視界の隅に人質の身じろぎをとらえて、素早くナイフを向ける。顔付きはあくまで冷静に、あせりを気取られてはいけない。冷静さが生きるか死ぬかを分ける。ゆっくり呼吸し、黙ったままにらみつける。 女が、枷を嵌めた足首をがちゃがちゃさせて、訴えるような上目遣いをしてくる。反応してはいけない。何を言われても聞き流さなくてはならない。 「ねぇ、トイレに行きたいんだけど」 「がまんしろ」 今の返事は落ち着いていた、と思えた。喉も震えなかったし、ろれつも回っていた。相手は頬を染め、眉で八の字を作る。両腿を擦り合わせているのは、もう我慢できないというジェスチャーだろうが、同情は禁物だった。 「…外してよ、これ」 「うるさい」 余りうまい言い方ではなかった。解っていたが、すごみのある脅し文句なんて映画の悪役みたいにぽんぽん出てこない。 「ねぇ、寒いわ。ストーブ強くしてくれない?」 次から次へとお喋りは続く。目前に刃物を突き出されて、気楽な調子で話し続けるのは、並の神経ではない。しかし実際、室温は低くなっていた。吐く息が白く凝り始めている。角材で釘打ちされた窓を見遣ると、細かい粉雪が表面に貼り付いていた。 左手を短刀の柄から引きはがし、かじかんだ指をガスストーブのダイヤルに伸ばして、右回りに一つ、二つと捻る。途端に鋼鉄の箱の内側で小さな青い豆粒のようになっていた火が勢いを増し、肌に快い熱気が当たる。しばらく掌をかざしてから、ナイフを握ったままで冷え切った右手を包み、感覚が戻るまで温める。 捕虜は小首を傾げて、一連の仕草を面白そうに眺めていたが、ちらりと窓へ目を呉れると、ぽかんと大きな口を開いて、すぐまた閉じた。視線を追ってみても、外には暗闇しかない。 「何だ」 「私は何もしてないし、何も言ってないわよ。坊や」 「変な風に呼ぶな!」 「あら…」 いきなり硝子板が軋んだ。重たい物をぶつけられた衝撃で桟と木枠がたわみ、がたつく。大きな物音ではなかったが、はっきりと聞こえた。急いで側へ寄って、窓の周りを探っていると、間延びした女の声がからかうように後を追ってくる。 「どうせ風よ。びくびくしないで。あの人は、きっとまだ帰ってこないから」 まるで怯えた子供をなだめる親のような言葉遣いだった。しかし喜悦が、葡萄酒色の唇を三日月に歪めている。 「…調べてくる…じっとしてろ」 「トイレには行かせてくれないの?」 「がまんしろ!」 裏返った声で怒鳴りつけてから、口をつぐむ。もうからかいには乗るまいと心に決めて、壁掛けからレインコートを取り、得物を握ったまま苦労しいしい袖を通す。女の所持品で、サイズはまるで合わないが仕方なかった。袖を折って、武器を持っていない方の手でテーブルに置かれた懐中電灯を掴むと、プラスチックの把手から痺れるような冷気が伝わる。 「動かずに、待伏せていた方がいいんじゃない?」 「…っ」 嘲りを遮る護符のように、刃を突きつける。そのままぐっと肩をそびややかすと、微笑したままでいる虜囚へ、能う限り低い声で念を押しておく。 「変なことしたら刺す。忘れるな」 「ええ、覚えていてよ」 はしばみ色の瞳が、面白がるがるように煌めいていた。ぞっとして顔を逸らすと、身震いしてから、錆び付いた蝶番を回し、多少やけっぱちに廊下へ出る。湿気で傷んだ床板は、踏み締めると嗄れた呻きを漏らす。長い間、管理もされずに置かれた山小屋が、老いの恨みを篭めてひしり泣いていた。 懐中電灯を点けると、光線が暗闇に舞う蛾の姿を捉える。人面を戯画化したような毒々しい羽の模様は、いかにも幽霊屋敷に相応しい趣があった。隅に積もっていた埃が宙に広がり、妖しい黄金に煌いて、否が応にも不吉な予感を掻き立てる。 忍び足で戸まで辿り着くと、覗き口から外を窺う。日はとうに落ちており、辺りは墨を流したような暗闇に包まれ、地形すらはっきりしない。鍵をあけ、コートの裾で把手を包むと、直に肌を触れないよう気をつけながら、右へ回す。掛け金のはずれる音がした。 背を扉に押し付けながら慎重に身を乗り出す。懐中電灯で軽く前方を薙ぎ払うと、染み一つない新雪の起伏が浮かび上がった。足跡は見当らない。 「…なんだ…」 緊張が解ける。やはり考え過ぎだった。天候が治まるまで、誰も麓から戻れる筈が無い。鹿や猪さえ、巣穴で荒れ狂う雪と風をやり過しているだろう。 「…なにも…」 「何かお探しかな?」 問いは耳元で囁かれ、飛び退った時は既に、ナイフを構えた腕に痺れが走っていた。気付くと鎖骨の側に、太い鍼が刺さっている。ビニールの上着を貫いて深々と骨まで届いているらしかった。痛みはないのに、金属の感触だけが、はっきりと伝わってくる。 「うぁっ!」 心ならずも悲鳴が漏れた。指に力が入らず、武器を不様に取り落としてしまう。敵は闇に紛れて、滑るように近付いて来た。揺れる懐中電灯の光を受けて、ひょろ長い手足の輪郭だけがちらりと浮かんだ まごついていると、反対側の手にも痺れが走る。短刀に次いで明かりまでもが雪中へ没し、盲いたような暗黒が訪れた。すぐ近くで、また肉食獣の笑いが聞こえる。 「うっ…」 うなじの毛が逆立った。小屋の中へ戻ろうと、踵を返す。だが、いきなり腿から下の感覚が消え、均衡を崩した身体はそばの雪溜りへ突っ込む破目になった。 また鍼だった。雨霰と降り注ぎ、服を貫いて肉へ食い込む。 「ひぎぃっ…ああっ」 「おやおや勇ましく出てきたのに、もう降参かい。がっかりだな」 「あ、かはぁっ…」 喉が詰まり、息ができなかった。血液が逆流するようだ。右半身が煮え滾るように熱く、左半身は凍り付きそうに冷たい。眼がくらみ、鼻先には火花が散る。 「大丈夫だ私の坊や。すべて狙いを外さずに打ったよ。血の一滴も流れていたら、私は廃業したっていい…」 胸倉を掴まれ、軽々と引き上げられる。霞む目を凝らすと、女とも男ともつかない痩せこけた顔が、あなどりと愛情を込めて眺め降ろしていた。 「さて、部屋へ戻ろう坊や。残念ながら君の立場は元通りだ」 手鞄よろしく持ち上げられ、運ばれていく。皮膚から突き出た鍼の柄が互いにぶつかって澄んだ響きを立てるのが聞こえた。もう恐怖は覚えなかった。死はすぐ傍らにあるというのに、はっきりと触れられない。むしろ室内に入り、暖気に包まれると、心地よかった。 閉じることさえできない瞳に、女の姿が映る。とっくに自由になっていた。外れた手枷足枷を白魚のような指で弄びながら、嫣然と瞼を伏せ、相棒の帰還を歓迎する態だ。 「早かったのね」 「まあね」 「残念だわ。この子、とても頑張ったのに」 「君の悪い趣味だな。わざと隙を作って、人質に大立ち回りをさせるのは」 「だって退屈なんだもの。立場の逆転って、ぞくぞくするわ。坊やは勇敢だったし、割と礼儀正しかったし、結構上手くやった方よ」 「そうかい。まあ私もそこそこ楽しませて貰ったよ。運動して身体も温まったし」 初めから遊びだったのだ。胃の底へ冷たい石が落ちていくようだった。鍼使いは連れとくったくなく笑い交わすと、掴んでいた手を離した。 すぐに背骨が床にぶつかる。感覚はあるが、やはり痛みはない。別の白い指が伸びて、手と足に枷を嵌めるのが分かった。 「ちょっと、ゆるいわね…」 輪の直径が狭まる。と、また半身をもたげさせられ、うつ伏せの姿勢でテーブルの上に押し付けられる。 「どう?」 「いい眺めだね」 尾底骨のすぐ上の当りに固く尖ったものが押し当てられる感じがあって、刃が布地を引き裂く音がした。素肌を撫ぜた空気は、ストーブの助けがあってもまだ冷たさを残していた。 「かわいいわね」 「おいしそうだ」 平手打ちの音がする。尻から電撃のような痺れが脳に疾って、顎が落ちた。だらだらとよだれが止まらない。 「で、この子の実家はなんて?」 「うむ、それがね…当家とは一切係りないと言って来たよ」 「じゃぁ骨折り損のくたびれ儲けねぇ…」 「…怒ってないのかね?獲物を選び損ねた私のしくじりだ」 「ええ、もう途中から覚悟はしてたの。宗教家って体面を大事にする職業ですものね…この坊や、お荷物になっちゃったわね。バラす?」 「そうだねぇ」 やっと恐怖が戻ってくる。本当に殺されるのだ。誘拐犯の片割れを、逆に人質に取って脱出しようなど、失敗するのは判り切っていた。しかし生きるために、試さずにはいられなかった。 本家に見捨てられたという話は特に驚かなかった。余り付き合いもないし、母の葬儀にも香典すら出さなかった。身代金など支払いはしないと予測はついていた。醜聞を恐れて警察に届けさえしないかもしれない。 感情の波が徐々に鎮まっていく。考えてみればこの二人も気の毒だ。金蔓と踏んで捕まえたのが、とんだ貧乏籤だったのだ。 「…でもそそらない?男の子のすねた表情って…」 「私は、顔よりこちらの方に興味があるね」 尻の割れ目に鍼が撃ち込まれた。今度はちゃんと痛かった。だが痛みに混じって、おかしな火照りが生じる。よだれは相変らず口から溢れ、テーブルに水溜りを作って、とうとう床へ滴ろうとしていた。 「しかも鞄に入ってた本がね、ほら宮沢賢治…春と修羅だって…いっぱい線が引いてあるのよ…文学が好きみたい…もう出てくる漢字、全部習ったのかしらね?」 「こういう子は、学校で習うより多くの字を知っているさ。本を多く読むお陰で、年よりませた、大人みたいな頭の働かせ方もする。そうだろう?」 左の肩甲骨近くに刺さった針が抜き取られる。途端に舌が回るようになった。 「…うりゅしゃい…」 罵ろうとしたが、口が唾液でいっぱいのままで、発音は不明瞭になってしまった。 「え?なぁに?まぁ坊やったらお口が赤ちゃんみたい」 覚えず火照る耳を、鍼使いの楽しげな台詞がくすぐる。 「バラすかどうかは君の態度次第だな」 「そう。私達を楽しませてくれたら、生かして置いてあげるわ」 死にたくなかった。どんな機会でも逃さず、生き抜きたかった。母がいなくなってから、誰も助けてくれなかった。生きたいと願ったから、生きてこれた。 「…何を…すりぇば」 「自殺しないでくれればいい」 言葉の意味がすぐには理解できなかった。 「身代金は貰えなくなったけど、さらっちゃった以上、冬の間は身を隠さないといけないの。はぐれものは辛いのよ。食糧やなんかは充分あるんだけど。ここって娯楽が足りなくてね…」 「で、人質を玩具にさせて貰うんだが。途中で耐切れなくなって自殺してしまう人が多くてね」 「そうなの、今までお医者さんとか記者さんとか、プライドが高そうな人ほどすぐ死んじゃってるから、心配なのよ」 プライドはなかった。生きられればよかった。どんなに踏みつけられても、生きてさえいればあとからやり返せる。 「最短記録はええと、週刊夏冬?新流?ほら、お洒落なイタリアの背広を着てた坊やよ」 「ああ、週刊コントリビュート。異常犯罪の特集記事を書いてた子だね。覚えてるよ。沢山政治家の名前を知っていて、呪文みたいに唱えていたのが印象的だった」 「人間って不思議ね。あんなに血腥い記事を書いてた癖に、自分はちょっと刺されただけでぎゃんぎゃん泣き喚いて。赤ちゃんみたいになるんだから」 「メモ帳や鉛筆を渡したのに、何も書いてくれなかったな。実体験はいい肥やしになると思ったんだが」 どこか違う国の話を聞かされているかのようだった。雪嵐に閉ざされた山小屋の中で、過去に同じように何人もが死んだのだと、すぐにはぴんと来ない。 「坊やに我慢できるかしら」 「試してみよう」 腿の筋肉の盛り上ったところを鍼で刺される。次々に、何十本も。やがて蚊に食われたようなむずむずが広がり、動かないでいるのが難しくなる。掻きたい。思い切り爪を立てて、掻き毟りたい。 「ひゃひふぉひひゃんひゃあっ」 唾液で正体をとどめていない、変に甲高い叫び。こらえきれなかった。皮膚が炙られたようにひりついた。 「おしりふりふり。ふふっ…堪らないのね」 「かかひぇて!かかひぇてっ!」 抑えようもなく、かすれ声の嘆願が迸る。 「どうしようかしら?」 「駄目だな。手を自由にしたら、また暴れるかもしれない。それに、お猿みたいに腫れたお尻というのは見応えがあるしね」 虫が何百匹も這い回ってるようだった。脳の奥まで、ただ痒みでいっぱいだった。すきを突いて逃げ出す計画が形にならないまま崩れていく。臀部を咬む絶え間ない疼きだけが思考を占領していった。 いきなり鍼を弾かれる。衝撃が伝わって頭が真白になる。爛れた皮膚の裏を、じかに刺激する、透明で涼やかな刺激。 「あーあっ、あーっ、ひゃっ…ひゅごっ!ひゅっごおおお!!」 一瞬、誰が喚いているのか分からなかった。だが悲鳴を放つと、喉から胸、腹、腰にかけて快さがさざなみのように広がっていくのが分かる。 「もっとして欲しい?」 して欲しかった。痒みがもう戻ってきていた。尻の肉が張り詰めて、すぐにも破裂しそうだった。あのひんやりとした慰めがなければ、狂ってしまう気がした。 「あら、だんまり?私達を楽しませてくれないの?殺しちゃおうかなー」 喋らなければ殺される。気持ちを口にするるのは間違っていない。素直になった方がいい。正しかった。正しいのだから、なにも間違っていない。 「ひて!もっとひて」 「して下さいだろう」 「ひてくでゃひゃひっ!」 指が何本もの鍼を弾いてくれる。共鳴が体の内側から沸き起こる。しばらくのあいだ疼きが嘘のように遠のき、すぐに何倍にもなって帰ってきた。 「もっほぉ!もっほぉひっひぇっ」 すっかり夢中になった、ふりをして、尻を振る。生きるための演技だ。だからこらえる必要はない。もっと虐めて。突き刺して。早く、早く。 「してあげたら?」 「そうだな」 追加の鍼が打たれる。全身に痺れるような快感が広がった。固くなっていた性器が白い汁を飛ばす。でも痒みはもっと酷くなった。 「粗相を封じないとな」 「ヒギィッ」 針が、性器を横から貫く。縦からも。何本も。何本も。 「鬼畜。ずっとそのままなんて、狂っちゃうでしょ。膀胱だって破裂しちゃう」 「健康を損ねるつもりはないよ。排泄はさせてあげるさ。まずはこちらからだ。金盥を」 「もう…」 女の軽やかな足音が遠ざかっていく。しかし残った方が、絶えず性器に刺さった鍼を弾くので、難しい考えはまとめられなかった。 「そうそう、随分長く一緒に居るのに、自己紹介がまだだったな。私は白龍。宦官だ。知ってるかな?でも親しみを籠めて、お父様と呼んで構わないよ」 宦官。小説で読んだことがある。これから同じように去勢されるのだろうか。 「ひゃふひぃぁっ…ひゃひゃぁ…」 「何を言ってるのか解らないが、良い子だ。安心し給え。君の感じやすいそこは残して置こう。たっぷり弄り回せるようにね。嬉しいかな?」 「ひゃひっ」 嬉しかった。安堵のあまり涙を流していると、足音が戻ってきた。 「用意いいわよ」 「さて…便秘を解消するツボがあってね」 「下痢にするツボでしょ?」 「そうだな。脱水症状を起さないように、お茶を用意してくれないか?」 「一度に言ってよ。ちょっと待っててね。楽しみを独り占めはしないでよ」 「もちろん」 しばらくして今度は鍼が背中に刺さる。言われた通り腹が鳴り、寒けとともに下半身から力が入らなくなる。激しく盥を叩く音がする。はらわたがすべて抜け落ちていくようだった。 「ねぇ、目の焦点があってないわよ」 「一時的な錯乱だね。身体の変化を脳が受け入れられないのさ。坊や、お父様に向かって汚いものを見せて、どんな気持だい」 「へひゅ。ひっぱひへひゅのぉ…しゅごひのぉ!」 きゃんきゃん吠えながらも、尻の痒みに腹の痛みが加わって、意識は朦朧と霞んだ。内側が空っぽになると唇に薬罐の口が押し当てられ、薬臭い茶が流し込まれる。火傷をしそうだった。胃が膨れるほど呑んで、せき込んで少し吐き戻すと、次はゆるんだ後ろの穴に注ぎ込まれた。臓腑を刻まれるような感覚のあとで、再び排泄が始まる。 終わるとまた水分を補給される繰り返しだった。薬臭さのほか何の匂いもしなくなるまで。最後に腹が茶だけでいっぱいになり、ティーポットのようにふくれ、体の内側が薬の香でいっぱいになる。不思議に温かかった。 「坊や?」 「はい」 「気分はどう?」 「すごく、いい…」 本当にとてもよかった。鍼が抜き取られていくと、全身を血が巡る音まで聞こえるようだった。手と足の枷が外されると、そのまま床へ転げ落ちそうになる。 「あとでお風呂を入れるから、一緒に入りましょうね」 「は…い」 女の指がひりつく尻を撫ぜるとえもいわれぬ恍惚を覚え、鼻にかかった甘え声を漏らしてしまう。 「坊や。素直になってきたわね。もう、大人に向かってかまえたり、うわべをよそおったりしなくていいのよ。カルト教祖の隠し子とか、そんなこと悩まなくていから、自分を全部出しちゃいなさい」 「ああ…ああっ。やっ」 性器を掴まれて、優しく扱かれる。腰から蕩けてしまいそうだった。 「私は黒凰。あっちがお父様だから…あなたの新しいお母様になってあげるわ。嬉しいでしょ?」 脳裏に、別の女性の面影が過る。仕事中に伝染った病気のせいで歯が抜け、髪がまばらになり、手足がふしくれ捻じ曲がってしまったあの人。でも学校から泣いて帰る度に、優しく抱き締めてくれた。 「おみゃへ…お前は…母さんじゃない…」 「え?」 「ぜんぶ、まやかし…だ!俺は、お前等の玩具になんかならない。殺せよ。楽しませるつもりなんてない!殺せ!」 宦官と女は顔を見合わせた。殺される。たぶん痛いだろう。生き延びるつもりだったのに。 「凄いじゃない…白龍の鍼で壊れなかったのは初めてよ!」 「…大当たりだね。これは愉快だ」 何故相手が嬉しそうなのか分からなかった。女は顔一杯に笑いを広げて、心底楽しげな声で告げていた。 「おめでとう坊や。私たちすっかり気に入ったわ。もう殺して欲しくてもしてあげない。あなたは生き延びるのよ」 |
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