだりする男は事欠かない。特に南方人がいやらしかった。だが首から冒険者の黄金紋章を見せるだけでたいていは静かになる。

「草採君…お姉さんのところにいったきり、もう三日も戻らないなんて…やっぱりひとりでやるんじゃなかった」

大股になって通りを抜ける。覚書には草採と仔犬二匹が突き止めた嗅鼻の住処が記してある。

「このあたりだけど…ほんと荒れてるんだから」

人気のない路地裏に入った。野良犬や浮浪者が用を足した匂いが染みついている。顔をしかめながら踏み込むと、影が二つ。肌も露な女と、一糸もまとわぬままうずくまる少女、いや少年。娼婦だろうか。色町からはだいぶ離れているとなると、本来は危ういもぐりだが、今は色町そのものがほころびているから、何とも言えなかった。

まばたきして気づく。草採と、嗅鼻という血のつながらない姉だ。

「よし。いいぞ」

女にしては低い声で姉が命じると、弟は四つん這いのまま恥ずかしげに片脚を挙げて尿(いばり)を放つ。まるで犬だった。

「よくできたな」

甘く優しく、嗅鼻が褒めながら、草採の髪をくしゃくしゃにしてやる。あどけない容貌がうっとりと飼い主を仰ぎ見、仔犬らしく鳴く。

「何をしているんですか!」

怒鳴ると、豊かな胸をした女は振り返った。張りついたような笑みを浮かべている。まともではなかった。まるで魔物だ。

「うちの犬に…何か用か…」

「その子は、草採君は犬じゃありません!」

「馬鹿言え…こいつは犬だ…俺が人間を…孤児をどうにかするはずないだろ…そんなはず…ああ本当は地獄の猟犬だ…魔物だ。黙っててくれよ…この街で暮らせるように、しつけをしてるんだからな」

けたけたと笑う冒険者に、昔日の精悍さはなかった。少年はやっと声に気づいて、青ざめながら裸身を隠す。

「草採君、草採君しっかりして!私!早筆!」

「早筆さん…だめ…見ないで…」

「さあ家に帰るぞ…上手に散歩ができた褒美をやるからな…お前の好きな干し肉もある…はは…がっつくなよ」

軽々と少年を抱き上げて、女は遠ざかっていく。娘はぞっとしながらも後を追った。

「あんた。ついてくるなよ…地獄の猟犬は獰猛だ。こんなに可愛くても、慣れないやつの喉笛をあっさり切り裂く…そうだ…だから俺達はいつだって頼りにしてきた…お前を…お前達をな」

部屋に入ると戸を閉める。鍵がかかるのが分かった。見習い絵師は口をへの字に結ぶと、絵筆を取り出して、取手のそばに穴を描いた。黒いぽっかりと開いた穴。できあがると、本物そっくりなその穴に腕を突っ込み、開ける。

「草採君を返して!!」

中では、裸になった姉があぐらをかき、弟を抱き寄せて胸先を噛んでは舌で転がす姿だった。

「何を…」

「褒美さ…こいつはこうすると喜ぶ…俺も…楽しいしな…くく…ふふふ」

腕がほどけ、円かな尻朶を割って、菊座に触手をめりこませる。反対の腕も異形と化し、無毛の幼茎を包み込んで、包皮を剥くと鈴口に細い先端をねじ入れていた。

「うぎぁっ!!?ひぅっ…ひんっ…姉貴…やっ…早筆さ…前では…」

「違うだろ。お前の許婚が来たら、言う台詞は教えてあるだろ」

こらしめるように唇を噛む接吻をしてから、姉は弟に意地悪くうながす。

「ふぁ…やらぁ…やっ…おれぇ…はやふでさ…好きなのりぃ…」

「でも俺の犬だろ。草採はさ」

「ぅっ…ぁっ…ぁぁああ♪」

直腸と尿道を同時に削られ、淫らに踊りながら、涙をこぼしてかぶりをふる少年。

「ごめんりゃしゃい…ごめんりゃしゃい…はやふでさ…おれぇ…あねきの…いぬになるからあ…はやふでさんと…けっこんできなひぃ…」

「草採は俺にこうやって、されんの大好きだもんな?…迷宮でも何度も俺を誘ったんだぜ…さかりがついたやらしい牝犬だ…」

「ふぁぁっ…はやふでさ…みなぃれ…おにぇが…みなっっ…ぁっ」

がくがくと痙攣する。精通前の絶頂。繰り返し達することができる体の弱いところをすべて知っているのだと、嗅鼻は見せつけるようにしながら、草採とこれ見よがしな接吻をする。

早筆は凍り付いていた。

「ぷはっ…なんだまだいたのか…もう帰れよ…こいつは俺んだ」

「ざけないで…」

ぎらりと薬種屋の娘は目を光らせた。半魔はしかしなお平然として、いっそう激しく少年の体内をかき混ぜながら、ふっくらした頬から随喜と悲苦のまじりあった涙を舐めとる。

「やめとけ…荒事はあんたにゃ向かない」

「向くかどうかは…お前が決めることじゃない!」

叫ぶや早筆は服を脱ぎ始めた。思わず嗅鼻は顔をそむける。

「ちょっ…おい…馬鹿なまねはやめろ」

「バカハドッチダー!!」

素裸になり、あまり肉のついていない肢体を露にすると、筆をとって両脚のあいだに何か描いていく。

「何してんだおい…」

相手を直視できないまま、元男はけげんそうに問う。かたわらでは触手の動きが止まったおかげでどうにか息をつけた童児が、やっと許婚のようすのおかしさを察して細首をねじむけ、驚愕する。

「ふぇ…ぁっ…はやふでさ…はだか…だめっ」

「いいの!」

描きあがったのは陰茎だった。ただし人間のそれではない。おぞましい魔物、引き裂き狒々のごつい逸物だ。軽くしごいて屹立させると、息を荒らげつつ近づいて来る。

「ひっ…」

「おい…なに…なっ…なんだそりゃ!…」

「知らないんですか?薬種屋にだって時々運ばれてくるし、魔物の体を取引する市場にはよく出回りますよ…こんなの絵師だったら飽きるほど見てますから…ちょっと、草採。こっち来なさい」

どすの利いた声で命じると、童児はびくっと肩をすくませ、そっとからみつく肉蔦をほどき、呼吸を乱しつつ、肛孔と秘具からも生きた責め具を引き抜く。

「ふぁ…はぁっ…早筆…さっ…」

「“あなた”って呼びなさい。草採は私のお嫁さんなんだから」

「ふぇえ!?あ、あなた…」

「こっち来て、ひざまづいて…口づけしなさい。これに」

草採は命令におとなしく従い、怪異な肉幹の先端に唇をつけた。早筆はさらに怒気を含んだ凝視を浴びせてから、新たな指示を発する。

「口開けて。いっぱい。もっと。そのまま」

そのまま喉奥に狒々の剛直をねじ込む。

「んむぅ!!!?」

「がまん!」

勢いに任せた乱暴な腰使いで許嫁の口腔を犯しながら、見習い絵師は掠れた喉で叱咤を浴びせる。

「浮気もの!浮気もの!草採の浮気もの!」

「んっぐぅうう…っんっ…んっ…!!?」

「許さない。絶対許さない。嫌がってなかった。分かるんだから。あいつ、あんな…手がにょろにょりしてるだけの…女だか…男だか知らないけど!あんなのに!絶対渡さない!渡さない!いい!?」

「んっ…んっ…」

「くっ…っん…なんか出すから!全部飲んで!」

噴射するような白濁の迸りに、少年は鼻から一部を逆流させつつ、どろどろに顔を汚してどうにか半ばほどを嚥下した。

「けほっ…けほっ…早筆さ…」

「あ・な・た」

「あなた…ごめんなさ…姉貴はわるくな…」

「悪いに決まってるでしょ!あとまだ終わってないから」

「ふぇえぇ!?」

「そこの壁に手ついて、お尻こっちむけて」

「や…でも…」

「草採は私のお嫁さんなんだから!当たり前でしょ!」

「う、うん…」

慣れたようすで、草採は足を開き、壁に片手をついて、もう片手でよくほぐれた後門をくつろげてみせた。腸液が糸を引く。

「あ、あなた…どうぞ…」

早筆はごくんと唾を飲むと、またしても固くなった魔物の陰茎で、よく手入れにゆきとどいた排泄孔を力任せに貫いた。

「ひぎぅっ!??ぁっ…太ぉい…」

「…くっ…きつ…あ、当たり前でしょ!人間のじゃないんだから!草採が浮気したら!今度は合成獣とか…あと龍のでお仕置きするから!」

「ふぁっ…っぃ…しにゃ…しにゃあぐっ…やっ…ゆっく…」

「だめ!おしおきにならないから!」

「ふひぃいっ ♥」

寝台に縮こまる半魔に、雄としての格の違いを見せつけながら、見習い絵師はほとんど幼い冒険者を宙に抱え上げるようにして抽送を速めていく。

「ぉ゙っ…ぁ゙っぅゔっ…ぁああ!!?」

獣じみた喘ぎを発しながら、草採はどんな男にも受けた覚えのない荒々しい蹂躙に遭い、しかし恍惚として求めを受けるままに首をねじり、早筆と唇を重ねる。

「いって!くさとりはっ…だれのものか!」

「ひっ…あなた、あなたのものれふぅ…」

「わたしの!およめさんなんだからね!」

「ふぁい…おれぇ…あなたのぉ…およめさ…ぁっ…んっぅっ…」

勝ち誇った笑みを浮かべて、娘は元男を見下ろす。

「そういう!ことですから!」

「お、おう…はい」

「はい?」

「…もうし…わけ…ありませんでした…」

「ほら!くさとり!おねえさんにちゃんとばいばいして!」

「ぁぅっ…ぁっ…なんれぇ…おれぇ…あねきもぉ…しゅきらのにぃ…やらぁ」

「そんな!都合のいい話!だめにきまってるでしょ!」

「ぅぁあっ…ひどい…よぉ…なんで…んっ…ふつうに…なかよく…ひぐうぅ!!」

したたかに精を放ち、きっちりと嫁に所有の印をつけると、ぐったりとうつぶせに崩れ落ちる少年を、娘は鼻息も荒く見下ろし、小ぶりな胸を拳で激しく叩いた。

びくっと寝台の半魔がまた小さくなる。

「…こ、こぇぇ…」

「ふぅ…ふぅ…草採が…どうしてもお姉さんと別れたくないって言うなら…私にも考えがあります」

「はい?」

「二度と悪さができないように…誰が一番強いのか、叩き込む。それが冒険者流ですよね」

「やめとけ…荒事はあんたには…いや…やめて下さい…お願いします…あっ…ちょっ…まじっ」


手足を触手に変えてもがかせながら、元男の胴は玩具のごとく跳ねた。は狒々の生殖器が子宮を叩き、目から火花が散るような衝撃を伝えてくる。乳房は歯型と唾液にまみれ、好き放題にねじり、つねり、もみしだいた痕が残っている。

「あぐっ…ぉっ…んっ…もぉ…かんべ…ひゃんっ…」

「情けないですね。それでも黄金紋章のっ、冒険者なんですかっ…」

「ぎぅっ…」

「地獄の猟犬団て、名前倒れじゃないですか!牝犬団にもすればいい!」

「てめぇ!うちを馬鹿に…んほぉおっ!」

正常位で犯しながら、早筆は嗅鼻を痛罵する。相手は反駁しようにも口を開くたびに、剛直で臓腑に強打を受け、呼吸すらままならなくなる。

「あぎっ…いったぃ…さいちょうろうはぁ…どんなあぶねぇ財宝を、やめっ…そっちは違っ」

「草採のはめちゃくちゃにしたくせに!虫が良いんですよ!」

尻穴に指をねじ込みながら、耳朶を噛み、さらなる絶頂をひきずりだす。

「ぅっぁっ…ぁっ♪」

「降参しますか?もう草採に手を出さないって誓いますか?」

「しねえ…しねぇから…」

見習い絵師はうなりともに、冒険者の腰を抱いたまま動きを止める。

「この筆で描いた…絵…どこまで本物なのか…私にも分からないですけど…このままだとお姉さんの赤ちゃんの揺り籠に、子種が出ますね」

「ひっ…お前なに言って」

「お姉さんは半分魔物だし、魔物の仔を宿すかもしれませんね…どうします?」

「ど、どうって…ちょっ…まっ」

「時間切れです」

ひときわ強い打ち込みのあと、早筆はしたたかにまた精を放った。嗅鼻は舌を突き出し、半ば白目を剥いて衝撃に触手の手足をもたつかせる。

「あぉおおっっ…」

「…ちょっと…かわいいかも…冒険者だし…」

汗に濡れた元男の頬をなでてやりながら、薬種屋の娘は嫣然とした。ややあってちらりとそばに控えて見守る少年を一瞥する。

「草採」

「は、はい、あ、なた…」

「来なさい」

「は、はい」

胸をときめかせながら寝台に上がる嫁を、手荒に抱き寄せて、幼い汗に混じる発情の匂いを嗅ぎながら、“夫”はまた獰猛な狒々じみて吠えた。

元男と童児を狭い寝台に並んで這わせ、腰をもたげさせ、交互に犯す。それぞれ音程の異なる嬌声に酔いしれながら、獲物達の視線が通ったり、顔が近づきすぎるとすかさず二組の双臀を打擲し、真赤に腫らせる。

「あぐ…あな…たぁ…おれ、おかしくなっちゃ」

「やべえ…ごんなの…あたま…ぐちゃぐちゃに…んぉおっ」

雌二匹を順番に達させると、どっかりと寝台に座り込んで、左右に引き寄せる。何も命じなくても、嗅鼻と草採は両側から魔物の器官にむしゃぶりつき、唇と舌を使って丁寧にぬぐう。まるで群を率いる雄の寵を競い合うほどの熱心さだった。

「じゃあ…しょうがないので、お姉さんは二号さんにしてあげます」

「はむ…むっ…ふざけ…誰が…んむっ…ちゅばっ…」

「私だって…本当は迷惑ですけど…草採が…どうしても…お姉さんと離れたくないっていうから…こら…取り合わないの」

「あむ…姉貴ばっか…ずるい…」

「弟は…ゆずるもんだろ…んっ…」

「もう。似たもの同士なんだから」

飼い主が可愛がっている犬にするように、大小二人の髪をくしゃくしゃにしてやりながら、どこか安らいだようすの姉弟を一幅の画に納めたら美しいだろうと、娘はぼんやり考えていた。


「ふぁっ…」

早筆が目を覚ますと、場所は急ごしらえで建て直した冒険者の酒場の隅の席だった。

「ゆ、夢?私…なんて夢をあんな…」

「へいき?」

「おいおい。だから言ったろ。慣れない酒なんか飲むもんじゃないぜ」

向かいの席には仲良しの少年、草採と、その姉貴分である嗅鼻。二人とも落ち着いたようすで、ただちょっと心配げに見つめてくる。

「…っとに大丈夫かよ?」

「おうち、帰る?」

「だだだだだい大丈夫!大丈夫!」

娘が立ち上がって身づくろいを整えると、少年が荷物を持ってそばに来る。年嵩の女がうなずいた。

「しっかり家まで送ってけよ」

「うん!」

黒い靄とともに仔犬達があらわれて、少年の華奢な両肩にしがみついた。

「いぬも、いるし」

「魔物だってばれないようにな。おまわりがうるさいぞ」

「はい」

「俺はもうちょっと飲んでくんでな。じゃあ、良い夜を、早筆さん」

頬を火照らせながら、暗くなった廃墟の街を歩く。あちこちに篝火が燃えている。本来ならとても危険だが、冒険者の酒場から出てきたものを、女子供とはいえ襲おうとするものはまずない。

「…どう、したの?」

幼い冒険者が並んで歩きながら小首をかしげて見上げてくるのを、見習い絵師はますます羞恥の色を濃くして目をそらす。

「なんでもない。なんでもない。ほんとになんでもないから…あ、わたし、ここで大丈夫」

少年は名残惜しそうにしてから、うなずいた。仔犬二匹が尻尾を振ってあいさつする。娘もやっと微笑んで、手を振った。

「おやすみなさい」

「おやすみなさい、またあしたね。あなた」

快活に駆け去っていく草採を、にこやかに見送ってから、早筆ははっと手を止め、へなへなとへたりこんだ。

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