12.
「わざとやったのです.相手が心の底から嫌がるのを知っていながら,それを楽しむ奴でした.強姦魔以外の何者でもない」
「ほう…」
それ以上コメントが返って来なかったので,話は少し途切れた。ややあって、病人の方から話の穂を継ぐ.
「あの子はどうなりますか?」
「親がいないらしい.取り留めの無い供述を合わせると,三ヶ月前の不法就労者一斉摘発で不慮の事故に遭ったらしい」
「殺されたのですよ.許可なく国土を侵した三国人ですから」
「警察官が使うべき言葉ではないな」
「失礼ながら,どういおうと実体は同じであります.あの子はどうなりますか?」
「本国に強制送還だな」
「身よりも無いのに?本官の推測するに,日本の生まれのようですが」
「同じようなストリートキッズを既に大量に送還している.向うの入管は嫌がってるがね.治安が乱れるという理由で」
「どこへ行っても厄介物と言う訳でありますか…」
「しかし,日本国籍が無い者を置けないのでね」
「施設は?」
「条例で,外国人は入れない」
「そうでしたね…」
また沈黙.本題に入れず,田島警視が少し焦れているのが解った.別に気にならなかった.焦れさせておけばいい.
「あの子を幇の連中に返してやっては?」
「幇?あの子はどこかの幇とつながりがあるのか.それは口を割らなかったぞ」
「臓器だそうです.飛行機に乗れない日本の子供のために,闇の臓器を国内で提供しているとか」
「ほぅ…興味深いな.どこの幇だね」
「赤鯨幇とか聞きましたが」
「初耳だな.しかし,調べてみる価値はありそうだ.よし,疲れたろう,ゆっくり休みたまえ」
いそいそと立ち上がる公安部の男に向け,飯綱は少し抑えた口調で尋ねた.
「養子として引き取るということは出来ますか?」
「何?何だって?何の話だね」
「本官が阿明を養子として引き取る事は可能でしょうか?」
「正気かね?外国人,それも大陸人だぞ?」
「正気であります.あの子は重要な情報源でしょう?警察関係の施設に入れるか,さもなくば名目をつけて拘置所に軟禁.だったら本官が引き取る形で監視下に置いてもいい筈です」
「君を捜査に噛ませろと?」
「熱望します。お邪魔でありますか?」