10
お預けを食っていた周囲の肉蛇も再び彼等に群がり,毛穴という毛穴を犯しながら尽きることなく媚薬を注ぎ込む.レイラは胸の尖端をまた塞がれ,乳腺が張り詰める感覚に打ち震えた.だが今度は,触手が搾乳ポンプのようにミルクを吸引し,圧迫感の代りに,苦痛にも似た吸引の官能を齎す.涙が止め処なく頬を伝い落ちた.
蛋白質と脂肪をたっぷり含んだ栄養に,化け物は満足した様子で,J・Jの肋の浮いた黒い胸にも近寄ると,試すように,褐色の乳首へと繊毛を差し込んだ.此方は母乳を作れない構造だと解ると,別の触手が,少年の項に注射針のような器官を突き刺す.いや,項だけでなく,太腿や,足の裏,指の間,背中のあちこちへ,雀蜂の大軍よろしく突き捲る.ミルクの出ない罰とでも言わんばかりだ.
J・Jが白目を剥き,愛する人の腕の中で失神する.だがレイラ自身もう,悦楽の井戸に溺れながら,これから続く試練が少しでも軽くなるようにと,祈る事しか出来なかった.
無明の密室に,むっと草いきれが立ち込めていた.辺りには引き裂かれた軍服の名残や,捻じ曲げられた小銃の残骸が散らばっている.
金属製の壁には肉厚の緑黴が生え,鋲打ちされた床も,奇妙な苔に覆われて,人造物とは思えない変りようだ.此処彼処を蛞蝓と植物の中間のような姿の化物が這い擦り回り,触手を伸ばして餌を探していた.
ここを,合衆国宇宙軍,特殊作戦部隊のエウロパ基地と紹介しても,誰も俄かには信じられないだろう.精鋭の兵士も,主力となる強力なMRM(Machine Robot Military)部隊も残っていない.各小隊は分断され,殆どが怪物に貪り食われた.僅かな生き残りは,半永久的な繁殖の苗床にされている.
十数年前に国際宇宙ステーションで起きたバイオハザードの際は,特殊才能育成法で訓練された優秀な救助部隊が投入され,無事解決した.だが今回の事故発生場所は地球から離れた外惑星領域で起り,暴走した実験生物も,遥かに凶悪な性質を備えていた.
宇宙軍の最悪のミスの一つは,特殊才能育成法で生み出したロボマスターの前線配備を躊躇った点だった.基地は合衆国の宇宙戦略における最重要拠点の一つでありながら,駐留部隊の大半が適齢期を過ぎた,いわば特殊才能育成法の「引退者」で構成されており,予想外の敵と遭遇した際の,戦力の要となるべきMRの数が少なすぎた.