「もういいわ。奥へ入りなさい男娼」
あざけりとともに、サンダルをはいた優美な脚が、和毛におおわれた尻を蹴りつけた。
情欲のこもった忍び笑いがわき起こるなか、コボルドの少年は、とがった歯を食いしばり、犬ばいになって兵舎の床をすすんだ。そうしろと命じられていなくても、半刻もおもちゃにされた腰では、もう立って歩くのは無理だった。
廊下のつきあたりで、しなやかな肢体を持つ歩哨が無言で扉を開き、うなだれたまま近づいてくるおさない獣人を迎え入れ、そっと戸を閉じる。
外とうってかわって室内は、ひどく静かで、さむざむとしている。すぐに磨いだ剣のような視線がなぎつけて、春をひさぐ童児に無慈悲な冬を思い起こさせ、うなじの毛を逆立てさせた。
「また来たのか」
かすれた、妖精の女にしては低い声がひびく。役立たずの牙がかちかちと鳴るのをおさえられず、少年はひたすらうなだれたまま木目を見つめた。
「顔をあげろ」
言いつけにあらがえず、のろのろと正面をあおぐと、椅子に足を組んだ傭兵の長が、古傷だらけの手でパイプを磨きながら、じっとながめおろしていた。双眸の一方は眼帯が隠し、残るもう一方だけが青く燃え、ひたと毛皮におおわれた額を射抜いている。かすかに首をふると、短く刈り込んだ灰金の髪が、洋燈の光にとげとげしくきらめいた。
「今日も私の部下を相手にずいぶん稼いだろう?まだ不足か」
「…っ」
おさない獣人はのどをつまらせた。侮辱には慣れているはずなのに、戦士の統領が投げつける台詞はいつも特別に深く腹をえぐった。
「答えろ」
「いやしさから…隊長のお情けを…ちょうだいに…あがりました」
「少しは口の聞き方を覚えたか。それで、欲しいのは金貨か?」
傭兵の長は、パイプを置くと、革の胴着からあふれそうに豊かな胸の谷間を探り、一枚、きらめく山吹の円盤をぬきとると、宙へ投げる。
「それとも銀貨か?」
最初の一枚が落ちるのを待たず、もう一枚、同じように白鼠の薄片を出し、指で真上に弾いた。
「銅貨か?」
最後に栗梅の色をした金属をほうると、三枚はそれぞれ、床にあたって異なるひびきをさせ、等間隔でならんだ。
未熟な男娼は三角形の耳を立てたり伏せたりし、無意識に尾を左右に振りつけながら、かがやく三つの硬銭を順番ににらんだ。金貨があれば、家族を一週間は養える。銀貨でも一日分にはなる。銅貨は一食にすら足りない。
「銀貨を…ください」
震えたのどから懇願をしぼりだすと、空気が引きさくような笑いが応じた。
「賢いな。じつに賢い子だ。まるで、この村のかがみだ。尻をこちらに向けろ」
少年は四つ足をついたまま反転して、まだ力の入らない腰をどうにか高くもたげる。
「いいながめだな。雄を迎える雌らしい」
からかいをさきぶれに、着衣をとくかすかなきぬずれと、なにかを身につけているらしく金具が鳴り、さらには正体のさだかならぬ、みじかい詠唱がある。ひとしきりの物音のあと、いよいよとばかり、なめらかな指が毛皮の双臀をわしづかみにし、強引に割り広げる。
だが、続いておさない獣人を襲ったのは、予想していた痛みではなく、柔らかな舌が菊座をくすぐる感触だった。不意を打たれて裏返った悲鳴をこぼすと、妖精は含み笑いとともにまた排泄口に接吻し、舌でほぐしていく。
「やっ…ぁっ…ぁっ…」
あてこすりを受けた通り、発情した娘のごとくあえかに啼いてしまってから、コボルドの仔は鉤爪を立てて懸命に反応をおさえようとする。
「ぷはっ…ふふ。固くなってきているぞ…」
隻眼のエルフは楽しげに述べると、下にさがったまま勃ちつつある秘具を、ためらいもなく口に含み、優しく転がす。
「わぅっ…ぅぐ…!!」
崩れ落ちそうになる少年の腰を、なかば頭で押しあげるようにして支えながら、女はひとしきり獣くさい幼茎を味わって、おもむろにときはなち、屹立が腹をうつのを鑑賞する。
「お前は、優しくされるのが一番苦手だろう?」
「ぅ…ぁっ…」
未熟な男娼は、長い舌をだらりと垂らし、息をあえがせながら、返事もできないでいた。傭兵の長は背にのしかかるようにして、やわらかな毛並みに裸の乳房をあてると、こころよさそうにこすらせる。
「ふかふかだな」
「な、なにが…」
とがった鼻をひくつかせて、少年が当惑のつぶやきをもらすと、眼帯の女は、いたずらっぽく三角形の耳を甘噛みしてささやいた。
「また口の聞き方を忘れたのか?」
「くぅっ…」
「可愛いやつだな。本当に可愛いぞ」
「や、やめ」
舌足らずに制止しようとしながらも、童児は、まるで主人に褒められた犬のように尻尾を動かして、喜びを示してしまう。戦士の統領はくすりとして言いつのった。
「ああ、そう言われたくないんだな?何度でもくり返してやろう。可愛い、可愛い。さっさと淫売などやめて私のものになれ。ずっと可愛がってやるぞ、鎖でつないで、猟犬として、妻として」
「つ、妻とか、なに…」
「ん?コボルドでは、こうして雄が雌に乗って、首のここを噛んで…愛を告げるんだったな」
隻眼のエルフは、ふくよかな胸を毛皮に載せて押しつぶしながら、ちいさなコボルドのうなじを噛んでみせる。相手は犬歯もないというのに、ひとかみは雷の魔法のように、きゃしゃな背筋をつらぬいて、ほそいのどから嬌声をほとばしらせた。
「これでお前は私の妻だ」
「ぉれぇ…雌じゃな…」
「いいや、私の雌だ」
宣言とともに、少年がはじめに身がまえていた張り型が菊座に押しいってくる。雪水晶でできてでもいるのか、凍りつくように冷たいのに、あやしく脈うち、はらわたをかきまわし、いぼでようしゃなく粘膜をけずる。
めくるめく感覚に、牙を持つ童児は我を失って吠えた。うたがいもなく、種族の娘が愛する若者に捧げる仕方で。
「ほら…な」
息を乱しながら、女は勝ちほこって腰を打ち付ける。男娼はすすり泣きながら、また隷従のおめきをはなつ。肛腔を無機質の男根がつらぬくたび、何度も、何度も。
「赤ん坊でも…はらみたがっているように…しめつけ…はなさんな…お前のここは…」
いかなる術をもちいてか、張り型と神経を通いあわせてでもいるように、エルフは恍惚とコボルドの後孔のしまりを楽しむ。だが官能のはげしさに溺れてか、抽送のつど、痕だらけのひろい肩にわななきがはしって、ふるつわもの然としたおももちが次第にとろけ、やわらいで、可憐なあえぎさえ、こぼれるようになる。
年齢も種族も異なる牡と牝の嬌声はしかし次第に高まりながら一つに重なり、いつしか熱をおびた部屋の空気をふるわせる。
「ぁっ…ぁあ…もぉ…こいつっ…いけっ!!」
「ぁぐっ…ぉぁ…っうううう!!!」
女が汗の珠を散らしてのけぞるのと、少年がつっ伏して、幼茎から白濁をはなつのは同時だった。
傭兵の長がくずおれ、たくましい尻をへたりこませると、偽の陽根は男娼の直腸をめくらせながらずるりとぬける。
どちらも、しばらくぐったりと動けないでいたが、ややあって隻眼のエルフは玩具をはずして立ちあがり、椅子から上着をとって肩にはおると、机をさぐってパイプをとった。煙草を押しこみ、かんたんな呪文で火をつけると、ものうげに紫煙をくゆらす。
するとコボルドの敏感な嗅覚が、強いにおいを察知して、くしゃみをもよおす。続いて、きゃしゃな四肢が、生まれたての仔犬のようにおののきながらも、床から和毛におおわれた胴を引きはがした。
「鼻の利く、すばしこいコボルドは大人でなくても斥候の役に立つ。もし…」
「今日は…あり…がとうございました…」
とぎれとぎれの語句をつむいで相手をさえぎった少年は、床に落ちた銀貨を咥えると、はったまま扉の方に向かう。
すると女はくるりと背を向けて、いっそう盛大に煙を吐き出し、おさない男娼を咳き込ませてから、短く命令を発した。
「客が帰る。通してやれ」
無口な歩哨が扉を開くと、春をひさいだ童児は、冬の支配する部屋をあとにした。
四つ足をついて廊下を戻るあいだ、また好色そうな視線や口笛、あざけりの叫びがふりかかる。だが、毛皮につつまれた痩躯は、しかしかえって安堵したように緊張をやわらげ、入り口で脱ぎ捨てた服のもとまでたどりついた。
のろのろと下穿きに左右の足を通して、尻尾をそとへ出し、胴着をつけてから、稼いだ小銭をかき集め、数えなおし、ポケットに押しこむ。
たった一枚、最も高価な銀貨だけは、掌にのせてながめてから、そっと兵舎の入り口に落とす。それから少年はもう、ふりかえりもせず、家族となかまの待つ村の家々に、ふらつきつつ歩いていった。二本の足で。