The Colosseum

世界を統べる帝国の心臓部にあって、絶えず血なまぐさい熱気をのぼらせる地下競技場。

都 市の堆積に深く埋めこまれた巨大な構造物。高さ二十丈、差しわたしは百三十間もあろうという円蓋に、今宵も数十万の観客がつめかけていた。客席からの歓声 と怒号がこだまするなか、試合に立つのは、ただ二人。いや二匹、というべきか、それぞれ奇怪な面と宝玉をちりばめた首輪をつけ、肌もあらわな姿でむかいあ い、たがいを威嚇する奴隷だ。

いずれも性闘士。帝国に敗れたまつろわぬ民の(つわもの)から選び抜き、徹底した調教と改造を施して、見世物として淫らな技を競わせる生きた玩具だった。

一方は(あかがね)の 肌をした筋骨たくましい女で、猫の頭を模したかぶりものをし、胸も腰も隠さず、孕んだかのごとくふくらんだ腹だけを革紐細工の胴着で包んでいた。先ほどか ら前かがみの格好になり、無数の傷痕が散る太い両腕を地につけ、熟れた瓜のごとき両胸を重たげにゆらして、ごつい金輪のはまった乳首から白蜜を滴らせ ている。

半獣を思わせる容姿にふさわしく、時折はしなやかに背をそらし、鋼索をより合わせたような太腿と、引きしまった双 臀を高くもたげ、艶めかしくうちふると、菊座にねじこんだ二本の張型を見せびらかし、直腸や膣腔、尿道に溜めこんだ媚薬入りの香水を噴きこぼした。後孔を えぐる極太の玩具には、それぞれ白と黒の尻尾がつらなっており、女が舌を突きだして喘ぎ、痴態を示すたび、まるで生きてでもいるかのように踊りくねった。

対 する敵も同じく緋色がかった膚を持っていたが、なりはずっと小柄で、四肢も若木の枝のごとく華奢だった。生まれつきの矮躯か、はたまた軽捷さを維持するた めわざと発育をとめたのか、あるいは何かほかの理由かはわからないが、性闘士としてはいかにも重量不足に見える。肋の透ける胸は乳首のまわりで微かな盛り 上がりを示し、胴も妊娠初期のような丸みをおびていたが、股間には小兵に似合わぬ剛直が脈うっており、どうやら性別は男であるらしいと知れた。

鼻 先のとがった狐の仮面でかんばせをなかばまでをおおっており、露になった下あごは細く、抜き身の刃のような印象を与える。痩せがちな両脚と不釣合い に脂肪の乗った双臀のあいだには、ふわふわした尾つきの張り型が合わせて九本も刺さり、拡がりきった括約筋のなかではげしく振動しぶつかりっては、やかま しい響きを立てていた。

やがて競技場の高みに幻像が浮かび、双方の名前を戦歴とともに紹介する。長躯の女は王者”化猫”、細身の挑戦者は”妖狐”。それぞれの写真のそばには、くっきりと明るく数字がともっていた。

猫のかたわらに輝いたのは六。首輪についた十個の珠のうち六つが黄金の光をおびた。

たちまち観衆に大きなどよめきが走り、庶民が占める一般席にとどまらず、貴賓席をもざわめかせる。

すると盛り上がりに応えるかのように、舞台の端で動きが起きた。円蓋の真東と真西には、出場する奴隷のそれぞれの飼い主が陣取る縁台が設けられてい たが、まず東にある王者の側から、肌に張りつくような文目の衣をまとった婦人が現れ、ほっそりした腕をかかげた。たちまち会場から万雷の拍手が湧く。

呼応するように西にある挑戦者の側にも動きがあった。目深に頭巾をかぶった小柄な影が現れ、何かの合図をする。

狐の側には初め五、次いでやはり六の字がひらめき、同じく首輪の宝玉に灯がともった。

ふ たたび騒鳴が起こって、さざなみのごとく広がっていった。競技場を包む狂熱はいっそう高まり、猛然と稼働する空調をよそに、汗の匂いは濃さを増し、むせか えるほどになる。罵りに手拍子、楽器の鳴る音を混じえつつ、やがて叫喚は巨大な半球の天井をゆすぶり、万魔の咆哮を思わせるこだまを産んだ。

数字が意味するものを会場にいる全員が承知し、歓迎している風だった。

嗜 虐のまなざしが雨のように注ぐ下で、しかし二匹の性闘士はもはや客席の反応など構いつけず、口の端から泡をこぼしながら、構えをとると、前足で地をかき、 それぞれ稲妻のごとくに跳びだした。大小の体は、からみあう緋の旋風となって、たがいの艶やかな肌を歯と爪で襲い、すさまじい打突を浴びせた。血と汗の匂 いがたちのぼり、盛りのついた獣じみた叫びが奔る。

会場が歓声にゆれるなか、虚空にたゆたう幻像だけが、ただ六、という数字を並べて瞬かせたまま、静かに、冷たく、どこか訳知り顔に、狂躁にみちた決斗をながめおろしていた。


「…もう銀千草(ぎんせんそう)が咲くころだな…」

地下競技場の覇者、化猫こと朱羅(あけら)は最近、試合の間際になると、決まって回想に沈むようになっていた。

決斗に先立って気を散らす危うさは承知していたが、数年のあいだ最強の名をゆるがせず、あとわずかで自由に手が届くというところまで来ると、奴隷となる以前の記憶が意識を満たすのを抑えきれなかった。

喪われた故郷で過ごした青春。帝国の侵略にあらがう義勇軍の一員として、仲間とともに武器をとった日々。分けても戦場に消えた夫、白夜(びゃくや)の少女のように優しい面影がまぶたの裏に浮かぶと、かつては悲しみしかなかったのに、今は不思議な暖かさが胸裡にしみわたった。

物心ついてからの幼馴染で、いつも一緒に煌めく針群のような花をつける銀千草の野原を駆けまわった。成年となる十二周期を迎えてすぐむすばれ、短い蜜月を過ごし、砲火のもとでたがいの命が消えるまでに何かをのこそうと、性急に愛を交した。あの時得た一粒種の朱哉(あけや)も、無事でいればそろそろ当時の父親と同い年になるはずだ。失った伴侶の容貌が頻繁に脳裏に甦るのも、よく似た顔だちに育っただろう息子に思いをはせるから、かもしれない。

「これが終わったら…」

解放奴隷になれたら、どんな手段を使ってでも朱哉の消息をつかみ、必ず取り戻すつもりだった。いかなる代価をしはらおうともいとわない。とはいえ、もはや朱羅に差しだせるものなど、ほとんどなかったが。

恥辱に塗れながら鍛え抜いた躰を除いては。

あらためて五尺六、七寸におよぶ背をのばすと、羚羊のような脚をわずかに開いてまっすぐに立った。帝国の秘薬で鞠のようにふくらんだ乳房は、呼吸にわせてゆっくりと上下し、茜がかった肌は汗の滴を煌めかせ、張りも艶も十全の健康を示していた。

しばらくのあいだ、ほの暗い控え室には、ゆるやかな息使いだけが続いていた。だがやがてどこからともなく、涼やかな鈴鳴りが広がって、こもった静けさを破る。

ふりかえると、ちょうど扉が開いて、ほっそりした娘が入ってきたところだった。朱羅にはおよばないものの、かなり丈が高く、錐を想わせる細身に張りつくような文目の服を着け、薄紗でおおった細い手を、かたわらにある布のかかった台車にそえている。

「まもなく時間ね」

藤色をまとった麗人は、柔らかな声でそう告げてから、ちょっと唇をむすんだが、暁の膚をした奴隷があごをしゃくって先をうながすのを見ると、淡い微笑をひらめかせ、かさねてたずねた。

「主人として、試合前に確認しておくわ。あなたの負荷はいつものように段階・五で、いいのね?」

どこか諧謔のにじむ口ぶりに、朱羅はきれ長の双眸を細めると、つとめておだやかな調子をたもってたずねかけた。

「ああ。だが負荷による追加報酬を確認しておきたい」

「追加報酬はなし」

にっこりと応じる娘に、長躯の女はせつな凍りついてから、一歩つめよった。

「どういう意味だ」

「言葉通りよ」

十束の剣で貫かんとするかのような凝視にも、苧環の衣をまとった主人はどこ吹く風という態度だった。猫の仮面の性闘士は、かちりと奥歯を鳴らすと、大きく息を吸いこんでから、一句一句噛みしめるようにして述べた。

「段階・五で追加報酬なしとは納得できない。規則の変更があったとでもいうのか」

「規則に変更はないわ」

「では報酬がない理由を説明しろ、紫雅」

紫雅と呼ばれた娘は長い睫を伏せてから、急に抑揚を欠いた返事をした。

「挑戦者も負荷の段階・五を選択している」

意外な回答に朱羅が息をつまらせると、紫雅はすばやく歩みより、楽しげに語りかけた。

「本当よ。挑戦者はすべての試合で負荷の段階・五で勝ち上がってきたわ。だから新顔なのに王者と試合をする権利を得たの。むこうもかなりのばくち好きね」

面白がっているようでいながら、いくばくかの賞賛も混じった説明に、奴隷は静かにうなづいた。試合における負荷とは、不利な条件を受け入れるのと引き換えに、追加報酬を得られる仕組みだが、段階・五となると特別だ。

負けた側の性闘士は、我が身の自由をあがなうために蓄えた報酬をすべて勝った側にしはらい、主人も奴隷そのものを相手にゆずりわたし、競技場への参加権を永久に失う。

一方で見かえりも大きく、勝利した場合の報酬は、相手が同じ負荷を引き受けないかぎりは数十倍から数百倍にもなる。

”化猫”が短期に頂点へとのぼりつめ、さらに自由まで獲得しようとしているのも、過剰ともとれる危険を冒しながら勝ち続けてきたおかげだった。しかしよもや、同じ条件で戦う敵がいようとは。競技場の王者はかすかに頭をふると、抑えの利いた語調で訊いた。

「で?お前がここへ来たのも、何か茶番と関係があるんだな?」

「もちろんよ愛しい朱羅。負荷の段階・六を受けてみない?」

性闘士は虚を突かれたように大きく瞳を開いてから、唇を引きむすんで唖のようになった。数分の沈黙のあとで、たおやな主人はじれったそうに語句を継いだ。

「負けた主人は奴隷に堕ち、性闘士は”家畜”に堕ちて、ともに勝った側の主人にゆずりわたされる」

「家畜…」

帝国においては奴隷よりなお悲惨な、二度と浮かび上がる機会のない身分。子々孫々にいたるまで誰かの所有物としてのみ生きる最悪の境遇だ。

すでに運命の天秤の片方に転落を、もう片方に解放をのせ、刃の上をわたるようにして勝利を積みかさねてきた。今度はさらに破滅をも賭けろというのか。

朱羅はかすかにおののいてから、怒った猫そっくりに背をふくらませると、楽しげに見守る紫雅へと鋭いまなざしを投げつけた。うかがうかぎり、一蓮托生の窮地にあえて踏みこむのを恐れてはいないようだった。

「何故だ?お前には危険が大きすぎるだろう」

うら若くたおやに見える主が、都でも指折りの富豪で、商売ではあちこちに恨みを買っているのは知れていた。奴隷になったあと大金を積んで元の身分に戻れるとしても、しばらくは無防備になるのに違いはなかった。

竜胆をまとった婦人は、しかし泰然と応じる。

「勿 論、朱羅を信頼しているのよ。でも気が進まないなら、やめておきましょう。いっそ棄権してもよいの。近頃、皆あなたの強さに腰が引けて、挑戦がなくなって しまったから、ついこんな無鉄砲との試合を承知したけれど…でも何度も言うようだけど、私は朱羅にはずっとそばにいてもらいたいくらいだし…あなたさえよ ければ…」

「やめろ!」

地下競技場の王者は吐き捨てると、まぶたを閉ざし、ふたたび脳裏に失った夫の横顔を描いた。さらにかさねて、我が児の面影を。あと一歩で、道は拓けるはずなのだ。ためらわずに進めば。

「段階・六を…希望する」

「そう」

菫衣の娘はうなずくや、手首を持ち上げて、腕飾りになにごとかをささやく。次いで空いた手で台車のおおいを外すと、ずらりと並んだ異形の責め具を取り上げて、嫣然と唇の端をゆがめた。

「いつもみたいにおねだりしてくれる?」

(あかがね)の膚をした女は深く息を吐くと、くるりと背をむけて前かがみになり、脚を八の字に開くと、尻朶をつかんで広げ、つっけんどんに叫んだ。

「紫雅…様……どうか今日も…”化猫”を仕上げて下さいませ…ほらっ…」

「よくできました」

主 人はほほえむと、子供の手首ほどの太さがある二本の管を持ち上げ、奴隷の会陰に並ぶ両穴へねじこんだ。樹脂でできた蛇腹の筒は、秘肉のあいだに埋もれるや 蠕きだし、大量の媚液を流し入れる。引きしまった胴が水風船のごとくにふくらむ。腸と腟の粘膜を通じて、並の人間なら我を失うほどの発情をもたらす成分が 染みこむにつれ、歴戦の性闘士いえども歯をうち鳴らし、脂汗をかいて震えだした。

ばけつ何杯分かの催淫剤がすべて胎内と臓腑におさまると、女はいくらかあわれぽっく鼻を鳴らして、かたわらの婦人がなだめるように背を撫でるのにあわせて体をこすりつける。

「やっぱり素直になるにはお薬が一番ね。つんつんしてるより、その方がずっとかわいいわ。でも、もう少し頑張ってちょうだいね」

はげましとともに尿道にも細い管が刺さり、膀胱を劇薬が満たすと、朱羅はたまらずあえぎをもらした。紫雅はくすりとしてから今度は注射器をとり、弾けそうなほど量感のある胸に、にぶく光る針を突き立てる。左右順に四本ずつうつと、大きな乳暈に白い雫が盛り上がってきた。

菫 衣の麗人は鼻歌を唄いながら、緋の肌の女を隅々までいじりまわした。両胸の尖端に金輪を通してから、下半身へ狙いを移し、股間のしげみに埋もれた紅蕾の包 皮をむいて、同じ細工をぶら下げる。尿道が収縮するのを待って、挿れてあった管を外し、失禁がないのを確かめるや、すぐに背後にまわって、菊座と秘裂を塞 ぐ筒を引き抜いた。性器と排泄孔がすばやくすぼまるのを満足げにながめ、臀肉を軽く擲って苦悶をみちびいてから、猫の尾を模したごつい張型を二本とって、 まとめて肛門に押しこむ。

括約筋のしめつけで電源が入ったのか、玩具はたちまちはげしく振動しだした。背を強張らせてうめく朱羅を、紫雅は煌めく双眸で観察していたが、ややあって低くささやきかける。

「鳴いてみて、”化猫”さん?」

「ぎぃっ…にゃ…にゃぁあっつ…にゃぁっ…にゃぉおんっ♥」

か りそめの尻尾を得て完全に意識が切り替わったのか、性闘士は四足を床について背をそらせ、快さそうに喉を鳴らした。かたわらで、文目によそおった娘はかす かに頬を上気させ、指で己の裳裾をつまんで引き上げる。布褶のあいだからのぞいたのは、すらりとした象牙の腿と、絹の靴下をつった竜胆の飾り帯、宵色の薄 紗の下着。さらには、あるはずのない器官。雄としての昂奮を主張する隆起だった。

「いつもの、幸運のおまじない。”化猫”さんが大好物。たっぷりしゃぶっていきなさい」

「にゃうっ♪」

”化猫”は嬉しげにかがんで、裳裾のあいだに鼻面を突き入れ、器用に歯だけで御馳走を包む布を引き下ろすと、主人の華奢な容姿には似合わぬ、剛直にむしゃぶりついた。

長 躯の女が二本の模造の尾をうちふり、重く張った腹をゆすりながら、たおやな娘に無心の奉仕をするさまは、こっけいを通り越してどこか可愛らしくさえあっ た。地下競技場の王者としての威厳をかなぐり捨て、のばした舌に肉幹をのせると、いっぱいに開いた唇に運び、頬をへこませて先走りをすすってから、勢いよ く頭部を前後させる。

紫雅はまぶたを閉ざし、服のはしから指をはなすと、裳裾の上から朱羅の仮面をつかんで、強く脚のあいだに押しつける。次いで熱い口腔の奥までつらぬくように強く腰をうちこみ、くぐもったうめきを伴奏に、荒っぽい抽送へと没入していった。

「やっぱり…あなたはっ…最高の…肉…便器…だわっ!」

かすれ、とぎれとぎれにこぼれる賞賛を受けて、二又の尾が得意げにくねる。主人はたっぷり十分ばかり奴隷の喉の粘膜を楽しんでから、ややあってほっそりした背をくの字に曲げた。

「っ…だすわ…」

いいざま、したたかに精を放つと、余韻にわななき、三、四度と荒く息を吐いてから、ふたたび裳裾を上げて、相手を引きはがす。

猫 の仮面の性闘士は、口一杯に白濁を溜め、上目遣いをして待ち、菫衣の麗人がうなづくと、やっと唇を閉ざして、舌で子種をよくこねてから、ゆっくり嚥下し た。食餌を終えると、眼前にしなだれた性器にふたたびしゃぶりつき、丹念に汚れをぬぐいさってから歯で下着をくわえて引き上げる。

紫雅はせまい肩を上下させると、台車から珠数のような丸い珠が幾つもついた輪をとって、朱羅の頚へまわした。留め金をはめてから、何かを確かめるようにつるりとした表面を撫でる。

「準備は万端ね…じゃいってらっしゃい…今日も勝利をくわえて帰ってくるのよ」

「…いわれなくてもだ」

恒例の儀式をしとげ、いくらか理性を取り戻した”化猫”は、仏頂面をつくろいながらも、力強く答えると、敏捷な所作で控え室をでていった。

恐らくは最後になるであろう戦いの舞台へと。


「ぅぎぃいいっ!!」

裏かえった悲鳴とともに銅の肢体がよじれる。

矮躯の”妖狐”が”化猫”の防御をかいくぐって、標的の右胸を拳でえぐり、さらに間髪入れず突きでた腹に数発を撃ちこんだのだ。

すべての刺激が快楽につながるよう調整を受けた性闘士の肢体は、打擲の一つ一つにはげしく反応し、母乳と媚薬、淫蜜、小水を撒き散らしてもがいた。喉にはまった枷が煌めき、十個の宝玉のうち山吹の光をおびた珠の数が六から七へと増える。

だが、これまでに数えきれないほど強打を浴び、耐え抜いてきた経験が、辛うじて王者の意識をたもたせた。自ら作った水溜りに踏み足を危うくさせ、よろめきつつも態勢をたもつと、歯を食い縛って腰を沈め、ばねをためてから、いきなり利き脚を跳ね上げる。

猛攻のあとかすかなゆるみを見せていた挑戦者の脇腹を、鋭いまわし蹴りが襲った。

「ぎゃぅっ!!」

若柳のような肢体は軽々と宙に舞い、鈍い音とともに地に墜ちる。”妖狐”もまた催淫剤混じりの胃液を吐き戻し、うごめく九本の尾が刺さった菊座から浣腸を噴きこぼしながら、苦しげに指で地をかいた。と同時に黄金の首輪から光がひらめき、七つめの灯がともる。

”化猫”は喉を鳴らして胸をそらせ、乳房をゆすったあと、観衆に拳を突き上げた。次いで両脚を開き、がに股になると、洪水のごとく愛液をあふれさせる股間のしげみをまさぐって、円を描くように双臀を動かし、全身をくねらせる。

淫 らがましい演技に、四囲から喝采や口笛が滝のように注ぐと、感謝の印に二つの尾を踊らせ、ハートの形を作ってから、今度は足元に転がった敵を小突いて仰む けにさせた。半勃ちでひくつく秘具を視界におさめると、好色そうな舌なめずりをしてかがみこむ。続けて肋の浮いた胸に指を這わせるや、投薬によって作られ た二つのわずかなふくらみを乱暴に揉みしだいた。

「くぅっ!!」

か細く高いうめきに続いて、陽根が天を指して屹立する。狙い通りの反応に、女は瞳を欲情と嗜虐に煌めかせ、艶やかな亀頭に陰唇をあてがうと、勢いよく腰をおろした。

た ちまち挑戦者はとがった仮面の奥で双眸をいっぱいに見開き、電気を流されでもしたかのごとく痙攣すると、上から圧しかかってくる重量を押しかえして腰を浮 かせ、えびぞりになる。だが王者もまた背を丸めたままはげしく痙攣して、だらしなくおとがいを落とすと、唾液の糸を幾筋も垂らし、真下に組み敷いた相手の 華奢な鎖骨のあたりを汚した。

それぞれの喉元にはまった輪がふたたび淡く耀うと、光点の数が七から八に変わる。

二 人の性闘士は、躰をつなげたまま小刻みに震え、しばらくのあいだ動きをとめていた。神経の隅々に広がり、うちかえしてやまぬ官能のさざなみに、連続して絶 頂に達しそうになるのをこらえるようすだった。どちらも地下競技場で百を超える決斗をかさねてきたが、かくも相性のよい、あるいは悪い対手に巡りあった経 験はなかった。

予期せぬ心臓の高鳴りと顔の火照りに、”化猫”こと朱羅は混乱をおぼえていた。五感のすべてが異常を来している。仮面に包まれた”妖狐”の容貌を見つめるうち、鼓動はさらに早まり、細く澄んだ喘ぎを聞くたび、うなじに甘いしびれが伝わっていく。

た ちのぼる汗の香は、かつて屈伏させてきたあまたの雄に比べずっと薄く、爽やかとさえいってよいのに、吸いこむごとに、下腹の奥で熱が増していった。腟にく わえこんだ陰茎が硬さを取り戻すにつれ、胎内にはどこか懐かしい温もりさえ生まれて、頭の頂辺から爪先までをひたしていく。

だ が媚薬に曇った思考が、沸き起こった情動の正体をつかみきれずにいるうちに、また耳の奥で戦いの太鼓が拍ちだした。やがて度重なる調教と試合による条件づ けが、ありうべき推測をみちびく。相手は特殊な興奮剤を使っているのだ。規則で定める水準を超えた、効果のきつい代物を。

わ かりやすい結論を得ると、女はひきつった笑みを作ってから、鞠のような乳房をつかみ、どこかあどけなさのある敵の唇にあてがって、しぼりこんだ。白蜜が勢 いよくしぶいて、口腔にこぼれていく。胸の腺を内側から灼き、母乳の分泌をうながす魔液は、負荷の一部として注入されたものだが、使い方によって敵を狂わ す武器にもなる。

技巧にたけた地下競技場の王者は、逃れようとする相手の頭を抱えこむや、強引に授乳を続けた。挑戦者はわずかにあらがうそぶりを示してから、すぐにもがくのをやめると、代わりに押しつけられた柔肉の果実にかじりつき、勢いよく吸いはじめる。

せつな、”化猫”と”妖狐”はまた瘧にかかったように震えたが、今度はどちらも持ちこたえると、たがいにぴったりと肌をかさねながら、二匹の蛇のようにからまり、もつれあった。

小 柄な雄獣は長躯の雌獣の懐にあって、たくみに腰をくねらせ、硬い陰茎で産道をかきまわしながら、同時に十指をうぞめかせると、たくましい肩や背、脇へと走 らせ、官能の火を移していく。攻めの一つ一つは精緻でありながら、いささかの卑猥さもなかった。あたかも若い楽師が、初めて触れた名器の具合を確かめ、理 解し、最もよい音色を引きだそうとするかのような真剣さに満ちていた。

王者は背筋をつらぬく歓喜に、火酒に酔ったかのごとく朦朧としつつ、唇を破れそうなほど咬んで、華奢な挑戦者をとらえたままのたうった。

い ずれも涙含み、幾筋もの洟と涎を垂らし、肛門を押し広げる何本もの張型の隙間から浣腸を逆流させながら、汗にぬめる皮膚をこすりつけ、遂にはたがいにひし としがみついて四肢を痙攣させる。それぞれの首を飾る宝玉が三たび煌めいて、ともる灯は八つから九つになり、輝かぬ石はあと一つをのこすのみとなった。

ややあって、観衆のあいだから野次と罵倒が沸きかえり、怒濤のごとく押しよせる。奴隷たちの交接が次第に獰猛さや残忍さを失いつつあるのが、退屈と不満をもたらしたようだった。

喧喧囂囂たる客席のようすにも、しかし朱羅はまったく注意をはらおうとしなかった。諸手にしっかりと獲物を抱えながら、脳の芯を真白に灼くかつてないほどの悦楽と、勝敗の瀬戸際に追いつめられた焦躁とがせめぎ、なかば譫妄におちいろうとしていたのだ。

寸刻のあとでのこった精根をふりしぼり、にかわでかためたように張りついた肌と肌とを引きはがす。どうにか騎乗位の態勢をとると、胎内をえぐる秘具の硬さにおぼえず嬌声をもらしつつ、ぼやけた視界に標的をおさめた。

すっ かり消耗しつくしたのか、仰臥した挑戦者の矮躯はもう逆らおうとはしなかったが、屹立だけは依然として衰えず、脈うつたびにめくるめく快美を送ってくる。 王者がこらえきれず荒い息を吐き、浅く息を吸うと、双方の汗と精の混じった香が鼻腔をくすぐった。途端、子宮の奥からとめどもない恍惚があふれ、臓腑で渦 を巻いて沸きたぎる。

官能の氾濫に意識をもぎとられかけ、きつく眼を閉ざした瞬間、まぶたの裏に銀千草の野原が浮かぶ。針を球にしたような花に囲まれた、懐かしい容貌がはっきりと甦る。失った伴侶、奪われた我が児の、あどけなく、優しげなおもざしが。

”化猫”は歯をむき、拳を握りしめ、背をそらせ、乳房をゆすらせながら、競技場の大気を震わす咆哮を放った。こだまが消えるより先に、腕を高くかかげ、相手の仮面をめがけてすさまじい撲打を浴びせる。右の頬、左の頬と、醜悪といっていいほどの必死さで殴りつける。

会場に歓声が戻った。

”妖狐”がかすかなうめきをもらす。

朱羅は低くうなって紅に染まった指を広げると、しぶとい敵の鎖骨の真上あたりを抑えつけ、はげしくしめつける。

「逝け…!!逝け…さっさとぉお!!」

罵りをぶつけながら腕に力をこめると、秘裂をつらぬく陰茎がいっそう勃ちかえるのが感じ取れた。後わずか。後わずかだと、本能が告げている。絶頂の半歩前で踏みとどまりながら、獲物のもろげな頚をつかむと、小鳥のごとく痩せた上半身をなかば引きずり起こした。

とがった鼻先を持つ仮面がずるりと脱げ落ちる。

だしぬけに、ありうべからざる容貌が眼前に現れた。己と同じ暁の肌。夫とよく似た少女のように可憐な造作。唇ははしから泡を吹きながら、声もなく短い単語を形作る。

”母さん”

「朱…哉…」

凍りつく女親の手のなかで、息子は力なく首を後ろに落とす。ほっそりした喉にはまった輪が、黄金の煌めきを十、浮かばせた。

虚空の高みに幻像が浮かび、おごそかに”化猫”の勝利を告げると、喝采と祝福の朗唱が耳を聾さんばかりに響きわたる。

朱羅が虚ろなまなざしを上げると、西にある縁台では、”妖狐”の主人が地下競技場の衛兵に取り押さえられながら、暴れもがいていた。頭巾をむしりとられた素顔は、朱哉と同じような年頃で、懸命に顔をこちらへむけ、敗れた性闘士に何かを叫んでいるようだった。

ふりかえって東の縁台に視線を投げると、苧環によそおった婦人が、ちょっと困ったようにほほえみながら見つめかえしている。

焦がれ望んだ自由を、ついに克ち得た王者は、しかし彫塑と化したかのごとく、いつまでも、いつまでも、うちたおした挑戦者のそばを動かないままだった。


「”妖狐”はだめだったそうよ。残念ね」

菫衣の婦人が話しかける声を、銅の肌の女はろくに聞きもせず、ただ宙に血走った瞳をすえていた。会場の衛兵になかば担がれるようにしてつれ戻された控え室。でていったときと何一つ変わらぬ空間は、しかしさっきよりもひどくがらんとして見えた。

「なぜだ…なぜ…」

朱羅の問いかけに、紫雅は溜息をつくと、かたわらの台車から小さな陶器の椀と湯差しをとって、熱い茶をそそぎ、そっと差しだした。

「お飲みなさい。考えをまとめるために。落ち着いて」

性闘士は、いつも試合後に鎮静剤を受け取る習慣から、むぞうさに飲み物をつかんですすると、しばらくして茫洋と視線をさ迷わせはじめた。元主人はからうなづくと、幾らか声を落としてつぶやいた。

「”妖狐”の主人から聞きだしたのだけど…あの子は、生き別れの家族を探すために、あえて高い負荷を引き受けていたそうよ」

「なぜ…」

なおもぼんやりと繰り言を呟く朱羅に、紫雅は幽かに眉をよせてから、すぐに表情をやわらげ、おだやかに語句をつむいだ。

「あなたが悲しいと私も悲しいわ…でも一つだけ教えて?…どうしてああなるまでわからなかったの?親子だったんでしょう?」

淡々とした問いかけに、たくましい肩が急にすくんで、普段はきついおもだちが、しかられた童児のようにおびえを浮かべる。

「わたし…は…わたし…朱哉を…」

「いいの。ごめんなさい。あなたのせいじゃなかったわね」

紫雅ははげますようにほほえみながら、そっと指をのばし、短く狩りそろえた朱羅の髪を梳った。長躯は座りこんだままかすかに強張ったが、慰めの手をふりはらおうとはしなかった。

「あなたは自由が欲しかっただけ。だから一生懸命戦ったの。誰もあなたを責めないわ。競技場では沢山の奴隷が未来を夢に描くけれど、形にできるのは独り。たった独り。ほかをふり落として独りになるしかないの」

「独り…」

焦がれ望んだはずの解放。奴隷としてではなく、独りの自由な人間として帝国で生きる権利。異郷で、誰にも束縛されず、誰とのつながりもなく。

朱羅は小刻みに震えだした。どうしようもない肌寒さに。紫雅は文目の袖端を指でつまむと脂汗をかいた銅の額をぬぐってやりながら言った。

「さようなら朱羅。一緒にいられて楽しかったわ…性闘士の所有者として、あなたの解放に役立てて嬉しかった…喧嘩もしたけれど…これから…独りで生きていくのよ」

「独り…」

「…あなたの息子はもうどこにもいない…でも…独りで、強く生きていかなくてはね」

性闘士の王者はうつむくと、長躯をゆすって童児のように嗚咽をはじめた。苧環の服の婦人は頭を抱いて、あやすようにさする。

「泣かないで。今はまだ私がそばにいてあげるから…ううん。分かった。あなたが望むかぎりそばにいるわ」

「ぁ…ぅ…ぁ」

「主人と奴隷というのは家族のようなものよ。そうでしょう?あなたがそうしたければ、ずっと私は一緒よ…今までと同じにね…」

抱きしめた腕のあいだで、朱羅が緊張を緩めるのを察して、紫雅は嫣然と唇の端を釣り上げた。

「ほら元気をだして”化猫”さん。御褒美を上げるわ。いつも通りにね」

裳 裾の端をつまんで、いたずらっぽく目配せをすると、奴隷は無言で潤んだ双眸を上げた。仔猫のような不安げな顔をしてから、おずおずと床におりると、あとは よく仕こまれた丁寧さで、主人の股から薄紗の下着を脱がせ、女にはありえざる剛直を露にすると、即座にむしゃぶりつく。

普段と変わらぬ亀頭の艶かな舌触り、先走りのぬめり、口腔を満たす雄の匂い。すべてが安堵をもたらした。馴染み深い日常が、最前の情景を押しやってくれた。性闘士は自然と腰を上げ、所有者の眼を楽しませるために双臀をうちふって、感謝と歓喜の印を示す。

「いい子ね。本当にいい子」

菫衣の婦人は心地よさそうな吐息をして、茜の皮膚を持つ女を撫で、聞き分けのよい愛玩動物に対してするように褒めそやした。

「間違えたなら、やりなおしましょう。二人で。家族を。あなたをもう一度、ちゃんとお母さんにしてあげる。今までの苦しみも悲しみもちっぽけに思えるくらい、沢山の幸せを注いであげる」

甜やかな台詞に、子を失ったばかりの女親は滂沱の涙を流し、むせながら、ただ一つすがるものとして残された逸物をねぶり、しごき、無心の奉仕を続けた。


世界を統べる帝国の心臓部にあって、市井の喧騒が届かぬ閑静な一角。宮殿ともまがう広大な屋敷の、隠れた中庭に、辺境にしか生えぬはずの銀千草がきらびやかな花を咲かせていた。そこかしこにはまた潅木と香り(ぐさ)も茂り、虫や鳥の歌さえ聞こえ、あたかも遠い異郷の野原を切り取ってきたかのような趣きだった。

園内の中央には、ふたかかえもありそうな宝石の木が建っていた。透き通った結晶の内部には、茜の皮膚を持つ人の形がある。遠目には性別の定かならぬほっそりした容姿は、高い天井から注ぐ月光の灯を受けて淡く輝き、あたかも妖精のごときたたずまいがあった。

すぐそばには同じ色の肌をした長躯の女が独り、しなやかな四肢と異様にふくらんだ腹とを純白の衣装に包んで立ち、頬を冷たく澄んだ幹の表面に押し当て、快さげにまぶたを閉じている。

「朱哉…」

紅も引いていないというのに、ひどく艶めいた唇が、愛しげに宝石の内にいる者の名を呼ぶ。

「朱哉…おはよう…お前の母さんが来たよ…今朝は遅れて済まなかった…昨夜は中々眠らせてもらえなくて…お前を忘れた訳じゃない…だから怒らないでくれるな…」

答えるはずもない相手に釈明をしながら、女は恥ずかしげに頬を染めた。ややあって背後にひそやかな足音を聞きつけると、ぎくりとして人造の樹からはなれる。

ふりかえると、刺繍も綾な紫の服をまとった婦人が、ほほえみながら立っていた。

「ひどいわね朱羅。先に行ってしまうなんて」

「申し訳ありません紫雅様…私は…」

「いいわ。気が逸るのも仕方ないから…でも大事な体なんだから無茶をしてはだめよ」

「はい…」

「いらっしゃい」

紫 雅が軽く手招きすると、朱羅はのろのろとそばへ近づき、たいぎそうに腰を落として顔の高さをあわせると、いきなり濃厚な接吻を交わした。舌と舌とを触れさ せ、たがいの唾液を交換すると、甘露のごとく喉をならして飲み下していく。やがて銀の糸を引いて唇と唇がつながりを解くと、主人は奴隷のたっぷりした乳房 に指をうずめ、乱暴にもみしだきながら耳元にささやく。

「そろそろ始めましょう」

長躯の女は、張りきった胸をぞんざいにもてあそばれる痛みにあえぎ、また羞じらいの色を浮かべてから、どうにかしゃんと背をのばすと、無機質の大樹へむき直り、花飾りのついた羅紗のはしをつかんで、ゆっくりと用意していた台詞を口にする。

「朱 哉。これは私たちの故郷の婚礼衣装だ。不遜な反抗の罰として帝国の鉄鎚を受けたとき、愚かな長老たちは決して侵略者の手にわたらぬようにとすべてを焼き捨 てたが、私の記憶から再現したのだ。お前の父、白夜と結ばれたときは、とても余裕がなくて着れなかったから、正しくは姉の服をもとにしたが…私たちの故郷 では、これをまとって伴侶と挙式を済ませた二人だけが、本当の夫婦になる…」

朱羅は語りながら、幾度も喉をつまらせ、嬌声をこぼした。紫雅が背後からしつこく乳房をこねまわし、本来なら赤ん坊に与えるべき滋養で伝統の衣装にしみを広げていく。

身重の花嫁は困ったような笑みを浮かべつつ、されるがままに伴侶のいたずらを受け入れ、なおもとぎれとぎれの言葉をつないだ。

「私から、紫雅様を本当の夫として迎えられるようにわがままをいったんだ…んっ…でも…妻として、肉便器として、ちゃんと調教に耐えられたから…ご褒美としていただけた…着ているだけで…紫雅様に包まれているようで…幸せだ…」

かつての地下競技場の王者は照れながら語句をつむいでいく。

「先日やっと、帝国への忠誠の誓いと、市民としての登録が承認された。まもなく紫雅様の親族の前でお披露目がある…そうしたら籍を入れるつもりだ…だけど朱哉…お前には先に見せておきたかったんだ…母さんの晴れ姿を…」

「中も見せてあげたら?」

伴 侶のうながしに、息を乱しながらうなづくと、裳裾を太腿のつけ根までからげて、秘所をさらす。きれいに脱毛した股間には、びっしりと淫らな言葉が刺青して あった。肉襞には金輪が列になってつらなり糸をむすんで、靴下吊りとつないである。広がった陰唇の粘膜にまで、刻印はおよんでいた。

「読めるか?お前が帝国の偉大な文字を学んでいたといいんだが…紫雅様専用の性処理穴だと記してある…子産みの穴と糞穴の裏まで隙間なく彫ってもらった…私は…内側までいつも紫雅様に満たされている…」

興奮が母乳の出を増したのか、白無垢の胸は雨にうたれでもしたようにぐしょ濡れになっていく。朱羅はさらに衣装をひきずりあげ、妊娠線と静脈が縦横に走るはちきれそうな胴をさらす。

「紫 雅様の胤だ。孕むまで、月のものもかかわりなく毎日毎晩犯し抜いていただいた。まぐわっては眠り、起きてはつがって…ふふ。食事のときも湯浴みのときも… 用足しのときさえはなしていただけなかった…私が疲れ果てて、泣いて頼んでもだ…信じられるか?性闘士の私がだぞ?…それほど紫雅様はたくましく剛いの だ…あの試合ではお前もねばったが…雄としての器は比べものにならない…」

紫雅は、びっしょりと母乳にそぼった双丘から指を外し、張りつめた肚をさすりだした。大柄な花嫁は蕩けた瞳で頭上をあおぐと、熱に浮かされたようにしゃべりつづける。

「…私がさびしがりだから…すぐにたくさん家族が増えるように排卵誘発剤をうってもらった…八つ子だそうだ…出産のときは…きっと狂うほどの喜びだろう…お前は私をおいて逝ってしまったが…もう私は独りじゃない…独りじゃない…」

「そうよ。ずっと側にいるわ朱羅。私と、私たちの子供がね…さぁ…朱哉が不安がらないように、二人がちゃんと愛しあっているって教えてあげましょうね」

命じられるまま、新婦はよろめきつつふたたび透き通った幹に歩みより、つるりとした表面に手をついてから、性闘士時代に比べたっぷり脂肪をつけた尻をつきだした。伴侶はあとに続いて、大ぶりの双臀をながめやると、愛しげになぜてから、急にいきおいよく打擲した。

「ぎゃぅっ♥」

「みっともないおしりね」

あざけりながら平手で容赦なく左右のむっちりした丸みをうちすえ、紅葉をのこしていく。

「はひぃっ♪んぁっ♥ひゃぅっ♥ふひゃぁっ♪」

ひとたびは最強の名をほしいままにした”化猫”は、以前の凛々しさのよすがもなく、随喜の涙をこぼしては、のろのろとぶざまに腰をふり、もっともっとと主人の折檻をせがむ。

「きもちいいの?ぶたれるのが?本当にどうしようもない駄雌ね」

「はぃぃっ!!…”化猫”の朱羅はぁ…最低の…駄雌ですぅうう!!!!おろかでぇ…淫乱なぁぁ…肉便器ですぅ」

「だから自分の息子も見分けられずに手にかけてしまったのね♥」

朱羅はぎくりと硬直すると、結晶の奥に眠る我が児を見つめながら、傷つくはずもない無機質の表面に爪をたてた。紫雅はにっこりすると、純白の布地におおわれた背にもたれかかりながら、優しく歌いかけた。

「でも愛してるわ。そんな愚かなあなたを」

「ぁあ…ぁあああああ!!」

告 白を合図に、身重の花嫁は秘裂から噴水のように愛液をしぶくと、乳房と腹を冷たく平らな樹に押しつけて至福にわなないた。子殺しの罪をも受け入れてくれ る”夫”の言葉に感きわまり、かぎりない安堵につつまれながら、尻だけはなおも無意識のうちに、ものほしげにゆらしてしまう。

「ふふ。どうしたの?」

「うぁ…ぅ…」

「はっきりいってくれないとわからないわ。何が欲しいのかしら」

朱羅は観念したように目をつむり、凍てついた息子とのあいだをへだてる宝石の壁を、母乳で白く濡らしながら、悦楽にただれきった喉で叫ぶ。

「紫様の雄ちんぼぉお!!つよくてりっぱな雄ちんぼぉくださぃいい!朱羅のだらしない汚まんごにぃ!!ぶちこんでくださぃい!!!」

「ええ喜んで」

主 人が野太い陽根をねじこむと、新妻はうらがえった悲鳴とともに絶頂に達した。さらに一突きごとにのぼりつめながら、まさしくさかりのついた牝猫のわめき、 うめき、あえいで、ずっしりとした腹をゆする。かつてくぐり抜けて来た幾多の試合とは異なり、媚薬のたぐいは一滴も使っていなかった。最愛の者同士がつな がっているという認識が、狂うほどの官能をもたらすのだった。

「ぁっぐうう!いぎゅぅっ!!またいっぎゅぅうう!!いぐのぉ♥とまらないぃ!!」

「あはっ…いつもよりすっごぉぃ…やっぱり…息子の前だと…燃えるのね?このお母さんはっ」

「ひゃぃっ♪…!!朱哉ぁ…朱哉見てる…かぁっ!!あぐっ♥…私またああああっ♪」

「んぅっ…朱羅ぁっ…」

二人の嬌声が重唱となって響くと、閉ざされた中庭にどこからか風が迷い込んだのか、銀千草の群生が婚礼をことほぐようにかすかに頭をゆらした。

「そんなに…気持ちいいっ?私のがっ…」

「ひゃぃぃ!!あへぇっ…あっがああああ!!」

胎児をぎっしりつめこんだ子宮を亀頭がたたくと、淫楽に狂う母はなかば白目をむき、舌をつきだして宙をあおぐ。主人はほほえむと、いっそう奥まで肉杭をうちこんでいった。

「息子のっ…より…もっ?」

「ぁ…ひゃぃぃっ!!ひぎぃいっ♥」

「前の夫のよりも…ね?」

「ぁくうう、あんなのぉ…比べものにぃ…ならなぃっ♥朱哉やぁ…白夜なんかよりぃ…紫雅様のがいいですぅうっ!」

「故郷より…帝国の雄がいいのね?」

「はぃっ帝国のっ!雄ちんぼぉ!帝国の雄ちんぼぉ最高ですぅ!!!」

「たくさん…帝国の…私の子を産むわね?」

「産みますぅ!!産ませてください!!壊れるまで産みつづけますぅ!!」

「ぁあっ…朱羅ぁっ!!」

紫雅は、朱羅の蛙腹に精をそそぎこむと、ともに糸がきれたように、ずるずると地面に座りこんだ。硬さを失った陰茎を引き抜き、たがいに唇をよせて口付けをする。

や やあって主人は片手で新妻の乳房をわしづかむと、もう片手で紅蕾をつらぬく金輪をつまんでひねり、さらに幾度か潮を噴かせた。いたずらを受ける側が耐えき れなくって、やめるよう懇願しても、にこやかに拒んでしつこくいじりまわし、とうとうあおむけにたおれた肢体が痙攣しながら、失神するまで玩具にした。

白無垢を無惨に汚した孕み女が、ぐったりと横たわるかたわらで、菫衣の麗人は満足げな息を吐いた。

「…本当に…身も心も捧げてくれたわね…朱羅…」

いびつにふくらんだ花嫁の胴をなぜながら、主人はうっとりとつぶやく。

「こ の子たちが大きくなって、家族の絆がけっしてやぶれなくなったら…いつか私がしたいたずらを話してあげる…わざとあなたと息子の試合を組んだこと…その子 には試合のあとも命があって、永久保存の処置を施してからも、意識だけは保ったまま、ずっと私たちを見まもっていること…」

紫雅は煌めく双眸を上げて、時を凍てつかせたままものいわぬ朱哉を見つめると、誇らかに述べた。

「お気の毒様。坊や。朱羅はもう私のものよ。これからずっと、ずっとね…」

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