ローレシアの第一王子ズィータが、天文の授業を終えて牢へ行くと、いつものように奴隷は、瞳に怨みと惑いの光を点して待っていた。剣の傷や矢の痕だらけの、男とも女ともつかない体格。関節から先をとってしまった腕と脚。大きな輪飾りをつけ、重く垂れた乳房。丸々と盛り上がった腹。胸の先と同じように輪を通した未熟な陽根は、幼い主のそれよりも小さい。運動をさせていないので、かつての騎士らしい筋肉は落ちて、柔らかな脂肪がついている。蝋燭の火にぼうっと白い肌が綺麗だった。随分と変わり果てた。いや、作り変えおおせたというべきか。 少年は石床の上に立ち止まり、幸せを噛み締めながら、嵐のように過ぎ去った一年を振り返った。 初めて父に伴われた戦場で、砂漠の騎士団を率いて、凛々しく立ち向かってくる人を見た。まだ若いのに摂政だという。ラーミアの生まれ変わりと噂があり、確かに大鳥のように軽妙で、敏捷で、強靱だった。乱戦になり、撤退する最中に矢を受けて落馬し、無数の蹄鉄に踏み躙られ、手足を失ったと知ったのは哀しかった。 できれば一騎打ちで生け捕りたかった。 包帯に巻かれた芋虫のようになった敵の将軍へ、そう告げると、微笑んでくれた。心の奥で大切にしていた面影に、よく似ていた。もっと小さい頃、父と隠れ鬼をしたとき迷い込んだ、古い女神の祭壇。一目で魂を奪われた、優しげな石像にそっくりだった。 僥倖から最高指揮官を倒した事で、サマルトリアの併合は成功した。ズィータも追撃部隊を預けられ、孤立した敗残兵を降服させ、被害を最少に抑えて武勲をものした。ローレシアの君主は褒美に、戦利品から何でも望みを一つとっていいと言ってくれた。最高の品を選べと耳打ちされたので、神鳥の顕現たるトンヌラ王子を望んだ。治療の最中に、神に愛でられし双生だというのは分かっていた。隠す話でもないのだが、本人におかしなこだわりがあって、周りにあまり伝えなかったらしい。 「ほう…娶るか…あれを」 「ローレシアとロンダルキアの二つの冠はアレフにあげて。俺はサマルトリアの代官でいい」 「思慮深いなズィータは。片隅の領土なら、弟と角突き合せずに済むと。だが想いを寄せても、相手の方は応じるかどうかは分からんぞ」 「父上が母上にやったみたいにするよ」 「お前にできるかな」 ロンダルキアの女王である母ヴィルタは、ローレシア王の忠実な奴隷だ。一カ月のうち半分は、氷雪の国で気高く慈悲深い竜母として人間と魔物を統治しているけれど、もう半分は草原の国では四つ足をついて過ごす。シドー神殿のの何とかいう、どうでもいい大神官に執政を任せ、真白い翼を広げて家庭へ帰ると、ちゃんと夫に額づいて屈従と隷属の誓いを繰り返す。国事の方針ではしょっちゅう口論するし、だいたい母の意見が通るけれど、臥所では逆だ。 「竜の女王を馴らす難しさは並ではなかった。神鳥の姫にしても難しいだろう。お前の母とて、ああなる前には大変だったのだぞ。誇り高く、暴れながら幾度も予を罵った。側近だという悪魔の騎士の名を呼んで助けを求められた際は、胸が痛んだ。だが男は嫉妬を力に変えねばならん」 「父上にできたなら、俺にもできる」 「自信家め。では忘れるな。片時も揺るがず愛するのだ。そして決して容赦するな。すべて奪い取れ。ほかの男も、女も、一片の影すら脳裏に浮かばないほどに」 「うん」 母の右臀にはローレシアの紋章がある。竜の回復力によって薄れるたびに、焼き鏝を捺し、家畜の身分を忘れさせないようにしている。父の左胸には烙印がある。愛する女の尻に所有の証を付け直すごとに、うなじから血を啜って己の傷を消すと、ロンダルキアの剣を炉にくべて熱し、柄を心臓の真上に押し当てるのだ。二人だけの儀式。でもズィータはこっそり覗いた。 あるいはまた。竜王の末裔は秘所の芯なる豆粒に銀の輪を付けている。伴侶が望めばすぐに淫蕩な雌に変わる呪いがかかっていて、長虫でいようと人間でいようと同じに働く。対するロトの直系は肋の奥に棘を打っている。名前は忘れたがシドーの大神官が施した魔法で、伴侶が望めば即座に血を凍らせる。 「恐くないの?アレフを作ったとき、殺されると思わなかった?」 「…正直を言えばな。だが予は人間だ。いささか平民より長く生きるが、お前の母に比べれば吹きすぎる風のようなもの…あえて、あやつが予の命を奪う必要もなかろうと思ってな」 「いい加減だな」 「お前には勧めぬ。神話の生き物を飼おうと思うなら、背から振り落とされた際には死が待っていると思え」 「俺は一人だけしか欲しくない。母上と同じだ。父上とは違う」 「ははは。お前は光と闇の司。予と妃の両方の長所を引き継いでおる。うまくやれよ」 「勿論」 ところが中々うまくはいかなかった。 滑り出しがよかったので却って油断したのだ。ズィータはまず懸命な看護をして、竜の血と、ロンダルキアの神殿で調合した秘薬を駆使し、トンヌラの怪我を癒した。年上の捕虜は、王権を巡るわだかまりを捨てて、深い感謝を寄せてくれた。 しかし有頂天になって大きな体を組み敷き、犯した際に、挿れる孔を間違える大失態をやらかした。泣いて拒まれたのも仕方なかった。相手が失神するまでしてしまってから、ようやく、排泄に使う方だったと悟った。夢中になりすぎたのだ。 「悪かった」 慣れない謝罪を述べたのだが、向こうは一度湧いた怒りがすぐには収まらないらしく、しばらく口も利いてくれなかった。窮したローレシアの王子は、久しぶりに会った母に詳しい話を伏せて相談した。 「婦人の心を得たい?あなたの年で?…ふふふ。ませた子。誰の心かしら?ムーンブルクのマリア様?まずは手紙や贈物からですよ。綺麗な字を書けなければ駄目。練習していますか?剣ばかりでは立派な君主に…」 「…贈物って何がいい?」 「そうですね衣服とか装身具とか。でもあなた位だとまだ生意気ね。手巾くらいかしら」 子供扱いされるつもりはなかったので、衣服を贈った。手がなくては着られないのは分かっていたので、代わりに着せてやると、何故かさらに怒られた。訳が分からなくなって見つめていると、ラーミアの化身は泣き出した。 「どうして…君は…小さくても…立派な王子だと…思っていたのに…こんな…」 「服…気に入らないのか?」 「僕は王子だぞ!女の服なんて喜ぶか!ってそうじゃなくて…この前なんであんな酷い…」 「綺麗だぞ」 「え?」 「お前は綺麗だ」 「…な、なななな何を言ってるんだ!馬鹿!子供のくせに!…じゃなくて…僕は男なんだ!男として…ずっとサマルトリアを守ると決めたんだ…ルルのために」 責任感が強いのだと分かった。それならば理解できる。肩の重荷をとってやればいい。 「ルル姫は親衛隊長と結婚するそうだ。サマルトリアは併合して、ローレシアが守るから大丈夫だ。お前は生死不明の扱いだからもう国を守る義務はない」 「え゛っ…」 絶句したトンヌラが、背を強張らせたあと、急に脱力したので、どうやら気が楽になったのだろうと、ズィータは嬉しくなってさらに弁を振るった。 「サマルトリア王と妃は降服したから宮殿とか苺畑とかはそのままだ。街も掠奪はしていない。戦で命を落としたり不具になった騎士には十分な償いをした。敵味方とも武勲は詩として語り継がれるだろう」 「な…にを…」 「どうした?」 「せ…生死不明の扱いって」 「だって生きていたら、国へ返さなくちゃならない…」 「当り前だ!」 「だめだ。俺がもっと大きくなってサマルトリアの代官になれるまで、向こうには一緒にいけないから」 「それとこれとどういう!」 ローレシアの第一王子は逆に驚いて、サマルトリアの元摂政を眺めやった。 「手足がないお前を守れないじゃないか!」 「守るって…君は…一体…」 「妃を、奴隷を守るのは、夫の、主人の義務だ。だからここに置いておくんだ」 分かったろう、というつもりで見つめると、相手はあんぐりと顎を落としていた。 「何で僕が君の妃なんだ!そんなの!そんなのいつ決めた!」 「初めて会ったときからそのつもりだった」 「初めてって…」 「戦場で、一騎打ちをして勝ったら、俺のものにするつもりだった」 「あれってそういう意味だったのか!!どういう教育受けてるんだ君は!」 生き達磨はいざりながら、激しく首を振った。瞳に怯えが浮かんでいるのをとらえて、竜の御子は不安になった。何か段取りを間違えただろうか。 「お前と同じ帝王学だけど」 「いや絶対違う!ななななんなんだ…なんなんだよ…僕…そんな…じゃぁ…帰れないの?故郷に…ずっと…この地下牢で…頭のおかしい男の子と一緒に…やだよ…そんな…」 「大丈夫だ。ここがお前の家になる。そうしたら淋しくない。俺も最初にロンダルキアからここに移った時は嫌だった。母とも会えない時間が多くなったし…でも慣れた」 「そう…」 捕虜は急に優しい目つきになる。襞飾りのたっぷりついた服をまとって、瞼を半ば伏せるようすは、四肢を欠いていても、とても貴婦人らしかった。しかしすぐに気を取り直したようすで、また突っかかってくる。 「…そんなの関係ない!君は間違ってる!いいかい…人間は…他人を…」 「お前の体は人間じゃないだろ」 女神の生まれ変わりじゃないか。そういうつもりでズィータが告げると、再びトンヌラは凍りつく。また返事を誤っただろうか。でも構わない。だんだん面倒になってきた。 「お前は人間じゃないから、人間扱いはしない。女の服が嫌ならもう着せない。故郷には帰さない。あと…ええと。明日からは毎晩ちゃんと前の穴を使うと約束する」 「うぎゃー!!消えろ!消えろ!!!!!あっち行け!!」 父は何と言っていたっけ。片時も揺るがず愛し続けろ。決して容赦はするな。 ローレシアの世継ぎは断固として訓戒に従った。 確かに初めのうちは大変だった。でも徐々に馴らした。髪を梳いたり、歯を磨いたり、物語を読み聞かせたり。湯浴みを助けたり。どれも独りでできないと納得すると、特に恥ずかしがらず任せてくれた。 狭い牢ばかりで暮らしては滅入るだろうと、一緒に散歩にもいった。引っ込み思案な性格なのか、出かけるというと部屋の隅に逃げて唸ったけれど、太陽の下ではたちまち元気いっぱいになった。ただ注意をほかへ向けていると、どこかへ迷い込んでしまう癖には参った。 短い四肢ではそう遠くまでは行けないが、付き添う側としてはうろたえさせられた。真南に進んでいたのに追いついてどこへ向かうのかと尋ね、サマルトリアに帰るとむきになった答えを聞いた時は愕然とした。戦で負けたのも、かくも極端な方向音痴のせいだろう。地図上で采配を振るったり、優秀な副官が側にいるあいだは問題ないが、総崩れの撤退などで部隊の先頭に立つ際は致命の欠点だ。 離れて眺めていた頃は、完全無欠の女神と思っていたのに。年上の恋人は結構抜けたところがあった。とはいえほかでは概ね賢く、もの覚えはよかった。用を足す際はきちんと許可を求め、小さい方は片足をあげてするやり方法も習得した。顎を高く上げ、腰を振って、誇らしげに四肢を動かす、優美な歩きもすぐにものにした。 閨事には最後までてらいがあったようだけれど、孕むとおとなしくなった。悪阻があっても、トンヌラはまだ信じられないという表情をしていたけれど、ズィータが苦労して運び込んだ姿見で、日々大きくなっていく腹を眺めているうち、新たな命を受け容れたようだった。 月のように満ちゆく腹はとても輝かしかった。率直に褒めると、食ってかかってきたが、朝な夕なに鏡の前で気持ちを伝えていると、二月、三月とするうちに称讃をはねつけなくなり、下腹を撫で上げたり、臍の上をさすり下ろしたりしても、嫌がらなくなった。 稚い主は追憶から覚め、数カ月前とはすっかり体型の変わった奴隷へあらためて視線を注いだ。 「音が聞きたい」 求めると、線の細い面差しはぷいとかたえを向いた。 「勝手にすればいいだろ」 どうせ手足のない体では逆らえないのだからと。幼い主人は近付いて、子供らが宿る場所へ耳を当て、しばらく瞼を閉じて静かにしていてから、おもむろに囁いた。 「こいつらの名前はフォルとシドーだ」 「っ…知ってるよ…もう何度も教えて貰ったよ!!いちいち…ひぅっ!!」 うるさくする時は不安がっているのだ。秘具についた輪を引っ張って捻ってやると、身をくねらせて綺麗に哭いた。大丈夫だ。ちゃんと所有している。お前はしっかり俺のものだと伝える。 「やめてぇっ…もぉそれぇっ…ズィータさまぁ…ごしゅりんひゃまぁっ…ひぎれちゃぅうっ!」 「ああ」 手を止めると、飾りのついた亀頭から小水を噴いて、双生の妃は痙攣していた。よしよしと腹の丸みを撫でていると、段々と落ち着いてくる。 「ふぐっ…ひどい…よ…そこが…辛いの…分かる…だろ…」 「うん」 「じゃあもう二度としな…うぐっ…ひにゃああああ!!!」 片手でまた秘具の輪を掴んで捻り上げ、もう片手で幹を扱く。苦痛と快楽に交互に襲われ、年嵩の妻はおののきながら雄と雌の絶頂に達する。両胸から母乳を、秘裂から淫蜜を、菊座から腸液を潮噴かせ、鈴口から役に立たない子種を零して、弱々しくもがく。 「いったか?」 「ぁ…かはっ…う…いっ…いきまひたぁ!ズィータしゃまのふたなりづまのトンヌラはぁ…かってにいってしまひましたぁ…はひぃっ…」 「ここ。またさわってもいいか」 「はひぃ。どうぞぉ…ごしゅりんしゃまに、きにいっていただけて…うれしひでひゅぅ」 今日は奴隷根性が出てくるのが早かった。淋しがっていたのかもしれない。少し授業が長引いたせいだ。疾しさを覚えて、そっと頭を撫でてやる。 「ふぁっ…♪」 「トンヌラ」 「はひぃ…」 「サマルトリアの継承権、まだ欲しいか」 「いいぇ…できそこないのだるまには、くになんか…まもれないからぁ…ズィータしゃまにさしあげますぅ…」 「そんな事ない…ロンダルキアの大神官が、キラーマシンとパペットマンの仕組みを利用して、お前の手足を作った。前みたいに動けるようになる。筋肉を雨露の糸でつないで」 「…ほん…とう?」 「お前は俺と一緒にどこでも行ける。こんな牢の中で終わらなくていい。俺の片腕になれ」 急にトンヌラの貌が哀しげに笑った。 「そういってあげたかったんだね」 ズィータは世界が虚ろになるのを覚えて、ぎくりとした。 「…え?ああ…何だっけ…」 「…何がですか?」 「忘れた。もう前を使ってもいいか」 「は…はい…大丈夫です…この子達も安定してきたし」 ローレシアの王子は洋袴をくつろげ、年に似つかわしくない逸物を露にすると、すでに濡れているので準備は要らないとばかり、サマルトリアの元摂政の熱い雌穴にねじ込む。 「あぐっ…ちょっ…いきなりはっ…んっ…んっぐ…ひぁっ」 片手で腰を抑えて突き上げながら、空いた指で器用に胸飾りを外すと、しこった乳首から白露を飲んだ。痩せた少年の腹と孕んだ娘の腹が擦れる。 「ふぎゅぅ…そんな…つよく…すわなひでぇっ!!」 存分に母体の滋養を啜ってから、乳輪の周り、妊娠を示す線が浮いた柔肉に噛み付く。食いちぎってしまいたい。貪り尽くしてしまいたい。血が謳っている。ロンダルキアの洞窟に住む退化したドラゴンの雄は、まぐわう相手の背に齧りつくのが常だ。強姦しかしない。だが雌も反撃し、尾で打ち払い、時には性交そのものを拒む。愛情などない。 同じだろうか。つながったまま半身を起こすと、紅い痕だらけになった右の乳房を眺め下ろし、後悔に襲われる。片時も揺るがず愛せよ。欲望に呑まれて、訓戒を外れただろうか。 「ひぐ…たべてぇ…ぜんぶ…たべてくださいっ…トンヌラを…みんな…」 砂漠の国のかつての執政。勇敢な騎士を率いて戦った若き将軍は、幼い敵に孕まされた体を露して懇願をする。以前の抵抗は嘘のようだった。幾ら犯しても締まりを失わない腟は、青い雄をしっかりと咥え込んで、侵略国の胤を容れた胎に新たな精を呼び込もうとする。 「あ…壊したのか…俺は…お前を…」 ズィータの狭い肩を震えが襲った。また世界がひび割れて、虚無が押し寄せてくる。息が詰まった。 「違うよ…もう…愛してる…愛してます…あなたを…君を…ズィータ様…ほかの…やり方…知らなくても…僕を愛してくれ…る…から…」 金髪の貴人が微笑んでいる。見えない神鳥の翼がそっと少年を包み込むようだった。 「俺は…母上みたいな…白い竜になれない…生まれたときから、黒い翼しかなかった…」 「綺麗だ…よ」 「え?」 「…黒い翼のズィータ様は…綺麗…僕は好き…だな」 「だけど…俺は…守れなかった」 忘れられない。塔から落ちていった侍女。いつもこっそり菓子をくれた盲いの娘。歌い聞かせてくれたラーミアの物語。当時は幼くて分からなかった。 「一度も…」 四肢のないシドーの神官。初めて頼られたロンダルキアの民。他人に求められる喜びを教えてくれた。だが灰になって消えた。守れなかった。だから要らない。あとはすべて捨ててきた。ムーンブルクの王女も。塔に閉じ込められた母も。でもこれは何の記憶だろう。知らない、知っているはずのない出来事。 「僕は?」 「お前は…お前だけは…だめだ…お前まで見捨てたら…俺には何も残らない…」 「僕が…ズィータ様を…見捨て…ないよ…」 トンヌラが喘ぎながら、笑う。また産道がきつく剛直を締め付けた。ズィータはぐらつき、手がかりを求めて、両の指で柔らかな胸を鷲掴んだ。押し潰された二つの鞠から、乳がしぶく。 「はぐぅ!!…ぅっ!…んっ…くっ…ねっ…ぇ…いま…は…?」 「今は…シドー…がいる…フォルも…カリーンも…」 「見捨て…られない?…」 「…もう…守れる…」 黒い翼でも。祝福された王子でなくても。父と母に愛された少年でなくても。 「…子供の…夢から醒めるの?…」 「ああ…」 ラーミアの化身は少し淋しげに笑う。 「そっか…」 「心配すんな…どこへも行きやしねぇよ」 寝ても覚めても。 「じゃ…我がまま聞いて…あと少しだけ夢の中の小さなご主人様に戻って…そして…」 精霊ルビスの教会。どうでもいい祭司の長を追い出して、広い拱廊には新郎と新婦のただ二人。立会人もいらない。神々が照覧するだけでいいのだから。 「ふぐぅううっ」 轡を嵌められた薄桃の唇から、笑い泣くような抗議の声。異形の花嫁がまとうのは羽を模した模樣の象牙色の裳裾に、絹の花冠と薄紗。けれど両胸は隠さず、肌よりなお白き露を滴らせ、黄金と金剛石の輪を嵌めている。鼠蹊部にあるべき花芽の替わりに伸びた、発育不良の茎にも同じ誓いの徴が付いている。喉には神鳥と竜王が絡み合う透かし彫りの首輪。すべて黄金の鎖で繋がり、花婿の手に握られている。 手足の切り株は薄絹の袋に包んで、金糸の刺繍のある吊り紐で胴着とつなげている。細い帯が剥き出しの腿や肩にかかって、犬這うごとに、短い四肢の艶めかしい曲線を強調する。秘裂と菊座には香水を満たし、棘を抜いた白薔薇の束と一体になった張型で塞いである。 幼い伴侶は片羽の妃を慇懃に導き、幾重にも重ねられた緋毛氈の上を進む。従順な年嵩の奴隷は、ずっしりとぶら下がった双の果実から母の証たる滋養を、金輪に飾られた雄の徴と花に埋れた雌の徴から、欲望の蜜を落とし、排泄の穴さえ滑りの液を零していた。二人、いや一人と一匹、あるいは一羽のあとには、点々と沁みが残っている。 きつく張って揺れる乳と、敷物をこする孕んだ腹。昔のようなすらりとした両脚があれば、わずかな距離でしかないのに、聖壇までが遠い。苦しげな呼吸。儀式の前夜、浄めるために皮膚の隅々まで舐ったせいだ。昂ぶりのために動くと感じすぎるのだ。鎖を引くと、両目が上向き、くぐもった呻きとともに果ててしまうのも度々だった。床に水溜りを作って休憩すると、再び道程を行く。 やっと到着すると、頑張った褒美にもう一度鎖を引きずりあげて絶頂に達させてやる。ややあって、猿轡を外すと、封じられていた嬌声が爆発したように迸る。花嫁は甲高く叫びながら、また気をやった。落ち着くのを待ってから、囁きかける。 「これでよかったか?」 「よ…よ…よくない馬鹿!僕は白い結婚衣装も着たいなって言っただけなんだ!こんな…こんなのひどいよ…ご主人様…最低…」 「でも母上も…同じだったぞ。まだ生まれない俺を身に収めて運びながら、こうして這っていったんだ」 いつか父が話していた。表向きの盛大な披露宴に先立つ、母との秘かな婚礼を。 狩りの日に最初に犯してから、朝晩最低でも二回は抱いたのに、まだヴィルタは隷属の決意ができず、祖先を裏切れないと泣いた。そこで教会ではっきりと身分を確かめさせたという。 花嫁にはまず、左右の肉襞に黒玉と銀の輪を連ねて広げ、子宮口まで外気に晒しながら、菊座もいっぱいに拡張した。穴を広げたままにしておくためだけの銀線の下着を双臀に食い込ませながら、やはり胸と花芽を鎖につなぎ、四つ足を就かせて引いていった。死せる代々の王の霊前で、あらためて新郎の秘具をしゃぶると、やっと新婦も吹っ切れたようだった。 ローレシア開闢以来の各君主の像の前で、無理矢理にロトの胤を付けられた腹を踊らせ、竜の女王は屈従の誓いを高らかに歌った。歴史が変わる荘厳な光景だったという。 あとになって、思い出しながらローレシア王は、妃を膝に載せ、尻を揉みつつ淡々と語った。母は真赤になりながら相槌を打たされていた。次の記念日にはまたしたいかと問われ、影で夫が望む通りに、もっと激しくして下さいと、ねだっていた。実際は気が引けたようすだったが。 「…お母様の話…誰から聞いたんですか…」 また二つの記憶の境界がぼやけ、ズィータは憮然としたが、少年らしい唇からは自然に答えが漏れる。 「…二人から…盗み聞いた…」 「…いつ…」 「目の見えない子守りが…うとうとした時…母上と…父上を探して…そうしたら…隣の部屋にいて…俺には気付かなくて…父上が…母上を…いじめてると…思ったけど…母上は…喜んでいた…」 「か、可哀想すぎる…」 「何がだ?」 「うう、何でもない…忘れて!おしまい!今は…今だけは…お兄さんが大事にしてあげる!」 「お兄さん?」 いきなり年上ぶってくる態度が腹立たしかったので、花嫁の前に秘具をさらすと、白い薄紗を上げて鼻先に突き付けた。隆々と反った鎌首を前に、生き達磨はぎょっとしたようすだったが、やがて仕方ないな、と瞼を伏せると、荒い息を吐きながら頬張った。唇と舌による粘音の協奏をさせながら、熱心に幼い夫のものへ奉仕するのを眺め、至福に浸る。女神が自分だけの性欲処理道具に成り果てたさまは、青い征服欲を十全に満たしてくれた。 「うまい…のか?」 「ちゅぶ…むちゅっ…おいしいよぉ…そんなの…当り前だろ…こんな小さな子の…もの…なのに…大きくて…臭い嗅いだだけで…変になりそ…」 「赤ん坊…みたいだ」 「ふぇ…ひどいなぁ…これでも…んっ…サマルトリアの摂政だったんだよ?…一応、清廉実直って評判の…それが…あむ…もう…これの事しか考えられなくて…じゅる…朝…起こすときにしゃぶらせて…もらって…夜のあいさつも…でもぜんぜん足りないよぉ…」 「男だったら…嫌がる…普通」 「そだ…ね…僕…やっぱりちょっと壊されちゃったかな…あは…ん…ちゅる…先走りおいし♪もうだめなの♪たぶん手足が戻っても…ズィータ様にご奉仕する以外…ぜんぜん頭に浮かんでこないもん♪…はぁ…政治とか…どうでもぃぃ♥ずっとこれだけ恵んでもらえればいいの♥」 「ずっと恵んでやる」 「へひっ?…あ…あああああ…ありがとうございまふぅ!!」 宣告しただけで、気をやってしまったらしい。下品な逝き貌を浮かべて、神鳥の移し身は宙を仰ぎ、竜の御子が放つ白濁を額や鼻、唇に受けた。 「ん…熱いよぉ…お顔…あれぇ…もしかして…いまの…誓いの…くちづけだったのかなぁ…」 「ああ」 「あは…ぼく…ご主人様の…雄ちん棒様♥しゃぶるのに夢中で…気付かなかった…ぁ…気付かないまま…誓っちゃったぁ…♥」 「トンヌラ。用意しろ」 「もぉ…ちょっとは余韻にひたらせて…うう…分かりましたぁ…くぅう…」 花嫁はまた犬這うと、腟と括約筋だけで、器用に花束の張り型をひり出していく。子供の手首ほどもある、疣だらけの陽根。絨毯に落ちて沈みこむ。受け取り手などいない。淫ら過ぎて。ぽっかり空いた二つの穴は香水を薫らせながら、すぐに窄まっていく。前後をものほしげにひくつかせて、奴隷は歌う。 「粗品ですけど…ばか達磨の便器穴、どちらでも存分にお使いください♪」 花婿は、いずれ双児を送り出すはずの命の門へ、深々と挿入すると、両手でむっちりした尻朶を千切らんばかりに掴んで、性急な抽送を始める。短い四肢をできるかぎり踏ん張って、片羽の新妻は嬌声を上げる。垂れ流しの乳房が左右でたらめに振れ、牡と呼ぶには余りに小さな雛茎が鎖を鳴らし、突き出た腹で鼓を打った。 「あ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛っ!!!♪当たってりゅ♪赤ちゃんたちの頭にぃ!がんっがんっ当たってりゅぅっ!!!!ふぎぃっ!!愛してる!!愛してますズィータ様ぁ!」 「俺も…あ…あ…愛して…る…大好きだ…トンヌラ」 大きな背に張り付いて耳元におずおずと囁く。金髪の伴侶は歓喜に咽びながら終わりのない絶頂に達し続けた。 「言えるか…んな台詞…」 ズィータは瞼を開いた。ひどい夢だった。掛布の下でまさぐると、妃は傍らにいた。確かめるように肘から先に触れ、滑らかな手ざわりを感じ、返ってくる眠たげなままやきに安堵する。 「…くそ…」 さすがに抱き寄せる勇気がなくて、そのまま虚空を睨む。己の真の望みを掘り起こす呪いの書とやら。どう考えても、いんちきだった。ぶちまけたい怒りをこらえて、言葉を探しあぐね、石の天井に向かって、皹が入りそうなほどきつい凝視を注いでから、ややあって罵りを吐き出す。 「あんな野菜畑しかねぇような国…誰が要るか」 |
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