置き手紙が見つかったのは婚礼の当日だった。
香料を利かせた飾り模様の紙に、花婿は達筆な字でかくの如くしたためていた。
“弟よ。 兄は海 が見たくなった。
海は美しい。我等が父を魅了して止まず、我が家に富貴と栄光をもたらし、私の母と、お前の母、それぞれをこの地に連れてきた海。さらには父と我が母の命を奪った海。
遙かな白浪と碧空の涯に、何が待つのか。お前やお前の母の如き紫の瞳と銀の髪を持つ民が暮らす南の焼けつく大地。はたまた西の大洋の彼方、古き知と力を蓄えた竜が巣宿るという剣の峯々を戴く群島。あるいは兄と同じく緑の瞳と金の髪を持つ荒々しい戦人が跋扈する凍てつく北の地。
五つの海を股に掛けた旅人を親に持ちながら、潮の香りすらせぬ狭い谷間で朽ち果てるとは何と悲しむべき定めか。嗚呼、兄には耐えられぬのだ。
我が家には十分な財産と父が残した絡繰の数々 がある。お前一人を置いて行っても恙なく暮らせるだろう。生来聡明なお前は、屋敷の主としては十分に責を果たし得るに違いない。
ついては、我が旅にお前の母も伴う事にした。お前と異なり、己の面倒も見られぬ不器用な兄には、心優しく気の付く女性が必要なのだ。かの人はお前も連れて行くよう勧めたが、やはり家に主がなくては…”
まとめると、谷間にある絡繰屋敷の当主が、伴侶を迎える前の晩に、先代の後添えと駆け落ちしたという話だった。
後に残されたのは物言わぬ人形の群と、小さな次男坊だけだった。
当然ながら騒ぎが起きた。
幸いというべきか、新郎の側に連なる縁者の類はほとんどいなかった。一代の奇人として知られた父は天涯孤独の身の上。母は異郷の生まれで、どちらもすでにない。
ただ、新婦側は数は少ないながらも、うるさい縁者がいた。特に花嫁の大伯父は猛り狂い、饗応に現れた機械仕掛けの召使いを五体もばらばらにし、中庭の丹精された芝生を鼻息で焼き焦がしながら喚き散らした。
「だから
途中から自慢話に変わりかけた長広舌を、童児が立ち尽くして聞いている。
袖のたっぷりした衣装に収まった、ちっぽけな体は、生まれたての仔鹿よろしく細かく震え、顔色は真青になっていた。びっしょり汗を掻いているのは、竈の中にいるような暑さのためばかりではない。目の前で噛み合わされる牙と、爛々と輝く瞳を交互に眺めながら、視界の隅で精緻な珊瑚と魚の刺繍をこらした
「あ、あ、あ、あ、の」
「
鉤爪を生やした指が差し示す先には、確かにごくありきたりな姿形の娘が立っていた。花嫁衣装というには質素な股引に胸布といういでたちだが、人間を震え上がらせない見た目を繕ったというだけで、十分な努力なのかもしれなかった。周囲の騒ぎには我関せず、のんびりした表情で、剥き出しの肩に止まった銀の蜻蛉を撫でている。
絡繰屋敷の次男坊は、おっかなびっくりそちらを盗み見、また正面で文字通り燃え盛る鬼神に視線を戻し、どうにか返事をしようとした。
「き、き、き、きれいだ、だ、だと」
常若にして年降りた男の表情が、僅かに和らいだ。
「そうであろう。さだめし花嫁に相応しいと思うであろうな」
「は、は、は、はい」
「もしお前が花婿の身であればさぞかし晴れがましい気持ちであろう」
「え、え?え?あ、あ」
どうにも理解の追いつかないらしい子供のようすに、新婦の縁者はまた飢えた獣じみた様相を濃くする。
「お前も兄の如く約束を違えるという訳か。我が一族を虚仮にしようというのか」
憤怒を堪えかねるが如く、まだ無事だった傀儡の一つを掴み、宙に持ち上げて眩い松明に変えてしまいながら、耳まで裂ける口を開いて、渦巻く焔を覗かせる。
「お前が娶れ!!さもなくばこの玩具の家ごと消し炭にしてやる!!」
天と地のあいだに谺する咆哮に、少年は失神寸前といった態でよろめいてから、血の気のない唇から辛うじて言葉を紡ぐ。
「で、で、で、でも」
「何だ!!」
「お、お、お、熾明が」
「あれが何だ!!」
「い、い、嫌だったら」
花嫁の大伯父は虚を突かれて勢いを失うと、話題となっている当人へ顔を向け、打って変わった猫なで声で尋ねた。
「熾明や…このちびめをお前の夫にしてよいか」
「あたしは別に
娘があくびをしながら肯うと、鬼神は破顔し、周囲で火柱を揺らめかせている身内に向かって高々と拳を振り上げた。
「約束は果たされたり!!」
たちまち歓呼の叫びが一千の雷鳴の如く轟き、赤、黄、橙、緋といった幾筋もの光の帯が大気を焦がしながら遙か天空へと昇っていった。
後に散らばったのは、銀や金や真鍮の皿、散らばった柘榴や無花果や甘瓜、白い麺麭や香料で味付けした粥。さらには裂け焦げた食卓布、人形の手足などだ。そこかしこを小さな銀の蟹が走り回り、薄荷の匂いのする泡を吐いては、消火に当たっている。
絡繰屋敷の次男坊は、虚脱してへたりこんだ。芝生に尻をぶつけたところから、ほかほかと湯気が上がり、股間には濡れた染みが広がっていく。
「これおいしいね。あんたも食べる?旦那さん」
傍らでは鬼神の娘がまるで気にした風もなく、大振りの無花果を一つかじりながら、もう一つを片手で宙に投げ上げて遊んでいた。
かくして婚礼は終わった。
「ここ使って」
着替えた童児は、絡繰人形に後片付けを任せ、期せずして迎えた新妻に屋敷を案内していた。長い廊下の突き当たり、綾織の帳を引いた戸口の奥は、漆喰とも石膏ともつかない波模様の壁に囲まれた部屋で、南の一面を占める両開きの窓はすでに銀の珊瑚が枝を手のように広げて閉ざしてあり、天井には蛍のような灯を点した銀の蛙が逆さに張り付いて暗がりを退けていた。
娘は黒髪を揺すって先に入り、部屋の中央まで進むと、片足の爪先で立ってくるりと旋回し、四方を眺め渡した。
「いいとこだね。誰が使ってたの?」
「上の
「ふうん
「こっち」
また先に立って進もうとする童児に、年嵩の少女は飛ぶようにして追いつき、肩を掴んだ。
「やっぱいいや」
「え。あ、じゃあ」
銀薇は次は何をすればいいのかときょろきょろする。熾明は笑って、肩に止まった蜻蛉を指に移すと、連れに差し出した。
「こいつ、前に金跳からもらったんだけど、ちょっと羽の調子が悪くてさ。飛び方がぎくしゃくしてる。診てくんない?作ったの銀薇だろ?」
「うん…はい」
子供がそっと受け取ると、娘は指を伸ばしてその額をこづく。
「かしこまらなくていいって。結婚したんだよ」
「は…うん」
幼い夫は咄嗟におでこへ掌を当ててから、あいまいに頷いた。次いで部屋の隅に行って座り込み、胸元に下げていた眼鏡をかけ、袖から魔法のように工具を取り出すと、真剣な面持ちで作り物の昆虫を調べ出した。
「金跳はそういうのからっきしだったけど。銀薇はさすが絡繰屋敷の子だ」
うら若い妻が感心して見守るうちに、極細の毛抜きやねじ回しが休み無く働いて、修理を済ませていく。
「ちょっと付け根ゆるんでるかも…でもすぐ直る…できた」
蜻蛉は虹に煌めく四枚の翅を羽搏かせて持ち主の元へ戻り、周囲をぐるりと旋回してから肩に止まった。少女は喜びの印に、軽やかに虚空へ躍る。黒髪が広がって、先端から幽かに火花を散らした。
「ありがと。でも、どうして金跳がこれ持ってたの?」
「兄様が欲しいって言ったからあげた」
「銀薇って金跳が欲しいって言ったら何でもあげちゃう?」
少年は眼鏡を外して、胸に下げると、ふいとそっぽを向く。
「別に俺そんなのすぐ作れるし」
年嵩の娘はちょっと眉をしかめてから、とんぼ返りを打った。踵が宙を切ると、焔が尾を引いて部屋を明るくする。
「そっか」
「そうだよ!」
むすっと答える花婿をかたえに、花嫁は猫のように浮かんだまま丸まって回り、爪先から綺麗に床へ降り立つ。
見事な動きに、子供はつい目を奪われて向き直り、ややあって告げた。
「兄様帰ってくるよ」
すると少女は蜻蛉を濡羽玉の髪へ移しながら怠そうに呟く。
「どっちでもいいよ。どうせまたどっか行っちゃう」
にべもない答えに、銀薇はぐっと詰まってから、懸命に語句を探した。
「あのさあ!追っかければいいじゃん。俺さぁ!俺さぁ!蜻蛉とか、蝶とか、蜂とかいっぱい作って探させるし。そしたら」
熾明は、星辰の運行を模した複雑な幾何学模様の天井を仰いでぼやく。
「めんどくさいからいい。でも銀薇はお母さんが行っちゃって平気?」
「う、うん…」
子供が俯くと、娘は再び飛び上がった。一瞬、光輪が閃いて別の姿が現れる。真紅の膚、隆々とした筋骨に雄羊の角と獅子の鬣、狼の牙に虎の爪、鷲の翼に蛇の鱗と尾、六臂と三組の乳房を持つ本性が。
「そうだ。
聞こえてきた声はあくまでのんびりした少女のものだったが、しかし年下の少年は凍りつき、掠れた喉から台詞を絞り出した。
「は、は、は、入る」
温かい蒸気に満たされた陶磁張りの浴室に、花婿と花嫁は素裸で抱き合っていた。鬼神の娘は、人間の姿をまとっていても、絡繰使いの童児より頭一つより丈が高い。
銀薇は、首の後ろに柔らかな乳房が当たるのを感じながら、滑らかな褐色の彫像となったかの如く硬直していた。無毛の肌を熾明のほっそりした指が這い回り、つんと勃った乳首を摘んだり、臍の周りをなぞったりして遊んでいる。
「可愛いなあ銀薇は。あっちこっち全部小さいな」
「か、かわいくないし!ち、ちっさくなっ…ぁっ」
「えー?小さいよこことか」
割礼を施した幼茎を掌で転がし、ひともとの薔薇のように可憐な器官を張り詰めさせていく。
「ぁっ…ぁー…やっぱ…まって…」
幼い夫は半泣きになって妻の腕を掴み、愛撫をやめさせようとする。
「何で?」
「あに…さまに…おこられ…」
新婦は非力な制止などまるで意に介さず、新郎の細菊を扱き立て、もろげな鎖骨に接吻を浴びせていった。
「もう銀薇は、金跳のものじゃないじゃん。結婚したんだから、あたしのもの」
「ぅっ…あにさ…」
「しつこいぞ」
未熟な秘具を、しなやかな指がひねり、絞り上げるようにする。拳を口元に押し当てて声を殺す銀薇を、熾明はしかし容赦なく駆り立てて絶頂へ向かわせる。
「そろそろかなあ」
「むぐぅ!!んっ…んっ…んんんっ…!!」
涙ぐんだ少年は無意識に腰を引き、わずかな精を陶磁の床に零す。年嵩の娘は後ろから抱きついたままにんまりし、指のあいだで透明な雫をこねてから、腕を壁にさしのべる。控えていた銀の蟹が寄ってきて薄荷の匂いのする泡を吹き付けると、汚れは溶けて綺麗に剥がれ、一つにまとまる。
からくりじかけの甲殻類の数匹が残滓をどこかへ持ち去ると、魔性の奥方はもっともっとと要求して、涼しげな香りのするしゃぼんをたっぷりと掌に受け、絡繰使いの童児に塗りつけていく。ほんのり脂肪の乗った子供らしい胸や腹、尻や腿などをぬめりてからせ、滑らかな感触を楽しむ。
「ほそっこいなー、やわっこいなー。人間の作る上等なお菓子みたいだなー」
「おき…あかりぃっ…」
幼い花婿は狭い肩を竦ませ、女が片腕で抱えられそうな胴をよじり、円かな双臀を振って、かそけく啼いては花嫁を呼ぶ。
「何?」
「恥ず…かしっ…ぃよっ…」
「うーん。慣れてよ。夫婦になったんだし。えい」
年嵩の少女は、連れ合いを軽々と抛り上げる。刹那、肌は熱した鉄の色に染まり、獣面六臂の姿になると、落ちてくる獲物を宙で捕らえ、華奢な両手首、両足首をそれぞれ掴んで広げ、余った二本の腕で無防備な胴を弄り回す。
「ひぃいい!!!」
また怯えを露にする人間の仔に、うら若い妖魅は憮然として文句をぶつける。
「恥ずかしがりの次は恐がり?ちょっと鍛え直すしかないな旦那さんは」
鉤爪の生えた指が鬣の一房を切り取ると、唇がふっと一吹きする。たちまち毛一筋一筋が広い浴室のあちこちに散ると、それぞれ鬼神とそっくり違わぬ形になり、あるいは舌なめずりし、あるいは淫らに微笑みながら輪を狭めてくる。いずれも蝋燭の火の如くに揺らぎ、猛々しい焔の化身と、細身の乙女のうわべとを瞬くごとに入れ換える。
「うわあああん!!うわあああっ!!!」
半狂乱になった童児が暴れようとしても、それぞれの四肢は万力に挟まれたかのようで、まるで動けない。ふくよかな頬へ左右同時に、牙の生えた唇が接吻し、涙を旨そうに舐め取ると、双臀や太腿や臍の回りといった肉の軟らかな部分に掴みかかり、乳首を捻り上げ、尻朶を鷲掴みにして割り裂き、奥に隠れた蕾を舌で寛げ、指で広げて粘膜を擽り、耳朶を囓り、足裏を舐り、稚くも匠の技に長けた繊細な指を砂糖菓子か何かのようにしゃぶっては甘噛みする。
だしぬけに可愛らしい水音がすると、左右に大きく曲げ広げられた氈鹿のような脚の間から小水が迸り弧を描いた。
「あーまたお漏らしだー。さっき中庭でもしてたね」
無数に分かれた異形の新婦は、一斉にくすりとして、じっくりと粗相を観察する。
「見んなあ!!!見んなああ!!熾明の馬鹿ぁあ!!」
羞恥が恐怖に克ったのか、新郎は裏返った高音で喚くが、すぐに耳まで裂けた禍々しい口が覆い被さって、乱暴な接吻で塞ぎ、三又になった二枚の舌をねじ込む。同時にまた手と唇の群が一斉に襲いかかり、感じやすい子供の体すべてに悪戯を再開する。
愛撫の嵐は四半刻ばかりも続いたろうか、幾度も官能の窮みに達し、子種と涙と洟と涎と汗と
穢れの一切は床に落ちるや否や銀の蟹が集まって泡で浄め、運び去り、薄荷の香りだけが残る。やがて車座に囲んでいた数多の影が揺らぎ、一つまた一つと消えてゆくと、大の字になった矮躯は、温かく湿った陶磁の床に大の字に仰臥した。火照り疼く褐色の肌には、征服の印のように随所に口付けの痕が刻んであり、分けても腹を鼓って反り返った幼茎には、先端から根元、小さな陰嚢にいたるまでびっしりと隙間無いほど並んでいた。
本性を再び仕舞い込んだ年嵩の少女は、惚けた伴侶の傍らに膝をそろえて楚々と控え、満足げに微笑むと、蒸気の蟠る天井に向かって話しかける。
「
たちまち彫刻を施した黒檀の扉が開いて、盆を載せた銀の陸亀がよちよちと入ってきた。どうやら屋敷の主が我を失っても絡繰はきちんと働くらしく、花の香のする水差しを迎えたばかりの奥方に差し出す。ほっそりした指が象眼を施した蛋白石の持ち手を取って、唇に運ぶと、中味を含む。
花嫁は屈み込んで、花婿に接吻すると、失った水気を口移しで少しずつ飲ませてやる。水鳥のような頸が動いて嚥下していくのを確かめると、空いた手を伸ばして再び秘具を掴み、扱いて、接吻を解き、勝ち誇った面持ちで語りかける。
「あたしが見たいものを全部見せて、逆らったりしたらだめだよ?分かった?」
銀薇は焦点の合わない紫の瞳をさ迷わせながら、首を縦に振る。熾明は掌を丸めて桜桃のような亀頭をくるみ、いっそう忙しく擦り立てながら躾を続ける。
「これからは恥ずかしがったり、怖がったりしないでね」
また、うなずきがある。
「ぅ…ん」
「素直でいい旦那さんだね。じゃ、お風呂終わり」
新婦は新郎をひょいと横抱きにして立ち上がると、浴室を後にした。乾いた熱風を吹き付けようとする喇叭の鼻を持った絡繰の子豚を頭を振って遠ざけ、一瞬だけ肌を緋に輝かせると、たちまち二人の肌についた雫を消し飛ばしてしまう。着替えをさせようとする傀儡も退けると、一糸まとわぬ姿のまま、廊下を飛ぶような足取りで駆けていく。
妻は最初に案内のあった閨に辿り着くと、天蓋付きの寝台に夫を投げ出し、先ほど隅々まで触り、味わった未熟な肢体をあらためて眺め渡した。娘らしい可憐な口許が緩み、にやけると、また頬まで裂け目が広がって牙が覗く。
「うーお腹減ってくるなあ見てると」
童児はもうどうにでもすればよいという諦めの混じった表情で仰向けのまま見つめ返した。少女は掌で顎を拭って元の形に直すと、照れた口調で説き聞かせた。
「あの。知ってるだろうけど、うちは主(讃えられあれかし)に生きた人間も死んだ人間も喰らわない誓いをした善き鬼神だから、あたしも今まで一囓りもしてない。いや旦那さんのことは赤ちゃんの頃からおいしそうだと思って見てたけど、ずっと我慢してきたしこれからも絶対」
「さっき噛んだ」
「あ、ちょっとね」
沈黙が落ちる。やがて銀薇はおずおずと微笑み、褥に倒れたまま両腕を差し伸べた。熾明は相好を崩すと、同じく腕を出し、指と指を絡め、しっかりと握り合わせる。
掌と掌の触れ合ったところから、互いの鼓動を感じながら、新婦は静かに尋ねた。
「やっぱり、あっちの姿は嫌かな?」
新郎は唾を飲み込むと、つっかえつつ反駁する。
「べ、別に、嫌じゃないし…ちょ、ちょっとあの…びっくりするだけ…もう慣れたし」
「本当?」
真紅に燃える様相が、あどけない容貌の鼻先に迫り、短剣の如き歯を見せて笑う。六つのたわわな乳房が細い肋にのしかかり、蝙蝠の翼が天蓋いっぱいに広がる。華奢な両手を捕らえているのは鉤爪の生えそろった力強く長い指だ。
少年は微かに背を強張らせてから、挑むような目つきになると、首を伸ばし、捲れ上がった鬼神の上唇に接吻する。とたん、万雷の如き哄笑が弾け、すぐに少女の鈴を転がしたような声に変わる。
「あたしこっちが気に入ってるから、嬉しいなー」
「うん…熾明なら、た、多分平気…」
「よしよし。はい、ご褒美」
蛇の尾がくねり、いきなり菊座を抉った。
「ひぎぃっ!??」
あまりの衝撃に、矮躯が海老ぞりになって痙攣する。ざらつく鱗が直腸を擦り、掻き混ぜながら、内臓を揺すり上げる。筋肉質の生きた鞭は、瑞々しい薄桃の粘膜を裏返しながら出入りし、次第に腸液を泡立てて滑った音をさせていく。
「ぁ゙ー…ぁ゙ーっ…」
意味をなさないままやきを零しながら、まだ頑是ない花婿は自らも屋敷の傀儡の一つと化したか如く腰を跳ね上げ、わななく。
「うわー。きっつぃ…でも奥はやわっこい…旦那さんの中で一番やわっこい…きっと食べたらすっごくおいしいんだろうな…」
花嫁は、目の前にせり上がる臍の辺りを鉤爪で縦になぞると、ぞくりと巨躯を震わせてから、逞しい脚を上げて、華奢な連れ合いを跨ぎ、騎乗するかのような格好になると、なお痛々しいほど張り詰めた細菊を捉えて、しとどにそぼった叢に導く。
がっしりした腰が降りて、根元まで幼茎を咥え込むと、銀薇は竜胆の双眸をいっぱいに開き、瞳孔を開かせ、舌を突き出して息さえ止める。蜜壺の中は黄金を溶かした炉の如く、人外の快楽は秘具を灼くや腰の芯から脊椎に燃え移って、一気に脳髄にまで奔ると、意識を白く焼き切った。
だが妖魅が腰をひねり、跳ね上げては落とすと、新たな官能の炎が陽根を通じて注ぎ込まれ、半ば無理矢理に心を引き戻す。鞴を入れた竈のように熱した膣は、捉えた雄の印を千切らんばかり締め付け、長い蛇の尾は直腸を引き裂かんばかりに攪拌する。
「うんっ…前の方っ、ちっちゃいけど硬くって、一生懸命…んっ…後ろは蕩けそうなくらいやわっこいしっ…あたしっ…果報者だね…」
鬼神の娘は、絡繰使いの童児を抱き起こし、度を過ぎた喜悦に箍が外れ、ただ喃語を零すばかりのあどけない面差しを六つの乳房のあいだに埋めさせ、六つの腕でしっかり抱えると、いっそうきつく幼茎を食い締め、尾を体内深くへねじ込む。
二重の嬌声とともに命の迸りが子産みの孔を満たしても、交合は終わりを迎えようとはしなかった。
「もっと…もっと」
真紅の異形が揺らぎ、二回りも小さな少女に変わって、焼き入れをするように熱した年下の少年を冷まし、珠の汗を掻いた瞼や鼻に優しい接吻を浴びせてから、再び本性を顕して激しくむしゃぶりつく。
疲労の涯に伴侶がぐったりと弛緩する都度、鎖骨に噛みつき、尻を揉み潰し、結腸に達するほど鱗に覆われた切っ先を衝き込み、眠りも失神も与えず、片時も休まずより強く高く深く鋭く危うい歓びを注ぎ、また奪う。
どれほど蹂躙を続けたのか。部屋の南で銀の珊瑚が軋み、枝々が煌めきつつ蠢いて帳を引き開ける。薄暮の明かりが室内に差し込み、天井の蛙は瞬膜を閉ざして灯を弱める。
花嫁はひときわ大きく背を仰け反らせ、誇らしげな雄叫びを放つと、身も心も、器も魂も、すべてを手に入れた花婿に、甘えた頬ずりをした。