Hexe

森を切りひらいた、青々とした空き地の一角、太い楠のきりかぶに、灰色のローブをまとった影が腰かけていた。明るい陽射しをさえぎるように、フードをまぶかにおろし、顔は見えないが、かすかに顎のあたりから白い房毛が伸びているのが分かる。

ひげの長い翁だろうか。背を丸めてじっとしているようすは、座っている場所にかつてありし巨樹がそうだったように、長い年月を生きてきたもの特有の落ち着いたたたずまいがあった。

やがて野原のはずれで、潅木のしげみが揺れ、もう一つの影があらわれた。小柄な少年で、目元までかかるつややかな菫の髪を風になぶらせ、長くとがった耳をくすぐらせて、ほっそりした四肢を軽やかに動かし、はやてのように駆けてくる。

草をふむかすかな足音を聞きつけたのか、薄墨の頭巾はきぬずれとともに動いて、きらめく臙脂の瞳をのぞかせた。

「おぉルゥ君。よくぞ来られた」

くすんだ銀鼠のそでから毛むくじゃらの手が出て、おごそかに差し招くと、ルゥと呼ばれた童児はにっこりして側に近寄った。すると長衣が翻って、もう片方の腕が高くにあがり、指先に灯を点して、輝く軌跡を引きながら奇妙な模樣を宙に描いていく。

たちまちきりかぶの周りを、特大のしゃぼん玉のような薄い虹の被膜が押し包んだ。ほとんど透明な半球は、しばらくゆらめいてから、見えなくなる。同時に中にいるはずの大小二人のすがたも、すっかりかき消えていた。

子供はきょろきょろと周囲を眺めわたしてから、連れを振り返る。相手はフードの奥でしずかにうなずくような仕草をして、無言の問いに答えた。

「隠形の法です。渡した教科書の第七章に記してあります。ルゥ君の優れた素質がれば、すぐ身に付けられましょう」

むぞうさな評価に、あどけない顔が照れくさそうな微笑みを浮かべる。魔法使いはしかしまじめな態度で、毛深い腕を伸ばし、ルゥのきゃしゃな肩に掌を置いて告げた。

「我が輩も百年あまり生きてきましたが、あなたのような才能に巡りあえたのはこれ以上ない驚きでしたぞ。お陰でこの土地で過ごした時間は、じつに興味深いものになりました」

どこか固い口振りに、少年は不安そうな表情になって、邪法の師を仰いだ。ローブの影はかすかに肩を竦めると、溜息とともに言葉を継いだ。

「…我が輩は旅立たねばならない。一つの土地に二人の魔法使いがいては、縄張りをめぐって争いになるだけですからな」

童児が激しく首を振るのへ、妖術士は辛抱づよくさとした。

「すでに教えた催眠の法だけでも、いじめられる心配はないでしょう。我が輩の助けはもはや不要。側にいれば邪魔になるだけです。せっかく増やしたしもべを、取り合いになるのは避けようではありませんか」

ルゥはうつむいて、爪先で地面をほじくる。決して口を開かないのに、どうしてか想いは伝わるらしく、魔法使いは困ったように頭巾の下の双眸をまたたかせた。

「ずっとここにいて欲しいですって?好きなだけ奴隷が作れるのだからさびしくないでしょう…それとは別?いけませんね。この世界では危険な考えです。今後、同業は皆、敵と思わなくてはいけません…例え師匠でも…いいですね?…先輩からの忠告です…それでは」

ローブの影は立ち上がると、おだやかなしぐさで教え子を引き離して、くるりと背を向けた。だが、ニ、散歩進んだところで、うしろから少年が走り寄って、腰のあたりにしがみつく。

丈高い師匠は足を止めると、かえりみようとはせぬままに、低くたしなめる。

「ルゥ君。おやめなさい…我が輩があなたの初めての友達ですって?…誤解してはいけませんな…我が輩は、あなたに飢えを救ってもらい、看病していただいた見返りに手ほどきをしただけ。単なる取引なのです…分かりましたか?…分かったら…泣いてもだめです…ええい、離れなさい!」

いきなり長衣のすそがはためいて、ちっぽけな体を弾き飛ばす。次いで邪法の司は振り返ると、指を突きつけ、尻餅をついた童児の目の前に閃光をほとばしらせた。刹那、炎と電の矢が緑の葉を灰に変え、土をはねかせ、焦げ臭い匂いをたちのぼらせる。

「幾度も繰り返させないで欲しいものですな!魔法使い同士は馴れあえません。本来なら命を奪うところですが、あなたのような雑魚を料理するのに無駄な力は使いたくない。さっさと失せなさい。生き残りたければ、これにこりて、ほかの術士には二度と心を許さないことだ」

ルゥはおののきながら、しかし警句に従おうとはせず、代わりにふところから小さな布包みを取り出して、中に入っていたものを露にすると、そっと捧げ持った。

チーズをはさんだパン。初めて二人が会った時に、少年がたずさえていた弁当。哀れな行き倒れの空腹を癒した食べ物だった。何のへんてつもない味だったが、魔法使いは幼い弟子が授業料代わりに幾度も届けるたび、ぺろりとたいらげた。

ローブの影がかすかにおののいたが、やがてふたたび稲妻をはしらせて、小さな手から狐色の塊を叩き落とした。

「そ…そんなくそまずいものを、いつまでもがまんすると思いましたか?下らないごきげんとりは、お止めになるがいい…そもそも、かような田舎は我が輩の住む場所ではありません。小便くさいちびにまとわりつかれるのも、正直うんざりしてきたのです」

吐き捨てると、妖術士は踵を返し、決然と歩き始める。まばゆい太陽のもとで、灰色の長套は、そこだけ色濃く夜が蟠っているような、暗く重たい陰りを帯びていた。

けれど童児は頬をぬらしたまま、なおも強情な面持ちを崩さず、すっくと起き上がると、拳を握りかため、背を強張らせて、大きく口を開いた。

”行くな!”

魔法使いはぎくりと凍りついた。

「我が輩に挑戦しようと言うのですか?」

”行くな!行くな!行くな!”

「無駄だと…」

長躯がぐらりとよろめいて、膝をつく。

「馬鹿な…やめなさい!」

ローブから妖気が溢れて、少年のそれとぶつかりあった。師匠の術は熟練の粋を示し、呪力は霧となって百もの帯に枝分かれすると、標的をおさえ込もうとする。だが弟子はやみくもな勢いで押し返し、相手の技巧や細工をものともせず強引に打ちのめした。

「おお…こんな…ここまで…」

ぐったりとうずくまる邪法の司の背後から、ルゥの丸まっこい指が伸びてフードを掴むと、乱暴に引きずりおろす。白昼にさらされたのは、曲がり角と優しい瞳をした雌山羊の頭だった。無垢の毛並みが陽射しにきらめき、紅い瞳とあいまってアルビノの特徴を明らかにしていた。ひげと見えたのは顎から生える房毛だったのだ。

「う…ふふ…見られてしまったようですな…この素顔を知れば…友達などと…あきらめもつくでしょう…」

息を乱しながらも嘲るように告げる魔法使いを、ルゥはしばらく凝視していたが、やがてあるかなきかのかそけきささやきを漏らした。

「え…もう友達じゃなくていい?家畜になれ…ほほう…あなたは仮にも師匠を…そんな風に扱おうというのですか?」

面長のかんばせが頬をひくつかせ、蘇芳の両眼に焔をやどす。

「お断りします!それなら魔法使い同士の決闘らしく、殺された方がまし!どうせ昔、我が輩も師匠をこの手で…」

”家畜に服は要らない”

「ほ、本気なのですか…」

呆然と尋ねながらも、雌山羊はするりとローブを落とし、しなやかな肢体を露にしていく。長套の下は驚くほど軽装だった。密生した白い毛に覆われた腕や足はむき出しで、鎖骨から下のなめらかな部分だけを黒い胴着でおおっていたが、脇からは大きな乳房がこぼれかけてている。

ふるえる指が、胸の谷間を作る組みひもをほどいて、ぶるりと二つの肉鞠を解放する。次いで窮屈な胴着を完全に脱ぎ捨てると、外気にさらされた股間から濃厚な獣臭がたちのぼる。生まれたままの姿になった魔法使いは、あえぎつつも、ぎこちない笑みを作った。

「こんな格好をさせて、もう勝った気でいるんでしょう?…あとで後悔することになりますよ…我が輩ぐらいになれば…いったん催眠にかかったとしても、時間さえあれば解除できるのです。今のうちに考えなおせば…お仕置きは軽くしてあげ…」

”四つん這いになって尻を上げろ”

「くっ…」

妖術士は、後肢のひづめをふみしめ、両手をつくと、尾を振りながら、むっちりした双臀を高くもたげた。下腹を飾る純白のしげみは、わずかな湿りをふくんで、強い匂いをかぐわせていた。

「…言っておきますが。我が輩はルゥ君の十倍以上の齢ですよ。そんな年寄りを…おもちゃにしても…楽しくはないでしょう…考えなおしなさい…」

年長らしい余裕を装いながら、肩ごしに語りかける師匠に、弟子は黙ってかぶりを振ると、近くの潅木から枝を折り取った。都会の貴族の子と言っても通りそうな、線の細い容姿には似合わず、いかにも野育ちらしい器用さで葉を落とし皮を剥ぐと、服の袖でこすって即席の鞭を仕上げる。

「まさか…」

ししおきのよい尻朶に、鋭い一撃が落ちる。

「うぎぃいいいっ!!」

雌山羊はえび反りになって、けたたましく鳴いた。だが、容赦のないしもとは、脂肪の乗った双丘を襲い、鮮やかな緋の線を重ねていく。みるみるうちに尾底から付け根までが、熱した鉄の色に染まり、もともと円かな輪郭をいっそうまん丸くはれあがらせていった。痛みに耐えかねて逃げようとする腰に、さらに残酷な命令が浴びせられる。

”広げてぶちやすくしろ”

「ひっ…ぁ…やっ…止め…」

だが惑い嘆く魔法使いの意志とはかかわりなく、指が動いて、象牙色のくさむらのあいだ、ここ一世紀は他人の目に触れることもなかった花弁を広げる。

「そこはぁ…そこだけはぁっ…ぃぎゃあああああああああ!!!!あぐぅっ!?ふぎぃいぃいいいっ!!!」

生木の鞭は左右の肉襞を交互に叩き、包皮から尖端を出した紅蕾さえも標的にすると、狂ったような悲鳴を奏でさせた。妖術士は、みみずばれだらけの下半身を高く保ったまま、上半身はぐったりと野原に突っ伏し、おこりにかかったように痙攣しながら、ついには薄黄の雫をしぶかせた。

口の端から泡を噴き、滂沱の涙とともに小水を漏らす獣人の女に、先ほどまでただよわせていた威厳は、いささかも残っていなかった。弱々しくふるえる真紅の臀肉を、樹皮を剥いた潅木の枝がぞろりとなぜて、嗚咽を引き出す。同時にまた、かしゃくない要求が響いた。

”家畜になれ”

「…ひっ…なるぅ…なりますぅ…ルゥ君の…ぉあぐぅおおおっ!!」

陰核を狙った打擲に、熟しきった肢体がふたたび悶絶する。魔法使いは度重なる折檻に朦朧とした思考で、仕置きを受けた理由を懸命に探り、どうにかまた語句をつむいだ。

「ルゥ…さんの…ぎゃんっ!?…ご、ご主人様!!ご主人様のぉっ!!家畜になりますっ!喜んでなるからぁ!!」

屈伏の誓いを聞くとルゥはすぐに得物を放り捨て、その場にかがみこんで、目の前でひくつく、ぽってりした秘裂に接吻した。傷んだ粘膜をねぶり、嬲り抜かれた朱い豆粒をくすぐって、いたわりをこめて細かやに愛撫していく。

「ひっ…やぁ…しみ…しみます…ぁっ…ルゥ君…ご主人様…そんな…ていねいに…なめ…んっ…」

最前と真逆の甘やかな攻めに、雌山羊はどう堪えてよいか分からず、ただいやいやをした。やがて小さな舌が腟へ潜り込み、淫蜜をこねると、長いまつげを伏せて切なげに鼻を鳴らす。

少年がわざとらしいほど音を立てて愛液をすすり飲むと、妖術士は羞恥に真赤になりながらも、腰の深奥からさざなみのごとく広がる官能に、次第に脳裏を(しろ)く灼きつかせ、手の届くところにある草を掴むそばから引きむしりながら、むせび哭いた。

「止めっ…おねが…ぁっ…もぉ…もぉ…いっちゃ…ぁぐ!!!」

ろれつの回らない懇願を聞きながら、童児は長い耳をぱたつかせると、昂ぶりのために硬くしこった女陰の芯に、いたずらっぽく歯を立てる。

「ひぃっ!!?…いっぐぅ!!…いぐぅううううううっ

急所への一咬みが引き金になったのか、雌山羊はだらしなく舌を出し、なかば白眼を剥きながらのぼりつめた。盛大に噴いた潮が、幼い主人の顔にかかると、小さな掌が苛立たしげに振り上げられ、馴致の痕も鮮やかな太腿を張った。

「ぎひぃっ!!」

情けない泣き声とともに家畜は腰をくねらせ、尾を打ち振る。苦痛への反射に過ぎないが、あたかも雄を誘うかのような動きだった。童児はごくりと喉を鳴らすと、服の前をくつろげる。続いて、やせっぽちのみためには不似合いな屹立を引き出し、ぷっくりと膨らんだ肉襞のあいだにあてがった。

「ぁ…ぁ」

もはや抗うべくもない結末に、雌山羊はただあえぎながら、双臀を揺する。

次の瞬間、空き地に響いたのは、悲鳴というより嬌声だった。子供ばなれした秘具が産道を押し広げ、強引に肉孔の奥を抉ると、しゃくり上げるような喚きとともに、厚い毛皮におおわれた背がよじれもがく。

抽送のたび荒々しい快楽を叩き込まれながらも、女は胎内を火掻き棒でほじり回すような激しさにおののき、四つん這いのまま無意識に前へと進んで(のが)れようとする。少年は唇を咬むと、左右の腕をめいっぱい伸ばし、それぞれ曲がり角の尖端を掴んで、しっかりと握り締めてから、引っ張るようにして相手の頭をのけぞらせた。

「あぐぅう!!」

”もっと感じろ”

「ぁっ…そんな命令ぇぇえっ

しなやかな肉竿が出入りするたび、蜜壺の縁から泡混じりの汁をあふれこぼれる。魔法使いはまだべそをかきながらも、腟は剛直をすっかり受け入れてきつく締め付け、腰は媚びるようにくねっていた。

師弟の呼吸はともに浅く、早くなりながら、どちらがどちらとも判別がつかないほどぴったりと合い、尻と尻がぶつかる淫らががましい音とともに、性急なリズムを刻んでいく。

「ぁああっ…また…いぐぅ…ま゛だい゛っ゛゛ち゛ゃ゛ぁ゛っぁあああ♪」

”ずっといきつづけろ”

「は…はひぃ!!!ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛っ!!」

求められるまま、雌山羊は絶頂に達した。だが、そこからもう下りることができなかった。ひとつの高みに至ると、休みなくさらに上へと引き揚げられる。視界が真白になり、繰り返し繰り返し、喜悦が子宮から脊椎を駆け登って脳の芯ではじける。さらには全身の神経を駆け巡って、再び首筋を伝ってこめかみのあいだに集まると、思考を、意識を、理性を、破壊し尽くしていく。

太幹が粘膜をけずるごと、角を掴んだ手が乱暴に頭を揺するたび、硬い亀頭が子宮の門を敲くつど、新たな恍惚が爆発した。遅れてやってきた射精が胎内を熱すると、煮えたぎる溶岩が臓腑を満たしていくような錯覚にすら陥る。

やがて涙と鼻水と、よだれで汚れた容貌から、とぎれとぎれに擦れたあえぎを漏らしながら、妖術士はいつまでも、いつまでも、とめどのない官能の奔流にもてあそばれていた。


夕暮れ、露の降り始めた野原で、大小の体が重なったまま、ぐったりと横たわっていた。女の柔らかな胴に乗った少年は、紫髪を額にはりつけたまま、脂汗にまみれた豊満な胸に鼻先を埋め、うつらうつらしていた。細い両手だけはなおも、歯型だらけの乳房を我が物のように抱え込み、漫然といじくっては、柘榴のごとくはれあがった尖端を時折つねりあげる。

肉布団となって幼い主人を受け止める家畜は、嬲られるたび、かそけきうめきをこぼし、秘裂に収まったままの硬い陰茎をきつくしぼり上げた。幾度かのたわむれのあと、もう腟の奥にもう十数度目かになる迸りがある。

「うぁ…また…出て…」

下腹に広がる温かさにおののきながら、師匠は瞼を閉じ、弟子の種が胎内になじんでいくのを感じとった。どれだけ注がれたのか、身じろぎするたびに、ちゃぽちゃぽと溜まった精液が揺すれるように思えた。

「ルゥ君…ご主人様…確実に我が輩を孕ませるつもりですな…んっ…」

嘲けるような、しかしどこか満ち足りたような響きの独白がもれる。若い雄は聞いているのかいないのか、心ゆくまで欲望を貪りつくし、年嵩の相方を組み敷いたままついに睡みに落ちていくようだった。

「…ふふ…犯すだけ犯して…好き勝手な…でも魔法使いの側で無防備に眠りこけるなど…やはりまだ、おちびさん…」

雌山羊は微笑みを浮かべると、毛むくじゃらの掌をそっと伴侶の額にあてて、菫の髪を掻き揚げた。下から覗いた、あどけない、穏やかな面差しをうかがってから、しずかに眉間のあいだに口付けする。

「…本当にすばらしい才能を持っていますね、あなたは。しかしまだ弱点がある…一人前の男になって、誰からもいじめられず、傷つけられなくなるまで…それを封じておきましょう」

落ち着いたアルトの声が短く聞き取りづらい呪文を詠唱する。わずかに光が飛び散って、ルゥがむずがるように妖術士の乳房に頬をすりつける。

「ぁん…鍵をかけさせていただきましたぞ。哀れな行き倒れを見捨てず、パンを運んでくれた情け深さに。お人好しな性格に。決して付け入られたり、罠にはめられたりしないように。目が覚めたら、我が輩を友達と呼んだことも、高熱に苦しんでいた我が輩を世話したことも…皆々覚えていないはずです」

女は嫣然としながら、そっと少年を引き剥がすと、きりかぶの根元に寝かせた。

「だからご主人様、これから獲物には優しさなど示さず、いっそう容赦なく襲いかかる、逞しい雄に育つのですぞ…」

師匠は囁きつつ、眠り込む弟子からあとずさる。ややあって、ふとかたわらに視線を落とし、白詰草の上に転がった丸い塊に注意を向けた。チーズのサンドイッチ。夜露にすっかりふやけたパンを、うやうやしく拾い上げて、一口かじる。

「…おいしい…ご主人様の手づくりのお弁当…いつも我が輩のために作ってくださった。世界で一番…おいしい食べ物です…そう」

魔法使いは目を細めて、頬に手を当てると、いささか後ろめたそうに、しかし楽しげに付け加えた。

「本当は我が輩、ほかの女性にお弁当を作るルゥ君…ご主人様が見たくないだけなのかもしれませんけれど…」

宵の風が一陣、吹き過ぎると、雌山羊の姿は消えていた。脱ぎ捨てられたローブも、胴着も、食べかけのパンも。

あとには幸福な夢に遊ぶ童児が独り残るのみだった。睡む心にはもはや、淋しさや悲しみはなく、覚えた魔法を使って繰り広げるべき、壮大ないたずらの計画だけがふくらんでいた。

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