「話がある」 女騎士からの伝言に、若き異端者は胸を塞がせた。心の臓にずしんと重りをのせられた気がした。 イヴァリースにうごめくルガヴィの企みを打ち破るため、共に影の道を選んだ友ではあったが、最近はひどくぎこちない間柄になっていた。以前は、交わす言葉少なくとも心が通い合っていた。いつごろからこんな風に、相手の呼び出しに怯えるようになったのだろう。 ラムザ・ベオルブは頭を振って、二人の待ち合わせ場所へと足を急がせた。 本当は分かっていた。わずかな手勢を連れて流浪の旅を続ける中、奇妙な運命の巡り合わせから、南天騎士団の長を味方に加えたのがきっかけだ。無双の武勇を誇る剣聖を、皆は歓迎した。異端と指さされるのに慣れたとはいえ、白獅子からも黒獅子からも、教会からも憎まれ、王家にさえ省みられない寄る辺なさに、ずっと苦しんでいたのだ。五十年戦争の英雄として子供とて知らぬ者のない雷神が後ろ盾となってくれたのが、どれほど心強かったか。 しかしアグリアスは違った。いかなる敵に向かう時も先陣を切っていた聖剣技の使い手は、ちょうど太陽が昇ると共に明るさを失う星のように、次第に影を薄らせていった。後衛に回る機会が多くなると、いつにも増して口数を減らし、次第に部隊の誰とも距離を置くようになった。この頃では、周りの視線を避けるようにマントでぴったりと身を包んで、片隅に退き、腹心のラヴィアンやアリシアとさえ、あまり話さないようだった。 時折覗かせる、美しくも虚ろな横顔。遠くから目にするたびに、ラムザは息もできないほど苦しくなった。女騎士が何を考えているのか知りたくて、しかし知るのが恐ろしかった。 守るべき王女を置いてまで、異端者の側に残った意味を、問い直しているのだろうか。あの艶やかな唇から、別れの言葉がこぼれるのではないかと、はらはらした。 しかしアグリアスのために配置を変えるのは難しかった。すでに部隊はシド・オルランドゥを中心に動いており、指揮官が情に任せて、戦の勝敗、仲間の生死に直結する判断を下すのはためらわれた。 けれど、とラムザは独りごちた。つなぎとめておけるなら、たとえ軽蔑されても、構わないではないか。今日、顔を会わせたら、前線に戻るよう頼んでみよう。見透かされてもいい。叱られてもいい。大切な友を、失うよりましだ。 「ラムザ…」 待ち人は沼地のほとりに、ぽつんと立っていた。あいかわらず厚手のマントをまとって、怜悧の容貌は、幾らかやつれた色があるのに、いつもよりずっと艶やかだった。どこか浮世離れした微笑みが口元に浮かんでいる。 「アグリアスさん」 声が弾むのを抑えられない。相手が怒っても、落ち込んでもいないと分かって、全身の血が躍った。普段なら考えられない大胆さで歩み寄って、手を伸ばせば触れられるほど接近する。これがベオルブ家の御曹司の、妹以外の女性に対する限界の距離だった。戦場でなら肩を並べているのが男か女かなど気にもかけないのだが。 「あの…今日は…」 「済まない…お前を…呼ぶのは…ずっとこらえてきたんだが…」 女騎士のにこやかな表情が、どこか強ばり、熱に浮かされたように頼りなげになる。若き異端者はどぎまぎしながらも、わななく唇に魅入った。 「初めは…拒んだんだ…お前は…お前だけは…ラヴィアンでも…アリシアでも…いいから…ラムザだけはだめだって…ラムザは…ルガヴィを倒して…イヴァリースに…オヴェリア様の継ぐ国に真の平和をもたらしてくれる男だから…でも…」 剣を握るのに慣れた、しなやかながらも力強い指が、いきなり手首を掴んでくる。万力のような強さにちょっとたじろいだが、頬にかかる熱い吐息を感じると、すぐに痛みは消し飛んでしまった。潤んだ双眸が見下ろしてくる。部隊の誰より慎み深い女騎士が、親しい付き合いとはいえ、かくも男性の側に近付くなど、かつてなかった。 ひょっとしたらすべては勘違いだったのかもしれない。もしかすると、さっきまでの悩みはどれも的外れで、思い人もまたこちらに心を寄せてくれたいたのではない。幸福な空想で頭がいっぱいになったラムザは、耳に入る言葉の半分も理解していなかった。 「あ…でも…アグリアス…さん…あの…僕…心の準備が…」 「分かってる…私も…そうだったから」 女騎士は嫣然と答えると、さらに小柄な指揮官の体を引き寄せた。 「…どうしても…あの方が…お前を気に入ってしまったんだ…」 「あの…方…?」 「…私の…夫…旦那様だ…」 「はぁ…だんなさ……え゛ぇ゛っ!!!?」 するりとマントが脱げ落ちると、目の前にふくよかな裸身が露になる。チョコボの卵ほどもありそうな二つの胸が重たげに揺れ、暗紅の先端から白い蜜を噴いて、青い血管の透ける肌を湿らせていた。固く引き締まっていた胴は不様に膨らみ、失った腹筋の代わりに歪な凹凸を作って、妖しく震えている。むっちりとした太腿には、以前の羚羊のようなのびやかさはなく、良く脂の乗った雌牛のふくよかさを帯びていた。 絶句する戦友の前で、異形の妊婦は吹っ切れたようにくすくすと嗤った。 「お前からすれば醜いだろう?旦那様に作り変えられたんだ。たくさんたくさん子供を産めるように…この皮の下の肉も臓腑も、もう人間じゃない…」 「え?…ぁ…え?…アグリア…ス…さん…?」 アグリアスは慈母の面差しで、ぱんぱんに張った腹を撫で、愕然と立ち尽くすラムザに流し目を送った。鷹を思わせる切れ長の瞳が、突如として闇に巣食う怪物特有の、昏い輝きを放った。 「旦那様は…モルボルなんだ」 「そ…んな…」 「…モルボル菌に…犯されたんだ…全身くまなく…完全に旦那様のものになるまで、念入りに…」 「う…そ…だって…姿…が…」 「旦那様は…とても賢い方だ…いや…賢い…というのは違う…かな…人間どもに狩られる中で、新しい命の形を見つけたんだ…擬態…というんだったかな…うわべは元の姿のまま…偉大なモルボル族の子を産めるようになった名誉ある家畜…孵卵器だ…」 「ぁ…ぁ…」 矜持の塊のような剣乙女から、信じられないような卑屈な台詞を聞かされて、若き異端者は頭が真白になった。視界が歪んで、崩れていく。頬を熱い筋が伝うのを感じて、涙を流していたのだと悟るまで、少し時間がかかった。 「悔しいのか?…私を奪われて…いや…思い上がりだな…お前にはどうでもいい存在だった…私は…ずっと…でも…側にいられたらと…思っていた…」 アグリアスも笑いながら、同じように泣いていた。肩のわななきを抑えるために、両腕で肘を抱いて、胸を絞るようにしながら、乳房からは白い雫を、双眸からは透明な塩からい粒をしたたらせる。 「断っておくが…旦那様に対する浮気じゃない…ぞ…お前には…私の片想いで…もう終わったんだから…だが…すまない…旦那様に…雌の立場を思い知らせていただく…あいだ…少しだけ…お前の名前を呼んでしまった…いや、正直に言おう…何度も呼んだ…狂うほど…お前がどんなに強いか…お前が助けに来れば旦那様が倒されるなど…不遜の極みの罵りさえ投げつけた…それで…旦那様は…お前に興味を持ったみたいなんだ…」 ラムザは歯を食い縛ると、掴まれていない方の腕で相手を抱き締めた。 「大丈夫です!宿営地に戻れば。万能薬があります。エリクサーだって」 「モルボル菌に効かないのは知ってるだろう?それに…」 「それに?」 「もう遅い…」 台詞を合図に、コケの生えた地面を突き破って、触手が異端者の華奢な腰に巻き付いた。 「なっ…!?」 声を上げようと開いた唇を、アグリアスの唇が塞ぐ。女騎士の白い喉が蛙のように盛り上がったかとみるや、口から口へ触手の束が流れ込む。堕ちた牝畜の体内はとうに夫の分身に占領されていたのだ。五尺もある腸は柔突起の一つ一つに至るまでいぼだらけの肉蔓に絶えず敏感な粘膜を擦られながら、理性を保って喋り続けられたのは、歴戦の 体裁をかなぐり捨てたモルボルの 「む゛ぅっ!!ぅう゛う゛!!?」 睫の端に先ほどとは別の種類の泪を浮かべて、ベオルブ家の御曹司の整った造作が歪む。構わず剥き出しになった滑らかな皮膚を引っ掻くと、くぐもったうめきが漏れた。 どこかオヴェリア王女にも似た優しげな容貌が歪み崩れていく。恐懼と惑乱に塗り潰されていく玲瓏の面差しを、アグリアスにはうっとりと眺めいった。ずっと惹かれていた、けれど決して届きはしない、白獅子の血を引く公子。それが両腕のあいだで、のたうち、もがきながら、次第に屈しつつある。 土中から生える触手は、徐々に数を多くして、二人を祝福するように取り囲んで揺らめき、やがて腰に巻きついて、揉み解すように蠕動していた。 「ふぅ…ん♪…ふっ…ん♪んっ?んほ゛お゛ぉ゛っ♪」 触手を移植しおえた唇が、獲物から離れて、爛れた絶叫をほとばしらせる。”旦那様”の一番太い繁殖管が、前触れもなく秘裂を貫いたのだ。子宮の奥まで届く衝撃に、アグリアスは母乳を撒き散らせて宙に踊った。着地する間もなく、二番目に太い肢、捕食管が菊座に捻じ込まれる。家畜の腸内で発酵させたゴブリンの脂身を早く味わいたいのだろう。ごつごつした触手が直腸をめちゃくちゃにまさぐり、小さな幼生たちを驚かせながら腐肉を攪拌すると、女騎士はあられもない嬌声と悲鳴の混合を迸らせた。 「おごぉ゛お゛っ!はおぉ゛お゛お゛っ!!あ゛ぁ゛あ゛あ゛っ!!!!」 人間のままだったら臓腑をずたずたにされかねない蹂躙にも、モルボル菌に作り変えられた体はよく耐えた。いつもよりさらに凄まじい責めから、異形の主の嫉妬を察し、孕み女は恍惚にわなないた。愛する”夫”への不貞を心の底から詫び、ずっしりと重たい胴をひねって、腟と括約筋を締め付け、できるかぎりの奉仕で許しを乞う。ラムザを犯すうちに、知らぬまに発情した雌の匂いをさせていたらしい。 「あ゛…ごめん…なさいぃっ…旦那様ぁっ…アグが…アグが愛しているのはぁっ!…旦那様だけですぅっ!!今はぁっ…ひぎぃっ!!もうっ!こんな…なよなよしたっ…おんなおとこなんて…ひんっ…なんとも…ぎぅっ…思ってませ…!!アグのまんごもぉっ!…けちゅもぉっ!へしょもっ、おっぱひもぉ…じぇんぶモルボルしゃまの…ひゃぅっ♪ものでしゅぅっ…!!」 視界の隅で、ずっと慕ってきた戦友の顔が凍りつく。絶望。悲哀。憤怒。脳の芯が灼けるほどの歓喜が広がる。直観が教えている。そう。愛している。愛していたんだ。今でも愛している。多分。あちらの魂の奥に妹と、失われた親友が居て、こちらの魂の奥に王女がいたとしても。負けないくらい深いところで、仲間として、男と女として、肩を並べて共にどこまでも征ける同輩として。でももう遅すぎる。 いや、遅すぎはしない。 「ラム…ザ…」 「アグ…リア…スさん…」 どこか子供っぽさの残る、大きな二つの瞳に希望の火が灯る。まだ信じているのだ。いかなる逆境にも膝を折らなかった騎士を。どんな巨大な敵にも怯まなかった聖剣の使い手を。アグリアスは微笑んで、厳かに告げた。 「いっしょに…堕ちよ?」 「う、うわああああっ!あぐぅっ!!!!」 ねじくれた剛直が強引にラムザの後孔を開く。準備もせずに、ぶちぶちと括約筋をちぎりながら、排泄口を、雄を楽しませる以外に使い物にならない肉穴へ変えていく。すぐに感染の始まるモルボル菌が、どんな傷も癒してしまうだろう。だが最初は、はらわたを引き裂かれる痛みで狂いそうになるはずだ。 艶姿にすっかり注意を奪われていたアグリアスは、菊座を掘り返す主の催促に、慌てて意識を戻した。触手の山に腰を降ろすような格好で、がに股になり、淫らに花開いた陰唇を、主の千もの舌がねぶるに任せながら、十本の指を膨らんだ腹の真中に沿わせ、くぼみを拡げる。本来開くはずのない、へそ穴は、腸液を滴らせながらものほしげに伸縮し、モルボルの野太い産卵管を誘う。ずるりと切先が滑り込むと、艶やかな唇からあえかな喘ぎが溢れた。 「あ゛…ぉ゛ぉ゛っ…旦那様にぃ…拡げてもらった…この穴ぁ…しゅごく…ぎも゛ぢぃ゛ぃ゛でずっ…い゛っば゛ぃ゛っ…い゛っばぃ゛産み付げでくだしゃぃぃぃっ!!」 懇願した通り、くぼみは子供の拳が入りそうなほど押し開かれ、管を膨らませながら丸い塊が無数に充填されていく。ラムザに嚥ませた触手の代わりになる幼生を孵すためだ。圧迫感とともに、温かさが満ちる。最近はいつも旦那様の仔で満たされていないと不安だった。胎内だけでなく、消化系も使って偉大なモルボルを育てられるのが、強い誇りになっていた。 旦那様は、旦那様だけはアグをいつでも必要としてくれている。食糧貯蔵庫として、性処理便所として、幼生の保育器として、気が向いた時に嬲れる玩具として。旦那様の前ではアグは要らない子ではなかった。聖剣技しか能のない、使えない女ではなかった。 両性具有のモルボルを旦那様と呼ぶのは愚かなままごとなのかもしれない。だが牝畜は新妻が夫にするよりも熱心に傍らに寄り添い、ウリボウならすっぽり入ってしまいそうな巨きな顎の端に口付けして、強酸性の涎を啜り飲んだ。人間には致命的な液体も、異形の婢として生まれ変わったアグには甘露だ。これほどの至福を味わったら、誰が抵抗できるというのだろう。ほかの暮らしに何の価値もない。騎士の務めも、ルガヴィとの闘いも、王国の趨勢も瑣末な事だ。いずれすべてはモルボル族のものになるのだから。 「やらぁ…やらよぉっ…おしりぃっ…もぉ…入んないぉっ…」 ソプラノのままやきが耳をくすぐる。振り向くと、イヴァリースの救世主になるはずだった若者が、べそをかきながら腰を振っていた。もう感染が始まったらしく、声は柔らかなテノールから急速に高音部へと移っていた。モルボルへの変化。両性具有への。どこまでそうなるのかは分からないが、少なくとも薄かった胸はふっくらとし始めている。もともとほっそりしていた四肢は輪郭に丸みを増し、数本の肉蔓に捏ね回される菊座の左右、尻朶もぷっくりと熟れていく。釣鐘型の触手にすっぽり覆われた陰茎だけは変わらないようだ。蛋白をたっぷり含んだ滋養を吐くのだから、残しておくつもりだろう。 「きれいだ…ラムザ…」 「あ゛ぁ゛ぁ゛…おなかぁ…おなかがぁ…やだぁ…助けて…ディリータ…ザルバック兄様ぁっ…」 すっかり幼児退行したラムザが、ほかの男の名を呼ぶのに、苛立ちが起こる。アグはそっと傍らでくねる触手に唇を触れると、ひそやかに何事かを呟いた。声は震えとなって肉蔓を伝わり、モルボルの中枢―そんなものがあるとすれば―に達する。 するりと拘束がほどけて、女騎士はのたうつ林の間に立ち上がった。性別もあいまいになった戦友のそばへ歩み寄ると、菊座に群がる触手を力ずくで引きずり出す。 「ひぃ゛い゛い゛っ!?」 「…ラムザ…お前、幼い頃、兄に飼われていたというのは本当か?あのディリータにも体を許していたというのは」 「や…やぁ…なんで…アグリ…アス…さ…」 「やはりな…随分…なじむのがはやいと思ったが…オヴェリア姫が…希望と見込んだきさまが…私娼…それも血のつながった男の玩具とは…」 「うぁ…言わ…ないでぇっ…言わないでぇっ…」 童児のごとく耳を塞いでいやいやをするラムザに、アグは嗜虐の表情を浮かべてなおも続けた。 「…最初から…騙されていたんだ…お前などに…この国が救えるはずがない…私も、ムスタディオも…オルランドゥ伯も…お前は嘘吐きだ…」 「違…違…」 「私は…お前の名を呼んだのに…オヴェリア様でも、ラヴィアンでも…アリシアでもなく…お前を呼んだのに…お前はまだ…昔の飼い主を呼ぶじゃないか!私も…皆も…本当は誰一人要らないんだろう!!お前が側に居て欲しいのは、あのディリータか、さもなければ兄なのだ!」 「うう…違…」 「違わない!嘘吐き!やましくないのか!私たちを…先の見えない道に引きずり込んで…なおもお前は、表の世界の友や家族に焦がれているんだ!」 「ごめ…ごめんなさい…ごめんなさい…」 泣きじゃくるベオルブの忌み仔を乱暴に抱き寄せ、堕ちた剣乙女は打って変わった優しい口調で囁きかける。 「いいさ…許してやる…お前はもう…旦那様のものだ…旦那様の…家畜になったんだ…だから…旦那様のものということは…つまり…私の…ものだ…そう…だろう…」 教え聞かせる語句の端々には、わずかな不安が篭もっていた。拒まれたらどうしよう。おぞましいと撥ね付けられたら、白獅子の家門に育った公子が、生来の気高さを発揮して、魔の誘惑を退けたら。そうしたら、アグは独り残されるのだ。宮廷から遠く、異端者と呼ばれる仲間たちからさえ捨てられ、何よりもラムザが、ラムザが二度と手に入らなくなる。 「…ぁっ…ぅっ…アグリアス…さんの?」 「ああ…私と一緒だ…ずっと…一緒…に…」 「アグリアスさんと一緒…ずっと…」 ぎゅっと抱き返す腕に力が篭もる。女騎士は取り繕った傲慢さを演じ続けられなくなり、また泣き出しながら、戦友から口付けを奪った。 「…っん…ぅっ…アグ…んっ…むっ…」 「ラムザぁ…ラムザぁ…ごめんね…ごめんね…私…こんなになっても…どうしても…どうしても…」 「アグリアスさん…大丈夫だから…ずっと一緒だから…ずっと…ひぁっ」 待ちかねたように、触手の群が獲物に襲いかかる。つがいの家畜は、くねる凶器に後孔を深く穿たれ、陰唇と陽根を弄られ、モルボルの涎や愛液、腸液、汗、涙にどろどろになりながら、官能の泥沼へと沈んでいった。 黄昏のあとには燐の光が、濁れる止水を照らした。モルボルの”妻”として、浮気を咎められた女騎士は片時も休みを与えられず、穴という穴を犯され続けた。へそや食道と同じように雄を咥え込めるよう開発された乳房は、糸のような触手に絞り上げられ、母乳を潤滑剤にした筒と化して、主の剛直をしごき、両手両足、脇やひざの裏までも、およそ体の柔らかい部分すべてが、肉蔓をこするのに使っていた。 「んぉおおっ!!!ぉむぅぅううっ♪」 人間としての尊厳のすべてを失いながら、太鼓のような腹を揺すって舞う痴態には凄絶な美しさがあった。 「ぅぁ…はぁっ…アグリアスさん…」 すぐ正面では、少女とも若者ともつかぬ異形の裸身が、触手に絡みつかれた大股を拡げ、吸盤が残した咬み跡だらけの細茎を宙に勃たせている。白樺の幼木のように細かった腰は、いつのまにか林檎を詰めたいっぱいに布袋のように膨らみ、凸凹していた。平らだった胸にも、御椀型の膨らみが二つ、呼吸に合わせてあえかに震えていた。肛門は緩みきって、とろとろと白濁と腸液のまざりものを溢れさせている。 「んっ…ふぁっ…んっ…ラムザ…私の中に…挿れたいか?」 「ぅぁ…は…い…」 「ふふ…だめだな…私も…本当は…ラムザと結ばれたい…ぁんっ…けど、前の穴も、後ろの穴も…口もへそも胸も…全部、旦那様専用なんだ♪」 「そ…んなぁ…」 「こら…情けない声を出すな…代わりに…」 アグリアスは白い肢を伸ばして、親指と二の指を広げ、ラムザの股間におののく屹立の先端を器用に挟むと、丁度、酒瓶の栓でもひねるような具合につねった。 「ひぎぃっ!」 「こうして…足で…いかせてやる…本当は…いけないんだが…ラムザだけ…んっ…特別だ…あとで…旦那様に…お仕置きされてしまうな…」 モルボルの婢は、待ち遠しげに呟いてから、巧みな足捌きで”後輩”の家畜を絶頂に導く。再びソプラノの悲鳴が響き、華奢な体躯は痙攣とともに弓なりに反った。白い液が飛び散ると、たちまちモルボルの捕食管がすばやく群がって、滋養に富んだ餌を貪る。 射精がきっかけになったかのように、ラムザは眉間に皺をよせて身をよじり始めた。 「ぅぁっ…あああ…っぎぃっ…」 「もう…孵るのか…ラムザの中は…私より…環境がいいんだな…少し…妬ましいぞ…ぅぁっ…はぁっ…はぁっ…」 卵の粘膜を一つ、また一つと破って、怪物の仔が生まれようとしていた。膨らんだ腹が波打ち、はらわたいっぱいに詰まった幼生が兄弟姉妹に押されて、直腸をめくり返しながら這い出してくる。初めての出産に、新たな家畜はおののきつつも、恍惚に咽んだ。 「うまれる…生まれるよぉ…僕の…赤ちゃ…赤ちゃ…んっ…」 「ふふ…可愛いだろう…」 外界の寒さを嫌ってか、モルボルの仔は奇妙なひしり声を上げて、元来た温かい場所へ潜り込もうとする。追い出そうとする仲間と押し合いながら暴れる動きに、華奢な母体は自由にならない手足をばたつかせて悶絶した。 「うぁああっ…ぁあっ!」 「大丈夫だ…もう少し大きくなるまで…もしくは次に植え付ける相手を見つけるまで…中で育てるんだ…素晴らしい…とても誇らしい体験だ…モルボル族の宿主になるのは…なっ」 「ひぅっ…ひ……は…ぃ…ひぁっ!!」 「…いい子だ…ラムザ…旦那様が…ご褒美を下さるって…」 吸盤型の触手が、できたばかりの乳房に吸い付いて無数の微細な針を突き刺す。さらなる刺激に訳も分からず泣きじゃくるラムザの金髪を、ぬめった蔓がやさしく撫でつける。しばらくする内に胸に震えの漣が走る。二つの膨らみは先ほどよりも一回り大きくなったようで、風船の如く張り詰め出していた。捉えた触手が強く先端を吸い上げると、桜に色づく乳輪の縁が白く泌んだ。 「う…うそだぁっ…おっぱ…おっぱいが出てっ…」 「…そのうちに…んっ…私のように、胸でも旦那様のものを受け入れられるようになる…でも私は二晩もかかったのに…ラムザは素質があるのか…私より巨きな乳を持つかも…」 「やだ…やだぁ…」 「大丈夫だ…ラムザのふくよかな胸…私は好きだから…いつか、顔を埋めて眠りたい…」 「ぅぅ…でも…でもぉ…」 「大丈夫だったら…むぅっ…旦那様…どうか…」 嫁の頼みとあればと、触手がアグリアスをラムザに押しやる。”先輩”の家畜は”後輩”の両手をとって指を絡ませ、恋人握りにすると、顎から口元へそうっと舌を這わせて、唇に触れる。次いですぐに落ち着かせるように接吻を交わす。 「むっ…ラムザは甘えん坊だな…ぐずれば私がこうしてくれると思っているんだろう」 「ふぇっぐ…そんなんじゃ…ぅっ…」 「ずっと側にいてやるから…沢山、旦那様の子供を産もうな?イヴァリースがモルボルで満ちるまで。ルガヴィも人間も何もかも、苗床に変えるまで」 「……は…い…」 素直な答えに、牝畜はにっこりして、華奢なつがいを抱き締めると、たっぷり孕んだ腹同士を擦り合わせて、違いの体温を伝える。どちらの性器も主のためだけにある以上、二人にできる最大の愛情表現だった。 短くも穏やかな一時が過ぎると、再び触手が抽送を始め、樽のような女騎士の胴はまたしても激しくよじれ、宙に踊った。だが瞳は優しい光を浮かべて、いつまでも、いつまでも、大切な伴侶の、快楽に蕩けた顔を見つめていた。 「という展開を予想する訳だが」 アリシアがきれいにしゃぶった鳥の骨を口に咥えながら、同僚をすわった目付きでにらむ。火酒を一瓶開けた割には、さほど酔いが回っているようには見えないが、かすかに背中の当たりから黒い波動のようなものが立ち昇っている。というのは、付き合いで杯を干し続けてきたラヴィアンの酔眼のせいかもしれない。 「いやー。さすがにそれはないだろ。アグリアス様ドMだし。ラムザ隊長をそこまで攻められるとかありえん」 「ばっか、モルボルが。モルボルがだなぁ」 「つーかさー。何でも魔法の薬とか怪物の触手とかに頼る展開は止めた方がいいって。何かもうお腹いっぱいって感じ」 「うっさいなぁ。あたしはただ、アグリアス様の幸福を願ってだなぁ」 「触手はいいからさぁ。あの人ももうちょっと可愛い服とか着ればねぇ」 「つかじゃぁ、お洒落に多少は気を遣ってるあたしらは何なの」 「いつも二人で一緒にいるのがやばいんじゃない。あれだ百合と思われてるとか」 「うわーやべー。それはあるな…。縁切る。今夜で」 「何。淋しいこと言うなよ」 互いに注いで、また一杯。利き腕と利き腕を交差させてぐっと一息に呷る二人の姿は、百合というより、 「まぁアグリアス様だよアグリアス様。うまくいってるかなぁ」 「んーシャンタージュも付けたし、リボンも可愛いの選んだげたし。服もまぁ。一応スカートではあるし?あのシスコンでホモっぽい隊長殿もクラっとくるのではないかと」 「あーでも茨だなぁ。いっそムスタディオあたりとくっつけた方がよかったんじゃないの」 「んー。でもアグリアス様の気持ちとしては…やっぱあっちだと思う訳でね…」 「当たって砕けろですか」 「うむ。振られたらまた二人で慰めてやろうよ。そんで、ムスタディオでもラッドでもあてがっちゃおうよ」 それより自分たちの面倒をみろ、といいたいところだが、上官想いの女戦士たちはまた大いに無責任な男の品定めで盛り上がり始める。 「マラークはラファと兄妹でできあがっちゃってるぽいしなぁ。ヒゲジイ様は何か義理の息子にべったりだし。ベイオウーフは奥さんにぞっこんだし。興味ないね君は何かキモいし」 「あれは女か…男がいるね。なんとかフィロスさん。やっぱムスタディオかー。でも労働八号がなー」 「うむ。最近奴等は妖しい。いつも側に居るし」 どう考えてもメンテナンスのためなのだが、腐った脳は正常な判断を斥けるらしい。いや意外に正鵠を射ているのかもしれないが、だとすればむしろその方が恐ろしい。 「だいたいだよ!ラムザ隊長もいかんよ。妹さんの事は分かるけど、いつまでも昔の男を引き摺って、そばにあんなにいい女がいるのに、指一本触れないなんて。それでも健全なイヴァリース男児ですかと問い詰めたい」 「両方受け属性なのがいかんなぁ…もういっそ。あれだ。隊長に一服盛るか。裸にひん剥いてアグリアス様の隣に寝かしときゃ言い訳もできんだろ」 「いいね!いい考え。冴えてるよラヴィアン」 「ふふふ。任せておけ。じゃぁ早速今晩にでも…」 「何の話だ」 遠からぬところから、冷たい声音が響く。ぎくりとした二人が振り返ると、酒保を照らす松明の光と夜闇の境に、丈高い女騎士の姿があった。傍らには、小柄な指揮官が、ぴっとりと寄り添っている。幼さの残る容貌は、半ば夢のうちにあるようにとろんとしていた。 アグリアスはマントでラムザを包むようにして、抱き寄せたままに近付いてくる。唇には勝利者だけに許された、余裕の笑みが浮かんでいた。 「あ、アグリアス様…もしかして…」 「うひゃ…見せ付けますね…」 「まあな…あの沼地のほとりを密会所に選んでくれた、お前たちのお陰だ…ラムザも私も礼をしたいと思ってな」 「はぁ…いやそれほどでも…あれリボンは…」 「シャンタージュも…それにこの匂い」 妙な胸騒ぎを覚えた二人は、立ち上がって半歩後退る。女騎士の笑みが歪に広がった。マントの表面が無気味にのたうち、かたわらの伴侶が喘ぎを漏らす。少女のように高い、嬌声を。 「…さぁラヴィアン、アリシア…おいで…」 マントが脱げ落ちると、そこには酒のもたらす幻想よりなおおぞましくも艶めかしい、沼地の怪異があった。 |
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