『ほのぼの診療にっし』

Presented by 愛でる男の子

コン吉くんが診療室に入ると先生はカニでした。

「どうしたのかに?」

「お、お腹が痛いんです」

「じゃあ、診てみるから服をめくるかに」

カニ先生は聴診器を持っていません。
  少し不思議に思いながらコン吉くんはシャツをまくって
  お腹を出しました。

「違うかに。ズボンとパンツをめくるのかに」

コン吉くんは少し顔を赤くしながらズボンとパンツを脱ぎました。

「体を少し前に曲げて、しっぽを手で持ち上げてお尻を見せるかに」

「・・・はい」

情けない格好だなあ。
  コン吉くんは思いました。

「どれ・・・ずぶずぶ・・・」

「せ、先生!い、痛いです」

カニ先生はハサミをお尻の穴に突っ込みました。
  コン吉くんの目からは大粒の涙が零れました。

「よく見えないかに・・・ぱかん!」

「ぐぎゃあ!!!」

カニ先生はお尻の中でハサミを開いて懐中電灯で照らしました。

コン吉くんは死にそうな表情を浮かべています。

「分かったかに、今度は前を調べるかに」

「ん、んんん・・・」

カニ先生はお尻から抜いたハサミでコン吉くんの大事な部分に触れました。

「腫れて大きくなってるかに。切ってしまった方がいいかに」

「や、やだ。それだけはやだ」

コン吉くんは涙で顔中をぐしゃぐしゃにしながら抗議しました。

「冗談だかに。でも今度、仮病を使ったら本当に切るかに」

*****

カニ先生は1ヶ月程でいなくなりました。

コン吉くんは安心して仮病で新しい病院に来ました。

「どうしたのかり」
  「どうしたにゅる」

新しい先生はイソギンチャクを背負ったヤドカリでした。

「や、やっぱりいいです」

コン吉くんはブルブルふるえながら、そう言います。

「そういう訳にはいかんかり」
  「びょうきでいちばん良くないのはガマンにゅる」

ふたりの先生はゴソゴソニュルニュルと
  おびえる患者にちかづきました。

さっそく診察を始めるようです。

「服をめくるかり」

「…ま、またぁ?」

コン吉くんは、さんかくの耳をますますとがらせました。
  うなじの毛は、ぜんぶさかだっています。
  ぜったい、いうとおりになんてしない。
  というふんいきです。

するとヤドカリ先生は、つきでた目をぱちくり。
  いきなり、はさみでチョキチョキと
  きじを切り開きだしました。

「わぁっ!」

「きんきゅうにしじゅつが必要かもしれないかり、このさい、まってられないかり」

「じゃー下もとるにゅる」

背中にのったイソギンチャク先生がそういいます。
  ヤドカリ先生も、うなづきました。

そのままさらに、お腹から下のぬのも
  きざんでしまいます。

「やだやだやだぁっ」

コン吉くんは
  なんとかやめさせようとしました。

けれどチョキチョキ動くはさみに手を切られそうで
  うまくとめられません。

そのうちに、おかあさんに買ってもらった
  まっかなシャツと
  あおいズボンと
  しろいパンツは
  ぜんぶぼろキレのようになってしまいました。

カニ先生のときのことを思い出して
  こわさのあまりへたりこんでしまいます。

イソギンチャク先生が、ゆっくりそのようすをながめまわしました。

「ふーむ、これは重病かもしれないにゅる。熱をはかるにゅる」

ゴムのような口がニューっとのびます。

テラテラぬれたさきっぽが、やぶれたパンツのあいだでふるえている
  おしっこするところを、ぱくっとのみこみました。

「きゃぁっ!!!」

つめたくて、ぬれてて、へんなかんじです。
  コン吉くんはからだをかたくしました。

大きなりょうめからは、また涙がポロポロ落ちます。
  でもイソギンチャク先生はおかまいなし。

にゅるにゅるぐにぐに。

くちをのびたりちぢんだりさせながら
  なん十本もあるほそいおヒゲを動かして
  患者のぐあいをしらべます。

「ひっく・・・ひっく・・・せんせぇ・・・もういいで・・・ひゃぅっ…あんっ」

「もう少し待つかり。イソギンチャク先生の診療は時間がかかるかり」

イソギンチャク先生の口は
  みためより大きく広がります。

おしっこのところだけでなく
  ちいさなふくろまでつつんで
  やわらかくもみほぐします。

おひげは
  さきっぽにかぶった皮のうちがわや
  おしっこの穴にも入りこみました。

もぞもぞもぞもぞ、しらべているようです。

コン吉くんはそのうち
  息をあらくして
  うらがえった声になって
  イヤイヤをするように、首をふりました。

けれどヤドカリ先生はといえば
  両手のハサミをチョキチョキ。
  のこりの足をワシャワシャ。
  なぞのヤドカリダンスをおどるばかり。

イソギンチャク先生はといえば
  あいかわらず口をぐにゅぐにゅにゅるにゅる。
  なんだかあそんでいるようです。

「あ゛ぁあっ!!」

とうとうコン吉くんは
  ひざをゆかにつけたまま
  あおむけにたおれました。
  のどが、しゃっくりするみたいになります。

イソギンチャク先生はいったん診療をストップ。
  しばらくなにか考え、考え、考え。
  やがて気をとりなおすと
  またのびたりちぢんだりを始めます。

ヤドカリ先生はダンスをとめて、目をパチクリ。

「おや、まだ検査のお汁が出せないかり?それじゃちょっと長くかかるかりよ」

「ひ゛に゛ゃぁっ、ぃっ…う、ち、かえっ…り…まぁあっ!!」

「おかあさんにはくらくなるまでにはおわりますって、電話しとくかり」

「や゛っ、ぁ゛っ、ぁ゛っ」

けっきょくイソギンチャク先生は
  診療時間がおわるまで
  ずーっとおしっこするところをしらべ続けました。

ぐったりしたコン吉くんは、さいごに
  ふたりのよういした、きがえを着せてもらいました。

「もうしぶんないほど健康だったにゅる」
  「きちょうな時間を使ってしまったかり。医者にいちばんわかりにくいのが仮病かり」
  「こんど仮病をつかったら、てっとりばやくおなか検査するにゅる」
  「イソギンチャク先生、なれてるから、おくまでラクに入るかりよ」

*****

ヤドカリ先生とイソギンチャク先生は、3週間程でいなくなりました。

でももうコン吉くんは、宿題をためたり、ノートを書かずにおこられそうな日は
  仮病をつかわないことにしました。

かわりに、がっこうをサボって
  野原にかくれるのです。

もちろんおかあさんには
  ちゃんといった、というつもりです。
  おなかがへったら
  きいちごや、ぐみのみをさがして食べます。

ちょっとした、ぼうけんです。

ひとりであそんでいると
  草のはっぱも
  木のかわも
  おがわのキラキラしたすがたも
  いつもより、くっきり、はっきり見えました。

みんなが教室でべんきょうしているあいだ
  くらくてすずしいトウヒのこかげや
  せのたかいススキのしたをたんけんするのは
  ふわふわして、さびしくて、ふしぎで、とてもたのしいものでした。

給食のかわりのくだものも
  甘かったり、すっぱかったり、かわったにおいがしたり
  いつも食べるのとはだいぶちがう味がします。

仮病なんか使うより、こっそりサボっちゃうほうがいいや
  とコン吉くんはだいまんぞく。

だんだん太陽がひくくなってきます。
  もう、げこうじこく。

コン吉くんは、ランドセルをせおったみんなをまちぶせします。
  いっしょにあそぼう、しっぽをピコピコ。
  だけど、おともだちのピョン太くんニャン丸くんは、しんぱいそう。

「コン吉ー、おまえ社会の宿題やってねーだろー、いーのかよー」

「だっせー、きょうやすんでも、あしたまたおこられんじゃねぇのー」

「べ、べつにー。なあなあ、あっこのクヌギの木、ちょーおっきなクワガタいたよー」

おやおや、だいじょうぶ?
  でも、ほかの子だって、べんきょうなんかすきじゃないんです。
  だから、それいじょうは、なーんにもいいませんでした。

さんにんはクヌギの林で虫とりにむちゅう。
  ところがそのうち
  木にのぼっていたコン吉くんは
  うんうんくるしみだしました。

「コン吉どしたん?」

「いたいの?」

「うー、うー」

さーたいへんです。
  こんどは本当にからだの調子がわるくなってしまいました。

「どうしよー」

「おれ、おとな呼んでくる」

ピョン太くんは
  野原をタッタッタッタっとかけていって
  丘の上のがっこーにいきました。

しょくいんしつでしごとをしていたのは
  担任のワン造先生。

はなしをきくと、ちょっとおこって口をへの字にしてから
  すぐにいっしょに野原へ来てくれました。

クヌギの木のねもとで
  おなかをおさえてうなっているコン吉くんを発見。
  こわい声でいいます。

「病院へ行かなきゃいけないな」

「ぃ゛っ!??い゛ぃ゛、い゛ぃ゛、ヘーキぃっ…てぇ…」

「バカモン!元気なときは病院にいきたがって、病気になったらいきたがらんとはどーゆーことだ。おかあさんには後でれんらくしておくから、おとなしく先生におぶさりなさい」

あーあ。
  そういうわけでコン吉くんは
  また病院にいくはめになってしまったのです。

新しい先生はひらひら透明な服をきた電気クラゲでした。

「ん、どうしたビリ?」

どっとはらい。

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