Not My Brother

「ねぇねぇルルーシュ、恒例の中間試験明けイベントなんだけど」

生徒会長のほがらかな呼びかけに、副会長は机に向かったまま溜息をついた。

「恒例のって、今まで聞いたことありませんよ。いったいなにを思いついたんですか」

かすかに迷惑そうな調子をにじませつつも先をうながすのは、どうせ止めても無駄とあきらめているからかもしれない。コントラルトの声は、嬉しそうに言葉を継いだ。

「私も卒業まで間もないしー、みんなと過ごした時間を振り返って、やってきたことが成功だったかどうか確かめたいなって。男女逆転祭りって人気高かったじゃない?もういっぺんどうかなーって」

少女の弾んだ口ぶりに、黒髪の少年はパソコンを操作する手を止め、きつくまぶたを閉ざすと、最前までとり組んでいた前回イベントの決算書類を頭から締め出す。

「…いやですよ、だいたいあれは明らかに…」

いらだちを抑えて答えながら、椅子を回して、まっすぐ会長の方を向いた。せつな、優等生らしく作った顔つきは凍りつき、血の気を失った。

眼前に、菜の花色のサマードレスをまとった、ほっそりした姿があった。波打つ栗色の髪がかかる小作りな容貌は、不安げな、しかし慕わしい笑みを浮かべている。うるみを帯びた紫の双眸は大きく開き、きゃしゃな脚はまっすぐに立って、体を支えている。会長と副会長が慣れきったやりとりをするあいだに、いつのまにか音もなく2人のあいだに入り込んでいたらしい。

「驚いた?ロロ!よくやった!お兄ちゃん惚れ直しちゃったみたいよ!」

「やめて下さい会長…兄さんは…あきれてるんです…ごめん兄さん」

気づかわしげな妹、いや弟の言葉に、少年は長い指をひじかけに食い込ませ、漏れそうになる叫びを喉の奥に押し戻した。

”ふざけるな!冒涜だ!こんなことは!…ロロ、なぜお前がナナリーの服を…あれは俺のつくろったスカートのほつれ…去年の…着こなせるというのか…”

「似合ってないよね…これ…」

伏せ目がちに呟くロロを横に、ミレイ会長がもどかしげな視線を送ってくる。ルルーシュ・ランペルージは得意の穏やかな笑みを頬に張りつけ、ゆっくり首を振った。

「いや、似合ってるぞ。似合いすぎるくらいな。それにしても、見覚えのない服だな。誰から借りてきたんです会長?」

「それは確かー。この前クラブハウスを掃除した業者さんが、これ生徒さんのじゃないですかって持ってきてくれたんだった。おかしいわよね。あそこはルルーシュとロロの男所帯なんだし。ルルが中等部の女の子を連れ込んだ…ってキャラでもないか♪」

「悪い冗談はよして下さいよ。それに生徒会の目録から漏れた仮装用の衣装ならちゃんといってくれないと」

ルルーシュは立ち上がると、白くなるほど力を入っていた指を、さりげなく椅子からひきはがした。ミレイはおなじみの小言にはこたえた風もなく、ひらりと両手をあげた。ドレスをまとった少年の肩をつかむと、前に押し出す。

「まぁまぁ。いいでしょ?さっき衣装部屋に行って、これならばっちりって、目に留まったのよね。それからこのウィッグも!なんでだか分かんないんだけど、この服にはこの髪!って感じがするよね。どこで見たんだっけなぁ…天使みたいな…」

ロロの瞳がかすかにかげるのを、兄はすばやく見てとり、せきばらいして口を挟んだ。

「ロロ、お前はどうしたい?」

「え…うん…」

「無理に会長の思いつきにつきあうな。いやならはっきりいっていいんだぞ」

弟はかすかにうつむき、すそをにぎりしめて、答えよどんだ。ルルーシュは、にこやかな面持ちを保ったまま、重ねて尋ねる。

「どうした?」

「兄さん…似合う…っていったよね…」

「うん?」

「僕は…この格好でもいいよ…」

生徒会長はどこか猫めいた表情を浮かべて、さらに兄弟を近づけた。

「っていうことだけど?どう?お兄様としては」

「どうせシャーリーやリヴァルには了解をとってるんでしょう?俺だけ逆らっても意味がない。分かりました。つきあいますよ。だがロロ、人前でそういう格好をするのはかなり恥ずかしいぞ」

「え…兄さんの前だけじゃ…」

「なにいってる、この前は男女逆転で舞踏会までやっただろう…お前だって覚えてるはずだ」

ルルーシュの笑みが、わずかに歪むのを、ミレイも、ロロも気づかなかった。

「あ…うん…そうだったね」

「やれやれ、お前までもの忘れか?とりあえず、その様子だと練習が必要だな。先輩として協力してやる」

兄は弟の手をとり、抱き寄せるようにして会長からうばいとった。ミレイは驚いてまばたきする。

「ルルーシュ、なんだかのりのりじゃない?」

「そうですか?さて、度胸つけに外でも散歩してくるか?」

「…そんな…でも」

「来いよ。会長、失礼します」

あっけにとられる会長を尻目に、兄弟は生徒会室をあとにする。

ひんやりした廊下を歩きながら、ルルーシュはまごついている連れに優しくうなずいてみせた。美形の生徒会副会長と見知らぬ少女のとりあわせに、そばを通る誰もが驚いた視線を投げてよこす。

ささやきが、さざなみとなって広がる中、ロロは耳まで朱に染まって、強引な導き手のわきにすがりついた。足どりが乱れ、スカートのすそがひるがえるのを、あわてて空いた手で押さえる。男子の誰かが口笛を吹くと、鋭い殺意のこもった眼差しであたりをねめまわそうとするが、すぐに頬が赤みを増して、兄の肩に鼻先をうずめてしまう。いつもの影のように目立たぬふるまいからかけはなれた、可憐で、人を惹きつける仕草だった。

ルルーシュはかたえに弟の所作をなにげなく観察しながら、秘かに奥歯をかみしめた。しわの寄りそうになる眉間をつとめてくつろげ、丁重に年下の伴侶をうながして階段を降りる。

「兄さん…こんなの…」

「淑女らしく、しとやかにふるまえよ。みんな、お前の正体には気づいていない」

「…でも」

「とりあえず第4多目的室までいこう。女性のステップを教えてやるよ。なに簡単だ…お前、飲み込みは早い方だしな」

「うん…兄さんが教えてくれるなら…」

ようやくロロが安堵の色を浮かべた。栗色をした作り物のびんに、午後の陽射しがあたる。いつしか2人は渡り廊下へと踏み出していた。

そよ風が植え込みから運ぶくちなしの香りに、兄は息を呑み、虚構と真実の記憶に胸の痛みをこらえる。すぐそばで、とがった靴のかかとが石畳を打つ。きつつきのくちばしが巣をうがつのにも似た規則正しい響きがするたび、聞こえるはずのない車椅子のきしみが耳の奥に蘇る。

建物のひさしが投げかける、広く涼しい影の下で、ルルーシュは立ち止まった。

「着いたぞ」

手をほどくと、弟のまぶたにかかった波打つ髪をかき分け、頬を撫でてから、あごをつまんでそっと前を向かせる。硬直する相手にほほ笑みかけると、携帯電話をとり出して扉の鍵を開ける。電子錠がまたたかせる緑の光を映じて、桔梗の瞳が暗い煌めきを放った。

”第4多目的室の使用日程は月、水15時40分から社交ダンス(SD)部が160分、吹奏楽部(BB)は火、木同刻から160分、イレブン民族舞踊(EED)は金曜80分、大会前練習はSDが17日後、BBは21日後から、EEDはなし…今日はいわばエアポケット…誰にも邪魔はさせない”

「兄さん、いいの?勝手に入って。人が来たら…」

「いや、守衛が18時45分±4分に巡回するまでは問題ない。遠慮せず入れよ。生徒会役員のささやかな特権さ」

ロロはうなずくと、すそをつまんで段差を登り、戸口をくぐった。続くルルーシュが後ろ手に扉を閉めるのと同時に、再び鍵がかかり、空調が動きはじめる。

兄は上着を脱ぎ、たたんで隅に置くと、携帯電話を操作して音楽を設定した。弟は部屋の中央で所在なげにずれたサマードレスの肩を直している。

「…ねぇ兄さん。なにも、ここまでしなくても…」

「練習曲は2分30秒間、間隔を空けて巻き戻し再生をかける。男性のステップはお前も知っているな。なら女性のステップも体で覚えられる。俺は手加減はしない…いくぞ!」

つかつかと近寄ると、完璧なお辞儀をして、弟の手をとる。前奏が流れれば、紳士の求めるまま令嬢はいやおうなく舞踏の韻律に引き込まれる。ただ広い室内にひまわりが咲くように、スカートが広がった。はじめから脚と脚をからませ、女性に激しい動きを求める複雑な演目で、練習曲にはおよそふさわしくなかった。あくまで男性が引き立て役に回り、伴侶を華とするために編まれたのだが、ルルーシュはまったく別の目的から、短い指示と振り回すような先導でロロを操った。

「どうした、ロロ。遅れすぎだぞ」

「そんな…ちょっと…あっ…」

暗い喜悦を唇の端にとどめ、兄は休まず弟を踊らせた。いくどか両肢のあいだに腿を入れ、押し上げると、耳元でかすれたあえぎが聞こえる。手で背筋をなぞり、尻をなであげ、わきをくすぐるごとに、乱れた呼吸の中に裏返った悲鳴が混じった。ブリタニアの廃皇子は、かつてなら軽蔑しきっていただろう放蕩貴族の手管のありったけを、今はちゅうちょなく年若い暗殺者に使っていた。

4度目に曲がかかるころには、ロロはスカートの上からもはっきり分かるほど興奮を示していた。しかし、どうにか平常を装うと、まつげの端に大粒の涙をためて、ぎくしゃくとステップを続けている。ルルーシュは最後のステップを踏んだところで、身を離した。

「ぜぇ…ぜぇ…意外にうまいじゃないかロロ。スカートに足をとられなかったのは上出来だ」

「はっ…ぅっ…う、うん…たぶん、兄さんのリードがうまいから…それにスカートはくのはじめてじゃないし…」

弟の弱々しい返事に、兄の余裕ありげな面持ちがこわばった。

”なんだと。スザクといい、ブリタニア軍はいったい…いや、こいつは正規兵ではない。作戦変更だ。経験の優位がない以上、体力の差を埋める新たな策が必要だ。とにかく時間を…”

「そうなのか」

「うん…EUのノルウェー代表を処理するときに便利だったから。ダンスは習わなかったけど、色々…」

問わず語りに、女装の少年は死の記録を口にした。ルルーシュは息を整えると、また始まった音楽に合わせて相手のむきだしの肩を抱き、己と同じ色の瞳を覗いた。

「忘れろ、ロロ」

「忘れてたよ!…急に思い出しただけ」

「…忘れられないなら、別の思い出を作ればいい」

告げてから唇を重ねる。驚きのうめきと、みじろぎがあって、歯がかちりとぶつかった。ほかに抵抗といえる反応はなく、舌を入れても、腕に伝わるのは恍惚のおののきだけだった。兄が本で学んだ通りに口腔をまさぐると、弟の方から熱心に舌をからめてくる。

ルルーシュの指がロロの髪を無意識につかむと、かつらはあっさりはずれた。だがもう、情欲にかすむ脳が幻想を維持するのに、さほどの小道具は要らなかった。スカートをめくって、薄絹の下着のあいだに手を差し入れ、ひきしまった臀部に触れる。車椅子に乗っていれば決してつきはしない筋肉。乱暴に揉み潰すと、きゃしゃな体躯が面白いほど激しく痙攣するのが分かる。よく仕込まれているらしい。繰り返し愛撫に似せた責苦を加えると、押し殺した嗚咽が漏れた。

接吻が解けると、2人の唇を銀の糸がつないだ。

「ぁっ…兄さ…」

「…っ…70点だな。淑女には言葉使いも重要だぞ。そうだな、今は、お兄様と呼べよ」

「ぇ…ぇと…おにぃさ…まっ…あの」

兄は軽くよろめき、弟にしがみつくようにして体を支えた。

「ひぅっ…」

「はしたないぞ、ロロ子」

「ロロ子?」

「日本では女性の名前の最後に…いや、なんでもない。それよりなにかいいかけてただろ」

「あの…これ…ダンスの練習じゃないよね…こんなの…」

「そうだな。止めるか?」

にっこりするルルーシュを、ロロは珍しくうらみがましい上目遣いで見やり、やがて首を横に振った。あとは言葉もなく、2度目の口付けがはじまる。兄の手は大胆さを増して、弟の下着をずりおろし、露わになった双丘を交互になぶった。舌をほどくと、餌を求める雛鳥のようなものほしげな唇に、人差し指と中指を押し込んでかき回す。

「あぐっ…!?」

「よく濡らせよ」

涎をまぶした指を抜くと、ほぐれた尻たぶを割って、菊座にねじ入れる。

「ひぎっ!?」

「声を抑えられないなら、服のすそを咬め」

ロロが命じられるまま、サマードレスをたくしあげ、口に咥えると、反り返った幼茎から、やせた腹までが丸出しになる。ルルーシュは、いい子だとでもいうように頭を撫でてやると、肛孔をほじる指を2本にした。

「ぅ゛くぅぅっ…!!」

「すぐ拡がるな」

書物で知ってはいたが、排泄器官が訓練によってかなり柔軟になるという事実を確認したのが面白く、兄は遠慮なく弟の秘所をいじくりまわす。女装の少年は、開いた穴から直腸に冷たい空気があたるのを感じて、切なげにわなないた。しかし羞恥の態とは裏腹に、すでに粘膜は腸液をにじませていた。

”条件反射か!過去の経験から異物の挿入を予期し、体が分泌物を…女性がそうなるのは聞いていたが、男性でも起こるとはな。よし、これで条件はすべてクリアした”

「床に手をついて、腰をこちらに向けろ」

「ぅっ…ぷはっ…でも兄さん、そんなの淑女じゃ…」

「お兄様だろう?さぁ」

ロロは仕方なさげに床に這う。ルルーシュはシャツも脱ぎ捨てると、ジッパーを下ろし、すでに硬くなっていた秘具を解放した。まだ緋の指跡が残る尻たぶに手をあてると、ひくつく菊座にゆっくりと挿入する。

しとどな腸液が、おぼつかない抽送を助けた。水気をふくんだ淫らがましい音を立てて、肉棒がはらわたをえぐる。性の経験がない十代特有の力任せの打ち込みを、同じ年ごろのしなやかな肢体が受け止め、たわみ、よじれて、勢いを逸らそうとする。自然に腰がくねり、雄を誘う媚態になる。

弟ははじめ獣のように舌を突き出し、臓腑をゆする衝撃にえづいた。ややあって脊髄を寒けが走り抜け、なじみの官能が吐き気を上回ると、身勝手な兄の腰使いに合わせて、尻を振りたてた。

「くっ…」

「ん…ふっ…きぅ…んっ…兄…おねっ…っ…もうちょっ…ゆっく…」

勢いよく平手が臀を打つ。ロロの脳裏に火花が散り、淑女のたしなみもなく、仔犬めいた鳴き声をこぼしてしまう。

「お兄様と呼べッ!全力でだ!」

ルルーシュの、いやゼロのといった方がふさわしい命令が飛ぶ。

「お、おにいさま…」

いつわりの弟の台詞に、いつわりの兄はねじくれた笑みを浮かべた。見下ろすサマードレスの背中に、ありえぬ影が重なる。ダンスを踊ることも、こうして抱くことも叶わぬ、最愛の妹が。

”ナナリー!!ナナリー!!”

「っ…いくぞ…」

「えっ、もう!?」

熱いほとばしりが、下腹を満たしていく。ルルーシュはのろのろとロロを押しやると、へたりこんだ。うつろな表情で天井をあおぎ、あごについた汗を手の甲でぬぐう。

「初体験が同性とは…こんなことならギアスで先に…いや、あの女がそばにいたからだ。スザクにできて俺にできない訳が…って…おいロロ!?」

いつのまにか弟は兄の股間に顔を埋め、固さを失った性器にむしゃぶりついていた。涙ぐみつつ、懸命に舌を動かして、幹をねぶり、亀頭をこすって、鈴口を吸い立てる。

「ばかな。生理学上、行為のあとすぐには…ぅおっ…」

屹立が元通りになったのを確かめると、ロロはルルーシュにまたがった。はしたなさなど意にも介さず、両脚を開き、スカートを広げる。とろけた肛孔を先端にあてがい、唇に歯を立てて、一気に腰を降ろす。

「きぅっ!!っくぁっ…んっ…兄さんの…せいだからね…兄さんが…ひゃぅっ…こんなの…」

「ちょ…待て…ぅあっ…」

声を抑えられないのがくやしいのか、弟は自らスカートを咥えると、兄の上で踊った。折れそうなほど細い胴をひねり、兎のように下半身を跳ね上げる。短い髪から汗が飛び散り、多目的室の照明にあたって虹を描いた。

「ぅああっ…!」

「なっ、また出るの?…兄さんのばかっ!!」

ロロの右眼に鳥の翼を思わせる紋様が浮かぶ。絶頂に達するせつな、ルルーシュの体が石と化したかのごとく静止する。

心臓の止まった体で、暗殺者はさらに数秒間、快楽をむさぼり、射精を迎えた。かつてブリタニア皇女の肌をおおった菜の花色の布地を、白濁が汚す。

またたくうちに時は正常に復し、2人の心臓は同じ早鐘を打った。

「…ぅっ!」

兄が2度目のたぎりを放つと、弟はぐったりと相手の胸に倒れこんだ。

「おいロロ!どうした!」

ルルーシュは、至福の表情でのしかかるロロをどかそうともがく。だが女装の少年は余韻にふけったまま、微動だにしなかった。

”ギアスによる自滅か。マオ…そして俺と同じ傾向だな。いずれにせよ2度と体力勝負には持ち込ませない。こつはつかんだ…あとは、くく、理性がすりきれるまでおもちゃにしてやる…ナナリーに着せたかった、あんな服やこんな服でな…これが俺の復讐だ!”

「…重いぞ、ロロ。今回だけは許してやるが、次はむちゃするなよ」

宙にむかって甘い恋人の役を演じながら、年かさの少年は痛みにこわばる背筋を伸ばす。血も心のつながりもない年下の伴侶は、夢心地にままやく。

「はい…おにいさま…」

訳もなく頬を染めたブリタニアの廃皇子は、まぶたを閉ざすと、妹の面影に黙ったまま詫びをのべた。


「…会長。例の男女逆転祭りですが」

「あ、あれ?ごっめーん。なんか急に家から呼び出しがきちゃって。あとでいい?」

生徒会長はどこで覚えたのか、両手を合わせる日本、いやイレブンの仕草をする。副会長はどうでもよさそうに肩をすくめた。

「アッシュフォードからですか?バベルタワーのさわぎと関係でも?」

「ううん。新しい転校生が来るらしいんだけど、ちょっとめんどくさそうな話なのよね。くわしい内容を教えてくれないし」

「そうなると歓迎会ですね。企画を組みなおしておきますよ」

「助かる!できる副会長を持って、ミレイ、感激」

4年間のつきあいで抱きつきぐせを知っている少年は、片手をあげて少女の突進を制した。

「はいはい。さ、いくならいってきて下さい」

「もう、つれないなぁ。お姉さんは残り少ない時間をできるだけ触れ合ってすごしたいのに」

「それじゃ時間は有効に使って下さい。正門にアッシュフォードの送迎車が着いたみたいですよ」

「え、どれどれ」

長い指がノートパソコンのEnterキーを叩くと、液晶画面が正門のカメラ映像を拡大して表示する。厳密には学園のセキュリティに侵入して操作しているのだが、ミレイは特に問題だとは考えていないようだ。ルルーシュにとっても、ほんの小手先の仕事に過ぎない。学園の地下に根を張った機密情報局の監視網をすりぬける、ちょっとした予行演習だ。

「あーあ。もういかなくちゃ。またあとでね。見送りはいいから」

「いってらっしゃい」

アッシュフォード家の娘が台風のごとく生徒会室をあとにすると、奥の机でひっそりと企画書の整理をしていたロロが、頭をもたげた。

「兄さん…」

「どうした?」

「…せっかくの練習…むだになっちゃったね」

「ははっ…まぁな。会長は場と状況に合わせて企画を変えるからな。でも男女逆転祭りはお気に入りみたいだから、卒業までにあと1回くらいは持ち出すかもしれないぞ」

「そう…そうだよね。だったら…あの」

「うん?」

「また…練習しても…」

「ああ、いいさ」

兄は弟を振り返らず返事をすると、唇を三日月に歪めた。

「兄さん、僕、がんばるよ」

ロロの声にこもるなにかに、ルルーシュはうなじが総毛立つの覚え、黒い笑みを消した。

”早急に手を打たなくては…なんとしてでも!!”

ノートパソコンの画面を切り替え、黒の騎士団の構成員名簿を呼び出す。打倒ブリタニアに向けて行動の自由と身辺の安全を確保するため、まずは一刻もはやくディートハルトに連絡し、身代りを立てようと、再びゼロとなるべき少年は固く心に誓うのだった。

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