Greater Demon

仲の良い友達が、迷宮の魔物をペットにしていると聞いて、見に行くと答えたのは、臆病もののレストにしてはとても珍しかった。

何しろ町外れをうろつく野良犬さえ、遠くから見かけただけで怖さの余り頭痛がしてくるほどなのだ。地下深くに蟠踞するという恐ろしげな異形など想像するだけで、震えが出た。正直なところ、初めて話が回ってきた際は、家事の手伝いとか宿題が忙しいといって断ったのだ。

けれど相手は以前から、外での遊びでも学舎の催しでも決まって先導役になるような子で、ほかの取り巻きが皆ついていったあとは、繰り返しの招待を次第に断りづらくなった。向こうは、いわゆるがき大将というのではない。むしろ背は低くて、幼げな顔立ちをしているのだけれど、どこか無視できない迫力があった。深い青の瞳がじっと上目遣いをしてくると、レストはこめかみの当たりが疼くような感じがして、どんな要求や提案にも逆らいにくくなるのだった。

実際、あの友達なら屋敷にいかにとてつもない妖怪を飼っていたとしても、平然としていられそうだった。そもそも叔父が腕利きの冒険者で、恐ろしい鬼神さえ飼い慣らし、従順な家畜に変えてしまう業を持っているという。幾多の探求を成功に導いたあと、今は迷宮を掌中に収めて悠々自適。いずれは同じ道を歩もうという甥のために、養殖したグレーターデーモンを分けてくれたらしい。

レストの母も、死んだ父も同じ職業に就いていてたけれど、とても比べようはない。羨ましさと情けなさとで、付いていきながら額のあたりがずきずきした。途中幾度も、やっぱり帰ると告げようとしたのに、結局口には出せずに、部屋まで来てしまった。

「ほら、ここだよ…」

友達は仄暗い室内を指差しておいて、レストがびくつきながら覗き込むと、いきなりうしろに回りこんで、背を押した。

「ちょ…待っ…」

「怖がるなって。おい、また相手を連れてきたぞ。挨拶しろよ」

家の主が、声変わり前の喉を張り上げて呼ばわると、奥で何か大きな影が蠢いた。

「ごしゅりんしゃまぁ…?」

虚空に濃い緑をした燐の焔が点り、薄闇を照らした。現れたのは二つの小山。否、乳房だった。レストは凝然としてから、おずおずと視線を上げていき、完全に反り返ったところで、蕩けきった娘のかんばせを認めて、尻餅をついた。

「わ…ぁ…」

「どう?正真正銘のグレーターデーモン。図鑑の絵とそっくりだろ」

牡牛のような角、蝙蝠に似た翼。しなやかにうねる尾に、逞しい四肢。確かに本で読んだ通りの特徴をすべて備えている。でも薄茶の膚はなめらかで、汗に濡れて艶めかしい光沢を帯びていた。重たげに揺れる両胸と、柔らかな腹。この種族が本来持つはずの兇暴さは片鱗も窺がえず、ただただ温和な印象だけがあった。

傍らで衣擦れがする。レストが我に返って省みると、友達は服を脱いで、白い裸身を晒したところだった。

「お前も脱いじゃえよ。これからこいつで遊ぶのにさ」

「あそ…ぶ?」

巨躯の娘は白痴めいた可憐な笑みを浮かべると、むっちりと太い腿を開いて、しとどに濡れそぼった秘所を広げてみせた。

「ひゃぃ、…あらし…のかりゃだ…つかってきもちよくなってくりゃひゃいっ♪」

意味は分かった。同級生が皆、友達の屋敷から帰ってきたあと秘密めかして楽しげに囁き交していた訳も。レストは頭痛とともに心臓が早鐘を打つのを覚えて、肋のあいだのあたりで拳を握り、服を掴むと、上気した顔でじっとグレーターデーモンを眺めやった。

雲付くような背丈にはおよそ釣り合わない、ひどくあどけない面差しが、不思議そうに見返してくる。絹糸のような黄金の髪が燐を反射し、後光のような淡い輝きを帯びていた。大の男の一人や二人、たやすく捻り殺せそうな力強い手足と、底抜けに気の良さそうな表情、加えてどこか懐かしい体の匂いが、昔は戦士だったという母と重なる。

「い…いいよ…やっぱり…」

「なんだよ。こいつはおとなしいっていったろ」

「だ、だって…人間みたいだし…こんなの…あんまり…」

語尾を濁しながら告げると、友達は瑠璃の双眸に鬼火を煌めかせ、ペットに近付いて、臍の周りを叩いた。

「こいつは番うのが大好きなんだ。お前のもすごく欲しがってるよ」

「ひゃい…このひと…とっても…いいにおいがしましゅ…よくしってるような…」

迷宮では死そのものとさえ呼ばれる魔物は、幼児のように指を咥え、興奮の印に乳房から薄ら蜜を零しながら、やや恥ずかしげに答える。小さな主は頷いてから、おもむろに振り返った。

「やっぱりな。レストを気に入ると思ったんだ。だから最初に呼んだのに…来ないんだからな…ほかの奴等ばっか…いいから早く脱いじゃえって」

友達がいたずらっぽく笑って、濃紺に輝く眼差しを注いでくると、レストは視界がぐらつき、頭痛さえ覚えて、我知らず指を服の裾にかけ、めくりそうになってから、辛うじて止まった。のろのろと首を横に振って、途切れ途切れに呟く。

「ううん…ごめん…何か…よくない気がするし…」

すると相手は、いっそう瞳の灯を強めてから、急に瞼を閉ざすと、後ろ向きにグレーターデーモンの胸のあいだに倒れこんだ。娘は微かな喘ぎを漏らして巨躯を震わせたが、おとなしく小さな重みを受け止める。乱暴な扱いをし慣れているのか、主はふんと鼻で息をしただけで、張りのある牝肉の椅子の上で手足を伸ばすと、枕代わりのたわわな双丘を掴み、弄びながら尋ねた。

「それって、やっぱお前のお父さんの影響?それともあのきれいで怖いお母さんのせい?」

「え…?」

「それはないか…いや、お前のお父さんて、神官だったんだろ。だから頭固いのかなって」

「…か、関係ないよ!そんなの…」

冒険者としては友達の叔父に遠く及ばない、亡き片親の話を持ち出されて、レストはついきつく反駁してしまった。同時に朦朧としていた思考も澄んでくる。ふらつきながらも起き上がって、壁にもたれた。まるで冬至の祭りで林檎酒を飲んで酔っ払った時のようだった。こめかみの疼きと、肌の火照りはひどくなるばかりだ。

すると友達はにっこりする。

「…ま、いいよ。叔父さんも、お前のお父さんは尊敬してたって…色々あって別れたけど、昔は同じパーティに居たんだってさ」

「うそ…」

神官の子は、美しい魔物への気後れも、頭の痛みも忘れて身を乗り出した。心拍がまた早くなる。本当だろうか。聞いた話では、父は探求のあいだに出遇った戦士の母と結ばれたあと、すぐに現役を引退し、施療院でごく地味な仕事に就いていた。患者から病を感染されて倒れ、一冬のうちにあっけなく薨っても、わずかな縁戚や職場の同輩のほかは弔問に訪れなかった。そんな侘しい生涯を遂げた男が、一度は英雄と肩を並べて戦っていたなどと。

「ほんとだって。叔父さんがまだ見習のころだよ」

相手はまじめくさってうなずくと、いきなり首を預けていた乳房を捕え、ぎゅっと下から揉み潰した。グレーターデーモンがか細い悲鳴を零して、うつむく。唾液と白蜜が主にかかり、股のあいだからは淫液が小水のように溢れていた。

「どうしたの?」

「…ぁ…」

「はっきり言いなよ」

「ごしゅりんしゃま…して…ほしいいです…」

「へー待てなくなったんだ。どっちとしたい?俺と?それともレストと?」

「う…あ…う…」

真底困ったように二人の少年を見比べる魔物の娘。友達はやれやれと肩を竦めると、脚を組んで、また正面に向き直った。

「分かったよ。やっぱりさ。冒険者たるもの、他人から貰うだけじゃなくて、自分で獲物を手に入れないとね。お前は、ほかの奴とは違う。同じように扱おうとしたのが悪かったよ」

返事にあぐねていると、向こうは背を反らせて、軽く”椅子”に頭突きをする。巨躯の娘は合図を受けると、壁際にある棚に長い腕を伸ばし、黒ずんだ巾着を一つとって、恐る恐る差し出ししてきた。

「…あの…これ…あう…」

口べたなペットに代わって、主が説明を補う。

「魔物を飼い慣らす護符だよ。俺が自分で使おうと思ってたんだけど、お前に持たせた方がうまくいくような気がしてきた」

「…そ、そんなの無理だよ…」

「できるよ」

素早く反駁を遮った少年は、甘い笑みを浮かべて囁いた。

「冒険者の息子なら、さ」


帰途に就く頃には、空は茜に染まり、くすんだ煉瓦作りの町並みも、刷毛ではいたように暖かな色に染まってた。けれどよろけて掌をつけば、伝わってくるのは冷たさばかりだった。しっかりしようと、深呼吸したところで、咳き込んでしまった。

固く握り締めたふくさから、脈打つような波動が神経を伝わり、額の隅、生え際の辺りに達すると、こごって疼きとなる。あとには、まるで新しい歯が生えてくる時のようなむずつきが、いつまでも続いた。

強い魔法が働いているのだろう。もともと妖術の類には拒絶反応を示しやすい性質だというのに、何故またかくも危なげな品を受け取ってしまっただろうか。

レストは巾着をポケットにしまうと、迫りくる宵の影を振り切るように走った。しばらく駆けていくうちに、風が頬や首筋をすり抜けて、友達の屋敷からついてきた熱夢の名残りを振り払っていく。やがて小路の突き当たり、唐草のような奇妙な模樣が絡んだ木戸に行き当たる。

「ただいま!」

挨拶をすると、粗末な扉は音もなく開いた。急いで潜り抜けようとすると、ポケットが取手に引っかかった。焦って外そうとするがうまくいかない。苛だって、意地悪をする戸に叫びかける。

「通してよ!入りたいんだ」

すると言葉か通じたとでもいうように、ポケットが自由になった。中へ駆け込むと、すぐにおいしそうな匂いが鼻をくすぐった。魚と芋の練り物を香草で煮込む、母、グレナの得意料理に間違いなかった。

「お母さんただいま!」

もう一度叫ぶと、台所から返事がある。

「遅かったね。ごはんの用意ができてるよ。手を綺麗にしてきな」

耳に響く低く快い声に、レストはようやくと現に戻った心持ちで、我知らずにっこりして盥の側へ駆け、水差しを傾けて丁寧に指のあいだまで洗った。踵を返して食卓へ行くと、がっしりした長い手が、ちっぽけな椀を並べ終えるところだった。

視線を上げると、日に焼けた、端正な顔が微笑みを浮かべて見下ろしていた。前掛けの中に窮屈そうに収まった、たっぷりした乳房も、広い肩も、高い丈も、友達の屋敷にいた魔物の娘とどこか通じる風情があった。ただし、まかり間違っても品など作りそうもない。

訳もなくほっとして席に座ると、父に教わった祈りを唱えてから匙をとる。一口めを味わうと猛然と空腹が襲ってきて、自然に手が動いた。

普段と別人のような我が児の健啖ぶりを、母はちょっと驚いたように、しかし嬉しそうに眺めやってから、前掛けをとり、乳房を大きく揺らして解放すると、椅子に腰かけて、ゆっくり食べ始めた。

ややあってレストは、ポケットの奥から、また全身に痺れが広がるのを覚え、はっと頭を上げた。匙を置き、こめかみをさすりながら、グレナへ話しかける。

「…ねぇお母さん」

「何だい」

「…お父さんも、お母さんも冒険者だったんでしょ…迷宮の最下層で出会って…それで結婚したって」

元戦士はくすぐったそうに頷いた。

「そうだけど」

「あの…じゃぁさ。知ってる?魔物の飼い方」

「何だって?」

まだ若々しさを保つ整った造作に、急に暗雲が漂い始める。逆鱗に触れたと悟って、息子は舌をもつれさせ、そわそわと視線をあちこちへ散らした。かつては二十斤の斧槍を軽々と振るったという腕が、食卓を叩いた。

「レスト!いいかい!魔物を飼うなんてのはろくでもない真似だよ!」

「ぅっ…」

「よそん家で何を見聞きしたか知らないが、履き違えるんじゃないよ!冒険者が迷宮に潜って、命を賭けて魔物と闘うのは勇敢で、誇り高い行いだ。だけどね、家畜やらペットやらと同然に扱おうってのは、敵を貶め、引いては己を貶める考えだよ!」

「ご、ごめんなさい」

だが母は収まらぬようで、犬歯を剥き出しにして身を乗り出してきた。恐ろしい剣幕と、水架のようにずっしりした二つの肉鞠がともどもに迫って、レストは息が詰まる思いだった。

仔犬のように項垂れる息子に、元戦士をしばしにらみつけてから、ふっと肩の力を抜くと、椅子に戻って、腕組みをした。

「ったく。あの人が居たら何と言うだろうね。いいかい。お前のお父さんは、魔物にも心はあると説いて、そういう下劣な習慣を止めさせようと努めたんだよ…損得抜きで…例え人間から後ろ指を差されようともね。おかげで、あたしは…」

「?」

「まぁいいんだよ。それより、下らない事ばっかり覚えてくるなら、あんたの学舎での付き合いについても考え直す必要があるねぇ…」

「え、待ってよ!」

少年は慌てて抗弁する。楽しい夕飯が一転して叱責の場に変わり、さらに矛先があらぬ方へ向かうとは踏んだり蹴ったりだった。だが我が児の戸惑いなど構いつけもせずに、女親はむっつりした表情で天井を仰ぎ、独りごちる。

「前からいけ好かないちびだったったね。やたらとお前を連れ回して、子分扱いしてさ」

ぶつくさ零すグレナに、今度はレストがたまらなくなって立ち上がった。

「違う!友達なんだよ!あいつは、同じ冒険者の家の子だからって…大事なアイテムだって貸してくれたんだ!」

「アイテム?」

母がぎょっとして目を開くと、息子はやけっぱちにポケットから巾着を出して、紐を解いた。忽ち緑の閃きが部屋いっぱいに広がる。

「なっ…ああああああああァアアアアアア!!!!!」

響き渡った女の絶叫は、まるで獣のような、いや、魔物のような凄まじいものだった。出し抜けに黒い旋風が食卓を引っくり返し、少年を床へ打ち倒した。

眩い光の洪水はしばらく続いたあと、徐々に弱まり、ついには何事もなかったかのように消え失せた。あとにはただ、ぶちまけられた料理と、めちゃくちゃに壊れた丁度の類があるだけだった。

やがて少年は呻きながら起き上がったが、生え際の辺りににかつてない痛みを覚え、失神しそうになった。涙の溜った両眼をしばたたいて、辺りを窺がうと、狭い室内の中央に、異形の姿があった。

見覚えのない。いや確かに馴染みのある、魁偉な輪郭。ねじれ角に、被膜の翼。のたうつ尾に、剥き出しになった双つの果実、ふっくらした腹。友達の屋敷で見たのとそっくり同じ、グレーターデーモン。しかしあの若い牝とは比べようもない、激しい体臭が、レストを酔わせ、ほとんど溺れさせそうになった。

「あ…ぁ…そんな…この魔法は…あいつの…」

グレナは喘ぎながら、長い指を股間の茂みに埋め、まさぐり出した。気丈な容貌は、すっかり淫欲に緩み、抑えがたい衝動に押されて、荒く息を吐きながら、絶え間なく床に涎を落とす。

「お母…さ…ん?」

「…来るん…じゃない…見るんじゃない…お願い…見ない…で」

一度も耳にした覚えのない、可愛らしい声。母が男に甘える時の声だと、すぐに分かった。血管が沸騰するような熱が全身を駆け巡って、堪え切れなくなった息子は、震える手でまとっていた服を掴むと無造作に引き裂いた。

異形の女は、眼前に露になった未熟な裸体に魅入って、ごくりと喉を鳴らす。興奮の余り泪と洟を垂らしながら、しかしなお人の親としての志操と、魔の牝としての本能のはざまでもがくように、腕と脚とをよじれさせ、幾度も歯咬みし、また秘裂を掻き毟るように弄った。

少年は瞳を虚ろにさせて、華奢な手を前へ差し延べると、官能の渦に耐えてわななくただ一人の家族のもとへ歩み寄り、そっと抱きついた。

「お母さん」

「だめ…触っちゃ…だめ…戻っちゃう…あたし…昔に…あの人に会う前の家畜に…あいつに…ご主人様に飼われてた頃の駄牝に…」

「お母さん」

「レスト…だめなの…お願い…」

「お母さん…大好きっ…大好きだよっ…」

「ぁっ♥」

幼い息子が、甘やかな滋養をこぼす乳房にかぶり付くと、逞しい母はぶるりと柔らかな肉を震わせて、本能を理性につなぎとめる最後の糸を断ち切った。

昨日まで、たった二人だけのつましくも穏やかな暮らしを営んできた住処で、大小の肢体は激しく絡み合い、もつれあって、とめどもない悦楽の泥沼へ沈んでいった。


角燈の明かりが消え、部屋に闇が堕ちても、母子の営みは衰えずに続いた。レストが細い腰を打ち振って一突きするごとに、グレナは蓬髪を降り乱し、長い四肢で床を引っ掻いて、懸命に衝撃をこらえようとするようだった。

だが人ならぬ寡婦はやがて鉤爪を木板に食い込ませたまま、胴を宙に浮かせ、半ば白眼を剥いて絶頂に達する。二周りも小さな子供は、しかしなおも自らの生れ落ちた場所を貫いて、本能の赴くまま執拗に攻め立てた。

「ひっ…レストぉっ…レストぉっ…」

「お母さ…また逝っ…た?」

「ひっだぁ…ひっだがらぁ…やめ…いっだばっかりはぁ…苦しいのぉっ…ぁあああ!!」

「ん…お母さっ…」

少年は眉を寄せたまま、華奢な両脚に力を込め、腕をいっぱいに広げても抱えきれない巨躯にしがみつく。同時に果てようとする望みを叶えられぬまま、もう幾度、逞しくも感じやすい相方に気を遣らせただろう。やっと精を放つ段になっても、女親はすっかり忘我の態で、乳房に歯を立てて目覚めさせねばならなかった。初めて牝を犯した若い雄の拙さ故に、互いの官能はかけ違った釦のようにずれたままだった。

どんな印でもいいから絆を確かめたい。思い詰めると、急に動きを止め、日頃の凛々しさを失って泣き崩れる母の顔を、上目遣いしながら尋ねる。

「またっ…出していい?」

「!!?らめぇ…らめなのぉ…赤ひゃん…赤ひゃんでひちゃう…」

「もぉ…できてる…きっと…」

「ひっ……ぁ…」

ひどく心細げな容貌が、涙をこぼしながら左右に振れる。食卓に座って道を説いていた女戦士の面影はどこにもない。弱々しく拒む仕草にさえ媚びがあった。

経験の浅い男児は、機微を察せなくても、陽根にからみつく腟の締め付けから真情を理解すると、しとどに濡れた花弁の奥へ、罰を与えるように激しく肉杭を打ち込んだ。

「あ゛ぉ゛お゛お゛ぉ゛っ!!」

「お母さ…ん…僕の…子供…いや?」

「あ…が………だ…め…」

「だめ…なの?」

少年が濡れた瞳で悲しげに見つめると、グレーターデーモンは息を詰め、背筋をおののかせていたが、とうとう理性を手放して蕩けた笑みを返した。がっしりした両手両足すべてを使って、でちっぽけな伴侶をしっかりと抱き竦めた。

「いいよぉ…レストのぉ…息子の種で孕ませてぇ!!!…濃い血でぇ!!いっぱい強い仔産むのぉっ!!」

「っ…お母さ…ん」

禁忌を破る宣言が火をつけたように、グレナは再び昇りつめた。レストもまた、やっと求愛を容れてもらえた安堵と恍惚から、小振りの精嚢を縮め、秘具を脈打たせて、命の素を熱い胎内に解き放った。

丈の差がありすぎるために、つながったままでは口付けさえ交せない。だが母子はともに、歓楽を奏でられた余韻を噛み締め、にかわで張り合わせたようにぴたりと肌を重ね、瞼を閉ざしたまま、それぞれの温もりにひたっていった。

どれくらい経ったろうか。かすかに冷たい風が吹き込むのを覚えて、女親ははっとすると、まだ陶然としている我が児を引き剥がして、起き上がった。

「誰だい!」

暗がりに向かって呼びかける声は、歴戦のつわものらしい勁さを取り戻していた。裸のまま、たった一人の家族の前へ立ちはだかるような位置について、油断なく身構える。

「こんばんわ」

緑の燐が虚空に炸け、病んだ光で周囲を照らす。浮かび上がったのはレストと同じような背格好の少年の、小山のような悪魔の娘。

「…お前は」

「どうも、レストのお母さん。いや、グレナって呼んだ方がいいかな」

「生意気なちびだね!呼び捨てにされるいわれは…」

ご主人様・・・・への口の利き方がなってないな」

青い双眸が短剣の切先のような煌めきを放つと、今にも撲りかからんばかりだった女戦士は、いきなり腰を抜かして尻餅をついた。だらしなく舌を突き出し、息子の精と小水を漏らしながら、息を荒らげ、肩を震わせる。

「粗相をするなんて、しつけが足りてないね」

「ぁ…見るな…くっ…ぅ…」

「そうじゃないだろ。ちゃんとお行儀よくしろよ。ご主人様の前なんだからさ」

幼い主人が眼差しで射竦めると、妖魅の寡婦は怯えを顕し、すぐに股を開いて、茂みの奥にある真紅の襞に鉤爪をひっかけ、大きく広げてみせた。

「ご、ご主人様ぁ…だらしない汚まんごぉ…よくご覧になって下さい」

「うん。芸は忘れてなかったみたいだね。おいで」

童児が莞爾として招くと、グレナは叱られずに済んだ喜びに尻尾と双臀を振りたてながら、四つん這いになって、側へ寄った。次いでいそいそズボンの前をくつろげ、半勃ちになった無毛の細茎にしゃぶりつく。

息子の同級生の性器を咥えながら、若母は先ほどの行為の最中にすら見せなかった、てらいのない欣びに全身をくねらせた。忠実な奉仕を褒めるように、丸まっこい指が髪を梳くと、いっそう熱心に舌を使う。

幼い主人は上機嫌で頷くと、ややあって顔をもたげ、くすりと息を漏らした。

「お母さんのこんな姿をみて、興奮しちゃった?二匹とも・・・・

背後で、お預けを食っていたもう一体のグレーターデーモンが、からかいの言葉を受けて太腿をこすり合わせ、切なげに喘ぐ。とても迷宮の覇者とは思えないい可愛らしい仕草だった。

正面では、ようやくと我に返ったレストが、信じられないものを見るように、女親の豹変ぶりを凝視していた。

「お母さ…ん…なん…で」

「グレナはさ。叔父さんが駆け出しの頃に捕まえて仕込んだ繁殖用の牝なんだよ。もとは野生だったけど、すごく気性がよくて、すぐになついてさ…元気な赤ちゃんを沢山産めたのに…」

「うそ…うそ」

寒さとは別の理由でわななく発育不良の裸を眺めながら、青い瞳の童児は愉しげに喉を鳴らした。掌は依然として、真下で口戯に耽る大柄な家畜を、可愛くてたまらないというように撫でている。

「んっ…本当だよ…なのにお前のお父さん…って名乗ってただけだけど…あいつが…横恋慕して、攫って逃げたんだ。魔法で洗脳して、都合のいい考え方まで与えて」

「…そんな…の…」

相対する少年は呆然と立ち尽くす。同級生はややあって、肩越しに振り返ると、涎を垂らしている巨躯の連れに云った。

「ほら、いいよ…お前もグレナと一緒にして」

「ふぁ ♥」

悪魔の少女はいそいそと屈み込むと、四つん這いになって年嵩の同族の隣に並び、主の秘具を奪い合うようにしてむしゃぶりつく。だが舌と舌とが触れると、自然と絡み、むつまじげに唾液と先走りを交換した。

「お母さ…ん♪」

「んっ…んっ♪」

「…っ…仲良くね」

狭い室内でグレーターデーモンの母娘が尻と尻をぶつけ、翼と翼を打ち合わせ、口淫に耽るさまは、それだけで息苦しくなるほどの量感があった。

「…叔父さんが…尊敬してたってのは…っ…本当さ…あのむっつりな神官が…そこまで大胆になるなんて…想像もしなかったって。でも…」

二匹の牝を平等に撫でながら、幼い主は大人びた、やるせないほど優しげな微笑みを浮かべる。

「人間の力で悪魔の本能を抑えるなんて無理があったんだよ…だから早死にして…掛けた術だってどんどん弱まって。一度でも血族と交われば、こんな風に昔を思い出す」

「んっ…んっ…」

異形の本性を現した女親が、心まで見知らぬものものに変わってしまったかのごとく、無心に他人の秘具をねぶる傍らで、レストが繰り言のように呻いた。

「うそだ…うそだうそだうそだ…」

友達は肩を竦めてから、年増の妖魅を眺め下ろした。

「グレナは誰のものかな?」

「ぷはっ…ごしゅじんさまですぅ♪ごしゅじんさまのものですぅ。あたしの口もぉ汚まんごもぉ…けちゅもぉ…むねもぉ…ぜんぶぜんぶごしゅじんさまにお仕えするためにあるんですぅ」

「死んだ旦那さんはいいの?」

「あはっ♪あんな粗ちんどうでもいいですぅ」

「じゃ、この家を出て、俺だけの家畜になる?」

ぴくりと広い肩が震え、稚ささえ感じさせる悪魔の顔立ちは、せつなのあいだ強張ったが、やがて深藍の双眸を受け留めきれなくなり、うつむいた。

「はぃ…」

「聞こえないよ。はっきり言って」

「な…なります!!」

「人間ごっこなんてやめるね?偉そうなお母さんのふりとかさ…可愛がってほしかったら…ぜんぶだめだよ。じゃなかったら捨ててくから」

「ぅ…ぁ…やめますぅ!!人間のふりなんてしません!!母親なんかもういいです!!あたしはぁ…駄牝だからぁ…だから…お願いします捨てないで下さい…捨てないで下さい」

「うん。分かった。ちゃんと飼ってあげる。いい子だね」

若い母は嬉しさの余りぼろぼろ涙を流しながら、努めて息子を無視し、懸命に主人の陰茎の鈴口へしゃぶりついて吸い立てる。傍らで娘も負けじと幹に舌を巻きつけ、無邪気な熱心さで寵を引きつけようとしていた。

独り蚊帳の外の童児は、小さな拳を握り締めてうなだれた。

「…う…うう」

「はぁっ…ここまでされても…ふぅっ…じっとしてるんだね…レストはっ…やっぱりあの神官はすごいや…お前みたいなのが…そんな風に…育つなんて…さ」

招かれざる客が、深藍の瞳を煌めかせて告げるのへ、家族を奪われた少年は下を向いたまま、搾り出すような声で尋ねた。

「なんで…なんでだよ…友達だって…」

「俺がいつそう言った?初めからお前を友達だなんて思ってないよ。それにほら、冒険者たるもの、他人から貰うだけじゃなくて、自分で獲物を手に入れないとね…中古のグレナは…そのための練習台って訳」

にっこりする相手に、レストは凄まじい頭痛を覚えながらも、犬歯をむき出して唸った。

「う…渡さない…お母さんは…渡さない!!」

床を蹴って、迅雷のような勢いで飛び掛かる。宙に浮かびながら細い腕を振り上げると、滑らかだった掌は瞬時に膨れ、ごつい輪郭を帯び、禍々しい鉤爪を伸ばす。額からは二本の角が皮膚を突き破って、背には蝙蝠の翼、小振りな尻からはしなやかな尾が生える。

「やっとか…」

黒い死の影が襲いくるのを、青眼の少年はしかし平然と待ち受けた。

仔悪魔は、輝く眼差しに射抜かれると、攻撃を中途で止めて、母と姉の背に落下した。四枚の羽が優しく稚い同属を受け止める。

「ぇ…ぁっ…ぇっ?…」

「神官が攫ったとき…グレナのお腹にはもう仔がいたんだよ…レスト…お前さ」

「な…」

「入学式のあと、そばに行った時すぐに分かったよ…お前の姉と同じ匂いがしたから…」

幼い主は、三番目の家畜(・・・・・・)の、ふっくらした頬を挟んで、支配の印に唇を奪う。

「だから友達なんて思う訳ないだろ。お前は俺の…最初の獲物なんだ…」

「ぃ…ゃ…」

「俺を好きにさせてみせる…叔父さんにできたんだから…俺にもできるよ」

同級生の丸まっこい指が髪を梳ると、レストの背にぞくぞくと得体の知れない快さが走る。流されまいと身をよじろうとしたところで、また口付けがあって、脳裏が真白に灼けた。

「…神官はお前にも魔法をかけたんた。グレナより強く…でも…もう破れたと思う…俺の勝ちだ…ね…俺の牧場には種付け用の牡がいるんだ…レストみたいに、きれいな毛並みで、芯が強くて…牝と相性がいい…」

「ぅ…そん…な…のっ…」

「レストはグレナとのあいだに、沢山強い仔を作るんだ。俺のために」

幼い主は、小さな牡をそっと母牝(ぼひん)に引き渡す。歓声とともに堕ちたグレーターデーモンは我が児にむしゃぶりついた。

「ごしゅじんさまぁ…」

あぶれた一匹が淋しげに摺り寄るのを、少年はしっかり抱き締める。

「折角会えたお母さんが弟にとられて淋しいんだ?でもほら、お前には俺がいるだろ」

「はい…」

「ふふ…よしよし」

未来の冒険者は、早くも三匹に増えた家畜の群を満足げに眺め渡すと、明日からの交配と、迷宮の踏破に向けた計画に思いを馳せていった。

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