Lorasian Beauties

長い眠りから抜けると、ローレシアの元剣術師範は栄光の絶頂にいた。つまりは、国を思うままに采配する摂政の地位を手にしていたのである。股間に甘い疼きを覚えて、瞼を開くと、優しい朝の光とともに腰の当たりで白絹の掛布が大きく膨らみ、揺れているのが視界に入った。

柔らかな覆いをめくると、両脚のあいだには群青の薄紗で華奢な肢体を包み、水鳥のような首に銀の輪を嵌めた少年が這いつくばって、魁偉な逸物を頬張っていた。顔立ちはあどけないが、剛直にからみつく舌の動きは巧みで、行為に慣れきっているようだ。また男を喜ばす勘所を抑えた計算し尽くした奉仕のうちにも、虎や狼が獲物に食いつくような、獰猛な勢いがあった。

世に並ぶものなき剣の国の代王は、その身分に相応しいと思い描いた通りの目覚めを迎えて、満足の唸りを漏らした。次いでおもむろに毛むくじゃらの腕を伸ばすと、妙技に対する称讃の印に、童児の長く伸びた射干玉の髪を撫でてやる。

相手は野太い肉棒を懸命に舐り続けながらも、山猫に似た両眼を怒りに細めた。灼け付くような凝視に、摂政はしかし却って興奮を掻き立てられ、忙しく上下する小さな頭部を十本の指でしっかり抑え込むと、したたかに精を放った。幼い奴僕はほんの幽かにもがいてから、口腔へぶちまけられた種汁を大人しく嚥下する。

主人はにやりとして、好色そうな嘲りを滲ませながらも、馬鹿丁寧に挨拶を述べる。

「おはようございますぅ…アレフ殿下ぁ…精が出ますなぁ…」

ローレシアの世継ぎは敢えて応えず、黙々と腥い朝餉を飲み干していった。顎の下で隷従を示す細い枷が煌めく。名目上の家臣は、相好を崩すと、さらに粘りつくような台詞を紡ぐ。

「毎日、欠かさず私のものを味わって頂けるとはぁ。いやいや常々思っておりますがぁ…光栄の極みですなぁ…しかしぃ…些か濃くて難儀いたしましょう?僭越ながら手助けいたしましょうかなぁ…何、遠慮はなさらぬよぉ…こちらも厠に行く手間が省けます故ぇ」

返事を待たずに、蠕動する食道へ目掛けて小用を足し始める。王子は瞼を閉ざすと、睫の端を一度だけ震わせてから、喉を鳴らして夜のあいだに溜まった匂いも味もきつい尿を胃袋に納めていく。

すっかり膀胱を空にすると、代王は微笑んで、高貴の召し使いの狭い肩のあいだをさすり、赤ん坊がむせるのを防ぐように、軽く叩いてやった。

「楽しんでいただけましたかなぁ?」

少年は無言のまま、固さを失った巨根を吐き出す。花模様の透かし織りが入った絹の手袋の甲で唇を拭い、寝台の上で背筋を真直ぐに伸ばしてから、燃えるような瞳で、すぐ側でにやつく、のっぺりした顔を睨んだ。

摂政が愉悦の篭もった眼差しを返すと、銀で縁取った頚にかすかなおののきが走る。

「おお、いけませんなぁ。忘れていましたぁ。殿下の方は三日前からご不浄をされておりませんでしたなぁ…腸に汚れが溜るとぉ…大事なやや子にも毒が及ぶと聞いておりますよぉ…早速出してしまいましょぉ」

うわべばかり深刻そうにしながら、男は、眼前にある滑らかな、しかしやや膨らんだ胴を撫でまわした。世の理からすれば、ほかの命など宿せるはずのない少年の腹は、しかし表面を這うごつい掌にかすかな脈動を伝わせる。

「出して…いいのか…」

「はぃ?」

アレフは唇が白くなるほどに咬むと、臥所から床の上に降り、くるりと後ろを向いて、若鹿のような脚を左右に大きく開いた。剥き出しの双臀で、筋肉が動き、家畜の印として捺された山羊の烙印が踊る。ほっそりした指が、引き締まった尻朶を割り裂いた。すると肛門を惨くも拡げる、それこそ嬰兒の頭ほどもある革の鞠が姿を現した。

痴態を晒したまま天井を睨む奴僕を、主人は含み笑いしながらたっぷり鑑賞し、ややあって不思議そうに尋ねかけた。

「おやおやぁ。はしたないお姿ですなぁ?それで何を仰りたいのでぇ?」

「…出した…い…」

抑揚を欠いた、消え入りそうなほどか細い答えに、ローレシアの代王は急に額に暗雲を垂れ込めさせると、打って変わった厳しい口調で叱り付けた。

「きちんと教えたはずだぞぉ、脳足りんの色餓鬼がぁっ!!」

「っぐ…」

「今更気どるなぁ!男を喜ばすだけが能の小僧がぁ?あぁん?三日前、騎士団の幕舎でぇ、盛りのついた若造どもを誘うのに腰振って、喜んで吠えまくっただろうがぁ」

「…違う…」

「何が違うんだこらぁ!?ああ、あれかぁ。あの時がっついた雄どもが詰め込んだ種汁泄らすすのが勿体なくて、わざともったいつけてんのかぁ?とっくに尻穴んなかで腐ってんだろうがぁ…そうかぁ…腹のがきよりそっちが大事って訳かぁ…くく…どうしようもない淫売だなぁ」

「違う!!」

かつて勇者の生まれ変わりと歌われたロトの末裔は、洪水のように浴びせかけられる罵倒を鋭く断ち切ってから、浅く呼吸すると、別人のように艶めいた仕草で下半身をくねらせ、繰り返し練習させられた口上を述べ立てた。

「ご主人様、どうか卑しいロトの血を引く…薄汚い糞袋のアレフに、汚物をひり出すお許しを下さいませ!!」

「そんなに出したいのかぁ?」

「出したい…です…」

「声が小さぁい!」

稚くして戦場の鬼神と称えられ、周りからはただ畏怖と崇拝だけを向けられて育ってきた王子は、張り詰めた強弓の弦の如くにわなないたが、銀の首輪が妖しく耀くと、喉から迸らせる子供らしい高音をまた一段跳ね上げて囀った。

「出したいです!!ぶりぶり出したいです!!赤ん坊がきれいなお腹で大きくなれるように!アレフの…どろどろうんこ全部垂れ流させて下さいっ!!」

「いいぞぉ…おら…いつもみたいに準備しろぉ」

少年は唇の端を噛み破って血を垂らしながら、媚びた笑いを作るや、部屋の隅に停めてあった手押し車に近付いて、きちんと畳んだ深藍の布をとり、丁寧に広げて床に敷いた。翼を開いた神鳥の紋章。在りし日、ローレシアの正統な王、アレフの父が馬上でたなびかせていた戦外套。我が児の誕生祝に手ずから与えたものだった。

しかし木理の細かい生地には、ところどころ染みがつき、色焼けして、本来の用途とは異なる目的のために使い込まれたようすが窺がえた。王子は思い出の品を裸の踵で踏みつけ、皺を作って上に屈むと、強くいきんだ。醜悪なほどに巨きな菊座の栓は、蠕音とともにかすかに押し出される。小さな鼻の先を赤くして、次第に脂汗を滲ませながら、躑踞の姿勢でさらに歯を食い縛ると、やがて薄桃をした直腸の粘膜をめくり返して、革の鞠は少しづつ下がり、ついには短く空気の抜ける響きとともに外套に墜ちた。

続いて派手な下痢の音とともに、饐えた精液と軟便が混じりあったまま溢れ、一度はローレシアの君主を包んだ衣に降り注いだ。

「お゛ほ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!!」

アレフは最前までの怜悧な面差しとはかけ離れた、だらしのない表情で、苦鳴とも嬌声ともつかぬ叫びを長々と放つと、臓腑に溜め込んでいた凌辱の名残りを排泄していった。

寝台の主人は小気味良さそうに、奴僕の不様な格好を眺めていた。括約筋を伸縮させながら、恍惚とする童児の横顔を見物するうち、数夜を隔てた宴の情景がまざまざと甦ってくる。宮廷の文官がそろって新たな執権に膝を就いたあとも、しつこく王への忠誠を捨てようとしなかった騎士たちの前に、首輪を付けたローレシアの第二王子を披露し、玩具として差し出すのと引き換えに服従させたのだった。

ムーンブルクの翁から授かった媚薬の香と若干の術の助けを借りて、幼き勇者への敬愛を劣情に刷りかえると、あとは容易かった。寸前まで理性の欠片も保てぬほど激しい馴致を受けていたアレフは、旧師の命じるまま、ほんの一年前まで馬を並べて行軍をともにしていた部下独り独りの膝にまたがり、激しい接吻を交してから、肉便器としての誓いを謳った。血気盛んなもののふは皆、餓狼の群と化して、供せられた瑞々しい獲物を貪った。若い騎士の中には、よがり狂う王子を貫きながらしっかりと抱き、花売りの娘にするように愛を囁いては、妾になってくれるよう掻き口説くものさえあった。

主従の絆などかくも脆いものかと、自身も少年の麾下にあった代王は肚の底から笑ったものだった。ややあって追憶から醒めると、ぽっかり後孔を開いたまま喘ぐ召し使いに視線を戻し、莞爾として問いかけた。

「随分快かったようですなぁ」

「ぁ…ぁ…ぅ…よく…なっ…」

「殿下の御印は、そうは言っておりませぬがなぁ」

しゃがんだ両脚のあいだで、幼茎は下腹を鼓ち、ひくつく鈴口に露を乗せていた。

摂政はむっくり起き上がり、屈んだまま余韻にわななくアレフの側へ寄り、腰を落すと、緩みきった肛門にいきなり貫手を突き入れた。

「ぃひぐぁあ゛あ゛あ゛!!!」

童児は腰を跳ね上げ、白眼を剥いて四肢を激しく痙攣させた。痛々しいほど張り詰めていた秘具は、透明な子種を噴く。

「気取るなってんだろうがぁ糞袋がぁ!!」

「あ゛ぉ゛ぉ゛!!あ゛っぐぅ゛ぅ゛…」

みじめな逝き貌をさらす王子の頬を舐めながら、男は急にまた慇懃さを装おう。

「そうですよぉ。その顔だぁ…殿下にも便器ってものがぁ…よく分かって来たじゃぁないですかぁ…ところでぇ…まだ少し汚物が残ってるようですねぇ…掻き出して差し上げましょうかぁ?」

囁きながら、手首のさらに上までをめり込ませ、結腸の辺りをいじくる。少年は滂沱の涙を流しながらえずいた。悲哀や随喜というより、ただ純粋な肉体の反応のようだった。

「おお…こりこりしてますなぁ…この奥に殿下と…父君の胤が宿っておられるのですなぁ?」

定軌を逸した言葉を紡ぎながら、主人は、奴僕の臓腑を掻き回していく。声は徐々に嗜虐の色を増し、幾らか上ずり出していた。

「滅びたとはいえ、ムーンブルクの魔法は偉大ですなぁ…女が減った時のために、男に兵士となる子を産ませる術さえ研究していたとはねぇ…殿下の腸に潜り込んだ魔物がぁ、粘膜に張り付いて血を吸いながら、胎となるぅ…初めて聞いた時は耳を疑いましたよぉ…」

「あ…ひ…ぁ…」

「だんだん可愛く哭くようになってきましたなぁ…さてぇ私はぁ…ムーンブルクの先王がぁ…記した覚書を読んでぇ…その配合計画…馬で言うなら掛け合わせですなぁ?それをぉ…受け継ごうと決めたのですぅ…聞いてるかぁ?」

捻じ込んだまま腕を軽く回すと、アレフは背を弓なりにして、口の端から泡を零した。摂政はにやりとすると、空いた手で尖りきった赤い胸飾りを摘まんで抓り上げ、さらなる反応を楽しんでから、語句を継いだ。

「近い世代に雄同士が揃ってしまった場合のぉ…苦肉の策としてぇ…腸に子を宿す方法が書かれていた訳ですがぁ…ここまで面白い結果になるとはぁ…それにしてもぉ…愛する父君との初夜はいかがでしたかなぁ?」

「ぅ…ぁ…」

「縛られたまま親父に十日も犯られて、孕まされた感想はどうだったってんだよぉ!答えないならぁ…腹のがき捻り殺しててやろうかぁ!!」

胎児を傷つけるという脅しに、朦朧としていた少年の双眸に意識の光が還ると、震える唇に歪な台詞がのぼる。

「っ…きもち…よかったです…あぐ…糞袋のアレフはぁ…父上に種付けされて…何度も何度も果てて…雄のくせに、雌の喜びを味わいました!」

「おーしちゃんと覚えてじゃねぇか…」

摂政はにんまりして腕を引き抜くと、孔に革の鞠を詰め直した。すんなりと収まる。こうなるまでには随分かかった。小指ほどの大きさから初めて拳一つ、拳二つと大きくしていたのだ。出産時に赤ん坊を通りやすくするためだが、絶えず拡張しておくことで、肉穴としての使い勝手を高める意味合いもある。

童児は嗚咽して、くずおれそうになってから、持ち前の頑強さで辛うじてこらえると、振り返って、男の腕を舐め浄め始めた。爪のさいだに挟まった汚れから、毛についた滴の一つ一つまで、鋭い観察力で捕えて、啜り取っていく。

ローレシアの代王は、召し使いに後片づけをさせてから、服を着付けさせるのを待って。閨を出た。秘所を隠せぬ下着姿の王子を先へ立たせ、のんびりと麗かな陽射しの差し込む回廊を歩いていく。

途中、中庭で休憩する近衛の兵を見かけた。屈強の壮漢はいずれも、額に山羊の烙印を付けているほかは、しごくまともそうで、アレフを目にすると轟くような上げた。

「アレフ様!」

「アレフ様だ!」

「また抱かせて下さるのか?」

「おお…ロトよ」

欲望と恋慕が渦巻くような叫びを耳にすると、少年は氷の彫像のよう顔を薄らと紅に染め、足を止めて振り返った。蜜菓子に惹かれる蟻よろしく、ぞろぞろと近寄ろうとする雄の群を、指揮官らしい威厳を示して睥睨すると、かすかな拒否の素振りだけで制止させる。

お預けを喰らった犬のように切なげになる騎士たちに、王子はまだ幾らか頬に朱を差したまま告げる。

「あとで…ちゃんと相手するから」

「おお…聞いたか!!」

「ロトは今夜我らと共寝なさる…」

「これで第七軍の山出しどもに自慢させずに済む…では一人十度は…」

全身に孔が空くほどの視線を受けて、竜にさえたじろがぬロトの子孫もつい後退った。

「一回づつ…」

「そんな二ノ丸の警衛どもとは一人三度づつされたと聞いております」

「市内巡邏の部隊にいる弟は、厠につないだ殿下を五度は使ったと」

徐々に真赤に茹であがっていく童児の耳孔に、熱を冷ますように男はからかいを吹き込む。

「たいした人気ですなぁ殿下はぁ…何といっても今やローレシア軍全体の共用便所。部下思いの将軍としてはぁ、えこひいきをする訳にもいきませぬからなぁ…」

「うるさい…」

首を締め付ける銀の輪の輝きに、抗うように吐き捨ててから、アレフは再び兵を詠め渡した。危うく保った平静さの裏に、どこか親子ほどに年の離れた男等を慈しむような色が覗いていた。

摂政は舌打ちすると、急にまた上機嫌になって、口笛を吹いた。

「まぁ王子の体が空くまでぇ…代用便器で我慢しろよぉ」

「…はっ…致し方ありませぬ…おい、早く済ませろ…あとがつかえている」

少年が微かに緊張を示す。植込の影になっていた辺りから、兵の一人が褐色の獣を引きずり出したのだ。いや獣ではない。手足の関節から先がない、蛮族の少女だった。テパの首狩り族の酋長の娘。ローレシアの攻略に最後まで果敢に抵抗し、狂戦士として一騎当千の働きをした豪傑だった。操り人形となったアレフによって生け捕られ、摂政の好む達磨として作り変えられ、犬や豚と番わられた挙句、宮殿の庭に放し飼いにされている。職務を終えた兵は誰でも自由に犯してよいことになっていた。

初めは四肢を失っても激しい抵抗をした虜囚だったが、他のものなら廃人になるほどの魔薬を打たれ、さらに腹が大きくなってからはだいぶおとなしくなった。精気に滾るようだった瞳もどんよりと濁り、太腿の裏に彫られた、性交の回数を示す短剣の痕から血を流しつつ、訳のわからぬままやきを零している。

「さ、行きますぞぉ…あいつらには当分、あの中古で諦めてもらうしかありませんなぁ」

「待て」

「アレフぅ…お前に選択肢はないんだよぉ」

主人は、身の程知らずの奴僕を窘めると、烙印のある方の臀肉を鷲掴んだ。

王子は肩を張ると、足早に歩き始めた。道すがら出遇う召し使いは、そろってみじめそうにうなだれるか、こらえきれずすすり泣く。殆どは摂政の趣味で集めた少年少女でサマルトリア産の金髪が多い。どれも膚をほとんど覆わないお仕着せをまとっているというのに、同じようにあられもない姿のアレフを見ると改めて耐えがたい屈辱を覚えるらしい。いずれも山羊の烙印はなく、どんな術も薬は施していない。つまりはロトの末裔の羞恥を煽るために、純情な子女の目に曝している訳なのだが、肝腎の本人はまるで動じていないようだった。

やがて、主従の二人は離れの塔へ着く。去りにし昔、ロンダルキアの王女を幽閉した獄。螺旋階段を下っていくと、座敷牢がある。

「さてとぉ…ひさしぶりのご対面ですなぁ?父君…そして兄君とぉ!」

代王の指差した先には、異形の怪物が胡坐を掻き、黒髪の若者を後背位で姦していた。

まず注意を引くのは、鱗に覆われた半竜半人の魔性。黒い髯に埋もれた顔には、傲慢にして果断なローレシア王の美貌のよすがが窺がえる。だが手足は丸太のように太くなり、元々の長身は、在り得ざる巨躯に変わっていた。

鉤爪の生えた腕に抱え込まれているのは、少年から青年へと移ろう最中にある若者。刃のような切れ長の瞳をした、王の長男、ひとたびは不吉の化身とも呼ばれたズィータ王子だった。しかし体付きに昔の精悍さはない。どころか、六つに割れていた腹は、歪に盛り上がり、腹違いの弟と同じ魔法で異形の胤を宿しているのが窺がえた。おまけに凹凸からして一つではない。多重妊娠の兆しがあった。腰まで伸びた黒髪は、どこか絶世の縹緻を持つ母にも似ていた。首にはアレフとそろいの銀の輪が嵌まっている。

とはいえ四肢はまだ鋼索を縒ったような強靱さを残している。噂通り竜王の生まれ変わりというなら、力ずくでしがみつく妖魅を振りほどけるだろう。そうしないのは何故か。若者の八の字になった眉と、どこか迷いの滲む眼差しが答えを示していた。

「…ぁ…ぐ…父上…いい加減に…くっ…」

”ヴィルタ…ヴィルタ…ぉお…ヴィルタ…許してくれ…これからはずっと…側にいる…側に…だから…予から離れるな…”

父の囁きのたびに、長男の喉にはまった枷が輝きを増す。怪物の鋭い牙が若者の鎖骨の当たりに埋って血を吸い上げる。子から命の滴を啜るたび、親はいっそう人から竜へと近付いていくようだった。二人、いや一人と一匹の足元には汚穢が溜り、悪臭を昇らせている。ずっとつながったままで、糞尿も何もかも垂れ流しになっているのだ。

摂政はにやついて、次男を家族のもとへ突き飛ばした。共鳴するように二人の首輪が光を瞬せる。ややあって魔物の尾がくねって、もう一人の息子の足にからむと、素早く這い登って菊座を貫いた。

「ひぁっ!!」

「…くそ…」

”ずっと…三人で暮らそう…ヴィルタ…ズィータと…親子三人だけで…”

「こいつは…アレフだ!…あんたの…もう一人の息子だろ…ぐ…う…」

”ヴィルタ…違う…お前以外に妃はいない…ズィータ以外に世継ぎはいない…あれは…政略による婚姻だったのだ…諸侯に広がった不信を打ち消すため…あの女を娶らねばならなかった…子を成したと聞いた時、宮廷は祝福したが…予の魂は昏く沈んだ…あの冷たい、剣のように無慈悲な子供は…一度としてズィータのように我が胸を熱くさせてくれたことはない”

アレフの双眸が大きく開き、凍てついた仮面が崩れ落ちると、弱々しい啜り泣きが取って代わった。ズィータは奥歯を軋ませると、激しくもがいて盲愛の拘束を撥ね退け、片腕を自由にしてから、一度として情を通わせた経験のない幼い血族を抱き締めつつ、父の代わりに深い口付けを与えた。

「ぷはっ…ぁ…ぁ…いや…いやだ…父上…」

ままやく少年に、若者は青褪めながらも囁きかける。

「…アレフ…」

「…要らない…父上は…兄上しか…要らない…」

「アレフっ……」

「…強くなったのに…剣も…兄上に負けないくらい…父上の子だって…産むのに…」

「…馬鹿…野郎が…」

兄が再び弟の唇を塞ぐ。ともに腸を魔物に占領され、異形に変えられた父に弄ばれながら、しかしローレシアの第一王子は腹違いの第二王子をしっかりと捕えて、震えを抑えようというように引き寄せた。

摂政はといえば、離れたところから、滑稽極まりない道化芝居でもみるように手を打ち、満面の笑みを浮かべていた。

「そうですなぁ。私はあなた方をずっと観察してたからぁ、よぉく知ってるんですよぉ。陛下ぁ…あなたが最後までズィータ様を廃嫡にされるのを渋ったのもぉ、必要最低限の時以外はぁ…アレフ殿下やその母君と会おうとしなかったのもねぇ」

王家の剣術師範として、あるいは主君のために後ろ暗い仕事を果たす側近としての経験から、男はこの舞台を整えたのだった。

「そしてアレフ様ぁ…あなたがずぅっとぉ…己を殺してぇ、兄と父のすれ違いを見守っていたのもねぇ…あぁ。おかしぃ…まったくあなた方ローレシア王家はぁ、偉そうにふんぞりかえって…身内の気持ちさえ読み取れない…愚か者の集まりですよぉ…生まれが違うだけでぇ…この俺がお前等みたいな馬鹿どもの風下に立つなんざぁ…実におかしな話だよなぁ?…なんて…もう聴こえてないかぁ」

ズィータは突如襲いきた陣痛の衝撃に、髪を振り乱す。アレフも産気づいたのか、喘いで無意識に兄の胸へしがみついた。

代王は抱腹絶倒といった仕草で、狂気の光景を鑑賞する。

「せいぜい化け物づくりに励めぇ…この国は…俺が…飽きるまで支配してぇ、搾り取ってぇ…貪り尽くしてやるよぉ…うは、うははははははははは」


「うは…は…は…」

払暁の寒さに肩を震わせて、ローレシアの元剣術師範は幸福な夢から醒めた。どこかで焦げ臭い匂いがする。瞼を開くと、独房の隅にある机に、若者が腰かけて、黒ずんだ紙片を蝋燭で炙っていた。みるみるうちに古文書の切れ端とおぼしきそれは灰へ変わっていく。

「おはよう…いい夢でも見た?」

「これはぁ…アレフ殿下ぁ…今焼いておられたのはぁ」

「燃え残りのごみ。あの時、全部始末したと思ったんだけど、誰かに似てしぶといね」

「はぁ…」

「さて、そろそろ昨夜の続きをしようか」

男がぎょっとすると、若者は机の上に重たい音をさせて金属製の道具を置いた。やっとこと金槌。鍛冶屋でならありふれた品だが、こと取り調べの場でみると無闇と不吉な思いに駆られる。

「…そ、それを何に使われるのでぇ?」

「使うか使わないかはそっち次第。昨日は父上が太子だったころ太后暗殺の計画を立てたところまでだったね。さ、残りを話して」

頭がはっきりしてくるにつれ、男は置かれた境遇を思い出した。ローレシアの君主に退位を迫ろうと企む世継ぎに捕らえられ、過去の罪を吐き出させられている密偵。硬い床で眠った三日間は、もう若くない体をひどく痛めつけていた。摂政としての栄光も、王家を破滅に導く陰謀も企めるはずもない、みじめな虜囚。

対する王子は泰然として、付け入る隙などまるでなさそうだった。嗜虐を好む気性ではないが、父を玉座から追い落とすという目的のためなら拷問もためらわないだろう。どこにも夢に描いたような親子の情はかいま見えない。あくまでも怜悧で、傲慢だ。

「はは…ははははははぁ…」

それでもいつか必ず、相手の悟り澄ました小綺麗な顔を屈辱と苦悶に歪ませてやると、胸に決意を秘めながら、元剣術師範はまた、監獄での厳しい一日に臨むのだった。

  [小説目次へ]  
[トップへ]

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!